ハニービーブルー2




もう30年も昔の建物。

暗い倉庫の奥の奥に三菱製の泥臭い換気扇がある。

風が吹いただけで意味もなくからからと回るようになったお前。

手指などはじきとばさないようにか、お前自身の羽を外から守るためにか、格子状のガードが被せてある。

ガードははいいろのよごれた埃がびっしりとついて、たまに長くのびたものが外からの風にそよそよとそよいでいる。

ガードに守られながら、真っ黒に汚れた羽にも、うっすらと埃が降り積もっていて、からりからりと回っても落ちる気配もない。

己より背負っている埃の方がまだ美しい色をしているのだ。

何を思って役にも立たない速度で回り続けるのだ。



不規則なようでその実規則的に回転する姿に、俺はまん丸い輪のような永遠を見る。

ふと見た布の柄に、誰も住人のいないチェス版の上に、はてはすりガラスのでこぼこにさえ永遠の繰り返しを見る。


その永久運動の上に、やはりどこまでも途切れない日だまりと、延々と積み重なるだけの影があるのだ。


どれにだってある。
希望もその反対も、平等にある。




はじめ倉庫の端のほうにあったじめじめとした黴は、荷物の影から、椅子の下から、いつのまにか鞄の中でも、終いには目の前にいるお前の笑顔にまでこびりついている。

払ってやろうとしてもめきめきと増え続けるだけ。




あちらにいるのもこちらにいるのも同じなら、いっそあちらへ行かないか。

あっちの水は、歯が蕩けるほどに甘いぞと蛍のように誘われて。

ならばあちらへ行こうかしらんと思った途端に、あまいろの髪のお前がカラコロと現れて
「旦那は苦い水の方が好きでしょう」
と勝ち誇った様に言う。

そうなのかもしれないと俺は思って、ごくごくとお前の差し出した苦い水を飲むだろう。


苦しさに水を吐き出してはやはり一滴たりとも溢すものかと床に這いつくばって意地汚く吸い上げ、また手で椀を作ってお前に掲げるのだ。






(了)















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