彼らの初めての夜


なにがどうしてこうなった。
目の前に迫るオーバの顔に体が無意識に距離を取ろうとするが、馬乗りされた体は動かず、ソファーのスプリングがギシッと音を立て僅かに沈むだけで全く離れてくれなかった。
あ、そっか。ソファーに押し倒されたのか。
理解した時、唇に唇が押し当てられた。
まぁキスくらい。と、素直にそれを応じる自分に自己嫌悪を抱く。
まぁその自己嫌悪も、今更慣れてしまった事だけれど。
非常に残念で悲しい話、俺とオーバは長年の友情の末、何がどう転んだか分からないが恋人という関係に陥ってしまった。
「好きだ、付き合おう」とある日突然言われ、俺も別に嫌では無かったので承諾して今に繋がる。
今思えば若干流された感があったのは否めないが、今こうしてキスを受け入れてしまっている当たり、俺もコイツの事好きなんだよな、と認めざるを得ない。
そして付き合ったからには色々と友達じゃ出来ない様な事もしてかにゃならん訳で。
今してる様なキスは勿論、体のお付き合いなんかも、まったく考えて無かったと言えば嘘になる。が、

「ん……ぷはぁ…」
「ぷはぁって、色気ないにも程があんだろ」

唇が離れて出た第一声に、オーバはククッと肩を揺らして苦笑いを浮かべる。
その唇が唾液でテラテラと光っていて、妙な艶かしさと羞恥心に慌てて己の唇をグシッと袖で拭った。
いつもなら「ひっでー!拭うなよな」と、ケタケタとオーバが笑ってこのノリは終了するはずなのだが。
下腹部に感じる重みがその場を動こうとする気配は一切なかった。
ハァーと、溜め息と共に腕で顔を隠しながら逸らすと、ソファーの革の冷たさが頬に張り付く。その温度差に自分の顔の熱さが嫌でも分かってしまった。
まじでヤる気か。
考えなかった訳ではない。恋人になってキスも慣れるほどしてきたんだ、次のステップも有るだろうと分かっていた。
ただそれがこうも唐突に来るとは思ってなかった、それだけだ。

「覚悟は出来たか?」

腕の隙間からチラリとオーバを見ると、ニヤニヤと余裕あり気に笑っている顔があった。
ただその余裕が表向きなもので、実際は余裕なんて無いんだろうな、と長年の付き合いと分かりやすいヤツの顔を見れば一発で分かる。
顔の前で構えていた腕をほどいて、オーバの襟首を掴み、そのままグイと引き寄せた。
乱暴に唇を付けたせいでカツンと前歯が当たって痛かった。

「お前相手になにを覚悟するんだよ、舐めんな」

唇を離しメンチを切りながら言うと、オーバはぶつかった前歯を押さえながら笑った。
笑いながら。密着した下腹部に更に体重を掛けてくる。
前のめりになる体、近付いてくるオーバの顔、やっぱりコイツは顔に出やすいヤツだと思った。
笑ってるくせに目がマジなんだよ。

「んっ……っ…ふ」

首筋に這わされる唇と、時々吸い付かれる痛み。
服の下から執拗に撫でまわされる腹や胸。
なんか、こんなだったかな。
過去自分が女性に対してやってきた行為を思い出そうとオーバから意識を逸らしながら、出そうになる声を何とか我慢する。
って言うか何か一方的じゃね?

「ふぁ!ちょ…、お前どこ触ってんだよ!」

急にピリッとした痛みと快感に、思わず我慢していた声が出た。
オーバは満足そうな顔をしながら「他事考えてんな」、そう言って服の下でまた手を動かした。
さっきまで撫でるだけだった手が、的確に胸の突起を弄りだす。
これは少しヤバい。

「っ…ちょ、待、て!オーバ…んッ」

カリッと爪をたてられグッと足先に力が入る。心臓のドクドクと脈打つ音がやたら煩い。
下半身に感じる熱さがじょじょに確かな形になっていく。それはオーバも同じで、余裕のない顔が何よりの証拠だ。
しかしそれにしたってこんな一方的に、これじゃまるで俺が女役みたいじゃないか。
ハッとその時とんでもない事に気付いてしまった。
瞬間、首筋にしつこく顔を埋めているオーバのアフロを力の限り引っ張る。

「いてててて!急に何すんだよ!」
「まさか俺が女なのか!?」
「はぁ?」

痛さに声を荒げるオーバだがそんな事はまったく問題ではなく。
問題は、この様子だと必然的に俺が挿れられ役だと言う事だ。
それはちょっと想定外と言うか、生きてきて一度だって予測した事がない事態だ。
今までの一連の流れを断ち切った俺にオーバはやや呆れ顔。
しかしその問題がある限り、俺の萎えたコイツは二度と復活しない気がした。

「どうなんだよ」

もう一度、俺にまたがるオーバへ乱暴に言葉を投げ掛ける。
オーバは俺を見下ろしながらポリポリと頬をかき、天井を見上げ、首を捻りながら唸り、ポンっと手を叩いた。

「じゃあ逆に聞くけどお前、俺で勃つか?」
「は?」

今度は俺が困惑する番だった。
投げ掛けられた質問があまりに単純で、逆にしばし思考が停止する。
俺が、オーバに、ねぇ。
じょじょに回復していく思考の中で、質問をじっくりと思案する。
馬乗りになって、腹を撫で乳首を弄り、そして嬌声をあげるオーバ。

「普通に無理だ、笑うか殴る」

想像しただけで激萎えであった。
げんなりする俺にオーバはそうだろうと頷き、「その点俺はデンジでもさっきみたいに興奮できるからオールオッケーだろ」と締め括った。
そういう問題なのか。
やたら明るい口調で言われ、何だかそんな気がしてきてしまう。
オーバは休ませていた手をゆっくりと動かして、また服の下に潜り込んできた。
気を抜いていたせいで、瞬間ゾクゾクしたものが背中を駆け抜けていき、ハッと息が詰まる。

「男なんて気持ち良ければ反応すんだから、大丈夫だって、な?」

耳元で明るく、けれど欲情した声に囁かれながら中心を膝でグイと押される。
それだけで、まぁそれでいいや、と思ってしまった自分がいた。
ここまで来たら、どっちがどっちでもあまり関係無いのかもしれない。
抵抗を止めた俺を見下ろしながら、オーバは嬉しそうな顔をした。

「お前の、そう言う流されやすい所、案外好きだぜ」

勿論褒め言葉な。へへっと笑いながら、上体を倒して被さってくる。
ヤツのアフロに顔が埋もれそうになるのを何とか避けて、倒れてきたオーバを受け入れながら
「バカ、俺はお前に甘いだけだ」
と、反論しようと思ったが、これでは相手を喜ばすだけだと思い止めた。
代わりに自分のヴァージンにひっそりとサヨナラを送っておいた。





END





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