君子の倫理*


傑の舌が背中を下りていくのと同時に、その長くて綺麗な髪も私の背中を柔らかく撫でる。舌とはまた違うその感覚に思わず身体を捩ると、体内に埋められた傑の指が、逃がさないとばかりに良いところを責め立てた。

「こら、逃げないで。」
「ぁ、傑、も、むり……」
「つらい?ごめんね、意地悪しすぎたかな」

肩に小さくキスをして、指を引き抜いた傑が私の背中に覆い被さる。後ろからゆっくりと傑のものが押し入れられると、散々指でイかされてぬるぬるのそこは、待ち望んだ質量を離すまいと強く食い締める。傑が小さく息を吐いた。

「っ、なまえ、すごいね。きっつい」
「ぅ、あ、…すぐ、る、そこ、っだめ」
「うん、ここ好きだよね?…ほら」
「あぁ!あ、ぅ、イく、ぁ、ぅ」

私の良いところを熟知している傑が腰を進めると、部屋に身体がぶつかる音と大きな水音が響く。簡単に絶頂を迎えさせられてしまう悔しさの反面、大好きな人に己の身体の隅々まで掌握されているという事実が快楽を底上げする。

傑に肩をがぶりと噛まれ後ろから休みなく抽送されると、愛液がシーツへ垂れる様子が目に入った。自分の身体なのに、傑の手にかかると途端にコントロール出来なくなる。気持ち良くて堪らない。傑はいま、どんな顔をしているんだろう。私と同じように、この堪らない快楽に呑み込まれているんだろうか。

「ね、っ、すぐるの顔、見たい」
「…可愛いこと言うね。ほら、おいで」


くるりと身体を返されて、傑を見上げる。思案するような目元には欲情の火が烟っていて、耐えるように結ばれた唇は赤い。頬に落ちている前髪が影を作り、いつもの優しげな微笑みが消えた傑の顔は、ゾクリとするほど官能的だ。彼にこんな顔をさせているのは紛れもなく私なのだと思うと、お腹の奥がどくんと熱くなる。

傑の抽送が激しくなり、彼が達した時には私はすでに何回も絶頂に追いやられていて、足腰は使い物にならなくなっていた。




身体にも頭にも意識を向けられず、生温かい水の中に揺蕩っているようかのように、ベッドに横たわることしかできない。傑がベッドの縁に腰掛け、ギシ、と軋んだ音でようやく我に返ると、ペットボトルの水が差し出される。


「なまえ、大丈夫?水飲みな」
「ん、ありがと」

キャップを開けようと腕に力を込めると、それはすでに開けられていて、込めた力が空振りした。……傑って、同級生のくせに異常に手慣れている。あけすけに言えば、セックスも、その前後も、何もかもが上手い。


私と傑は付き合っていない。傑の部屋で駄弁っていた時に、流れで“こういうこと”になってから、週に何回かセックスする関係になった。私は傑のことが好きだったから、嬉しい反面「付き合って」なんて言って気まずくなるのが怖かった。そのまま早2ヶ月が経とうとしている。考え始めると悲しくなるから、傑とこうして抱き合える時間を大切にしようと決めた。

私がふぅ、と吐いたむなしい溜息を、傑の優しい声が拾い上げる。

「どうしたの?悩み事?」
「まぁ」

アンタが言うか、と思いながら、傑の肩にもたれかかる。好きと言われなくても、こうして堂々と傑に触れられるだけで片想いのあの頃よりも幸せだ、きっと。

「なまえが悩み事なんて、珍しいね」
「そう?…傑は悩み事なさそう。決断力あるし」
「…私もひとつ悩んでいることがあるよ」
「へぇ、意外。なに?」
「なまえがなかなか私を好きになってくれないこと」
「え」
「片想いって結構苦しくてね。早く振り向いてほしいんだけれど」


ふ、と苦笑いしながら私の頬に手を添えた傑の手を、思わず強く掴んだ。奇跡のようなこの一瞬を逃すまいと、自分でも驚くような勇敢さで言葉が溢れる。


「ねえ、わたし、傑のこと大好きなんだよ。ずっと付き合いたいと思ってたけど、そんなこと言って断られて気まずくなったら怖いし、だから言えなくて、セフレみたいな関係でも傑に触れるだけで幸せって、思おうと、」

触れるだけで幸せ、と言葉にした瞬間に鼻の奥がツンと痛くなってくる。傑、大好き。傑の全部が大好き。私のものにしちゃいたいのに。

目を丸くしていた傑が、こぼれた私の涙を見た瞬間、よく分からない顔でへにゃりと笑った。


「な、に、その変な顔」
「ふふ、私も分からないけど、嬉しいのと情けないのと、なまえが可愛いのとで」
「笑わないでよ、アホ傑」
「うん、ごめん……ふ、あはは」
「全部傑のせいだよ」
「ごめんね。私が悪かった。なまえ、好きだよ。…本当に、自分でも戸惑うくらいに君が大好きなんだ」


明日も授業だというのに、私たちは2ヶ月分のすれ違いを埋めるようにそのまま深夜まで何度もセックスをして、愛の言葉をいくつも交換した。ついさっき恋人になった傑は真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれて、身体だけじゃなく、彼の心に触れられる幸せは途方もない。この幸せを手にするのは、言葉にすればこんなにも簡単だったなんて、私たちってどっちも馬鹿みたいだ。



「傑、何でもっと早く言ってくれなかったの?」
「え、なまえが何も言ってくれないから、私のこと好きじゃないんだと思ったんだよ」
「どういうこと?」
「普通はこういう関係になったら、女の人から『付き合って』って言ってくるだろ。言ってこないってことは振られたんだと思ってた」
「……傑ってどこ中?そんな乱れた中学生活送ってたの?」
「え。よく分からないけど、失礼だな」


真っ直ぐな瞳でそう言い放った傑を見つめ返しながら、私は彼の恋愛面での倫理観を叩き直さなければいけない。そう強く、心に誓ったのだった。





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