03


むに、むに、と頬を柔らかいもので圧迫される感覚で、眠りから覚める。

「んー……はんぺんの呪霊が……」
「えっ、なにはんぺんの呪霊って。怖っ!」
「……さとる、何してんの」

隣で寝ている悟が、私の右頬に自分の左頬をむにむにと押し付けていた。おはよーと言ってこちらを向いた悟の頬を、仕返しにむにっと摘む。

「おはよ。……悟がむにむにしてたせいで、はんぺんの呪霊に襲われる夢見た」
「なまえ失礼だな〜、こんなグッドルッキングな最強呪術師を呪霊扱いする?普通」


私を横抱きにして、1ミリの隙間も無いくらいにくっついてきた悟が唇を尖らせる。
昨夜は2時まで待っていたけど、帰ってこなかった。目元に少し疲労の色が見えて、労いの意図を込めて抱き締め返すと、悟は嬉しそうに目を細め甘えた声色で話し出す。


「僕ね、昨日なかなかに忙しくてさ。3時過ぎに帰ってきた」
「えぇ、お疲れさま」
「んで、寝る前の癒しを求めて、寝ているなまえをぎゅーってして、匂いを嗅ぎまくろうと思ったわけよ」
「……どこの匂い?やめてよ」

「そしたらなまえから僕に抱きついてきてさ、『悟おかえりぃ』って言ってニコって笑ったの!ねぇ、なまえ可愛すぎない?覚えてる?」
「うそ、寝ぼけてた。全然覚えてないや」

それを聞いた悟はもっと嬉しそうな顔になって、私を抱きしめる腕に力を込めた。顔中に唇を押し当てられて、彼の長いまつ毛が触れてくすぐったい。


「もう僕、なまえが可愛すぎて可愛すぎて、本気で食べちゃおうかと思った」
「いつも噛み付いてくるじゃん」
「それとは違うよ。ちゃんとバラバラにして、オーブンで焼いて食べちゃおうかと思ったんだ」

なまえは絶対甘くて美味しいよ、と笑う悟の表情と声もひどく甘い。朝の光で白く反射する青い瞳が優しく私を見つめる。
顔中にキスはくれたけど、おはようのキスはまだしていない事に気がついて、悟の綺麗な唇へそっと触れるだけのキスをした。

「悟もきっと甘いと思う……あ、甘いといえば。昨日フレンチトースト仕込んだけど、朝ごはんにそれ食べる?」
「絶対食べる!僕、なまえのフレンチトースト大好き。……でも先に、」

横抱きにされていたはずなのに、いつの間にか悟が私の上にいた。まだ寝起きで温かい悟の指先は、触れられた所から身体が溶けてしまいそうなくらい甘く感じて気持ちいい。


「なまえ。ねえ、ちょっとだけ齧ってもいい?」

悟は悪だくみをする子どものような顔をして、私の人差し指に噛み付いた。今夜は悟が帰ってくるまで起きていようと心に誓う。寝ている間に、本当に食べられてしまうかもしれないから。






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