World is BLUE


雪が降った。
これからまた長く厳しい冬になる。
それだけで、気持ちはブルー一色。

「ホウエンに行きたいな」

窓からしんしんと降り積もる雪を見ながら、ポツリともらす。

「お前、これからの季節に停電は厳禁だからな」

後ろから若干の笑いを含んだ声で、けれど冗談にもならない言葉が飛んでくる。
そんなの分かってる。
と背中で言いながら、白い雪を眺め続ける。
これからの季節のために、今までナギサでは電気を貯蓄していた。
長く続く分厚い雲、それによって姿を隠す太陽。
100パーセント太陽光発電に頼ってる訳ではないが、この街の発電システムの大本は太陽だ。
その太陽が長い間姿を隠す冬は、僅かな電気も無駄には出来ない。
自らの生命活動を守るため、家の中だけでも快適な生活をするために、電力は絶対不可欠。
太陽が出ない、寒い、改造がままならない、それだけで気持ちをブルーに染め上げるのは簡単な事だった。

「ホウエンに行きたい」

もう一度、同じ言葉を呟く。
後ろで、床暖房の上、快適に体を伸ばす音を聞きながら、誰に言うでもなく呟く。

「でも行かないくせにな」

勝手に拾われた言葉に、今度こそ視線を向けて睨むと、オーバは床暖房の上で足を伸ばしながら肩をすくめた。
素足がやたら目について腹立たしい。

「靴下くらい履けよ、じゃなきゃ壊死しろ赤マリモ」

辛辣な言葉を浴びせると、オーバは何か言いたげに口を開いて、何も言うわず口を閉ざし御自慢の髪の毛に手を置いてこちらを睨んできた。
まるで赤マリモを俺から守るように。

「…雪は好きじゃないな」

それからしばしの静寂のあと、オーバは独り言のように呟いた。
たぶんそれは俺に同意を求めるために呟いたであろうが、シカトして完全に独り言にしてやった。
そんな分かり切ったこと今さら同意した所で、何の意味があるだろう。


それから雪は本格的に降りだした。
しんしんと何日も何日も飽きる事なく降り注ぐ雪。
こんな日は挑戦者もなく、ダラダラと家で暖をとりながら過ごすに限る。
時々オーバが遊びに来る程度の変化。
頭に雪を積もらせながら、さすがに靴下を履いて、それでも五本指ソックスを買ってまでサンダルにこだわる様は馬鹿としか言いようがない。
オーバが来た日は、屋根の雪を降ろすのに精をだした。
屋根に上るのはもちろんオーバ。
俺は下で落ちてきた雪を横へ退ける作業。
時々上から雪玉が首筋目がけて飛んでくることもある。
そんな時はだいたいほぼ100パーセントの確率でオーバのしょうもない遊び心に火がついた時で、そんな時は鈍った体をほぐすのに俺もその遊びに付き合ってやり、壮大な雪合戦が始まる。
そんな日は夜ぐっすり寝れるから、嫌いではなかった。
床暖房と暖房と、今まで貯めたナギサの電力をフルに活用しながら暖をとり、布団にくるまって朝を待つ。
冷たい風に揺れる窓の音を聞きながら、寒い外に思いを馳せて。
翌朝、早い時間から携帯が鳴りだした。
こんな時間に電話を寄越す非常識な人間の電話には出ない、と思ったが何となく気まぐれで電話に出てやった。
すると電話口でオーバのテンション高い声が耳をつんざいた。
急いで、急いでないフリをしながら防寒具を身にまとい外に出ると、オーバは玄関口に立っていた。
新雪に、キラキラと乱反射する光が眩しすぎて目を細める。

「雪、やんだぜ」

嬉しそうに顔をほころばすオーバに、つられて笑いそうになりながら、マフラーで口もとを隠して新雪を踏みしめる。
ざくざくとなる雪の感触。
照り返しはやっぱり眩しかった。
辺りを見渡すと、さっそく作業をしている人たちがいた。
太陽光発電するためにひかれた道路のソーラーパネル、その上に降り積もった雪を退かす作業をする人たちだ。
久々の太陽を、ソーラーパネルに当てるための作業。
オーバは雪に突き刺さったデカイシャベルを引き抜き、アフロをキラキラさせながら言った。

「よし、やるか!」

まるで一大イベントのように、大きな祭りに参加するかのように気合いを入れると、ざかざかと雪の上を大股で歩きにくそうに走りながら、街の人と合流する。
雪を退かすだけの作業。
それなのに、街の人たちも、オーバも楽しそうに笑いながら肉体労働をこなしていく。
そんな様子見せられたら、否応なしに体がムズムズしてしまうではないか。
玄関からシャベルを持ち出し、一歩、一歩、歩き出す。
その速度が、心なしか早いのは、きっと誰も気付かないから抑えはしない。

「これがあるから雪は嫌いになれねーな」

雪かき作業の途中、汗の浮かんだ額を袖でぬぐいながらオーバがそんな事を言い出す。
たぶんそれは俺に同意を求めるために言ったであろうが、シカトして完全に独り言にしてやった。
そんな分かり切ったこと今さら同意した所で、何の意味があるだろう。
雪は好きじゃない、でも嫌いでもない。
こうやってたかが雪かきのためだけに、まるで一大イベントように街中の皆がシャベル片手に街に出て、屋根やら通路やらの雪を楽しそうにキラキラ笑いながら退かす光景。
久々覗く太陽と、それを映し出す澄み渡る広々とした青の空。
流氷の波間で、青い海もキラキラしている。
どこもかしこもキラキラ光る街並み。

「なぁ、デンジ、ホウエン行きたいか?」

今度こそ名前を呼ばれ、仕方なく作業を止めて腰を伸ばす。
バキバキと不穏な音がなる腰を精一杯伸ばしながら、青い空と青い海と白い雪とみんなを見ながら、オーバを鼻で笑ってやった。

「ホウエンは住み難いって聞いたぞ」

俺の返しに、オーバは笑いながら「だよな」と、同意をした。
ザクザクと聞こえる雪の音。
笑い声と、笑う顔。
青い空に照る太陽。
ブルーのナギサで青くないのは、きっと今のみんなの気持ちだけだろう。





END





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