境界線上の消失










つらい。





この世に存在していたくない。





悲しい。





この手の中に、何も無い。



ただ腐敗する悲しみのみしか、無い。



誰もいない。



誰にも言いたくない。



誰にも、つらいことも悲しいことも言いたくない。





愛などない。



真実などない。



夢もない。



光も無い。





希望も未来も繋がりも過去もお前の顔も、闇でさえもが存在しない。



闇も無い。



闇も無い。





何故誰もがこの苦しみの毎日に喜びと誇りを見出そうとするのだ。

それを見つけて何になるのだ。







誰がこの世を作った。

何のために作った。



どこへ行くかなんて知らなくていい。



ただ何故俺はこの目でこの世界を見ているのか。



それが知りたい。



この世界に輝きを見ることも闇を見ることもできないのに、何故俺は今ここにいるのか。



ああかつての同胞が闇を破壊を光を時の流れを見ているのに、何故俺のこの瞳には何も映らないのか。



どこにどうやって隠すのか、それがまったくわからない。

この何も無い俺の手の中を、何も無い事をどうやって今の今まで隠してきたのかわからない。



見出した誇りをこれみよがしに見せ付けるお前らの掌を見せてくれ。

お前らはどうやって何も無いことを隠しているのだ。



何も無い。



何も無い。



何も無いのに悲しみとどす黒い泥のようなものが渦巻いた蟻地獄だけが在る。



ただそこにある。



ひゅうひゅうと風の音がしていた。





その音も今は無く。





蟻地獄だけが音もなくぐるぐると渦巻いてただそこに身を沈めたい欲望とその欲望に支配されたくない、糞のような自我。





ひからびた愛が確かにあった。



だがその愛は俺を救うことはなかった。



それももうない。



いつの間にどこへ行ってしまったのか。











その愛を、元いた所に返してしまったから、俺の手には残らないのだ。







何も無いが、だが何も持っていないことを、誰にも言わない。



微笑みながらただ世の中を見つめよう。





誰にも言わない。



お前たちの苦しみだけを受けよう。



この何も無い掌に、苦しみだけを拾って暖めてやろう。















冷え冷えとしたこの心臓で。








(了)


















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