07



輝く水色の海を真珠に溶かしたような色のマニキュアは、まるで朝の光に輝く悟の瞳のようだった。
「悟色だ」と思った時には既に購入を決めてはいたものの、流石に手に塗るには少々派手だろう。
まだサンダルの時期ではないけれど、足の爪に塗ろうと決めると帰り道への足取りがますます軽くなったような気がした。


軽い夕飯を済ませ、先日購入したコーヒーマシンでカプチーノを2つ入れる。悟の分には、泡の一面に砂糖をかけてあげるのがお決まりだ。
ソファに身体を沈めると、いつものように隣に座った悟が私の腰に手を回しながら、脈絡の無い話を延々とし続ける。

「それでねその時の写真を伊地知に送るついでに七海にも送っておいたんだけど、あ!ねえねえなまえ、カプチーノにシナモンって正直必要だと思う?」
「へーすごいねえ」
「ちょっと、適当な相槌やめて」
「あ、間違えた」

ひどいひどいと騒ぐ悟が私の肩にもたれかかって、キラキラと眩しいくらいの青い瞳でこちらを上目に見る。不満げに唇をちょっと尖らせた悟の輝く六眼をじっと見つめていると、今日買った「悟色」のマニキュアのことを思い出した。

「なまえ〜、ねえ」
「そうだ。私マニキュア塗ろうと思ってたんだ」
「えっ、この僕が甘えてる真っ最中なのに?正気?」
「あはは、自分で言うな。じゃあ悟が塗ってよ」
「楽しそうだね。いいよ」


こっそりマニキュアと悟の瞳を見比べると、似てはいるものの、煌めきや澄んだ色味がやはり全然違う。一緒にしないで!とうるさそうだから、あえて何も言わずに悟に手渡した。

「あれ、なんか僕っぽい色」
「……そうかな」
「へぇ〜?なまえ可愛い。僕のこと考えてこれ選んだでしょ」
「バレた。でも全然違ったなあ。比べ物にならないくらい悟の方が綺麗」
「ふふ、分かってるなら良いよ」

嬉しそうに「愛だねえ」なんて言いながら、悟が私の足元に座り込む。綺麗な指に爪先を取られると、なんだか倒錯的な光景に、滅多に現れない私の加虐心が顔を出し始めた。


「……ねえ悟、キスして」
「んー後でね」
「違うよ。ここ」

悟の目前に爪先を浮かすと、彼は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにそれを引っ込めて好戦的に笑った。

「……なまえ、ここにキスする意味知ってる?」
「ううん」
「爪先へのキスは、『崇拝』だよ」


少し冷えた私の爪先へ、悟の温かくて柔らかい唇が落とされると、そこから甘い毒のような温もりが広がる。そのまま足の甲まで滑った悟の唇がゆっくりと開かれると、その熱い吐息が私の思考をどんどん奪っていくような気がした。

「足の甲は『隷属』」
「ん、…ふふ、悟とは縁遠い言葉」
「そう?考え方によっては僕、なまえに隷属してるような気もするけど」
「…そこは?」
「脛?『服従』かな」
「へえ。悟に隷属してるのも服従してるのも、私の方なのにね」
「なまえがそう思ってるならそれで良いけどね。
でも、……僕も大概だよ。」

ちゅ、ちゅとわざと音を立てて私の脚に口付ける悟が、太腿に強く爪を立てる。優しい唇の柔らかさとは真逆のその刺激に身体が跳ねると、悟の甘い唇と舌が慰めるように爪痕へそっと這った。
ピリピリと残る痛覚を舐めとるような動きに小さな快感が生まれて、もっとと欲し始めた腰がつい揺れる。

「ぁ、…さ、とる、ねえ、」
「なあに」
「太腿、は?」
「…『支配』」


悟の綺麗な唇が弧を描いて、その六眼には嗜虐の色がありありと浮かぶ。……悟に殺されちゃった呪霊たちは、最期に彼のこんな顔を見たのだろうか。

私の太腿に悟の歯が立てられて、ソファが大きく軋む音が部屋に響いた。






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