Which color do you like?


至極ワガママで人の意見なんか聞きやしないしそもそも求めもしない人が、どういう訳か電話で自分の意見を求めてくるような事があったら、一体全体どうしたらいいんだろうか。

『ザッキー聞いてるかい?』
「…ッス」

まだ寝ぼけてる頭に飛び込んでくる声はテンションが高いわりに聞いててそこはかとなく心地いいけれど、何度も何度も催促されるとそこはかとなく鬱陶しいものだった。

『オフだからってお寝坊さんは駄目だよ、僕なんかもう5時間も前からこうやって椅子について考えてるんだから』
「そうッスか」

王子それは嘘だろう。と時計を見ながら胸の中で突っ込む。
5時間前ってそれは明け方5時だよ、それ家具屋開いてないから。
むしろ王子その時間にあんたが起きてる訳ないだろう。
言いたい事は山ほどあったがどれを言った所で王子の訳の分からない弁解が飛んできそうで、寝起きにそれは是非とも勘弁したくどれも言わない事にした。
欠伸を噛み殺し、ボサボサの頭をかきむしり布団に潜り込んで目を閉じる。
耳に当てた携帯から王子のそこはかとなく心地いい声が絶え間なく降ってくる。

『ザッキーもしかして二度寝するつもりかい?』
「そんな事無いッスよ、今ちょー起きてますから」
『の割には声が眠そうだよ』

眠そうだよ、って当たり前じゃないか。
つい10分ほど前に電話が鳴って、鳴り止むまで放置しようと思ったのに一向に鳴り止まず、仕方なく出たら王子で、そして何ともどうでもいい話をかれこれずっとされているんだ。
王子じゃなかったらさっさと電話切って二度寝の真っ最中だ。

『仕方ないな、だから早く僕の質問に答えなよ』
「はあ…」
『赤と青、どっちの色がいいと思う?』

さっきからこの質問の繰り返しだ。
早く答えろと王子は言う。自分も答えられるもんならさっさと答えて電話を切りたい。
しかし相手はあの王子なのだ。
ワガママで人の意見なんか聞きやしないしそもそも求めてなんかこない王子が、俺の意見を求めてきてるのだ。
しかも椅子の。王子の大好きな椅子の、わりかし重要であろう色の意見を。
それを適当に答えてでもみろ、考えるだけで頭を抱えたくなる嫌味が飛んできそうだ。
だからって真剣に考えて出した答えが王子のお気に召すものじゃなかったらどうなる。
そんなんでアシスト減ったら本当凹むとか腹立つ以前の問題だ。
だから王子の気まぐれの電話はほんと勘弁してほしい。
頭を使っても、使わなくても、良い事はない。
王子はもっと自分がトラブルメーカーだという自覚を持って行動してほしい。
と、思っていた所でこの電話の解決への進展には繋がるはずないし、きっといくら時間を掛けても王子の気まぐれは俺が答えを出すまで終わりそうになかった。
ここは潔く、眠たい頭をフルに使って王子のお気に召す答えを提示してやるしか道はない。

「……………赤」
『ん?なんだって?』
「赤ッス、赤か青なら赤で」

じっくり10秒考え抜いた末に俺が出した答えに王子は『赤、か…』と意味深に呟いて無言になってしまった。
あれだけペラペラと喋る口が急に黙りこむとそれはそれで居心地悪いものがある。

『ねぇ、何で赤選んだ?』
「え?なんだって」
『理由を答えて、ねぇなんでだいザッキー』

もうすでにハッキリとした意識の中で王子の声が響く。
こんな理由でアシスト減ったら絶対監督にチクるからな。

「赤、は王子の色って感じだし」
『だし?』
「俺の名前が、赤崎だから」

プツリと会話が止まった。
それから小さくクックックと聞こえた声が次第に大きくなり耳元で大きな笑い声となった。

『ハハハッ!ザッキーそれは名案だよ!最高!』
「はぁ…どもッス」
『さて、色も決まった所でザッキー、君もう着替えはすんでる?』
「は?」

つい大きな声で聞き返すと同時に、下の階で犬がギャンギャンと吠えだした。
煩い、とつい口走りそうになった所で、耳元からまるで今の俺の気持ちを代弁する様な事を王子が言うものだから思考が停止した。

『元気な犬だな、君の家の犬かい?』
「王子…?」

電話によくよく耳を傾けると、何だか電話の向こうからもギャンギャンと吠える犬の声が聞こえてくる気がした。
慌てて窓を開け下を覗くと、そこには下町に不釣り合いな男が携帯片手にこちらを見上げていた。
『おはようザッキー』と、電話と直接の声が二重になって鼓膜を揺らす。
なんでやはり王子がここにいるんだ…しかも今日も襟立ってるし。

『君って案外下町に住んでるんだね、おかげで車じゃ不便だからおもてに停めて歩いて来たよ』
「王子なんで…」
『寝癖ついてるよ、早く身支度して降りておいで』

こっちの話なんか聞かずに王子はつらつらと自分の話だけ話す。
そんな事いいから、まずここに来た説明を話して欲しかった。
いきなり下町の、しかも実家に現れた王子の行動の説明なんて本人に話して貰うしか察する事なんか出来るはずないのに。
とは言っても、これ以上電話で話していても埒が明かないし、それより何より王子が何故か自宅前にいて降りてこいと言っているのならそれに従うしか道は残されていない訳で、電話に「今行きます」と簡単に断りを入れようやく通話を切ると、自分でも驚くほどの速さで身支度を整えて玄関の扉を開け放った。

「おはようザッキー」
「おはようございます」

玄関を開けるとやはり何だか周りの風景から浮いた王子が軽やかに挨拶をしてきた。
玄関口から犬がひょっこり顔を出す。
それを足で押しやり玄関口を閉めて改めて王子に向き合う。

「で、何しに来たんすか?」

さあ言ってもらおうか。
朝から電話で叩き起こした挙句、訳の分からない問答を要求した挙句、何故か家の前まで来た理由を、さあ言ってもらいましょうか。
相変わらずギャンギャン吠える犬を尻目に、王子がふんわりと笑った。

「赤い椅子の素敵なカフェを見つけたら一緒にランチを食べに行こうか」

そう言って王子は寝癖がまだ残ってる俺の頭を1つ撫でた。





END





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