また明日


グリーンと喧嘩した。
グリーンが口煩いのは知っていた。お節介なのも知っていた。
だけどその時たまたま、その口煩いのもお節介なのも、煩わしくて、少しだけキツイ口調で反発してしまった。
それがグリーンは気に食わなかったらしく、そのまま喧嘩になってしまった。
お互い顔も見ず、口もきかずに別れた。
それからずっと部屋でゴロゴロとベッドに転がりながら、どうしたらいいか悩んでいた。
ごめん、たったそれだけ言えばいいのに、それが口に出来ないもどかしさ。
明日になったら普通に接せれるだろうか。
明日になったら普通に接してくれるだろうか。
昔はあんなに喧嘩したのに、久し振りの喧嘩に仲直りの仕方をとんと忘れてしまった。
ごめん、それだけ言いに行こうか。
でもグリーンの機嫌の悪い顔をみたら、また喧嘩になってしまいそうだ。
そもそも会ってくれるだろうか。
そもそも、ごめんが、言えるだろうか。
ひたすら悩みながら、悩みながら、悩んだ結果、古典的な方法を取る事にした。
紙コップを2個用意して、それに長い糸を取り付ける。
あとはリザードンに、紙コップの内1つを、グリーンの部屋に届けて貰った。
こんな事頼んでごめんね。
窓から外へ出したリザードンにそう言いながら、窓を少しだけ開けて閉める。
隙間からリザードンがゆっくりと空を飛んで、グリーンの部屋の窓を叩くのが見えた。
グリーンが窓を開けて一瞬驚いた表情を作り、それから紙コップを受け取ったのを見た。
手に持った紙コップから延びる糸が、ピンっと張る。
隙間からグリーンの顔を見ないようにリザードンをモンスターボールに戻して、すぐさま顔を引っ込める。
そして、相手が紙コップを耳に当てている事を願いながら、紙コップに向かって喋りかけた。

「もしもし、グリーン、僕は君に言わなきゃいけない事がある」

相手からの返事が無いものと思いながら、そのまま喋り続ける。
糸を弛ませない様に、ピンっと張りながら、言葉を探りながら、話しかける。

「昼間の事だけど、僕はグリーンに謝るつもりは、ないよ」

ごめん、は言えなかった。
最初にキツイ口調で反発してしまったのは、僕の方だけど、それでも謝る事は出来なかった。
簡単に、自分の非を認められる程、僕は大人じゃない。
だからって、喧嘩したまま翌日いつも通りに接せられる程、子供でもなくなってしまった。
でも、ずっと喧嘩をしたままなのも、嫌だった。
だから一生懸命、糸で繋がった相手に、喋りかける。
明日また普通に会えるように、いつも通り、一緒に居られるように。

「けど、喧嘩したままなのも嫌だから、だから…」

「また明日」

別れる時言いそびれてしまった言葉を、今伝える。
全て伝え終わって、そっと口もとからコップを外し、耳に添える。
糸を伝って聞こえてくるだろうグリーンの声を聞くために。
糸は、そっと震えた。

『そんな謝り方で、俺が許すと思うか?』

糸から伝わってきた声は、少しこもっていた。
それでも耳を澄まして、糸が声を伝えてくれるのを持った。
ちょっとの間を開けて、また糸が震える。

『…でも、お前にしては、よく喋った方だよ』

『また明日、な』

紙コップから聞こえてくる声はそこで終わった。
糸がふっと弛む。
隙間から顔をそっと覗かすと、グリーンがこちらを見ながら、紙コップを持っていた。

「回りくどいことすんなよ、ばぁか」

糸を伝わずに、グリーンの声が響く。
その声は、少しも怒ってなんかいなかった。

「じゃああとヨロシク」

そう言って、紙コップは空を飛んだ。
軽いそれはすぐさま地面に落ちて、軽く転がる。
僕は糸を手繰り寄せながら、グリーンの放った紙コップの回収に努めた。
その間にグリーンは窓を閉めて、部屋で戻っていってしまった。
手元に戻ってきた紙コップは地面を転がったせいで随分と汚れてしまった。
せっかく作ったのに、酷い事するな。
僕はそれに少しムッとしながら、ゴミ箱に捨てる。
この事を、明日グリーンに言ってやろうと思った。
そうしたらまた喧嘩になるかもしれない。
また顔も見ずに、口もきかずに別れるかもしれない。
でもそうなったら、また糸電話を使って声を交わせばいい。
なんだ、仲直りって簡単だな。
部屋の明かりを消して、ベッドに転がり、随分と簡単に仲直りできた事に少し驚く。
そうだ、この事も明日言ってやろう。
どれだけ僕が悩んだかも、でも謝りたくなかった事も、全部言ってやろう。
本当は今言いたかったけれど、そんなに急ぐ必要はない。
だってまた明日も、会えるのだから。
僕は目を閉じて、次の日が来る事を待つ事にした。
明日になったら言ってやる事を数えながら。






END





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