ないものねだりは終わらない




副長に、俺と沖田総悟の関係がバレた。

正確には、バレたと『思う』だ。

副長が仕事で出かけてすぐに沖田総悟をつかまえて、副長の部屋へ連れ込んで副長の布団でヤりまくった。
最近俺はどんどん大胆になっていて、より強い刺激がほしいと感じるようになっていたから、副長が沖田総悟を抱いた布団だと思うとたまらなく興奮する。

沖田総悟は泣きながら・・・そう、俺に抱かれる時は一体何が気に入らないのかいつも涙を流すようになっていて、泣きながら
「嫌、嫌・・・嫌だ、やめ、ろ」
震えた声で涙を流しながら小さな抵抗をする。
それなのに俺が首筋をほんの少し舐めただけで、びくびくと身体を震わせて感じるのだ。

両足を閉じてこすりあわせようとするが、足の間に俺が覆い被さっているのできつく俺の腰を締めつけるだけだ。
さっき副長が脱がせた単衣をいっぱいに開いて下着を抜き取る。
口では嫌だなどと言いながら、沖田総悟の性器はもう充血し始めていて滑稽だった。
亀頭の部分を中指の腹で数度擦って、柔らかいスポンジでも掴むように優しく握り込んでやる。
「ふうっ・・・・ふ、あっ・・・」
そのまま少しだけ扱いておいて、俺はすぐに沖田総悟のひくつく厭らしい器官に自分のものを突っ込んだ。

「イ、イイィイッアッ、アッ!」
過剰な反応を見せる沖田総悟を心中で嘲笑っていつものお勤め。

「愛しています、沖田さん」
その言葉を口にすると面白いほどきゅううと俺を締めつけて。

ああ、副長が感じた快感だ。

そう思うとこの上もない幸福感に包まれて、顔を上げてみれば沖田総悟の顔が涙でびしょびしょに濡れているのだ。
そうして俺は更なる優越をびんびんと感じて、汚らしい穴の中に入ったままパンパンに己を膨れ上がらせるのだった。


そうして俺が哀れな獲物によって副長との愛の逢瀬をしていると、かたり、と襖の向こうから音が聞こえた。
びくりと身体が固まる。
涎を垂らして喜んでいる沖田総悟は物音に気付いていないようだ。

俺は監察という仕事柄小さな物音や気配には敏感だ。乱れきっている一番隊隊長はそれどころではないだろうが、俺にはこの気配が誰なのかすぐ分った。

土方副長。


普通なら副長に俺達の現場を見られたと知って、行為を続けられるわけがない。
だけど俺は、こころのどこかでこの瞬間を待っていたのかもしれなかった。

あられもなく乱れる沖田総悟。
それを押さえつけている全身が炎の様に燃え上がった。

副長が、見ている。
今、今副長が俺達を見ている!

副長が驚愕に立ちすくむ姿を想像した。

なにを。
どんなことを考えているんですか?

まず、驚いて、それからきっと怒りのままにこの場所に踏みこもうとしたはずだ。
だけど襖が開かないということは。
憤怒の表情で沖田総悟を、・・・・・・俺を、見ているのだろうか。

そう考えるだけで、俺の興奮は頂点に達し、激しく腰を振って果てた。



事が終わって部屋を出ると、そこに副長の姿はもう無かった。



数日が過ぎて、俺は切れてしまったタイトロープが再びぴんと張られたこの状況を楽しんでいた。

張ったのは副長。

次の日も、その次の日も、そのまた次の日も副長は俺に何も言ってこなかった。
すぐさま斬って捨てられてもおかしくない行為だ。
俺が気付いていることを知っているのか。
どうしてやろうかと臓腑を煮えくり返らせて日夜俺のことばかりを考えているんですか?

俺と副長の関係は、仕事の上で切って切れるものではなかった。
副長は恋人を寝盗った憎い憎い俺と、隊服が触れ合うほど近付いて会話をしているのだ。

副長が何を考えているのかを考えるのが俺の今の歓びだった。
殺してやりたい、と思っているんでしょう?


そして更に数日後、副長がとうとう俺を呼びだした。
深夜、子の刻を過ぎた頃、屯所の裏の倉庫で待つ、と。

俺はそれを聞いた時、最高潮の歓喜と快感に打ち震えた。
ああ、とうとう副長が、俺を殺すのだ。

殺したい程に俺を、憎んでいるのだ。

副長の愛は得られなかったけれども、俺は副長が最も冷静さを失う感情を手に入れたのだ。

見たか!
見たか沖田総悟!

きっと、今副長の頭の中を占めているのは俺だ!
俺はこの命の最後の数日間、ようやっと副長をこの手の中に閉じ込めることができたのだ。


ふわふわと天国の雲の上を歩いている様な感覚で、倉庫へと足を運ぶ。
一歩ずつ一歩ずつ、すっかり俺が貴方の物になるのが近付く感覚。
貴方に殺されたら、俺はぜんぶあなたのものになります。

俺は、暗闇の中で静かに佇む倉の前に立った。
大きく息を吸い込んで、最後の大舞台の幕を自らの手で引く。

ごぉん、という音と共に、倉の鉄扉が重々しく開くと、薄暗闇の中から啜り泣くような声が聞こえた。
こつんこつん、と足を進めると、うっすらと蠢く二人の人影。

倉の天井から伸びた鎖の先に、俺達の七つ道具の1つである手錠。
その手錠には沖田総悟の白く細い手首がおさまっている。

「うう・・・・う、ぁ・・・」
沖田総悟は、背後の副長の膝に内側から腿を押し広げられた状態で膝立ちになっていた。
その膝も、上から吊るされて着くか着かないか。
手錠に触れている手首からは、既に己の体重によって血が流れ出していた。

全裸。

真っ白な身体を晒して、副長が愛し俺が蹂躙した全身を背中から抱きすくめられてまさぐられている。
尻にはぐっぽりと副長のものを飲みこんで、身体中に切り傷を付けて。
鬼の目をした副長が、片手に持った匕首で新しく沖田総悟の鎖骨の上あたりをすいと切った。
とろ、とした赤い液体が流れる。

「ここだ」
地を這うような副長の声。

「ここも、ここも、ここにも」

つ、つ、つい。
新たな傷がどんどん作られる。

「俺の知らねえ情事の証が残っていやがるなあ?総悟?」
「・・・ぅっ・・・・」

「相手は誰だァ?俺の目を盗んで盛りのついた猫みてえに男を漁っていやがったんだろうがよ?」
目の前の首筋の血をぺろりと舐めながら副長が腰を揺すると、沖田総悟が瞳を見開いてビクビクと反応する。
「ぃ・・・いあっ・・・あ!」

「だーれだろうなあ?俺のモンだって知ってて、お前に手ェ出すのはよお。なあ?お前は俺のモンだろうが?」
「いっ・・はっ・・・いあっ・・・ああ!!」

はあ・・・はあ・・・と眉を寄せて快感に耐える沖田総悟。
俺の目の前で、別の男に感じさせられている姿を見せたくないのだろう。

副長はと言えば、沖田総悟に話しかけながらずっと視線は俺の方を向いていた。
すべての言葉は、俺に向けられたものだ。
俺に。
俺だけに。

かわいらしい独占欲を主張する副長が、愛しくてたまらなかった。

<どうだ、総悟は俺のものだ。悔しいか?>
そう言って俺に沖田総悟を見せびらかす副長を見ると、俺は今にもイってしまいそうな身体の疼きを感じた。

こつ、こつ、と二人に近付く。
副長のかまいたちのような目が、ぎらりと光って俺を睨みつけた。

「俺も、混ぜて下さい。副長」
沖田総悟の身体に触れんばかりまで近付いて、その唇を。

唇を掠めて、白い獲物に挿入したままの副長の唇に己のそれを押しあてた。

暖かい、唇。
びくりと震えたそれは驚きの為に無防備になり、やすやすと俺の舌の侵入を許した。


そうして、すぐ目の前にある副長の瞳が、大きく大きく見開かれるのが、見えた。




(了)














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