夜が明けたら




その壁は二人にとってそうやすやすと越えられるものではないと思われたが、蓋を開けてみれば意外にハードルは低かった。

この頃はもうとっくに沖田を腕に抱いて眠ることに慣れていたが、それだけでは自分の性は満たされなかった。
沖田に無理を強いるわけにもいかないので、もう片方の欲望は別の男を適当に見繕って吐き出していた。


別にひた隠しにしたわけではないが、努めて言う必要もない。

沖田の耳に入って不快にさせないようにというくらいには気遣いをしていたのだが、これに関しては浮気と言う枠に入らないと考えていたのでそれも完璧ではない。
自然、男との逢瀬が沖田の知るところとなるわけだが、知った沖田の反応が想像の範疇を越えていた。

嫉妬のあまり携帯電話を風呂に沈め、仕事先のマネージャーに同伴の客のことをしつこく聞き、更に家中を引っ掻き回して気に入っている服を便器に捨ててトイレを詰まらせた。


「おとこが欲しいならなんで俺に言ってくれねえんですか?俺だってパー子さんのおしりに突っ込めます!突っ込みてえです!!」
泣いて暴れて手がつけられなくなったので、仕方なく謝ってじゃあお願いするわと言うと、ぴたりと泣き止んだ。




そんなわけで、いきなり沖田の筆おろしをしてやることになってしまった。わけなのだが。


無表情ながら、やや緊張した面持ちの沖田。

良い思い出にしてやろうとちょっと高級なホテルでも用意しようとしたが、沖田はパー子さんの家がいいですと言ったのでいつものベッドの上。


かたくなに自分で脱がせるというので、もたもたとつたない手つきにくすぐったさを覚えながらも好きにさせた。
めでたく二人とも全裸になって向かい合ったは良いが、自分が手取り足取り指導すると沖田のプライドを傷つけることになるのだろうか。
一瞬迷っていると、沖田がみしりと口を開いた。

「やべえですパー子さん」
「どうしたの?」
「俺、やべえです。緊張のあまり、言う事聞きそうにねえです」

自分の股ぐらを覗き込む沖田の脳天を見ながら、こほんと小さく咳払いする。

「やっぱり男役はこの次にする?」
優しくそう聞いてやると、顔を上げてこっちを見た。
「いやでさあ、そしたらパー子さん、ケツにだらしねえもんだから、また別の男のをぎゅうぎゅう押しこんじゃうでしょう」
「身も蓋もない言い方しないで頂戴な、沖田くんが嫌ならワタシもうほかの人とお布団入ったりしないから」

「それで、我慢できるんですかい」
見ると、ベッドに正座して両手をついた状態でこちらを見上げる目。始めて会った時はまだ中学生のようだった沖田。今でもそう変わりはしないが、不覚にもどきりとするほど男の目をしていた。

「沖田くん、ワタシが元気にしてあげる」
乙女なのか野獣なのかわからない気分になりながら、正座したままの沖田の両膝をぐいと広げ、顔を伏せた。
未だ萎えたままの沖田自身をそっと持ち上げると、頬の両側にある腿がぴくりと震える。
いつも見ている下生えの色の薄さ。

先程とは反対に、下から小さな顔を見上げて
「好きよ、沖田くん」
と言うと、少しだけ沖田の目が開いて口元が揺れた。

ぱく、と先端を咥える。
「アッ」
「おと・・・このこ、は・・ここが・・・いひばん・・感じるわよね」
左手で鈴口に輪っかを作り、右手で扱き始める。
先端に自慢の舌をぐりぐりと押し付けてやると、あっという間に立ち上がった。

「アッ・・・ダメ、でさ・・・ダメ・・」
美しく伸ばした爪で乱暴にしないように繊細ながら絶妙な強さで左手を握りこみ、右手を上下させる。
その爪に色気を感じてか、沖田が息を飲むのが解った。

「んっ・・・ん・・・ん・・・」
子どもらしく、すぐに腰を揺らせはじめる沖田。
先走りを引きずり出そうとでもするように強く吸ってやると、沖田が泣き声を出した。
「や、やだっ・・・やべ・・やべえで・・・さ」
「何がやばいの?ちゃんと勃ったじゃない」
「ちがう・・・ちがう・・・」
必死に肩を掴んで引き抜こうとするのを、更に深く咥え込んで、唇に力を入れてやる。
「やあっ・・・駄目!」

先程の男の目に、まだまだ自分が上手だということを見せつけたい欲求が生まれたのは確か。
だが、今日は沖田の筆おろしなのだ。
あまり苛めるのはやめにして、しかし最後にずっぽりと吸い上げて口を離した。

はあはあと肩で息をして可愛らしく睨んでくる。
「パー子さんの中に入る前にイッちまうじゃあねえですか」
「うふ、ごめんなさい。沖田くん若いから、復活も早いかと思って」
「そりゃあそうですけど」
言いながら挽回とばかりに両足首をとって後ろに転がされる。
「きゃっ」
大きく足を広げた状態で、膝裏を押し込まれた。

「ちょっとちょっとちょっと沖田くん、恥ずかしいわあっ」
じ、と一点を見つめる沖田の瞳。
夏休みの自由研究で虫かなにかを凝視している子供のようで、逆に羞恥が煽られた。

「ここ、使いまくってんですよね、パー子さん・・・」
ぱく、と白い人差し指を中ほどまで咥えて、キャンディー棒でも舐めるように数度指を上下させる。
ずるりと口から出したそれで、菊座をぐっと押さえた。
慣れた刺激にひくり、と尻穴が震える。
ぷすりと第一関節まで指を入れられて「アハン」と声が漏れた。

「やべえ、興奮しやす」
ずぶ、ずぶ、と人差し指の根本まで押し込む沖田。
「すげえ・・・なんか・・・きゅってなって、乳搾りされてるみてえです、指が」
「痛い・・・いたいわ、沖田くん」
「でも案外簡単に入りやしたけど」
「そりゃ・・はじめてじゃないから・・・。だけどやっぱり唾液は水みたいなものだから滑りが良くなるわけじゃないの、おねがい、ローション使って頂戴な」
「へ、へい、ごめんなさい」
ずるんと指が出て行って、思わずまた「ン」と声が出た。
サイドテーブルの引き出しを沖田が漁っている間に、上に上げていた足をベッドに下して待っていた。

顔の横で元気に天を向いた沖田の肉がぱんぱんに張っている。
ときめいちゃうわねなどと思っていると、沖田が戻って来た。
もう一度膝裏を持とうとするので、後ろからのほうが入れやすいんじゃないと聞くと、パー子さんの顔見ていたいんですと言われた。
再び尻を天井に向けられて、とろりと冷たい感触が尻の穴を覆った。
「あ・・・」
「苦しいですかい、パー子さん」
「そんなわけないわ、女役やろうとおもったらアクロバットが得意でないと駄目なんだから。身体の柔らかさには自信が・・・あっ・・」
垂らされたローションを中に押し込めるように指が入ってくる。
ぐじゅぐじゅとかきまわされて、背骨を電流が駆け上がった。

「頂戴・・・ワタシにもローション貸して・・」
不自由な体勢の右手に、冷たい瓶が手渡される。左手に大量にとろみを出して両手で擦り合わせた。
広げた足の間に両肩を入れて軽く立ち上がりかけた己の象徴を握り込み、勢いよく扱く。
沖田の指が二本に増えて、気持ち良いところを何度も擦り、勃起を手伝った。
「ア・・・ア・・・ア・・・」
「パー子さん・・・・いいですかい」
「聞くものじゃないわよ、そんなの」
再び指が出て行って、更に膝裏が押し込まれた。

天井の明るい照明をバックに、逆光になった沖田が丸い目を少しだけ細めて、張り詰めたものを尻にあてがった。
慣れ親しんだ感覚。
穴が、広がった。

「ふ・・・お・・・きた、くん」

ぐ、ぐ、ぐ。
じゅわりとローションが穴から負け出て行く。

沖田の眉が寄って、いつものポーカーフェイスからほんの少し距離を取る。
いつも自分の下で喘ぐその顔に、近くなる。

「んぁ・・・・パー子・・・さん・・・」
「はぁっ・・・・・はいっ・・・た・・・わ」

途端、沖田の息が荒くなった。
己を締め付ける肉の中に入ったのは初めて。
おそらく想像を超える快感に、成す術も無いのだ。

「だめ・・・駄目、でさ・・・う、動いたら・・・出、ちまう」
「大丈夫よ、ほら」
尻に集中して、努力して緩めてやった。

「はっ・・・はあっ・・・はあっ・・・・ん、あ・・・ぅ・・・あっ・・・」
やがて、わざわざ扱かなくても己の象徴がびんびんになるかと思うような切ない声と表情で、沖田が腰を使いはじめた。
「んっ・・は、はあっ・・・は、は・・・パー・・子・・さんっ・・・パー子さん・・・パー子・・さんっ」
がつがつと余裕のない動き。
尻に鈍痛を感じながらも上を見上げると、つうと垂れ落ちる沖田の意識しない涎が明かりにきらりと光って、眩暈がするほどの色気を醸していた。

『こんなに・・・色っぽいのに・・・沖田くんも、男の子なのね』
己の中で膨れ上がる沖田が、ぐじゅぐじゅと音を立てて出入りする。
息を荒げながらも角度を変えては腰を揺らし、両手を押さえつけてくるのを頼もしく感じているとふいに下腹のあたりに小便を促すかのような刺激が与えられた。
「あっ・・・」
硬い、男を主張するかのような沖田の先端。
先程自分が咥え込んで攻め立てていたものが、今度は自分の余裕を奪う武器となっている。

ここか、と沖田の目が言った。

「んっ・・・ん、ン・・・んぁっ・・・おきた、、沖田くん!」
「うっ・・う、う、う・・・・・」
若い雄の激しい突き。
あの可愛らしい沖田が、欲望を持って己の尻を犯しているのかと思うと、脳の芯のところが甘く痺れた。
何度も何度も腰を打ち付けられているうちに、ボッ、ボッと頭の隅でフラッシュが光った。
「あ・・・だめ・・・沖田くん」
「パー子さん・・パー子さん!」

まさか、はじめての沖田に尻でイかされるのだろうかと、そんな余裕があったのはそこまで。
すぐに意識も飛んで、沖田がフィニッシュに向けて更に動きを速める頃には、あられもない声で大きく喘いでいた。

「うあっ・・・あ、駄目だ・・・俺・・・俺・・・俺」
とうとう沖田が限界を迎えて己の最奥で爆発した。

「う、ううううう・・・ああっ・・・・・」
放出している間も快感が止まらないらしく、微妙に腰を振っている。
その不規則な動きに予測のつかない刺激を与えられて、耐えに耐えてきた最後の砦を崩された。

「アッ・・・あああああ・・・」

目のまわりがカアと熱くなっているのに、頬は鳥肌が立つほどの快感。
びゅくびゅくと腹に欲望が吐き出される。

その様子を、最後まで出し切った沖田が、じっくりと見ていた。








「はあ・・・はあ・・・沖田くん・・・」

「パー子さん」

「素敵だったわよ、沖田くん」
「俺ァ初めてだったんで、パー子さんに痛ェ思いをさせたんじゃねえでしょうか」
「ううん、びっくりしちゃった。すっごく気持ち良くて」
「パー子さあん!」
ぎゅっと抱きついてくる姿はやはりまだまだ子供。
うふふかわいい。今度はじゃあワタシが、と思ったとき、胸に張りついた沖田がぴょこんと顔を上げた。

「じゃあ、もっかいいいですかい?」
きらきらと光る瞳。
おもわず尻穴がずくんと音を立てたが、最中の沖田にこちらも奮起させられた。
「やーよ、次はワタシなんだから!」
「ここでもっかいやっとかねえとやり方覚えらんねえじゃねえですか!」
「うそ!覚えたわよ!もう完全に!」
声を上げた瞬間、ふと思った。

女の役をしたい自分と沖田。その二人ともが、男になりたがっている状況。
なんだかおかしかった。

これから沖田が成長して、もっともっと男らしくなって、そうしたらすばらしく柔軟な関係になれるのではないか。

必死になにやら主張している沖田をじっと見つめる。
愛情と身体が一致したのはずいぶん久しぶりかもしれない、と思った。

「ワタシたち、うまくやっていけるわよね」
限りなく優しい気持ちになってそう言ったのに、沖田にはまったく伝わらなかったようで。

「わけのわかんねえこと言ってねえで、第二ラウンドですってばあ!」
などと、良い男予備軍の沖田がベッドの上で暴れていた。


(了)























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