お兄ちゃんに会いたい   2011/10/23




俺の名前は沖田総悟。



俺は今、とってもおにいちゃんに会いたい。











俺とおにいちゃんは全く全然仲良くなかった。

おにいちゃんと一つ違いのミツバ姉ちゃんを二人で争っていたからだ。

もちろん二人とは十も離れている俺がいつもミツバ姉ちゃんをゲットして甘えられたんだけど。

おにいちゃんはミツバ姉ちゃんが好きなのに恥ずかしがってうまく言葉にしなかったしね。



だけどだんだんおにいちゃんとミツバ姉ちゃんが一緒にいることが多くなって、俺はなんだかひとりぼっちになってしまった気がして、おとうさんとおかあさんに何度もいいつけた。

ぼくを仲間はずれにするんだって。



そのせいかどうかはわからないけど、おとうさんはものすごい剣幕でおにいちゃんを怒鳴りつけた。

俺にはなんだかわからない内容で、おとうさんとおにいちゃんは大喧嘩した。

「おまえとミツバを離れさせる」

というような大きなお父さんの声が聞こえて、俺はひそかにガッツポーズをした。



その年、頭のいいおにいちゃんは大学に合格していて、通えないわけじゃなかったけど、お父さんは管理の厳しい下宿におにいちゃんを入れることに決めた。



その矢先、おとうさんとおかあさんが、自動車事故で亡くなってしまった。



もちろんお兄ちゃんは下宿になんて行かなくて。

合格したばかりの大学をやめて働くと言ったけど、ミツバ姉ちゃんが「お願いだから学校をやめないで」と泣いて頼んだ。



それからミツバ姉ちゃんは俺たちの為に働いて働いて、お兄ちゃんが大学を卒業した年に病気で死んでしまった。



俺は悲しくて悲しくて、おとうさんとお母さんが死んだ時よりもたくさん泣いた。

泣いて泣いて、目が溶けてなくなってしまうくらい泣いた。

まだたった12歳だったんだから、あたりまえだとおもう。



だけどおにいちゃんは泣かなかった。







それからだった。

十四郎にいちゃんが俺にものすごく優しくなったのは。









この世でたった二人の家族になってしまったのだからあたりまえかもしれない。

だけど。



「優しい」というのとは、ちょっと違うかもしれない。



朝起きて会社に行って帰ってきて俺の勉強を見たりして一日が終わるおにいちゃん。

いつもと変わらない仏頂面で言葉も少なくて、前みたいに喧嘩はしないけど仲がいいわけでもない。





だけど、夜になったらおにいちゃんが、俺の部屋にくるようになった。



顔はいつもどおりのお面みたいな無表情なんだけど、俺に触れる手はすごく優しい。

おにいちゃんは俺に色々はじめてのことを教えてくれた。



気持ちいいこと、痛いこと、気持ちいいこと・・・・・。



おにいちゃんは、俺のベッドに入ってきて、俺を色々さわってから痛くて気持ちいいことをしてくれる。



俺はだんだん、おにいちゃんのことが大好きになって行った。



「おにいちゃんも、俺のことすき?」

と聞くと、普段とは違ってものすごく優しい顔になって笑った。







だけどおにいちゃんはだんだん俺の部屋に来なくなってしまった。



俺が、どうしてと聞くと、苦しそうに眉をゆがめて、

「もうこんなことは終わらせなければいけない」

と言った。



いやだった。



さみしかった。



どうして部屋に来てくれねえの?



おにいちゃんが最初に俺の部屋に来たんだ。



どうして



どうして。



どうしてどうしてどうして。





俺はとてもさみしくて、1人じゃいられなくて夜の街をさまよい歩いた。



そのうち俺にしらないおじさんが声を掛けて来て、そのおじさんと一緒に眠った。

おじさんは優しくもないしおにいちゃんと全然違った。



俺はまたべつのおにいちゃんを探した。

次の人は、すごく優しかったけど、ずっとへらへらしていておにいちゃんとはやっぱり程遠かった。

その次の人もそのまた次の人も、おにいちゃんとは似ても似つかなかった。





ある日、いつもどおり知らない人と一緒に寝ていたら、お兄ちゃんが息を荒くしてホテルの部屋に乗り込んで来た。

代わりのおにいちゃんを殴り飛ばして、本物の方が俺をぎゅっと抱きしめた。



「ごめんな、総悟、ごめんな」

長いことそうつぶやいて、それから俺の手を握ってなんだかわからないところへ俺を連れて行った。



道中おにいちゃんは、俺とはもう会えなくなるかもしれないって、まっすぐ前を見て言った。

いままでの無表情でも優しい顔でもなくて、ましてや眉を寄せたつらそうな表情でもなかった。

手を繋いだ俺じゃなくてまっすぐまっすぐ前を見て。



俺はそんなのいやだと言って泣いたが、冷たい壁の知らないところへ着いたらおにいちゃんと引き離された。



優しそうなおばさんに、どうして知らない男の人といたのか聞かれて、話したらおにいちゃんと会えるっていうから全部話した。

おにいちゃんがしてくれたこと。

おにいちゃんが急に触ってくれなくなったこと。

さみしくて知らない男の人と一緒にいたこと。



おばさんの言ったことは全部嘘で、俺はそれから二度とおにいちゃんに会えなくなってしまった。

今の今まで。



あれから一年。

俺は今年から中学に行くはずだったんだけど、「かわいそうなこども」だからしばらく学校はお休みして、俺の「精神が安定」してから中学に通えるということになった。



ずっとわけのわからねえ施設に閉じ込められて新しく俺のおとうさんになるという人とその家族に会わされたり、庭で花を育てたりしている。



だけど俺はそんなことどうでもよかった。

花なんて興味ないし、新しいおとうさんもいらない。中学だって別に行きたくない。



だから、おにいちゃんに会いたい。

おにいちゃんはどこ?

どこにいるんだろう。



そのうちここを抜け出しておにいちゃんを探しに行こうと思っている。







今日も夜になったら施設のお兄ちゃんが俺の部屋に来る。



俺はそのお兄ちゃんを、十四郎にいちゃんと呼んでいる。





はやく代わりじゃなくて、ほんとうのほんもののおにいちゃんに会えるように、俺はベッドの中でぎゅっと目を瞑って神様にお祈りした。









(了)













×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -