夜毎の不純 |
全体、土方十四朗という人間ほど「色男」という言葉が似合う者もいない。 幼いながらも総悟とてそれは理解していた。 まず土方の周りにはいつでも女がいた。 さすがに近藤道場の中にまで入れることはなかったが、武骨で泥臭い近藤などと違って、年に一度興行にやってくる芝居小屋の役者のようだと村の娘たちが騒いでいるのを知っていた。 なにが色男だあいつは怪談話を聞いた夜などはやけに饒舌になって朝まで飲み明かそうなどと言い近藤さんを困らせているのだ。単に一人で寝るのがおっかねえだけだ。 そう心の中で毒づいて実際口に出したりもしていたが、田舎で燻らせるのは惜しいと総悟でさえ思うほどの色気を弱冠十七歳の土方は持っていた。 それがまた、姉を盗られると心配した総悟の怒りを買うわけだが、当の本人は1人の女に決めることは無く、その若い性を与えるのは一夜限りの情人と割り切れる者にだけだった。 それは別として、この頃総悟は一つ悩みがあった。 姉が長く治療することになったので、姉の病に明るいという医者のいる村に、一時仮住まいをした。五里ばかり行ったところにある村で、三月ほど寝起きするのだ。 姉についていく訳にもいかないので、総悟が近藤道場で寝起きすることになったのは自然の成り行きだが、ここからが自然ではない。 まだ九つになるかならぬかの歳でありながら、毎夜、なにかの熱に苛まれた。 未だ精通を迎えていなかった為、射精に至ることはなかったが、何故か体が熱くなって息が乱れた。 そんな時は決まって眠りの内に土方の艶っぽい顔が見える。 この頃土方は、闇雲に「江戸に出て一旗あげる」などと馬鹿の一つ覚えのように繰り返していた。 「一旗揚げる」というのはただの言葉のあやで、実はそれほどの欲は持っていなかった。ただ何者でもない己を歯痒く思って、何かを成し遂げたいと願うその青くうつくしいジレンマを抱える土方が、幼い総悟に言い表しようのない感情を与えた。 しかし年若い総悟にはなぜ夢で土方を見るのか解らなかった。 まだ十にもならぬ齢のせいだけでなく、それが総悟自身が認めたくない感情であったからかもしれない。 だがとにかく総悟は夜毎体の熱を持て余した。 胸のあたりが熱くなるのが先なのか、土方の顔を思い浮かべるのが先なのかはわからないが、兎に角体の熱と土方の妄想は決まって同じタイミングでやってきた。 それは、姉の療養中に近藤道場で一室を与えられて一人寝をするようになってからいきなり始まった症状だった。 一つ屋根の下に土方が寝ているという意識からかもしれない。 その後、無事に姉が帰ってきて元の生活に戻るわけだが、この時をきっかけに総悟は近藤道場によく泊まるようになった。 遅い時間まで稽古をしていることが多くなったのに加えて、総悟の世話をしなければならない姉に負担をかけまいとする総悟の配慮で、月の半分は道場で床をとるようになっていた。 歳は育って十二。 もうこの頃になると、勃起の意味も知って精通も迎えた。 中途半端ではあるが、性の知識もぼつぼつ入ってきて、それをまた土方の妄想とつなげるのが嫌で、ついその事実から目を逸らしてしまっている。 だが、ある夜その感情が、総悟以外の人間の手によってぐいと目の前に掲げられるような事件が起きた。 その日いつも通り全身が熱くなって、またかと思って足をこすり合わせた。このごろは体の熱と同時にかならず勃起するようになっていて、目が覚めると下帯が濡れていた。 腿をぎゅうと閉じて中心を少しでも慰めようとするが、効果はない。 「んん、う」 口から声が漏れるのが分かった。 熱い、今日は殊更に熱い。 うなされるように頭を振った時、ふと覚醒した。 目の前に土方の顔。美しい黒髪をうしろで束ねたいつもの土方。 ひどくまじめな顔をして、総悟に馬乗りになっているその右手は、総悟の胸の合わせをぐいと開いて、ぺったりと左の胸を覆っていた。 目を見開いて、土方を見た。 総悟が仇でも見るような目で見るのだから当たり前かもしれないが、昼間の仏頂面の土方とは別人のように、存外優しく微笑まれて驚いて声が出ない。 途端に左胸にきゅうとした痛みを感じた。 土方の指が、乳首を強く摘んだ。 同時に股間の熱も上がる。 「なんだ、今までは何をしても起きたことがなかったのに、まだまだ餓鬼とは言え多少眠りが浅くなったのか」 苦笑するように土方が小さく呟いて、更に右手に力を入れる。 「ア、ひじ、かた・・・」 「さん、だろう」 きゅ、きゅ。 「ん、は・・・」 痛い。 鋭い痛みが総悟の乳を貫くが、痛みだけではない。 知らないうちに、己の乳首に芯が通っている。潰されるものかと芯を通すが、更にその芯をも捻り潰さんと、鉄のように硬い強さを持って絞られた。 知らず、声が漏れる。 甘い吐息と共に。 土方が、すさまじい色気と殺気の混ざったような瞳で見上げながら顔を胸に近づけて、空いている乳首に噛みついた。 総悟が音を立てて息を吸う。 声が漏れないように息を止めるが、だらしなく口が開いて、浅い呼吸を繰り返している。 終いに、我慢しきれない喘ぎが、溢れ始めた。 「そうご」 土方が口を離して名を呼んだ。 「アッひじ・・・か、た・・・なん、で、俺、なんで・・・」 耳年増の知識から、女の乳が快感の種になることは知っていた。 しかし、男である己の乳までこうも感じるとは思ってもみなかったのだ。 「なんで・・俺、おと、こ・・・」 総悟の言いたい事の意味を察したのか、土方が薄く笑う。 「お前は感度が良い」 指で上下にぶるぶると弾かれて、天辺から押し込められぐりぐりと抉られる。 「・・・・ッ・・・ッア」 いくら抉られ捏ねられようと硬くしこった乳首は土方の指が離れる度に健気に頭をもたげた。 「何故なら俺が長いことかけて開発してやったからな」 「ふ、ぁ・・・」 一瞬意味が解らなかった。 額から脂汗が流れる。 汗が目に入って痛みに瞼を閉じた。 その間も止まぬ愛撫に弱々しく頭を振って、そうしてやっと目を開くが、霞んでうまく見えない。 「お前の寝ている布団に忍んで、いつもこうやってお前の乳を女のように感じるまでこねくりまわしてやってきたんだ。はじめ何の反応も無かったが、段々俺の愛撫に答えて、硬くするようになってきた。お前は意識もねえのに、よく感じて声を出して、ここも勃起させているんだぞ」 ぐ、と夜着の前をつかまれた。 「ウ・・」 そこは既にしっとりと濡れていて、土方の唇は、またゆっくりと曲線を描いた。 「教えてやる」 「な、にを」 「お前に、男を教えてやる」 ぐらりと頭が揺れた。 電光石火で着物が脱がされる。 下腹部に空気が触れるのを感じて、下帯も取り去られたのが解った。 身体がぐいと折り曲げられて、その体勢の苦しさに小さく呻く。 「ここに入れるんだ」 白い尻の真ん中を、何か硬いものでごり、と擦られて不安のあまり泣きそうな目で土方を見上げてしまったかもしれない。 途端に見たこともないような優しい顔で穏やかに笑って、その優しい笑顔とは正反対の強さで、さんざん嬲られた乳を左右同時に力いっぱい引き上げられた。 「やぅっ」 「気持ちいいか?」 わからない。 気持ちいいかもしれないし、痛いのかもしれない。 びりびりと乳が破裂してしまいそうな感覚。 視線を胸にやってみると、ずくずくと音がしそうなほどの乳首を先端にした、小さな山がふたつ出来上がっていた。その先端の突起は土方の爪に隠されて、見えない。 きりきりと山を更に引っ張って高くしようとする土方。 「いや、いたい!!」 叫ぶとすぐに土方は手を離した。 ぐらぐらと視界が揺れる。 夢で見たと思っていた土方は現実だった。 これから自分は、土方のものによって貫かれるのだろうか。 そう思って今度はしっかりと見た土方の顔は、情欲に濡れて噂よりもずっと色男に思えた。 この顔を、村の女共に見せたのだろうか。 そう思ったとたん、下腹部に鋭い痛みを感じた。 (了) |