冷たいあなた






前から知ってたけど坂田さんはダルダルの人だった。





去年バイト先で一緒になって、25歳にもなってバイトなんかしてるもんで大分残念な人なんだなあって思ってたら結構仕事できてかっこよくてでも貧乏で。

「沖田くん見てたらチ○コが元気になっちゃった」
なんて言われて。
「女とヤッたこともないから男となんてヤれねえ」って言ったら、「女とヤるより気持ち良くしてあげるからさ〜〜〜。女とヤるまでの繋ぎ性欲処理だと思えばいいじゃん」と畳みかけられて、そうかなそういうもんかなと思ってそのままベッドインしてしまった。

そうしたら本当に気持ち良くて、完全に身体から入って、後追いで気持ちも入ってしまった。
一旦入ってしまったら、あの面倒くさそうな目とか大きいけど白くて繊細な手とか、それが俺の身体中をまさぐるのとか、そういう部分がたまらなくなってきて、今では多分俺の方が坂田さんを好きだとおもう。

俺も男だから、一回出しちゃったら抱きあってオハナシなんてしたいタイプじゃないけど、坂田さんは更にもう一回り冷たい人間だと思う。

あの手この手で俺を部屋に誘って、寝るまではスゲエ優しいのに終わったら完全に無視。
ベッドに寝転んだまま雑誌とか見たり、やめてってゆってんのに煙草吸ったりなんなら終わったら帰れって言う。
「使ったあとのスキンが臭えから、沖田くん帰りにコンビニで捨ててよ」
とまで言い出した最低男だ。

基本的に独りが好きなんだって言ってた。
自分のスペースに他人が入って来るのが嫌なんだけど、それでも性欲が溜まった時は俺を呼び出す。だけど終わったら一人になりたい。
我儘勝手なお人だった。

坂田さんはなんだかんだで悪い男臭がプンプンするんで、そんなのが好きなアホ女には結構モテる。

「坂田さん、そういうのひっかけてヤったらどうですかぃ」
って言ったら
「お前も同じそういう尻軽だろうが」
ってさらりと返された。


まあいいんだけど、気持ちがあったら結構これはキツい。
付き合ってたら楽しくデートなんかしたいってのは、男も女も関係ないと思う。
だけど坂田さんはどっこにも俺を連れていってくれたりした時なんて無かった。

完全にアレだ。
ヤるだけの相手だ、俺ァ。

本命、いるのかな。

まさか本命、いるのかな。



とうとう俺は、別にそんな無理に行きたいわけじゃないんだけど、俺がどうしてもデートしたいってゆったらしてくれんのかな、と思って坂田さんに聞いた。
「俺、ディズ○ーラ○ド行きてえんスけど」

ぱら・・・・・・。(雑誌をめくる音)

「俺、ディズ○・・」
「ふーん、行ってくれば?」

ベッドにうつ伏せになって半眼でエロ雑誌見てる。

「土方さんに行かねえかって誘われてんですよね」
土方さんというのは、バイト先の社員で、幹部候補要因として飲食現場で働いている入社3年目のエリートだ。

ちら。と坂田さんがこっちを見た・・・・・かと思ったんだけど、ベッドサイドのティッシュを取っただけだった。
びーむ。と、鼻をかんで、ぽいっとこっちにゴミが投げ捨てられる。
俺のすぐ横にゴミ箱があったんだけど、もう目線は雑誌。

「沖田くん」
「へぃ?」 
「入った?」

「・・・・・入ってません」
「入れといて」

むかついたので俺はゴミ箱に入っているティッシュを外に出しておいてやった。


「聞いてやした?俺、土方さんに」
「じゃあ土方と行ってくれば?」(ぱらり)

せめて、「あいつだったらワリカンなんてケチくせえこと言わねえだろうしな」とかそんな厭味の1つも言ってくれれば妬いてくれてるのかなって思えるんだけど、本当に興味なさそうな顔。


・・・・しんどい。

惚れてしまった方はしんどいでさ、コレ。


もう、別れた方がいいのかな。

そもそも付き合ってたかどうかも微妙だ。




俺は、考えて考えて考えて考えて、生まれてはじめてってくらい考えて、そうしてようやっと坂田さんと別れる決意をした。
他の女の影なんて見た時なかったけど、それでも俺が恋人だとかそういう位置にいるとも思えなかった。
チ○コ元気になるとは言われたけど、好きとは言われた時ないし。


ある日、坂田さんがいつもの通り猫なで声で俺を誘った。
「今から部屋おいでよ〜」
俺は、最後だと思って出かけた。
最後だと思って坂田さんに抱かれるつもりだったけど、かちゃりと部屋のドアを開けたこの人の顔を見て、無理だと思った。
抱かれたら、別れ話なんて出来ない。

だから。

部屋に入った途端に俺を押し倒そうとした坂田さんをぐいと押し返して、腹に力を入れて俺は切りだした。

「俺、アンタと別れてえです」

「は?」

「俺、アンタと別れてえです」

「・・・・・俺達つきあってたの?」

からからに乾いていた喉に無理矢理唾を流しこんで俺は膝の上の拳をギュッと握った。

そうですよねぃ。


「じゃあ、さいなら」
それだけ言うのが精いっぱいで、そのまま部屋を出ようとした。

坂田さんのワンルームの部屋を空けっぱなしにして靴を履いていると、背後から舌打ちが聞こえた。


「お前三年はもう我儘言うなよ」

何を言っているのかわからなかったので呆っとしながら振り向くともう一度坂田さんの声。


「で?いつ行きゃいいんだ」

その声は心底面倒臭そうで、顔なんかもうそれよりももっとずっと面倒そうで。
異常にご機嫌斜めのオーラを纏っている。


そうして坂田さんは頭をボリボリと掻きながら、据わった目でこっちを見ていた。



(了)
























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