ポケモンになりたかった少年


レッドが木の実を食べて腹を下した。
何でそんなもん食べたんだ、って怒ったら、レッドは辛そうな顔に脂汗浮かべながら、か細い声で呟いた。

「前は平気だったんだ」

レッドが言う前とは、たぶん山籠りしてた時だ。
すぐに分かった。
レッドは、地面に吐き出した(正確には俺が吐き出させた)木の実の残骸を見ながら、辛そうな顔に笑顔を浮かべて、顔を覆った。

「だってピカチュウが、美味しそうに食べてたから」

腹が痛むのか、時折体を苦しそうにくの字に曲げながら、言葉を続ける。
俺はそんなレッドを肩に背負って、力無い足取りのレッドを支えながら、とりあえずじいさんの研究所まで運ぶ事にした。

「たぶん薬あるから、じいさんに見て貰え」
「グリーン言ったよね、人もポケモンの一種かもしれないって…」

そんな事言ったかもしれない。
でもそれは、ただの思いつきと言うか、何の根拠もない子供の戯言だ。
レッドはその話をした時、それは素敵だ、とか言って嬉しそうに笑っていた。
それから、山籠りの話を聞かせてくれた。
ポケモンと一緒に木の実を食べて、寝る時も一緒、常に一緒に生活をしていて。
レッドはそれを笑顔で語った。
「僕もポケモンになった気がした、だからグリーンが言ってる事も、あながち間違いじゃないかもよ」
そんな事を、嬉しそうに語っていた。
すぐ横で、苦しそうに顔を歪ませているレッドが、そう語っていた。

「僕はもう、あの頃に戻れないのかな…」

蚊の鳴くような声で、苦しそうな息使いの合間に、ボソリとそんな事を呟く。
苦痛に歪ませている顔が、何故か泣いているように見えてしまった。
だから俺は、つい言ってしまった。

「じゃあ俺が、人間もポケモンの一種だって、証明してみせるから」
「グリーン?」
「だからもう、そんな顔すんな、バカ」

ズルズルとレッドを引きずりながら、そんな事を言ってしまった。
レッドが驚いた様な顔でこっちを見ているのが、視界の端に映ったが、俺はあえて真正面だけ見据えて、ただ歩いた。
隣のレッドが、小さく笑った。

「なんで、グリーンが泣いてるの?」

その声は、苦しげで、でも明るかった。
俺はそれに「うるせー」とだけ答えて、鼻をすすってただ歩いた。
レッドは、空いた片手で帽子を直す素振りをして、顔を逸らしながら小さく、それこそ囁くように呟いた。

「ありがとう」

研究所の外には、俺とレッドを見つけて慌ててじいさんを呼びに行く研究員の姿が見えた。
もう1人居た研究員が俺からレッドを預かり歩き出す。
俺はその時、小さな決意をしながら、その背中を見送った。






END





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