廊下で偶然、灰原くんと出会った。

「あ!なまえさん!お疲れさまです!」

ピシッと姿勢を正して挨拶をする彼の両腕には、大きな段ボール箱が抱えられている。

「おつかれ〜、なに?それ、どうしたの」
「桃です!実家から送られてきました!」
「へぇ!いいねえ。美味しいよね桃」
「なまえさん良ければどうぞ!15個もあって困ってたんです。夏油さん達にも渡しておいてください!」
「うわあ、ありがとう。傑たちも喜ぶよ」

灰原くんは人懐っこい笑顔で、私の腕に8個の桃を積み上げた。こんなに?と慌てる私を尻目に、じゃ俺は七海探してきます!と言って、走り去っていった。

腕の中から、ふわんと桃の甘い香りがする。落とさないようにゆっくりと自室へ持ち帰り、ほっと一息付いたと思ったその時、ドアが外れたかと思うほど強くノックされた。……悟だ。

「なまえーー!コンビニいこーぜーー!!」
「ちょっと、ドアなくなっちゃうからそのノックやめてよ悟」
「ドアなくなった方が都合がいいな。オラ行くぞ」
「何買いに行くの」
「セブンの新作、白桃ミニパフェ!ちょーうまそうじゃね?」
「ふふふ、悟くん。ちょうど良いとこに来たね……まあお入りよ」
「あ?なんだよ」

わざと悪い顔を作って、悟を部屋へ招き入れた。あーんなまえに襲われちゃう、とふざけながら、のそのそと上がり込んできた悟がテーブルに山のように積まれた桃を見て目を輝かせる。

「うわすげえ!最高、なにこれ」
「灰原くんから貰った。生クリームはないけど、前に悟が置いていった練乳ならあるよ。かけて食べなよ」
「サンキュー灰原、サンキュー過去の俺」

桃を2つ掴み、流しに持っていく。五条家ではみかんすら皮を剥いて出されていたらしい。桃って皮生えてんだなと呟く悟が、隣に立って私の手元を覗き込んだ。

「皮生えてるって何?なんかキモい表現」
「ニュアンスでわかんだろ。え、手で剥けんの?すげ」

真ん中に包丁を入れた桃の皮を、優しく左右に滑らせると、するりと皮が外れて瑞々しい果肉が露わになった。溢れた桃の果汁が、私の肘まで伝っていく。

「あ、」と2人で声をあげたと同時に、悟の唇が私の肘にがぶ、と噛み付いた。そのまま柔らかい舌がツツ、と滑り、肘から手首までを舐め上げる。

「ん、甘くてうまいよ」
「なに、ちょっと、なんかスケベ」
「綺麗にしてやったんだろ。早く剥いてー」

わざと赤い舌をベ、と出して肩を寄せてくる悟。さっき舐められた所から熱が広がって、心臓がバクバクと鳴る。震えかける指先に力を込めて、桃に包丁を入れた。果肉をお皿に滑り落としたとき、また腕を果汁が伝う。悟の指がそれを救い、ぺろりと舐めた。そのまま、また私の腕へと唇を寄せる。

「ん、んん、……」
「なまえ、変な声出すなよ」
「うるさ、くすぐったい、の!」

変な声出すななんて言うくせに、変な声を出させようとしている悟の舌は、どんどん大胆になる。肘の内側の柔らかいところを甘噛みしたり、手首をべろんと優しく舐めたり。こっちを見つめる綺麗な青い瞳には、欲情の色が浮かんでいた。はぁ、と悟の熱い吐息が手首にかかり、人差し指をがり、と噛まれる。

「ん、悟、桃食べよ」
「いま食ってる。……もっと食いたい」

私の腕、もう桃の味はしないと思うな。誘うように笑った悟の唇が近づいてくる。背伸びをして、悟の首に腕を回した。




「おーーーいスケベ共。早く桃剥けーー」

悟と同時に、ゆっくりと左を向く。携帯を構える硝子と、笑いを堪える傑が立っていた。ムービーだよんとピースサインをつくる硝子に、後で送ってと耳打ちする傑。……どこからムービー撮ってたの?

「オイオイオイオイ、マジでうぜえ。ありえねえ。なんなのオマエら空気読めないの?」
「『いま食ってる。……もっと食いたい』ブハッ、このムービー最高だよ悟、お腹痛い」
「傑ブッコロス」

すごい速さで悟が傑を追いかけ、2人は部屋を飛び出していった。硝子が桃を一欠片つまんで口に入れる。

「ん、おいし。夏油と喫煙所帰り、偶然灰原に会ってさ。なまえさんに桃を預けたので先輩たちで召し上がってください!って言うから部屋に来たらコレだよ」
「はぁ、すみません。剥いてからお持ちしようかと思ってました」

外からはけたたましく破壊音が鳴り響く。アラート音もするってことは、傑が呪霊出してるんだ。しばらく時間かかりそうだなあ。

「硝子、あのムービー私にも送って」
「いいよ。ついでに灰原と七海にも送っとこ」

硝子がにやにやと笑う。可哀想な悟の桃には、練乳をいっぱいかけておいてあげよう。





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