アントリーグ*



「わたしがこっちの簡易ベッドで寝るよ」
「なまえ、それはダメだ。君がこっちで寝て。私と悟が簡易ベッドで寝る」
「おい、どう考えても俺と傑の2人がこんな小さいベッドもどきに収まる訳ねーだろ」



今日は傑と二人で地方任務だった。補助監督から車の故障で迎えに行けなくなったと電話が入り、メールで送られてきた地図のビジネスホテルに辿り着いたまでは順調だったのだ。むしろ私は、恋人である傑と合法的に外泊ができることに歓喜していたといってもいい。

ホテルのフロントに入ると、そこにはたまたま現場が近く相乗りして帰る予定だった悟が私たちを待っていた。私と傑を見つけると、「邪魔するぜー」と言って間に割り込んでくる。傑の肩に腕を回した悟は、私に向かってべ、と舌を出した。
傑と付き合い始めてから、悟の私への風当たりが強くなった。これまで以上に傑にくっついては、私を牽制してくる。傑は「悟は私達の邪魔をしたいんだよ」と、ごく当たり前のことを意味深な口ぶりで言っていたけど、これだけ当たりが強いと対抗心が芽生えてしまう。馬鹿らしい。相手は悟で、二人は親友なのに。
傑を間に挟みながら悟と睨み合っていると、ホテルマンが焦りを滲ませながら駆け寄り、口を開いた。

「申し訳ありません、本日ダブルベッドのお部屋1部屋のみしかご用意できません。お部屋に簡易ベッドはありますので、そちらでもよろしいでしょうか?」

高校生三人を何の追求も無く泊めてくれることを考えると、ここは高専と何らかの繋がりがあるホテルなのだろう。他を回って、寒空の下野宿になるよりマシだ。「構わないですよ、私たち仲良しなので」と、まとわりつく悟を手で押しやりながら、傑がよそ行きの笑顔で答えた。



部屋に入ると、広々としたダブルベッドが1つ。部屋の隅にソファー型の簡易ベッドが1つ。性別でも体格でも、私が簡易ベッドを使うのが最適解だろう。少し言い合いをしてから、なかなか首を縦に振らない傑を押し切り簡易ベッドに寝転ぶ。

「さ!男子から先にシャワー浴びてよ。そんでさっさと寝よ!疲れたー!」
「じゃ、俺からな。傑ぅ、一緒には・い・る?」
「……さっさと行ってきな、悟」

冷たいのね、なんて泣き真似をしながら悟がユニットバスへ入っていく。ベッドに座り、今日の報告メールを打ってくれているらしい傑に横から抱きついた。

「悟には悪いけど、ちょっと残念、かも」
「ふふ、言うまでもなく私もだよ。今度は二人でどこか泊まりに行こうか」
「と、っ泊まり」

スルリと腰に手を回されて、少し悪い顔で傑が囁く。いつも所謂“そういうこと”をするのは傑の部屋だ。環境を変えてみるのも新たな刺激になって良いのかも。うん、と頷いた肯定の声に、思わず羞恥の色が混ざってしまった。それを傑が敏感に察知する。

「なまえ、やらしいこと考えてる。……泊まりって、何すること想像したの?」

頬に手を添えられ、傑に引き寄せられる。そのまま首に手を回して、キスを求めようとした時。

「すぐるーーーーー!!あがった!!次オマエのばん!!はい!!!俺あがった!!!」
「……悟、いつもより早いね?」
「俺いま早シャワーの世界大会目指してんの」

傑は小声でなんだよそれ、と呟き、不機嫌そうな足取りでユニットバスへ入っていった。




「傑の報告メールって超こまけーよな。もう適当でいいんじゃね?」
「うん、ここの部分消しちゃお。続き打つのめんどくさいし」
私は傑の下書きを元に報告メールを打って、悟がそれに横からちゃちゃを入れてくる。こうして二人でいる時の悟は、前と同じように優しい。いつもこうならいいのに、傑のことどれだけ独占したいんだろう。

私がシャワーを浴び終えて出た頃には、任務で疲れていたのであろう男二人はすっかり眠っていた。190センチ前後の男が二人で並ぶと、ダブルベッドとはいえ狭そうで可笑しくて、思わず写真を撮って硝子に送る。
簡易ベッドもなかなか悪くない、と潜り込んで早10分程でウトウトしかけていた私の耳に、ささやくような傑の声が響いた。


「なまえ、起きてる?悪いんだけど、寒くて眠れないんだ。掛け布団持ってこっちへ来てくれないかな」
「……え、大丈夫?」
「悟に布団を取られてしまってね。さすがに布団なしは寒い」

ダブルベッドの方から聞こえてくる傑の声は少し震えていて、心配と不安から眠気が吹っ飛ぶ。傑が弱音を吐くことは少ないのだ。言われたとおり私の布団を持って駆け寄ると、悟が布団をすっぽり被って眠る横で、傑は膝を抱えながら小さくなって震えていた。

「ふ、あはは、なんか傑かわいい」
「寒いんだよ。ね、はやく」

腕を引かれ、傑の隣に倒れ込む。脚を絡められて、冷たくなった傑のつま先が私のふくらはぎに触れた。そのヒヤリとした温度に私まで寒くなってきて思わず傑の胸にぴったりとくっつくと、スススと寝巻きの裾が持ち上がり、私のお尻と背中に傑の指先が触れた。

「ひゃ、冷た……ってか、ちょっと」
「寒いから暖取ってるだけだよ。ね、こっち見てなまえ」

内緒話をするような声で、傑に催促される。傑、キスするつもりだ。傑の向こう側にいる悟の寝息を確認してからおずおずと首を上に向けると、「ひっかかった」と言って笑う傑の唇が落ちてくる。
数回啄んだ後に唇を柔らかく吸われ、そのまま舌を絡め取られる。舌先で口内を撫でられるようなキスに夢中になっている間に、お尻と背中に置かれていた傑の手はすっかり熱くなっていた。下着をずらされ、お尻の方から秘部に手が滑り込んでくる。

「ん、んん!傑、むり、声出ちゃう」
「大丈夫、塞いでいてあげる」
「ん」

口内に舌をグッと深く差し込まれ、溢れそうになる喘ぎ声を傑の舌で掬われる。溢れた蜜を指先で突起に塗りつけられ、やわやわと往復する。そのまま秘部にゆっくりと埋め込まれた傑の指が、わざと良いところを外した動きをするのがもどかしくて、自分で腰を動かした。キスの合間に、傑が笑いながら囁く。

「なまえの好きな所触ってあげたいけど、声出ちゃうんだろ?我慢しな」
「す、ぐる、意地悪……がまんできない」

消え入りそうな声で懇願すると、静かにね、と優しく言った傑の指が激しくなる。お腹の内側にある良いところを少し乱暴にこすられながら、ぬるぬるになった突起を親指で優しく左右に弄られる。
傑に深く口付けられながら、あっという間に絶頂の波に攫われた。その波が喘ぎ声になって漏れてしまうのを必死で堪えていると、意地悪な微笑みの傑が観察するようにこちらを見つめていた。

「ねえ、いつもより興奮してる?なまえってもしかして変態だったのかな」
「ぅ、す、傑が変態、なんでしょ」

絶頂の余韻に霞む頭で辿々しく反論すると、意地悪な言葉とは真逆の優しいキスが落ちてきて、傑の首に腕を回した。私も傑に何かしてあげたいな、と思ったけれど、傑が私の寝巻きと布団を整えてくれたから、大人しく眠ることにする。

「おやすみ。なまえが温かいからよく眠れそうだ」
「悟に布団取られたなんて、嘘ばっか。寒くなんてないくせに」
「ふふ、なまえが掛け布団持って駆け寄ってくれたの、可愛かったな。心配した?」
「もう傑の演技には騙されません」

拗ねた声を出してくるりと背を向けると、傑が後ろから抱きしめてくる。ごめんね、と後頭部にキスをしてきた傑の声色になんとなく罪悪感を覚えて振り向くと、べっと小さく舌を出した傑と目が合った。
そのまま深く口付けられると、つくづく傑には敵わないなあと思う。何もかもが、傑の筋書きどおりなのだ。


翌朝、思わず悟に「ごめん」と言うと、寝不足で赤い目をした彼は「はぁ?何がだよ」ととぼけてくれる。見ていないフリをしたけど、傑の肩を数回小突いていた気がした。





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