こいねがうおわり*



先月、新しい携帯に変えた。開閉部がボタンになっていて、ぽちっと押すとぱかっと開く。これがクセになる感覚で、つい無意味に開いたり閉じたりしてしまう。色は青。中学生の頃はピンクが好きだったけど、高専に入ってからは青が1番好きな色になった。私の、恋人の色。

カチッ、と音を立てて健気に開いた携帯の画面は真っ暗のままで、眉間に皺を寄せた私の顔が写り込んでいる。今日は天気が悪いから髪を結んだ。練習中の編み込みが結構上手くできたから悟に見せようと思ったのに、恵くんに稽古をつけるため朝早くに出掛けたようだった。

恵くんも津美紀ちゃんも、すごく良い子で可愛い。悟が恵くんに大きな期待を寄せていることも分かっている。分かっているけど、最近の悟は私のことは二の次でいつも恵くんにばかり会いに行ってしまう。最後にデートしたのは先月、携帯を変えに行った時。その時も「恵の術式がそろそろちゃんと確認できそう」と嬉しそうに話してた。
そりゃあ私も気になるけど、私の事ももっと気にしてほしいよ、とは子ども相手にあまりに大人気なくて、なかなか言えないままだった。


悟からメールも返ってこないし、硝子は勉強漬けだろうから邪魔しては悪い。まだ8時だというのに、暇すぎて早々にシャワーまで浴びてしまった。mixiも見飽きたし、来週の任務の資料でも見ようかな。そんな真面目なことをしそうなの、傑か七海くんくらいだ。傑がいればアイツはなんだかんだ言いながらも構ってくれたのに。



「わ、なんだろ」

青い携帯が突如として、チカチカと白いライトを点す。青と白で悟の色。悟からの着信は珍しい。待ち侘びていた恋人からの連絡が嬉しい反面、少しだけ不安になる。恵くんか津美紀ちゃんに何かあったのかもしれない。

「もしもし」
『なまえ!今どこ?』
「自分の部屋」
『そこにいて、3分で行く』
「えっなに、どうしたの。悟?」


あっという間に切れた8秒間の通話から3分も経たないうちに、カツカツと悟の靴音が響いてくる。ルートを引けば瞬間移動が可能、と以前悟が言っていたけれど、最近は呪力操作の精度がますます上がったのか、さほど緻密なルートを引かずとも“飛べる”みたいだった。


ドアが外れそうな勢いで開かれて、制服の上着を玄関に投げ捨てた悟が部屋に入り込んでくる。電話越しの声は上擦っていたのに、その顔には一切の感情が浮かんでいない。静かすぎるほどの無表情だった。
髪が伸びたなあと上目に観察しつつ「どうしたの」と問いかけようとした唇は、荒々しい悟の唇に塞がれていて動かなかった。背中が床に押し付けられて少し痛い。舌を軽く噛まれて、深く吸われる。くぐもった声までも悟に奪われ、そのまま左手で口を覆われる。

「ぅ!っん!」
「しー、静かに」
「んん」
「煽んないで。痛くしちゃうかも」

身体を撫でる悟の手は熱くて、ぶつけようの無い大きな衝動を持て余しているみたいだった。私のキャミソールを放り投げた悟の目が白く光る。
赤い舌で胸の先端を強く嬲られると、背中まで甘い刺激が走った。嬌声の代わりに肩に爪を立てる。煽られた様子の悟の舌が、首筋から耳にかけてべろりと舐め上げた。いつもはしつこいくらいにあちこち舐めるくせに、今日の悟は随分と性急だった。

言葉も無いまま突然口を塞がれているこの状況に、少しの恐怖を感じているのは確かだったけれど、それ以上に大きな興奮を覚えていた。悟の右手が脚の間に割り入ってきた時には、それだけで脚が震えて達しそうになるくらい濡れていた。

「はっ、こんだけ濡れてりゃもういいね」
「ん、んん!」
「ごめん今日は余裕ない」

下着がまだ片脚に引っかかって残っている。カチャカチャと悟のベルトが外される音が、鼓膜から脊髄にまで響く。奥まで押し入られるあの快感に紐付けられたその音を聞いて、私の下腹部がびくびくと収縮を始める。
ぐっ、と悟の質量が埋められると、待ち望んだ感覚にその収縮はより強くなった。全てを私の中に埋め切った悟が小さく息を漏らす。

「はぁ、なまえん中きもちー。すぐイっちゃいそう」
「ぅんん」
「脚もっと開いて」

悟の身体がより強く押し付けられる。奥まで到達したそれを上下に揺すられて、ぐちゃぐちゃと粘着質な音が鳴る。気持ち良くて、少し苦しくて身体がしなるたびに肩甲骨が床に当たって痛いけれど、それすらも快楽になってしまいそうだった。


悟の左手は相変わらず私の口を塞いだままで、右手では私の両腕をひとまとめにしている。無理矢理犯されているような状況なのに、その余裕のない悟の顔にどうしようもなく煽られる。せめてもの抵抗に悟を睨みつけると、私のその視線を楽しむかのように、白い喉仏がゆっくりと上下した。

「ねえ、僕さっき煽んないでって言ったよね」

眉根を寄せて欲望に光る瞳で私を見下ろす悟が激しく腰を使いはじめる。身体がずり上がってしまう程に激しく叩きつけられて、下腹部から脳天まで快楽で痺れ切っていた。
身動きなんて取らせてもらえないまま、ただひたすらに抜き差しして私の奥を穿つ。絶頂に腰が震えて足が痙攣していても、今日の悟は薄ら笑いを浮かべたまま動きを止めてくれなかった。これじゃあまるで、悟のおもちゃにでもなってしまったみたいだ。

「なまえ、こんな乱暴にされてんのに気持ち良いんだ」
「んんっ」
「変態じゃん。もっと欲しい?」
「ん!ぅ、んん!」
「あはは、かわいー顔」

息が出来ない。壊されてしまいそうな程に奥まで埋められて、叩きつけられる。いつもの優しさなんて一切無い抽送に思わず舌を噛みそうになった瞬間、口を覆っていた悟の手の代わりに唇が重なる。待ち焦がれたその舌に舌を絡め取られて、何処もかしこも悟の熱に蕩けてしまいそう。

頭がおかしくなりそうなほど荒々しい律動は随分と長く続いた。奥深くまで悟のもので侵される。頭の中が快楽でいっぱいになって、ぎゅうぎゅうと食い締めながらも絶頂の波に翻弄され続けた。「や、っば」と小声で吐き捨てた悟が咄嗟に腰を引いて、ほぼ同時に私のお腹に熱い精がぱたぱたと飛び散った。




床に擦れた背中は、きっと赤くなっているに違いない。わざとらしいほど優しい手付きでベッドまで運んでくれた悟の膝も赤くなっていた。口に入った髪の毛を追い出そうと頬を動かしていると、悟の指が頬を滑った。髪の毛が口の中から出て行く。私の真正面にある悟の顔はいつもより目が潤んでいるように見える。この顔は私に許しを乞う時の悟のぶりっこだ。分かっているのに、どうしても許してしまう。

「……なまえちゃん、ゴメンネ」
「ぶりっこする前に理由を聞かせてよ」
「ふふ。僕、なまえのそういうところ大好き」
「どういうところ?」
「僕の行動に理由を見つけようとしてくれるところ」
「……普通でしょ」

ティッシュをゴミ箱に放り投げた悟の顔は、部屋に入ってきた時の無表情とは別人のようにご機嫌だった。少し、怖いくらいに。

「恵の術式が確定したんだ。思ったとおりだった」
「見えてたんじゃないの?」
「おおよそはね。それでも顕現されるとクるものがあったよ」

くつくつと白い喉を鳴らす。私の手首には、さっきまでの悟の指の跡が赤く残っていた。そっと跡をなぞりながらも、悟の目は遠くを見ている。

「十種影法術。恵は僕を殺せる。堪んないなあ」

悟が私の身体を強く抱き締める。「それでつい興奮しちゃって」と言って、小さく笑ったその声には陶酔が絡んでいた。恵くんは、悟を殺せる。反芻すると心臓がぺしゃんこになってしまったように苦しくなって、まだ熱い悟の身体にしがみついた。
恵くんはいつか悟と同じくらい、もしかしたらそれ以上に強くなる。悟はそれが嬉しくてたまらないんだと思う。それでもほんの少しだけ、他人から与えられる“死”の匂いへの高揚感が潜んでいるような気がするのは、私の考え過ぎだろうか。

「悟、やめてよ」
「なにが」
「恋人に2回も死なれるとかありえない」
「ははっ、確かに。ウケる」

ウケないよ、と返事をしたのに、悟は何も答えないままずっとくすくすと笑っていた。その頬には興奮の余波か、未だに薄い桃色が差している。

「……恵くんにイジワルするのもやめてよ」
「イジワルはしないよ。教育的指導はするけど」
「悟ってさ、サディストなのかマゾヒストなのか分かんない時あるよね」
「そう?……なまえは分かりやすいよね」

ニンマリと笑った悟の身体が離れていく。両腕を引かれ、仰向けになっていた悟の上に乗っかる体制になると、臀部に昂りを感じた。「勃っちゃった」と笑った悟の爪が両腿に沈められると、ぴりぴりした痛みに期待も相まって思わず声が漏れた。

「僕にちょっとだけ痛くされるの、好きでしょ」
「……悟の変態野郎」
「オマエだろ」

「ほら」と誘うように笑った悟の唇をぺろりと舐めると、すかさず舌が絡め取られてしまう。舌と舌の境目が溶けてしまうくらい甘く吸っては舐めてを繰り返していると、悟の手が再び私の秘部を優しく擽りはじめる。
円を描くように敏感な所を撫でられるとすぐに堪らなくなって、柔らかなその髪を掻き抱いた。

悟、ずっと最強でいてよ。いなくならないでよ。
そんな事は当たり前で、言うまでもないはずなのに何故か胸が詰まって声にならない。悟のおでこの傷跡はもう無くなっただろうか。暗い部屋では見えなくて、指先でそこを撫でた。「悟」とだけ、願いを込めて名前を呼ぶ。「なあに」と笑ったその声は酷く甘くて、絡め取られた私の指先と共にベッドにぼとりと落ちた。





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