お題企画 | ナノ


ランサンディ*





傑くんに会いたい。即物的に言えば、傑くんとやらしいことがしたい。……それだけじゃないけど。

地方任務で3日離れていただけなのに、私の頭の中は傑くんでいっぱいだった。それなのに任務自体もなかなかにハードだったから、傑くんにメールや電話をしようと思いつつも、ホテルの真っ新なシーツに寝そべるとどうにも睡魔に負けてしまう。
2回、夜に傑くんからの着信が来ていたけれど睡魔に負けて出られなかった。声を聴いたらますます会いたくなってしまうような気がして、『ごめん、寝ちゃってた』とメールを送ると『お疲れ様です。気をつけて』とだけ返事が返ってくる。傑くんはあんまり絵文字を使わない。それなのに素っ気ない印象を受けないのは、あの甘い声で勝手に脳内再生されるからだと思う。

帰りの車の中で、メールを何度も反芻する。『お疲れ様です。気をつけて』、早く会って、あの声で私の名前を呼んでほしい。そんな事を考えていると次第に頭の奥が蕩けてきて、またウトウトと眠りに落ちていってしまう。私はどうにも傑くんの声に弱い。というか、彼の全部に弱い。
早く会いたい。傑くんもそう思ってくれているといいな。



報告書を未だかつてないほどのスピードで仕上げ、勢いそのまま傑くんの部屋へ歩みを進める。電話をしようとしたけど、急いで出てきたせいで携帯を部屋に置いてきてしまった。いきなり部屋を訪ねて困らせないだろうかとも思ったけれど、まあ3日振りだしサプライズってことで。ドアの前で一旦深呼吸して、髪を手で撫で付ける。こんこんと少し強いノックの音が廊下に響いた。

「傑くーん、ただいまー」

ドアが開くまでの時間は、体感は3分、実際は10秒くらい。ゆっくりと開いた隙間から揺れる黒髪が覗く。3日振りの傑くんを目の前にして、私の全身が本能のまま彼の胸へと引き寄せられた。言葉もないまま飛び付くと、いつも通り抱き止めてくれたその腕は優しい。

「なまえちゃん、おかえり」
「ただいま傑くん」

この腕、この胸、この声。たった3日なのに3年ぶりくらいに感じる。さすがに言い過ぎか。ただいまを繰り返しながら傑くんの身体にじゃれ付いていると、「甘えんぼですね」と余裕綽々な口調で苦笑された。

「傑くんが足りないーはやくー」
「はいはい」

私を軽々抱き上げると、早足でベッドまでに運んでくれる。余裕ぶった顔は上手いくせに、こういう性急さは隠せないところが傑くんの可愛いところ。

「ふふ」
「なに笑ってるの」
「傑くん可愛いなって」
「可愛いのはなまえちゃんでしょ」

傑くんに跨って、向かい合わせたまま鼻先を擦り合わせながら2人でくすくすと笑う。
傑くんの小さくて高い鼻はいつもひんやりとしていて硬くて、鼻筋は美しい曲線を描いている。滑らかな唇が薄く開いて、赤い舌が僅かに覗いた。

お互いに引き寄せられたのは私も傑くんもほぼ同時で、重なった唇は熱くて柔らかい。
何度キスをしてもそれは毎回、想像よりも遥かに甘いのが不思議だ。啄むように唇がくっついたり離れたりしながらも、薄く目を開けた傑くんが私の顔を見て鼻で笑った。よく分からないけどなんか悔しくて上顎を軽く舐めると、大きな手が腰へと流れてくる。

「私に会いたかったですか?」
「会いたかった」
「……本当かな」
「え」

その不機嫌な声のせいで、肌に絡まるような色を含んでいた空気が揺れた。黙りこくる唇に軽いキスをすると、眉間に寄せられていた皺が少しだけ浅くなる。切長の瞳を拗ねたように細めた傑くんがもう一度「本当かな」とこぼしながら、私の両頬を指先で摘んだ。

「いたい」
「なまえちゃん、どうして電話出なかったの」
「寝ちゃってた」
「何ですぐ寝ちゃうのかな」
「だってベッドがフカフカでさぁ」
「……寂しかったです」

私を恨みがましく睨み付けた傑くんが、指先をむにむにと動かした。あまりにも可愛くて頬の緩みが抑えきれなかったから丁度いい、と思っていたのも束の間で「笑わないで」とピシャリと制される。ニヤニヤしていたの、隠しきれていなかったらしい。

「傑くん、可愛すぎる。それ計算?」
「それならもっと格好付けますよ」
「わたしも寂しかった。電話出られなくてごめんね」
「良いさ。疲れてたのは分かってる」

唇を尖らせた傑くんは不満げなままだった。瞼が伏せられると、目尻に流れるまつ毛が揺れた。傑くんって意外とまつ毛長いんだよな。量が少ないから目立たないけど、たまに目尻のまつ毛が寝癖でカールしてたりするし。そっと指先で瞼に触れると、濡れたような黒い瞳が私を訝しげに見つめ返す。

「……なんだか悔しいな」
「なにが?」
「私ばっかりなまえちゃんの事好きみたいだ」

心臓のもっと奥の方から、大きな衝動が湧き上がってくる。自分の中だけではどうにも出来ないそれをとにかく傑くんにぶつけたくて、両腕に精一杯の力を込めて大きな体を強く強く抱き締めた。傑くん、好き。大好き、大好き。「傑くん大好き」と声に出すとそれは思いがけず部屋の空気が割れるほどの大声で、傑くんがけらけらと笑う。

「どうしたの、急だね」
「大好き」
「私も」
「……じっとしてて」
「なまえちゃん?」
「触らせて」
「……どうぞ、ご自由に」

シャツのボタンを外している最中も、傑くんの視線は私だけに注がれていた。その挑発的な視線と、期待が混ざった薄い微笑み。お互いの肌も火が付いてしまったみたいに熱くなっている。傑くんの胸元に手のひらを滑らせると、その肌がぴくりと反応する。首筋に流れた黒髪を指先で払った傑くんは、相変わらず挑発的な視線のまま私を見据えていた。

服の上からお互いの下腹部を擦りあうと、自分のそこが充分すぎるほど濡れているのが分かった。まだキスしかしていないのにお手軽すぎる。傑くんの胸元に唇を押し付けながらも、ズボン越しに主張しているそれが秘部の良いところに当たるとつい腰が揺れる。
頭上から小さな舌打ちが聞こえてきて、傑くんを見上げた瞬間に視界がぐるりと回転した。掴まれた両手はびくともしない。深い黒を湛えた瞳が、欲望の熱に揺れていた。

「やっぱり無理。じれったい」
「ふふ、まだ全然触ってないよ」
「なまえちゃんに触られると我慢できなくなる」

私の耳たぶを甘噛みした傑くんの舌先が、耳へと伸びる。水音が脳内に直接響いて思わず脇腹が浮き上がった。すかさずその隙間に手が滑り込んできて、あっという間に私のシャツから素肌へと触れてしまう。スカートを脱がせて欲しくて腰を浮かせていると、意図を汲んだらしい傑くんがぺろりと唇を舐めた。





もつれあい、口付けを繰り返しながら燃えるような肌を重ね合わせていると、彼の指が与えてくれる恐ろしく深い快楽に頭の奥がぼんやりとし始める。私のつま先から耳たぶまで傑くんの唇と指がゆるゆると這う。太ももに感じる彼の昂ぶりは相当なものだったから、楽にしてあげようと手を伸ばしたのに簡単に制されてしまう。

「駄目。さっき言っただろ」
「えー」
「今日は私に触らせて」

太ももの内側に柔らかな唇が落とされる。熱い舌が滑り落ちてきて、すっかり潤いきっていた秘部を包み込むように舐められる。熱くて柔らかくて、震えるくらいに気持ち良い。ちらりと目線をやると、傑くんは相変わらずの意地悪な笑みを浮かべたまま私のそこに顔を埋めている。見ていられなくて、それなのにおかしくなりそうなくらいに気持ちが良くて顔を覆ったまま傑くんの名前を呼ぶと泣いているみたいな声が出てしまう。

「傑くんっ、っう、」
「ここ?」
「やっ!ん、だめ」
「フフッ、駄目ね。イヤじゃないんだ」
「いじわる、っあ」

耐えられなくて、どうしても傑くんとはやく一つになりたくて手首を掴んだ。強く引っ張ると、ゆったりとした動きでその大きな身体が覆い被さった。腰に脚を絡める。待ち侘びた圧迫感がお腹の奥に侵入してくると、押し広げられた粘膜から快楽が広がっていく。
ため息と一緒に声を上げた私を、傑くんが愛おしむように抱き締めた。傑くんの香水とシャンプーの匂いに胸がいっぱいになって、お腹の奥がきゅう、と狭まる。「締めすぎ」と吐息を漏らした彼が、大きく肩を上下させた。

「きもちい、傑くん。好き。大好き」
「……君は本当に」
「もっと奥、して」

目を丸くした傑くんが、ぱちくりと私を見つめ返す。途端にその目は火が付いたかのように光って揺れた。
身体が浮くと、あっという間に向かい合わせの体位になる。腰が深く深く押し付けられて、骨同士が合わさるほどに突き立てられるとその圧迫感と甘い痺れに声すら出ない。

「ぁ……」
「なまえちゃんが火付けたんですよ」
「ん!っう!あ」

深すぎるくらいの抽送が始まると、腰から膝までがぶるぶると震えて溶けてしまいそうになる。徐々に激しさを増すにつれ、肌が合わさった部分に汗がじわりと滲んでいく。快楽を堪えるように顔を歪めている傑くんの唇が、私の首筋へと押し付けられた。

「……好き、なまえちゃん」
「う、ん」
「どうしたらいいか分からないくらい」
「わたしも」

重なった唇も、身体も燃えるみたいに熱い。
きっと私たちはお互いに同じ事を考えている。めちゃくちゃにしたいのに、めちゃくちゃにされたい。あの日、最初に私に火を付けたのは傑くんだ。だから私は絶対に傑くんと一緒にいる。いつかふたりで燃えちゃうまで、ずっと。





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