さしすと大富豪


「じゃあ傑の部屋に20時集合な!」
「えっ私の部屋でやるの?」

苦虫を噛み潰したような顔の傑が異を唱えたが、私と硝子がりょうかーいと声を揃えたのを聞いて、諦めたように小さくため息をついた。

私たち4人は全員飽き性で、コロコロとブームが変わる。ついこの間まではモンスターを狩るゲームが大流行していたが、今はトランプの大富豪がブーム。硝子の勝利記録更新を止めるべく、暇さえあれば傑か悟が「やるでしょ!大富豪!」とトランプを持ってくる。今夜は久しぶりに共用スペースではなく、部屋飲みしながらやろうということになった。

「傑と硝子がしょっぱい系は持ってきてくれそうだし、チョコ系持ってくか」

部屋にあった大量のお菓子ストックを引っ張り出す。高そうなお菓子は殆ど悟からの貰い物だ。これうめーからやる!と、出張任務から戻っては私の部屋へ高級菓子を放り込んでいく、キラキラした顔の悟を思い出す。なんとなく勿体ないような気になって、ファミリーパックのチョコレートとパイ菓子を掴んで傑の部屋に向かった。


「おい遅せーよ、先に始めるぞ」

そう言った悟が萩の月を一口で食べてから、トランプを配っていた。

「うわ、萩の月を一口で?勿体ない食べ方しないでよおぼっちゃま」
「うるせえ、ならXXLサイズの萩の月作れって本社に電話してやるよ。……オマエはこっち」

あむあむと咀嚼して、いちごミルクで萩の月を流し込む悟が、私の腕を引っ張って隣へ誘導してくる。そのままストンと悟の隣に腰を下ろせば、キラキラした顔で「さ!やるでしょ!」と、配り終えたトランプの束を差し出してきた。

「悟、先に飲ませてくれ。シラフより酒が入った大富豪のほうが楽しい」

傑が慣れた様子でハイボール缶を飲みながら、硝子に灰皿とビールを手渡した。

「どうせまた私が勝つだろザコ共め。ワンカートン賭けるぞ」
「硝子、最近買わなくてもいいくらい大富豪でタバコ稼いでるよね。でも硝子攻略の糸口を見つけたから次は負けないよ」
「おい何で俺勝てねえの?オマエら2人イカサマしてねえ?」
「悟はなんだかんだで勝つじゃん。私は全然駄目……レベル違いすぎて申し訳なくなる」
「悟は感情的になるところを直せばもっと勝率上がると思うけどね。なまえは……もっと意地悪になった方がいいよ。人が良すぎて心配になる」

ふふ、と傑が鼻にかかった笑い声を漏らしながら、私の髪を一房とってクルクルと長い指に巻き付ける。傑より少しくらいの私の髪は、よく傑のおもちゃにされる。

「ね、なまえ。髪の毛結んでもいい?なまえの髪は私のと違ってフワフワだから、新鮮で触りたくなるんだ」
「傑のはうざいぐらいストレートだもんね。良いけど、髪に跡つくの嫌だから緩めに結んでね」
「まかせて」

ベッドに腰掛けた傑に促され、脚の間に入り込むように床へ座ると、ほろ酔いで鼻歌なんか歌っている傑に髪を梳かれた。傑の手は大きくて温かくて気持ちよくて、缶チューハイを半分しか飲んでいないのに私まで酔いが回ってきた。

「すぐる、やば、気持ちよくて眠くなってくる……」
「寝ちゃっても良いよ、ベッド使いな。悟と硝子に何壊されるか分からないから、私は起きてなきゃいけないし」

確かにな。悟は言わずもがな、硝子も悪ノリすると厄介だ。ふ、とテーブルの向こうを見ると、硝子とゲームをしながらギャアギャア騒いでいた筈の悟と目が合った。普段はサングラスで隠れている綺麗な青い目が、ゆっくり瞬きをしたと思うと、口元をチッと歪めて小さく舌を出し、忌々しそうに私たちから目を逸らした。

「おい硝子、これ破壊ゼッテー無理だろふざけんなよ」
「人のせいかよ。五条が武器選択ミスったからだろ」

暴れる悟の長い足が、テーブル越しに私の足に当たる。勢いよく当たったと思った悟のつま先が、私のふくらはぎにツツと滑ってきた。偶然にしては、何か。

足を引っ込めるのも今更な気がして動かないでいると、悟のつま先が太ももを撫でる。繊細な動きで下腹部に伸びてくるのに、当の悟は相変わらず「硝子ぉ!採取してんじゃねぇ!」とか騒いでいる。

「、っねぇさと」
「なまえ、できた。このくらい緩めならいいかな?」

後ろから傑の優しい声がして、助かったとばかりに足を引っ込めて傑の方へ向き直る。

「あ、ありがとう。大丈夫。……傑に髪の毛触られると気持ちよくて眠くなるんだよなあ。美容師向いてるんじゃない?」
「そう?呪術師やめて美容師目指そうかな。でもなまえの髪を触るのが好きなだけなんだけどね」
「……そういう事サラッと言っちゃう、人たらしな所も呪術師やるより活かせそうだよ」

バン!とテーブルを叩く大きな音がして、音の方を見ると赤い顔をした悟が子どもみたいに両手を挙げていた。

「ねぇーー俺待ってるの。はやく大富豪しよーーー!!」
「うざっ、うるさっ。悟酔ってる?あ、それ私のカルピスサワー」
「悟、なまえの缶チューハイ飲んだのかい?」
「のんだ」
「え……あれ半分でこんな酔ってんの?五条、酒弱すぎて引く」

硝子がフーッと煙を吐きながら笑い、トランプの束を手に取る。「悟が寝ちゃう前にやらなきゃね」と言った傑が空っぽの缶を握りつぶした。勝てなくても、せめて今夜は大貧民にはなりたくないなあ。






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