餅の中




屯所から徒歩圏内に寺や神社がいくつかあって、毎年その町の町内会だか自治会主催で正月に餅をついて町民に振る舞うことが多い。






総悟はこれらをすべてまわって餅を食いあさるのが恒例になっていて、ひとつでも逃すと後がうるさい。

そんなだから、どこやらで餅つきのある日は非番だか遅番だかしらないが、その時間に総悟の身体を空けてやらないといけないのだ。



餅なんぞいくらでも買ってやるといえば、つきたての餅とパックになったもちとじゃあ雲泥の差でさぁなどと言うし、それじゃあ屯所で餅つきでもするかと近藤さんが言えば、それはそれとして餅周りは例年通りやるというので手がつけられない。

寺の方でもお互いが同日同時刻にならないように気を配ってか、こことあそこがダブるということは無く、半径3km以内の餅はすべて総悟の腹の中におさまってしまう。

ここの寺は規模が小さいから餅が出てくるのが遅いだの、あそこの寺はあべかわとあんこときなこの三つだったのにここは二つだとか色々文句をつけては結局すべて頂戴して帰ってくるのだが、そんなに言うならあすこへは行かなければいいじゃないかという話ではないらしい。



餓鬼はもちが好きだよなと隣を歩く総悟に言うと餓鬼じゃねえと餓鬼そのものの顔で口をとがらせて、じゃあ土方さんは別についてこなくていいでさとにべもない。

今日は町外れの神社に行くというので連れて来てやっているつもりだったのだが、総悟にしてみれば俺がついて来ているらしい。

それにしてもずいぶん歩いた。もちを2つ食うためにお前は20分も歩くのかと聞けば、食う前のカロリー消費だと答え、だから土方さんは帰っていいですなどと生意気に付け足した。

普段は勝手にヒョロリと行って帰ってきているのだが、市民の安全を預かる真選組の一番隊隊長がよそで何をしているのか把握しておく必要がある。






そういえば昔から寺の境内で配られている祝餅などをよろこんでもらいに行っていたなと思い出してふいに口元が緩んだ。

途端に総悟が横から田舎にいた頃の話を始める。

「そういやあ昔・・・まだ俺が十を少し超えたくれえでしたかね・・・・。その日は道場に泊まってて明日は高円さんとこの境内で餅つきだってうれしくって眠れなくてね」

「昔から食い意地が張ってたよな」

「人間誰だって食わなきゃ死ぬんですからそこは食わねえほうが意地っ張りてなもんでさぁ、とにかく俺ァ餅のことばっかり考えながら布団に入ったんですがね、どうも夢ン中に土方さんが出てきて餅を焼いているんです」

「なんだソリャ、まさか夢ン中で俺に焼かせててめえが食うんじゃねえだろうな」

「いやそれがね、ぷくっと焼けたもんで俺がくだせえというと、アンタがなにで食うっていうもんだから、俺ァきなこが良いって言ったらね、ニヤっと笑っておもむろに前を開けてブツを取り出して焼けた餅につっこんだんです」

「なんだと?」

「今考えりゃコスりもしねえでおかしなもんなんですけどまあ土方さんは発射準備完了でいらっしゃってモチン中にとんでもねえトッピングをしやがったんでさあ」

「テメエなんてことさせてんだ俺に。夢ン中で」

「土方さんが勝手にやったんでさあ。モチ熱くねえんですかって聞いたらいいからこれを食えってね、食えるわけねえじゃねえですか。そいでいりやせんって言ったらそうしたらお前も餅ン中にしろってんです。食いもん粗末にするもんじゃねえですぜってんですけど最終食うんだからいいだろうって。俺のはお前が食ってお前のは俺が食ってやるって」

「テンメー餓鬼のくせにそんな夢みてやがったのか」

「まあ最後まで聞きなせえよ、そんなこといきなり言われたって俺ァ射 精なんぞしたことねえですって言ったら俺が手伝ってやるって言って破廉恥にも俺の股間に手を延ばしてきたんでさぁ」

「ごほっ!なんてことさせやがんだてめえは!ンだそりゃ餓鬼のくせにてめえは!どこで覚えたんだ!」

「やめてくだせえっつってもとんでもねえ力で俺のこと押さえつけてそいで袴に手ェ入れてきてね、むんずとつかまえていきなり扱き始めるもんだからもう俺ァそんなのはじめてでされるがままでさあ。あっというまに追い上げられて出ちまったんですよ、聞いてやす?土方さん」

「おまっ・・・えなあ!そんな話往来ですんじゃねえよいきなりどうしたんだ」

「そいでね、出ちまったところで目が覚めて、はじめての夢精だったわけなんですけど、そこでふと思い出したんです」



嫌な予感がして総悟の顔をじっと見ると向こうもこっちを見ていた。

「明日は餅だ餅だっつって布団に入る前に、土方さんの部屋の前を通ったら俺の名前が聞こえてね、こっそり中を覗いてみたら、土方さんがやっぱり前をこう開けて前かがみになっていたんでさ」

「なん・・・・・!!!!てめえ・・・そりゃ・・・・」

「俺の名を呼びながら・・・・。そいで、俺ァそのまま部屋へ戻って寝たんです」

「おまっ・・・・なん・・・・それ・・・・!!見てたのか?」

「衝撃的でした」

「ンなもん・・・・だまって墓まで持ってくのが礼儀だろうが!」

「そう思って黙っていたんですけどね、餅繋がりでふと思い出したもんで」



とんでもないところで総悟に性教育をしていたものだ。

そのあとはもう総悟の顔を見れないまま寺について驚いた。人の列が半端じゃあないのだ。

なるほど世の中の不景気というものは健在なようで、たったもち2つに何分並ぶ気なんだというほど人が集まっていた。境内からはみ出して外の歩道にずらりと並んでいる。

まったく正月からこれほど暇なのかと、一体こんなにどこから来たんだと、明らかに徒歩圏外から来てるだろうがと思うが、良く考えれば自分たちも徒歩圏内と言うには無理がある。



思いの外行儀よく列の最後に並んだ総悟。

いきなり良い子になって黙っているもんだから、さっきの会話を思い出してしまって俺の方が身の置き所が無い。

20分ほど経ってやっと俺たちの番になってあんころときなこもちの乗ったスチロールトレイを総悟が神妙に受け取ったところで一旦餅が切れて俺の分は待ちとなった。

チビッコ達がもちつき体験をしていてその餅待ちになったのだが、総悟がそのまま傍に立っていたのでそこいらに座って先に食えと言った。それでも動かないので、お前が食い終わったなら俺は別にいらねえから帰ったっていいんだから早く食えと言うとようやく石垣に腰かけてモソモソとやり出した。

そこまで食いたいわけじゃないから本当にもういいかと思っているとようやく俺の餅も手渡されて総悟のそばへ行くとちびちびと食っていてまだ一つ目のきなこの半分くらいしか進んでいなかった。

「なんだいらねえのか?」

言ってから総悟の中途半端な顔を見てああそうかと納得した。

俺もきなこにかぶりつきながら、俺はひとつしかいらねえからこっちをやると言うと急にスピードアップして、俺ァきなこのほうがよかったのにあんこを残すなんて土方さんはまったく気が利かねえとボヤいた。

一緒に行く山崎の話では最高7つ餅を食ったらしい総悟がいらないわけないのだ。ただ俺より先に食い終ってしまうのが嫌なだけだ。

「それにしてもやっぱり餅は回転早いほうがいいでしょう?土方さんは遅いと文句を言った俺がいけねえみたいに言ってやしたけど」

「いいからさっさと食え」



ふと見るとさっきよりもずっと人出は増えていて倍くらいの列になっていた。早めに出てきてよかったと思っていると総悟がもう一度並びたいと言い出して肝を冷やした。

そういえば昼から別の神社でも餅つきがあるんでしたと総悟が思い出してくれたのでホッとした。もう昼をまわるところだったのでその足で神社に行ってみると「子供はふたつ、大人はひとつでお願いします、すみません」と係の人間が大声で叫んでいた。

俺ァがきだからふたつですねィと言うので、おまえさっき餓鬼じゃねえと言っていたじゃねえか都合の良い時だけ餓鬼になるんじゃあねえと言うと脛を蹴られた。



ようやっと総悟も腹がくちくなって帰れるかと思っていたら、急に向きを変えて隅の大木の方へ歩いて行く。

見ると木の下に見慣れたが見慣れたくない三人組が餅をむせるほどにかっこんで更にタッパにつめているところだった。

「おい、てめえら何回並んでんだ」

総悟が何か言うより先に俺が声を掛けた。なぜか総悟は万事屋に懐いているので悪影響を受けるかもしれないのを俺は危惧している。



「なんだよてめえら、タダ餅食いにくるなんて税金ドロボーのくせに図々しいんだって。こっちくんな、来たってやらねえからな」

「誰がいるかよ、ンなもん」

「旦那ァ」

気のせいかもしれないが、総悟が甘えたような声を出したので慌てて腕を引いた。

「テメエ5つも食ってもう満足だろうが、帰るぞ」



名残惜しそうな総悟を追いたてて屯所に帰った。

道すがら総悟が言うには、奴らもたいていの餅つきには顔を出して食費の足しにしているらしい。

あそこには大飯食らいと甘党がいるからといってまるで油虫のようなしぶとさだ。

まさかとは思うが万事屋に会うために餅を食いにまわっているのではないかと訝しんで総悟を見下ろすと、明日はとっつぁんが餅を焼いて待っていると言っていたんで挨拶がてら年玉でもふんだくりにいってやりやしょうなどと罪の無い顔で言っていたので、色気よりはまだ食い気だなと少し安心した。







(あけましておめでとうございます)























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