アンパンに相談だ!




真撰組で一番何を考えているかわからない人は、沖田さんだ。
というか沖田さん以外の人は、わりと腹芸のできない人間ばかりで、胸の底の底まで見通せたりする。
特にうちのツートップはわかりやすい。

今だって副長は、沖田さんが唐辛子を一生懸命つめこんだ煙草を受け取ってあまつさえ火をつけてくれようとしているのを、わざと鹿爪らしい顔なんかしてうれしさを押し隠しながら待っている。

まったくわかりやすい。
何百回騙されれば気が済むのか。
あれだけ根性のひねくれ曲がった沖田さんが、いきなり煙草に火をつけてくれるような人間になると本気で思っているのだろうか。

そうこう言っているうちに、副長が唐辛子を大きく吸い込み、死ぬんだろうかというくらい咳き込んで、のたうちまわりだした。

沖田さんのわからないところはここだ。
せっかくいたずら・・・というか殺人未遂が成功したってのにうれしくもなんともなさそうなのだ。
キョトナンとして、副長がなぜ転がりまわっているのかわからないとでも言いたげな表情をしているんだから。

俺はそんな沖田さんを見ていつも思う。
感情が薄いように見えて、本当はあれはただのポーカーフェイスで、腹の中では副長を愛しく思っていたりするんだろうか。
そうしてその愛しい副長が胃液を吐きながらのたうちまわる姿を見て胸がキュンとしたりなどするクソドSなのだろうか。

そんなことを考えながらぼうっと見ていると、沖田さんが俺の視線を感じたのかふ、と顔を上げて、
「なんでえザキぃ、てめーも唐辛子煙草おみまいされてえのかあ?」
なんてのんびりとした声で物騒なことを言った。

目が合った人間に片っ端から難癖つけるとは貴方ヤクザですか?

それで沖田さんは気分を害したのかもしれない。
食堂で自分のトレーを持って席について、他の隊士に呼ばれて少しだけ話をしてそれから席にもどったら、食事が無くなっていてアンパンが置いてあった。
犯人はすぐわかった。
俺が席についてアンパンを見た瞬間、ごふっと音がして沖田さんがむせたからだ。
斜め向かいの沖田さんを見ると、もういつものポーカーフェイス。

まあここで副長のように怒り狂ったり飯を探したりすると相手の思うツボなので俺はそのままむしゃむしゃと飽き飽きしているアンパンを食べた。

なんで仕事以外でまでこんなもの食わなきゃならないんだ。
最悪だ。

だけど沖田さんは地味な俺には地味な嫌がらせをすることに決めたみたいで、それから毎日俺の机の上にはアンパンが置かれていた。

うざかったので同僚の誰かにやろうとすると、ものすごい目で沖田さんがアンパンを受け取ろうとしている隊士を睨みつけるので、誰ももらってくれなかった。
食べ物を捨てるような教育は受けていない。

俺は仕方なくもさもさと毎日アンパンを食べた。

食べているうちに、沖田さんの無表情の中に、ごくごく小さな感情のゆらめきを見つけることができるようになってきた。
俺が沖田さんの思惑通りアンパンを吐きそうになりながら食べていると、ほんの少しだけ沖田さんの顔が輝く。
だれにもわからないけれど俺にはわかった。
嫌がらせが成功するとやっぱりうれしいのだ。沖田さんでも。

てことは、副長にいたずらしていた時もやっぱりこうやって感情がにじみ出たりしていたんだろうか。


それからも沖田さんはせっせとツバメの親のように、俺にアンパンを運んだ。

そのうち俺は、沖田さんの表情の中に、また別の感情を見るようになってきた。
なんだか、照れたような顔。
俺がアンパンを食べているのを見ている沖田さんを見ると目が合うわけなんだけど、そうしたら沖田さんはふいと向こうを向いてしまう。

あれ?
と思った。

また別の日、俺が沖田さんに用事があって彼の姿を探していると、副長が
「総悟ならなんかしらねえけどどっか出かけてったぞ」
なんて言って来た。

物陰に隠れて待っていると、沖田さんがふうふう言いながら大きな荷物を背負って帰ってきて、その姿があまりにも沖田さんらしくなくて驚いてつい天井裏に潜んで覗いてみたら、背たろうていたリュックのようなものから、大量にアンパンを取り出してうれしそうに眺めていた。

多分俺への嫌がらせ用だろう。

沖田さんが自分の労力であんなに大量のアンパンを買ってまでいたずらしようとしていることに、違和感を感じた。

ひょっとして。

あの人は。



俺は、ある日アンパンを食べながら、目の前で無表情に俺をじっと見ている沖田さんにおもむろに聞いた。

ここんところずっと聞きたかったことを聞いた。




「沖田さん」

「んぁ?」


「ひょっとして・・・・ひょっとすると・・・・・・・俺のこと」

「ああ?」




「アンパン好きだと思ってませんか?」







(おしまい)














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