「猫って何を考えて生きているのでしょう」
「唐突だな」
「わたしよりも猫の方が唐突ですよ。何せ猫は、人間様の都合なんておかまいなしにすり寄ってきたりつれなくしたり。猫ちゃんの一挙手一投足に、人間は振り回されています」
「今のお前みたいにか」
「人間が仕事に学業に家事育児に、時には人生に疲れ果てたとき、ふらっとやって来ては欲望の赴くままに食料をねだり、用がなくなればポイ捨てですよ。ゴミ箱ですよ」
「今のお前みたいにな」
「かまってほしいときにやって来て、かまってあげれば嫌がってどこかへ行ってしまう……。ああなんてつれないお方」
「猫な」
「鳴くしひっかくし噛むし爪を研ぐし食料を獲るし」
「動物だからな」
「何が厄介かって、そんな気まぐれの自分勝手な動物がとてつもなくラブリーな姿をしているところですよ。あのつぶらなおめめにじっと見つめられたら何でも許せちゃうような気がするし、奴らは絶対にそんな人間の性を感知した上で蔓延っているのに違いないのです」
「負けてるな」
「負けてますよ。大敗北ですよ。最強無敵の動物チャンピオンは猫ちゃんに決定です。ネコ科の動物って総じてみんな可愛いですよね」
「お前の言葉に同意する日が来るとは……」
「教師ってやってみるもんですよね」
「どの立場から言ってんだ」
「あっあの猫ちゃん先生にそっくりです」
「色かよ」
「真っ黒でおそろいです!見てあの堂々とした態度。不法侵入なのに!」
「……ただの野良猫だろうが」
「先生って意外とおやさしいんですね。こーんなにたくさんの個性があふれ返っている世の中ですよ?そんな個性の人だったらどうするんですか?って話です」
「……それはないな」
「おや。なぜでしょう?」
「あいつは常連でな……週三でランチラッシュの飯を食いにやって来る。三年目だ」
「タダ飯……」
「お前本当に猫好きか?」
「可愛さあまりまくって憎さほにゃらら倍ですよ。だって見ていてください、……ねこちゃーん、おいでー?…………、ほらね?」
「嫌われてんな」
「わーん。先生は、猫に好かれる方法とかテーマに授業する気はありませんか?」
「残念ながら、無いな」
「えぇー……?遠慮しなくても、いいんですよ?」
「無いな」
「ちぇ」
「お前なあ」
「ねぇ先生」
「何だ」
「空が青いです」
「晴れてるからな」
「雲一つありません」
「一日晴天だそうだ」
「天気予報ですか?」
「マイクが言ってた」
「いつもお元気ですよねマイク先生」
「元気なんて可愛いモンじゃないなアレは」
「親友だそうで?」
「いつも隣で五月蠅かった」
「ふふ」
「なんだよ」
「楽しそうなお顔」
「別に楽しくはない」
「ふふ」
「おいソレ止めろ」
「先生?」
「あぁ?」
「お昼寝日和ですね」
「寝りゃいいだろ。口を閉じてな」
「それができれば苦労はしないんですよ」
「苦労してんのか」
「していますよ、これでも」
「だったら、苦労してそうなカオしてろ」
「ヒーローがそんな顔してちゃだめでしょう?」
「まだヒーローじゃないだろう」
「いずれはなります」
「まだ学生だ。つい最近まで中学生だったガキだ」
「この年頃の子供は、ガキ扱いされると怒りますよ」
「分かりやすくしてないと、ヒーローが見つけられねぇだろうが」
「……先生って、意外とおアツい人ですよね」
「お前の言うことの半分は意味が分からない」
「それはきっと染色体の差ですよ」
「染色体?」
「女性はエックスが二つ。男性は半分ワイなんですよね。わたしたち女とは生まれる前から、まさに半分、明らかに違うわけです」
「それ、まだ授業でやって無いだろ」
「ねぇ先生」
「今度は何だ」
「先生はどうして先生なの?」
「……質問の意味が分からんな」
「だってヒーローと二足の草鞋を履くほど教師に傾倒しているわけでも、ヒーローとして立ち行かないわけでもないでしょう?先生の個性と戦闘力なら、需要は消えません」
「結果、このザマだけどな」
「格好良かったですよ」
「そりゃどうも。今はミイラマンだよ」
「言いえて妙ですね。マイク先生ですか?」
「いや、これはミッドナイトさんだな」
「センスに脱帽します」
「俺はお前のセンスが心配だよ」
「わたしは先生のセンスが心配です。ああでも先生のヒーローネームは素敵です」
「それはマイクだな」
「親友であり、名付け親でしたか……」
「あんな親は御免だな」
「賑やかで楽しそう」
「無駄が多すぎる」
「ご家族もみんな、合理主義的なんですか?」
「別にそんなことはないが」
「先生って一人っ子っぽい」
「…………」
「あっ。当たってる。当たってるでしょ?」
「どうだかな」
「ふふ」
「その笑いを止めろ」


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