「鉄線よ、我君を愛す(1)-3」







「わっ、若殿!!!またこのような所におられて!」

「うるせえな、なんだ」
十四郎が、ばふんと総悟の膝に顔を埋めて答える。
「殿!今日こそはこのじいの話を聞いていただきますぞ!!」

チッ・・・・。
「舌打ちしている場合ではござりません!若殿は一体いつになったら嫁をとられるのですか!あの姫はいやだこの姫は気にいらないなどと申されて・・・・。いったいいくつになっておいでかご自分のお歳をご存じでありましょうや!」
「二十だ」
「にーーじゅうう!!!二十にもなって嫁もいない侍など聞いた事がございません!そのお歳で正室の一人もおられないなどと、世間でなんと言われているかご存知ですか!?言うに事欠いて土方の若様は、女人が駄目だなどと噂されておるのですぞ!!」
幸いこの辺りは戦乱の世にあって、最上家の御威光もあり、容易に攻め入られる土地でないこともあってか、政略結婚の話もあるにはあったが強制ではなかった。
十四郎がゴネにゴネ続けてここまで来たと言って良い。

「駄目なんじゃねえんですかい?若様」
人前ではきっちり「若様」と呼ぶ調子の良い小姓を軽く睨んでようやっと起き上がる十四郎。

「駄目じゃねえよ、女子は好きだ。めちゃくちゃ好きだ」
「英雄でもねえのにね」
「うるせーわ」

「とおおおのっ!!!!では・・・ではなぜ嫁をとってくださらぬのですか!世継ぎもおらぬなど考えられませぬ!じいはもうそれだけが心配で、安心して隠居できませんぞ!」
「くっそーしつこいな・・・・。いいじゃあねえか一生現役なんてお前ありがてえことだろうが。世継ぎなぞ養子をとればよい」

「わ か と の お っ ! ! ! ! !」

呆れかえった総悟の横をサッと立ちあがってうるさい年寄から逃げるように小姓部屋を出る。
それをわあわあと言いながら追いかける家臣。

あいも変わらずミンミンと蝉が鳴き、立っているだけでも汗が噴き出すような湿気の中、暑苦しく騒ぎながら二人の声が遠ざかって行く。
たいていはこのように賑やかな北上山城だった。

二人を見送った総悟は、またゴロリと横になって、今度は自分の耳を掃除しはじめた。









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