第五話


ベッドにふわりと落とされたとき、私の頭の下には夏油先輩の左手が敷かれていた。……この人、手慣れている。その証拠に、ベッドに辿り着くまでに私の服はすっかり脱がされ身につけているものは下半身に所在なげに残る下着一枚だけだ。

柔らかい唇が落ちてきて私の耳を喰んだ。そのまま舌で形をゆっくりとなぞられ、ふうと熱い吐息を吹きかけられると、これから待つ快楽への期待から頬が熱を帯びた。

さっきまで壁に押し付けられながら弄られた胸の先端は貪欲に刺激を求めてすっかり立ち上がっている。恥ずかしくて顔を背けると、夏油先輩が小さく笑いながらそれを指先で優しく潰すように触れた。

「ぅ、んん」
「なまえ、こっちを見て。……もっとしてほしかった?ごめんね。いっぱいしてあげる」

左の先端を口に含み、舌で左右に揺すられる。つつ、と移動した唇が胸と脇の下のあたりに、強く歯を立てた。甘い痛みに顔を顰めると、その歯形をなぞるようにゆっくりと舐められる。その途端、痛みがピリピリとした快楽に変わって、早く下着を脱がせてほしくて、そこを触ってほしくて思わず涙が滲む。

「せ、んぱい、も、触ってください」
「ふふ、いいよ。……泣かないで。今日はなまえをいっぱい甘やかそうと思ってるんだ」


胸の脇からくびれまで、大きな手と舌がゆっくりと下りてくる。月明かりに照らされた夏油先輩の静謐な表情とはあまりにもかけ離れた淫らな指が、スルリと私の下着を脱がせた。


夏油先輩の美しい黒髪に映える赤い舌が、私の皮膚を滑って躊躇することなく秘部へと這わされる。軽く舐められただけなのに今にも達してしまいそうな程、その舌は巧みだった。

「ぅ、あ、っん、先輩、や、」
「ここが良いんだ?」
「ぁ、きもち、っ駄目、それほんとに、ぁ」
「すごいね。いくら舐めてもどんどん滴ってくる」

夏油先輩の唇が、秘部の突起をすっぽりと覆って優しく吸いあげる。時折舌で舐め上げるたびにじゅる、という音が部屋に響いた。同時に膣内に指先だけ挿入されゆるゆると抽送される。外側に強烈な快感を与えられながら、膣内に浅い刺激を繰り返されてあっという間に絶頂に追いやられた。

「っん、ぁ!は、」
「……もっと声を聞かせてほしいけど、私もあんまり余裕がなくてね」

快楽で滲む視界で夏油先輩を見上げる。余裕がないなんて嘘ばっかりと思ったけれど、ニットを脱いで髪をゆるく掻き上げたその顔は、切なげに眉根が寄せられていた。8年前より逞しくなった身体が、少し乱暴な動作で私に覆い被さってくる様に興奮から思わず喉が鳴る。

記憶の中の夏油先輩はいつも笑っていて優しかった。8年ぶりに会ったってそれは変わらないように見えるのに、こんなにも容易く私を快楽に誘ってしまう。手のひらで頬を包まれ食べられてしまうかのようなキスを繰り返されながら抱き合う。
こんな快楽を与えてくれるのなら、このまま食べられてしまっても構わないような気になっていると唇を少し離した夏油先輩が、目前で妖艶に微笑む。

「君を全部、私にくれるかい?」

その甘美な背徳の誘いに、首を縦に振ることしかできなかった。全部あげる。もう何もかもがどうでも良い。ひたすらに与えられるこの快楽の底をもっと見てみたいと、それしか考えられなかった。

そのまま夏油先輩が腰を進めて膣内に熱い昂りが押し入ってくると、待ち望んだ強烈な快感に、思わず鳥肌が立つ。

「っ!あ、っや、」
「ん、痛くはない?……は、すごいな」

感嘆のような吐息を漏らした夏油先輩が奥に先端を押し込むようにゆっくり腰を使う。まるで膣内を隅々まで舐められているようで、つま先から頭の天辺まで快楽で蕩けてしまいそうになった。

見上げた彼は、私を快楽で籠絡しようとする凄艶な微笑みを浮かべていた。見せつけるようにぺろりと舐めた指を私の秘部の突起にぬるぬると滑らせる。

「まっ、て駄目、それ、ぁ!ん」
「駄目?……私を見つめるくらい、余裕があるんじゃないのかい」

奥への抽送と秘部への刺激に耐えきれず2回目の絶頂に導かれると、頭の奥が痺れて喘ぎ声がまるで他人のもののように部屋に響いた。
がつがつと腰を叩きつけるような動きに意識を手放すまいと夏油先輩の首に腕を回す。ふわりと感じた昔と同じ香りに、一瞬、雄のことを思い出したけれどすぐに快楽の奥深くに仕舞い込み無我夢中で腰を振った。


「ぅ、あっ、ん」
「なまえ、も、イく」
「わ、たしも、またイっちゃ、う」

ため息をついた夏油先輩が自身を抜くため身体を離そうとした瞬間、お腹の奥が切なく疼く。駄目だと頭では分かっている。でもこのまま離れたくない。首に回した腕に力を込め、彼の腰を脚で引き寄せると夏油先輩が今日初めて動揺の表情を見せて小さく舌打ちをした。

「っなまえ、」
「せ、んぱい、っ……中、にだして、っ、ん」

小さく頷いた夏油先輩が、激しく腰を打ち付ける。彼のものが私の中でドクン、ドクンと脈打つのを感じながらも2人同時に絶頂を迎えた。

欲望の熱で澱んでいる部屋の空気を、深く深く肺に沈めた。重ね合わせている汗ばんだ胸が2人とも同時に大きく上下する。そのままそこから溶け出してくっついて、ひとつになってしまいそうだった。

私たちは大きな渦に呑み込まれてしまったと分かっている。もう、決して戻れないということも。




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