電力上々デート日和


ナギサは太陽の街であると同時に海の街でもある。
三方を海に囲まれ、灯台の光が毎夜欠かすことなく遠くを照らし、常に波の音と一緒にある街だ。
そんな街に住んでいたら、毎日海を眺めていたら、その目は青色に染まってしまうのではないだろうか。

「だからお前の目は青色なんだよな」
「はぁ?なんだよな、って決めつけんな、つか意味が分からん」

つかそんな訳あるか、腐れボンバー。
こちらに顔を見せず、辛辣な言葉だけが飛んでくる。
俺はそんな辛辣な言葉を投げてきたデンジの、足を見ながら尚喋りかける。

「でもさ、目青いじゃん?なんでだよ」
「ならナギサに住んでるヤツはみんな青いのか?遺伝だろ」
「それじゃちょっと夢ないだろ」
「夢はテメェの髪型だけで十分だろ」
「それはあんまりだろ」
「だろだろうるせー」

カラカラと、車輪のついた荷台のような物が動くと同時に、機械の下からその荷台に乗ったデンジがようやく姿を現した。
その顔には明らかにウザいと書かれているが、俺はそれにはもう慣れたもので、むしろその顔がデンジの普段の顔だろ、と思っているので、気にせず近くにあったタオルを投げて寄越す。
デンジはそれを受け取ると油で黒くなった手を丁寧に拭きながら、俺をジトッと睨んだ。

「と言うか、何で今その話題なんだ?それを言うためにわざわざ来たならリーグは随分暇なんだな」
「誰かさんがまともにジムリーダーしてくれてるおかげで、なかなか挑戦者が来ないのよ」

最近のデンジの仕事ぶりを褒めたのだが、デンジはそれがあまり気に食わなかったのはフンッと顔を逸らして工具を片付け始めた。
俺はその後ろ姿を見ながら、ツンツンと跳ねた髪の毛に注視する。

「そういえばお前の金髪はあれだな、ナギサの太陽みたいだ」
「お前…疲れてるのか?」
「いやまじで、ナギサの太陽みたいにキラキラしてんじゃん?」
「お前の頭は大噴火した山みたいだもんな、つーか本当に大丈夫かオーバ?」

工具の片付け半分、こちらに向き直り心配そうに俺を見るデンジ。
その目が心配そうと言うより、どこか哀れなものを見る様な目なのは気のせいって事にしておく。
俺はいつも通り正常だと言う事をアピールしながら、もう一度デンジの姿を眺めて、頷く。

「俺さ、ナギサ好きなんだよ」
「ナギサはいい街だからな、当たり前だ」
「うん、で、お前の目はそのナギサの海みたいな色してんだよな」
「…………」
「で、お前の髪の毛はナギサの太陽みたいにキラキラしてんだよ」
「………お前本当、どうした?」
「ここまで言って分かんないのかお前?」

ここまで来てまだ俺の正気を疑うデンジに、俺が逆に疑ってやった。
するとデンジは明らかにムッとした表情をして、手っ取り早く言え、と逆切れしてきた。
ここまで言ってやらないと駄目なもんかと、ポリポリと頭をかきながら、溜め息を吐く。
デンジはイライラしながら、俺をジッと睨んでいる。早く言わないと怒られるパターンだ。
仕方ないか。呆れながら、デンジに向かって口を開く。

「俺さ、今お前のこと口説いてたんだけど」
「くど…ッ、…今のでか?」
「どっからどう聞いてもそうだろぉ」

おいおい頼むよ、脱力する体の向こうで、デンジが俺の言葉を思い出すように考えながら、ようやくピンと来たのか「あぁ」と声を漏らした。
それから明らかに、不快そうな顔色をした。
コイツはいちいち感情が顔に出過ぎだと思った。
普段はクールで売ってるくせに、なんてやつだ。

「回りくどい」
「口説き文句ってそんなもんだろ」
「俺は女じゃないんだ、もっとハッキリしろ、お前の頭がおかしくなったのかと思って心配して損した」

おかしいのは髪型だけにしとけ。
再三言われ続けている髪型への文句をまた言われ、己の髪の毛を両手で触れて擁護する。
ポワポワと弾む様な感触、個性的でいて熱い意志をアピールするのに最適の髪型。
俺はそれを自負しているので、何度言われようとこの髪型を止める気は毛頭ない。
そんな決意を新たにしていると、デンジが脱いでいた上着を羽織って帰り支度を始めていた。
ポケットに入れていたジムのカギをチャリチャリと指で回しながら、こちらに近寄ってくる。

「帰るのか?」
「は?俺のこと口説いてたんだろ?ならデート行くんじゃないのか?」

デンジの事だから、このままハイサヨウナラ、を予測したいたが、予想外の言葉に一瞬思考が停止する。
デンジは俺の前に立ちながら、今の時間なら飯屋か?マック?などと行き先の提案までしていた。

「デンジお前…」
「ん?」
「男前過ぎだろコノヤロー!」

グイッとデンジの腕を引っ張りその体を強く抱きしめる。
デンジは呆れたように「鍵落とすとこだったぞ」と冷静な声で、いたって冷静に俺の体を押し返した。
そして俺を置いて先を歩きながら「早くしろよ」と小言を吐いた。
さて俺は、ナギサのスターの痺れるほど男らしい態度に、まぁ痺れていた。
さすがスターだぜ、なんて胸の内で呟きながら、早足で歩きデンジに並ぶ。
ジムを出ると、そこには広がるキラキラ光る太陽と、その光を反射して同じくキラキラ光る青い海が広がっていた。
隣を見ると、デンジが「今日は電力が上々だな」なんて嬉しそうに呟いていた。
あぁ俺はやっぱりナギサが大好きだな。
なんて、改めてしみじみと思いながら、デンジの希望通りとりあえず飯屋へ行くデートをスタートさせた。





END





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