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悟の唇が私の肩の丸みを舌で確かめてから、抉り取るように歯を立てた。痛みに身体がしなって堪えるために小さく息を吸い込むと、悟は陶酔の笑い声を漏らす。
いつもは強く噛んだ後、とびきり甘い物を味わうみたいに優しく舐めてくれるのに、今日の彼はそれをしない。ただひたすらに噛んだり爪を立てたりして、私の肌に赤い跡を残しながら痛みだけを与え続けている。

悟に伸ばそうとした腕にはあちこちに噛み跡が残っていて、彼の青と白に馴染まないほど赤くなっている。私の腕をかわした悟に、今度は膝に甘く歯を埋められると、身だけではなく骨までもを直に舐られているようで内腿が震えた。
悟に痛みを与えられるたびに、私の膣内に埋められているその指をびくびくと締め付けてしまう。全く動かないその指は、私の求める刺激を与えるつもりは毛頭無いようだった。今日の悟は、ひどく意地悪だ。

胸の頂を甘く噛まれて、腰が跳ねる。同時に悟の指の形が分かるくらいに締め付けたのを自覚して、いよいよ我慢の限界だった。悟の唇が私の目前で弧を描く。澄んだ空の瞳を細めて、重たげなまつ毛をぱちぱち瞬かせる悟は天使のように美しい、のに。

「ねえオマエさ変態なの?僕に噛みつかれるたびに指、ぎゅうぎゅう締め付けてくるんだけど」
「ぅ、だって、いたい」
「へえ、なまえは痛いことされると僕の手首まで垂れてくるくらい濡れちゃうんだ。知らなかったな」

羞恥心を煽るような声色で、笑みを含めながらそう言う悟は未だに指を動かさない。
私の奥まで埋められたそれをゆっくり引き抜こうとすると、ぬちゃ、と生々しい音が暗闇の中、私の耳にまで届いた。いつもみたいに良いところをぐちゃぐちゃにして欲しくて、たまらなくて無意識に腰が揺れる。

「こーら。堪え性がないねえなまえは」
「さとる、ね、っお願い」
「なあに?なまえのお願いなら何でも叶えてあげる」
「ゆび、動かして、」
「えー動かしてるじゃん」

ほら、と指をゆっくりと引き抜かれると、膣壁が追い掛けるように蠢いてしまう。それを嘲るように、悟が低く笑った。

「なまえ。僕にして欲しい事、言って」
「っ、ぐちゃぐちゃにして、…イかせて」
「よく出来ました。気持ちよくしたげるね」

埋められていた指が私の中をゆるゆるとかき混ぜ始めると、途端に望んでいた快楽が大きな波になって押し寄せた。水音がどんどん大きくなって、奥の良いところを指先で規則的に刺激されると簡単に絶頂に追いやられてしまう。

「さとる、イく、…ん、う…ぁ!っ、」
「ん」

絶頂を迎えるさなか、私の首に残る悟の噛み跡を柔らかい舌でべろりと舐められる。
痛みの底にある痺れるような甘さが絶頂を助長して、小さく舌を出したままの悟が「へんたい」と吐き捨てたそれを否定できなかった。

散々焦らされてから与えられた快楽になんとなく心細くなって、悟の首を強く抱き寄せる。ふわりと寄った髪と、その滑らかな肌に安堵を覚えて「さとる」と名前を呼ぶと、は、と悟が小さく溜息をこぼした。

「……なまえ、痛かったよね。いっぱい噛んでごめん」
「痛かった」
「うん。ごめん」

頬に優しくキスを落としてくれる悟は、白いシーツに溶けてしまいそうなほど甘やかな指で私の皮膚の噛み跡をなぞった。
悟のその桃みたいな唇をぺろりと舐めると、バツが悪いような顔をした彼は小さく目を逸らす。

「ごめんってば」
「……悟の躾、失敗したかも」
「うーん、概ね良い子にできるんだけどね」
「人を噛んじゃ駄目なんだよ」
「僕、なまえの事しか噛まないよ。可愛くて可愛くて食べちゃいたくなるんだよねえ、キュートアグレッションってやつかな」
「あぁ、その気持ちは分かる」

だって、私もそうだ。悟が私の前でだけ見せる無防備な笑顔や寝顔。今の、私だけを見つめる蕩けきったその微笑だって。

悟の腰に馬乗りになって、そのまま彼のものを秘部に充てがう。腰を前後に揺らして、挿入を誘うようにお互いの粘膜をぬるぬるとこすり合わせると、悟の白い喉がごくりと上下した。

「っ、は、なまええっろい」
「躾しないとね。ねえ、入れたい?…すっごい大っきくなってる」
「うーわ……オマエのそういう顔、ほんっとたまんない。すげえ興奮する」
「悟」

悟の頭の中に問いかけるように左の耳介に舌を滑らせると、シーツをぎゅっと掴む悟の手が視界に入った。
彼に触れることを許された、私だけが見る事ができる彼のその反応がたまらなく可愛く思えて、衝動的に白い首筋にがぶりと歯を立てた。同時に彼のものを膣内に埋めると、ぬるぬるに解けていたそこは快楽に震えるように悟自身を締め上げる。
悟が、細く長い溜息を吐いた。

「……っは、きもちー……ふふ、随分と可愛い攻撃だね」
「うっ、るさ、い、…ぁ、っん、」
「ほら。僕のことちゃんと躾けてよ」
「ぁあ!ぅ、う、んん」

腰に添えられた大きな手が激しい抽送を後押しする。下から突き上げられて、悟の手が私の腰をがしりと掴むと途端に良いところばかりを責め立てる。大きくなる声と快楽を堪えようと悟の肩を噛むと、膣内をぐちゃぐちゃに掻き回す悟のものがびくびくと大きくなった。

「う、さとる、おっき、く、なった」
「だってなまえ可愛すぎるんだもん。僕、躾っていうかオマエに懐柔されてる気がする」
「や、ほん、と、激し、っう」
「うん。僕の肩噛んでなよ」

ほら、と後頭部を肩に寄せられる。がぶりとその綺麗な肩に再び歯を埋めると、より一層悟の動きが激しくなる。悟のものがギリギリまで引き抜かれたと思うと、奥まで一気に突き立てられるその緩急に膣壁が震えた。
悟の上で、ひたすら彼の動きに飲み込まれながら肩口に顔を埋めていると、お腹の奥の方で快楽が弾ける気配がする。それとほぼ同時に、悟のものが硬く張り詰めた。

「はー、もうイきそう。奥に出すね」
「ん、ぅ、だして」
「なまえ、ぎゅってしてて」

唇も、腕も、胸もどこもかしこも隙間なく抱き合ったまま、絶頂を迎えた私の身体の奥で悟のものも爆ぜる。どくどくと力強い脈拍を感じながら、吐精の悦楽に震える少し赤みがかった悟の顔をぼんやりと見つめると、彼の気持ちが手に取る様に理解できた。

「……キュートアグレッションだ」
「はぁ?」
「かわいい、悟。食べちゃいたい、」
「……なまえ、このままもっかいしよっか」
「え、嘘、なんで大っきく、っ、ん」
「躾がなってないからね、僕。我慢できないの」

再び始まった抽送に耐えきれずベッドに倒れ込むと、その背中を悟の腕が支えてくれる。穏やかさを取り戻した白いシーツに、私と悟の絡め合った手が落ちる。

部屋の暗闇はいつの間にか、穏やかな朝色に煌めいていた。私を愛おしそうに見つめる悟の六眼も、同じように穏やかな朝色だった。






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