あかつき
つい今、寝ていたことを忘れてしまうほどに突然ぱちりと目が覚めた。もう朝かと思い枕元の携帯を開くと、午前4時と表示された画面が眩しくて思わず片目が閉じてしまう。
網戸からは時々、夏独特の生温かい風が吹き込む。扇風機だけでは耐えられない8月の暑さも、今日は風があるからまだマシだった。
さやさやと、私の髪と傑の髪が柔らかく揺れる。
0時ごろまでお互いを散々求め合い、裸のまま抱き合って眠った。隣で静かな寝息を立てる起きる気配のない傑の顔は、去年の今頃よりも研ぎ澄まされたように見える。
しみじみと、傑は美しいなと思った。涼しげな目元は、高い鼻梁によって翳りが生まれ神秘的な印象なのに、優しげに弧を描く薄い唇がそれに親しみを与えている。眠る傑の顔はいつもの微笑みを無くしていて、神秘そのものだった。まるで、死んでいるみたいに。
思わず不安になって、傑の首に手をかける。トクン、トクンと動く頸動脈を指先に感じながらそのまま顔を見つめていると、傑の瞼がゆっくり持ち上がり、夜の海のように黒い瞳で私を見た。
「なまえ、……どうしたんだい」
「傑の命を確認してた」
「ふふ、なんだよそれ。寝首を掻かれるのかと思ったよ」
少しだけ薄く笑った傑の顔から、また微笑みが消える。最近の傑はよくこの顔をする。少しの不安が混ざった、決意の直前のような顔。
「私は、生きていたよね?」
「うん」
「こっちへおいで。暑いかもしれないけど、抱きしめさせて」
素直に隣に寝そべって、大きな身体に抱きついた。傑の腕が背に回って、くっついた所からお互いの汗がじんわりと滲む。傑の長い髪が頬にパサリと落ちてきて、それを私が耳に掛けてあげる。この瞬間が何よりも好き。
そのまま触れるだけの優しいキスを何度繰り返しても、傑の顔は相変わらずだった。笑って欲しくてわざと寄り目をすると、ふふっと小さく吹き出した傑が私を強く抱きしめ直す。
「なまえ、好きだよ」
「わたしも」
「ずっと一緒にいたい」
「うん」
「君を、幸せにしたい」
「……うん」
プロポーズみたいな言葉を並べる傑の声は、微睡んでいる筈なのに力強く部屋に響いた。私も、傑を幸せにしたいよ。
窓の外から蝉の声が聞こえてくる。もうすぐ夜明けだった。