「鉄線よ、我君を愛す(1)-4」 |
幾分涼しげな風が通る二の丸から夜の城下町が見える。 十四郎は行燈の灯りと虫避けの蚊遣り香を確認して、白い寝間着を身につけて静かに待っていた。 ぱち、と篝火が爆ぜる音が聞こえた。 「入りやす」 襖の向こうから声が聞こえて、すいと開けられた。 廊下には、手をついて頭を床にぴったりとつけた総悟。 髪が、白い着物の肩を流れている。 「・・・近う」 短く十四郎が答える。 睫毛を伏せたまま総悟が立ちあがって部屋に入り、後ろを向いて襖を閉めた。 くるりと振り向いて十四郎の布団の向いに座る。 「総悟」 「へい」 「俺は、今日まで待った」 「へい」 「俺は、お前がこの城に上がってきて、俺の話相手というよりも俺がずっと世話してやっていたわけだが、あの頃からずっとお前がデカくなるのを待っていた」 「へい」 「お前は、今日、俺に抱かれる」 「・・・」 「お前は俺のものだ」 灯りに吸い寄せられた羽虫が、行燈に近付いては離れまた近付き、虫避けの煙に煽られて暗闇へと逃げた。 若殿が、立ちあがって布団を越えて来た。 総悟の白い手を掴む。 「お前は、俺を好いているか」 片方からの淡いオレンジの光に照らされた十四郎の顔は、その若さに似合わずすさまじい男の色気を湛えていた。 「俺ァ、アンタに仕える小姓ですぜ。アンタが俺を抱きたけりゃあ好きにすればいい」 両肩がぐ、と掴まれる。 「俺は、お前を好いている。分っているとは思うが、嫁をとらねえのもそのせいだ。だが、お前が抱いてくれと言わない限り俺はお前を抱かない。意に沿わぬ行為をしたくないからだ」 はっとしたように総悟の瞳がちらりと泳いだ。 「待つか?俺はもう二年でも三年でも待とうか?」 総悟は十四郎の胸の合わせの辺りに目の焦点を合わせていたが、く、と顔を横に逸らして畳の目を見た。十四郎の顔を見られないのであろうことは、すぐに分る。 「こちらを向け、総悟」 男らしい声が総悟の頬を朱に染めた。 「無理に言わせようとは思っちゃいねえ、俺は、お前の心持ちが解れば、それでいいんだ」 その言葉にようやっと顔を上げる少年。 同時に十四郎の手が後頭部に伸びて、総悟の髪を結わえている紐をすい、と解いた。 |