ハニービーブルー




お前のそのはちみついろの髪。



お前はまだほんとうの絶望を知らない。



誰でも経験するようなかなしみと、

誰もがお前を愛するしあわせを、

ようやっと知っているだけ。


だが誰にも支配されないで。

しかし何か大きなもののためにもくもくと働き続ける。


蜜蜂が、

本能に突き動かされて蜜を集めるように。

死がこわくないかのように。


おまえたちのそのフラットな巣板のようにうつくしく刀を振るう。




かなしみはないのか。

ああかなしみはないのか。



苦しみも悲しみも、そして喜びも知らず。

ただ繰り返し続ける生命に意味を見出そうとせずに生けるお前たち。


ただ本能のままに

ただ本能のままに



お前はほかのだれも羨ましいと思わないのか。

ほかの生物を羨ましいとは思わずに、ただ羽を震わせて蜜を集める。


お前は自分がただ巣を守る歩兵となる為に

尻の針といっしょに内臓を破り捨てて死ぬのを知っているのか。



世界がすべて壊れてしまえばいいと、

あと1ミリこころがずれていたら、そう繰り返したかもしれない。

世界がすべて壊れてしまえば、

ただのこの己を蝕み続ける身体もすべて壊れるだろう。



お前がそのただ一つ帰る場所である巣板の上で本能のダンスを踊る時、

お前はだれにも支配されない、命令などされない。



お前は自分の為でも無く、

ましてや女王のためでもなく。

ただ、生命にプログラムされた螺旋の宣言によって。

己の命を惜しげもなく放り出すのだ。



たとえば虎に追われて草原を逃げる鹿。

お前は本能のままに生き、

本能のままに死を恐れてその足を動かし続ける。



だが蜜蜂のように。

苦しみも悲しみも喜びもないままに、

ただ1本のみしか持たない針を内蔵ごと敵に捧げられるような。

そんな盲目の本能を持つ生物ほどしあわせなのだ。


そんな感情など無い、思考など無いとそうやって俺によって決めつけられるお前が。

お前がその階段を登って俺のこの手の中にやってくる音を。

俺は幸福にあふれる世界の中で、





泥にまみれてあがきながら聞くのだ。








(了)















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