ぼくのだいだいだいすきな先生!! H.23/12/24


(近+沖)近←沖ぎみの+ですが。
2011クリスマス企画第一弾。ぼくせんシリーズの番外編です。





「そーちゃん、おともだちと仲良くできた?」

オレが、ほいくえんの げんかんに かおを だしたら、みつばおねえちゃんが むかえに きてくれて いた。

おねえちゃんは ちゅうがく 2ねんせい。
うちは ぼしかていってやつで、ままの おしごとの かんけいで、かようびと もくようびと きんようびは おねえちゃんが ぶかつを やすんで むかえにきてくれる。
おねえちゃんは、とっても びじんで やさしくて あたまがいい。
おねえちゃんは せかいいちだ。だれよりも、すてき。

おねえちゃんよりも すてきな ひとなんて いないとおもう。


「総悟!お姉さんきてくれたんだな、良かったなあ」
みみが われそうなくらい おおきな こえが きこえた。
こんどう せんせいだ。

うふふっ。
オレは この ごりら みたいな せんせいが わりと すきだ。
だって、いけめん じゃなくて、 ほかの子の ママたちにも ぜんぜん もてないし、だけど どんくさくて 人がいいから とっても あつかいやすいんでぃ。

「こんどうさーん」
「何度言ったらわかるんだ、総悟。近藤さんじゃなくて近藤先生だろ?」
「こんどうさんに あしたまで あえない なんて さみしいでさぁ」
オレは こんどうさんの ふとい あしに しがみついて あまえた。

「総悟!お前はなんてかわいいんだ!」
こんどうさんは オレを りょうて で だきあげて ぎゅって してくれる。

フフン、ちょろいぜぃ。


「おねえちゃーん、かえろう!」
おねえちゃんの やわらかくて まっしろの お手て。
ぎゅうっと にぎると おねえちゃんが にっこり わらって くれて、オレは ちょっと ほっぺが あかく なったり していないかしら。

オレってば、みためが あいらしいので、おとなどもには とても もてる。
かわいいかわいいって みんな あたまを なでて くれる。
べつに そんなの うれしくも なんともないけど、おかし なんかを くれたり するので ぶりっこ して だまして やるのだ。

ふん。
おとな なんて みんな ばか だ。








「うわーん、そうごくんが いじめたぁ」

ほいくえんの きょうしつに ガキの なきごえが ひびきわたる。
ま、オレと おないどし だけど。

うーるせぇの。


「どうしたの?」
おんなの せんせいが ひとり やってきた。
こんどうさんは、むこうで おひるねの おふとんを かたづけて いる。

「そうごくんが ぼくの おもちゃ とったぁ!」
ばーろぃ、これは ほいくえんの つみきだ。
おまえのじゃ ねえっつの。

「そうなの?沖田くん」
せんせいが オレの かおを のぞきこむ。

とった。
たしかにとった。

だけどこれは、オレが、どくさいしゃせいけんの しょうちょうの おしろを つくるのに ひつよう なんだ。

というわけで いつもの アレを やる ことにした。

ぱちぱち、と にかい まばたき する。

すん、と はなを ならして、目を うるうる させた。
オレって てんさい。

「これ、ぼくが さいしょに もってた のに、あいつに とられちゃったから、くやしくて とりかえしたんでさ・・・」
ちろ、と せんせいの かおを みあげる。

うっ。
と ことばに つまる せんせい。
おきたくん かわいいって、かおに かいて あらぁ。

「だ、だめじゃない、沖田君が先に遊んでたおもちゃでしょう?」
なんて、むこうに せっきょうを はじめた。

「うわーん!!うそだもん!ちがうのに!!わーん!!!」
ぷっ。

「沖田君も、おもちゃは仲良く使ってね」
ぽんと オレの あたまを なでて むざいほうめん。


まったく ちょろいぜぃ。



オレの じんせいは らくしょうだ。
えほんの じは まだ ぜんぜん よめねえけど、なんでだか いじわるや いやがらせは すぐに おもいつく。
てことは、あたまも わるくないと おもうんだ。

だから、このままずっと オレは しあわせに しあわせに いきていくんだと おもう。



だけど。


あっというまに オレの せいかつは あらし みたいな できごとが おこって、こわれて しまった。

まいにち おそくまで はたらいている ままが、だんだん なにも はなさなくなって、ざんぎょうの ない、げつようびと すいようびまで かえりが おそくなって。
そして とうとう かえってこなく なってしまったんだ。

そのひ、 おねえちゃんと オレは、かえってこない ままを ずっと まって いた。
おねえちゃんが ごはんを たいて、きのうの おかずの のこりと たまごやきを つくってくれた。

あんまり ままが おそいんで、オレが こころぼそくなって きたとき、おねえちゃんが やさしく わらって だっこ してくれた。

さみしい きもちが すうって なくなるのが わかった。

そのとき オレは おもった。
ままなんて かえってこなくなって おねえちゃんが いれば いいって。



でも。
その たったひとつの ねがいも かなわなくて。


つぎのつぎのひ、おねえちゃんが でんわして、しんせきの おじさんが うちに やってきた。
いろいろ おとなのひとたちで はなしあって きまったこと。

それは。

オレと おねえちゃんは べつべつの しんせきに ひきとられるって こと。

オレは、おねえちゃんといっしょに すむって 泣いたけど、だめだった。
おねえちゃんも まだ こどもなんだって。
すごく おとな なのに。


おわかれの あさ。
あいたければ すぐに あえるって おじさんに いわれて、オレが くるまに のった とき。
おねえちゃんが ぽろって なみだを こぼした。

おねえちゃんが ないたのを みたのは これが はじめて だった。
いつも やさしく わらっていた おねえちゃん。

そのとき おもった。
オレは おねえちゃんを まもるって。
はやく おおきくなって、おねえちゃんを まもって、おねえちゃんの すきなものを かってあげて、おねえちゃんの やりたいことを いっしょに やろうって きめた。

だから、まってて、ね。
みつばおねえちゃん。






「あやまりなさい!沖田くん!」
きいきいと うるさい せんせいの こえ。

きょうは ちょっと ミスって しまった。

いつもどおり わるぢえを はたらかせて おともだちを いじめていた とき。
うっかり せんせいに げんばを おさえられて しまったのだ。


ぷい。
と よこを むく。

「どうしてお友達が一生懸命作った積み木を崩しちゃったの?」

だって あの つみきの なかに オレの どくさいしゃせいけんの しょうちょうの いかりゃく を つくる ぱーつが はいって いたんだもの。

「沖田君が、もしも他の子にいじわるされちゃったらどう思う?かなしいでしょう?ごめんなさい、できるわよね?」

ぷいっ。

「沖田くん!!!!」


・・・・・・ふん。

せんせいの ことば なんて、なんにも オレには ひびいて こなかった。
えらっそうに おこっちゃって さ。

そのあと、せんせいが どんなに うるさく いっても、オレは ぜったいに あやまったり しなかった。



オレが ひきとられた しんせきの おじさんの いえは まえの いえの わりと ちかくで、 おじさんも おばさんも ともばたらき だった。
だから、ほいくえんに かよい つづける ことが できている。

べつに いじめられたり なんか していない。
していないけれど、たのしくも なんとも ない。
やっぱり おねえちゃんの やさしい かおが みたい。

それを かんがえると どうしようもなく だれかに いじわる したく なっちゃうんだ。


しばらくは、あの おんなの せんせいの 目が ひかっているので、オレは たーげっとを、おもに こんどうさんに することにした。

オレは まいにち こころの もやもやを こんどうさん いじめで すっきり させていた。

あまえる ふりして こんどうさんの しゃつに たっぷり はなみずを つけたり、こんどうさんの けいたいでんわを といれに しずめたり、こんどうさんの だいすきな しむらせんせいの すかーとを めくって「こんどうせんせいに やれって いわれた」って いったり。
いろいろ やった。

「てめえーっ!ガキ使ってなんてことしやがるんだぁアアアア!!!」
「えーーーーーーーっなになになに!?ご、誤解ですお妙さんっ!!」

ああ、こんどうさんの なさけない こえ。
きいてると いやされる。

こんどうさんは どんくさいから、そのどれも オレがやったって きづいてない。
オレのやった いたずらで こんどうさんが あわてているのを みるのは とても きもちよかった。

こんどうさんは おれの、・・・・なんだっけ。えーと、せいしんあんていざい だ。

そうやって こんどうさんを いじめておいて オレは しらんぷりして あまえに いく。

「こんどうさーん」
「お?どうした?総悟!」
よじよじと 大きな おひざに のぼって、だきつくと でっかい かお いっぱいで にっこり わらって、ぎゅうって してくれた。

あったかくて、ぱぱ みたい。

オレは こんどうさんに だっこ されながら、もっと こうかてきな こんどうさんいじめを いっしょうけんめい かんがえていた。







「明日はクリスマスだな!みんな!クリスマスしってるかあ?」
こんどうさんが おおきな こえで いった。

みんな、「しってる!」「しってるう!」って くちぐちに こたえる。

「なんと、うちの保育園にもサンタさんが来てくれる事になったんだ!!!」
こんどうさんが うれしそうに いった。

え。
マジでか。

マジですかぃ、こんどうさん!!!

わあいって みんな さわいでいる。
オレだって、とびあがって よろこびたい。
なんでかっていうと、オレは サンタさんに おねがい することが あるから。

まわりをみると、みんなうれしそうに ほっぺを まっかに している。

これは あぶない。
みんなが いっせいに サンタさんに おねがい したら、オレのおねがいが サンタさんに きこえない かもしれない。

これは あぶない。

オレは、この ばかどもを ひとりひとり、つぶしていく ことに きめた。




「おーい、おまえ」
「え、なあに?そうごくん」
「おまえ しってる?」
「なにを?」
「サンタさんって ゆうかんな こどもにしか プレゼント くれないらしいぜぃ」
「えっ」
「あした、おたのしみじかんに ほいくえんの もんを でて、かぶきちょうじんじゃの ほこらまで いって おそなえを とってきたら いいんだって」
「そ、そんなのむりだよ」
「だけど、やらないと プレゼントも なしだぜぃ」
「ひ、ひとりで?」
「ひとりじゃなくたって いいらしいから、なかのいい やつら さそって いってこいよ。サンタさんに ゆうかんだって みとめられたら プレゼント もらいほうだい らしいぜぇ」
「そうごくんは?」
「オレは プレゼント いらねえんだ」

くっくっく。
そいつは とっても しんけんな かおを している。
ほこらは、じんじゃの うらての やまの 120だん くらい かいだんを のぼった ところに ある。
うすぐらくて おっかないし、なにしろ かいだんが ながくて いくのに じかんが かかるから、きっと サンタさんが やってくる おたのしみじかんの あいだに かえってくることは、むり だろう。
こいつは なかよし よにんぐみの ひとりだから、いっきに よにん かたづいた。

オレはそのあとも、
「あした ほいくえんに きたら、いっしょう なおらない びょうきに なるらしいぜぃ」
とか
「サンタさんは ほいくえんに くるって いっておいて、 おれたちが ほいくえんに いるあいだに じつは おうちに プレゼントを おいていくらしいぜぃ」
なんて いろんな やつに いって、ごていねいに、たいおんけいを こすって おんどを あげる わざまで おしえて やった。 

さすがに、ぜんいんを だます ところまでは いかなかったけど、これだけ ライバルを へらせば、サンタさんも オレの おねがいを きいて くれるだろう。

オレは まんぞくして おふとんに はいった。







つぎの日、おひるねが おわって いよいよ おたのしみじかんが やってきた。
くっくっく。
おれが こえを かけた やつら。
そのうちの なんにんかは ほんとうに ほいくえんを やすんで いる。
おもったより そのにんずうは すくなかったけど、まあ せいこうだ。

とくに、いちどに よにんを かたづけたた、あの さくせん。
あいつら いまごろ、じんじゃの うらの かいだんを のぼって いるんだろう。


だけど、オレって ひょっとしたら ばか なのかも しれない。
ぜんぜん かんがえも しなかったんだけど、えんじが よにんも ほいくえんから いなくなって、おおごとに ならない わけが なかった。

オレたちには なんにも いわないけど、せんせいたちが ばたばたと はしりまわっているのが わかる。
こんどうさん なんて、でかいこえで けいさつが どうとか なんとか いっているのが きこええるほど とりみだしている。
け、けいさつ・・・・。
まさか そんなに はなしが おおきく なるとは・・・。

べつに どうってこと ないけど、ちょっとだけ びびる オレ。
とうとう、べつの せんせいが オレたちに
「サンタさんは今日とっても忙しくて、来れなくなってしまいました。だけど明日はきっと来てくれるから、みんな待っててあげてね」
って言い出した。

うそっ!!!
まさか・・・まさかと おもうけど、わるいことした ばちが あたったの かな。

みんな はんなきに なっている。
オレだって なきてぇやぃ

しかたなく、いつもと おなじように せんせいの ぴあのに あわせて おうたを うたっていると、いきなり へやの ひきどが ひとつ あいて、こんどうさんが はいって きた。

「総悟、ちょっと来なさい」
こんどうさんは きょう だけで とっても やつれた かおを していた。
いつもと ちがう すごく まじめな かおで、すこし こわかった。

オレは すなおに こんどうさんの あとに ついて いった。
こんどうさんは ほいくえんの いっかいの えんちょうしつに はいる。
こんどうさんは えんちょうせんせいじゃ ないけど、きょうは ここを かりたと いった。

こんどうさんが りっぱな かわの そふぁーに すわって、オレを ひざに のせた。

「総悟、今日な、おたのしみ時間にお友達がいなくなったの、わかってるか?」
やっぱり。
やっぱり この はなしだ。

「へい」
「あの四人のうち、篠原くんが、神社の前の道路で、車に轢かれそうになったんだ」

え。

「幸い車を運転していた人が、飛び出してきた篠原君をとっさに避けてくれてね。篠原君は転んだだけで済んだ。それを近所の人が見つけて保育園に連絡をくれた」
みじかい じかんで うっすらと 目に くまを つくった こんどうさんが オレを じいっと みる。
オレは、なんだか いごこちが わるくて こんどうさんの ひざの うえで もぞもぞと うごいた。

「怪我はしなかったが、念の為、今篠原君を病院に送って来てお母さんに連絡をしてきた」
そこまで いって、こんどうさんは ゆっくりと オレの かおを みた。

「他の三人に、どうして保育園を抜け出したんだって聞いたら、総悟に言われたって言っていたぞ。それは、ほんとうか?」
こんどうさんの ごっつい かおが いつも みたいに にこにこ していなくて すごく こわかった。
オレは だれに おこられても こわいなんて おもったこと なかった。
きょうの こんどうさんは おこっているのとも ちがう なんだか くるしそうな かお だった。

「ぼく、しらない」と、いおうか。

だけど、オレの首は、オレのかんがえに はんたいして、ゆっくりと うなづいた。

「そうか」
オレの頭を ぽんと なでて、
「聞きたかったのはそれだけだ」
そういって きょうしつに もどろうかって いう。

「こんどう、さん」
「ん?どうした?」

「お、おこらねえの?」
「怒る?」
「だって・・ぼく・・・」
こんどうさんは、たちあがって オレを みおろしていたんだけど、また ソファーに すわりなおして オレを もういちど ひざに のせた。

「総悟、悪いのは先生たちなんだ。保育園っていうところは絶対に子供から目を離しちゃいけない。たとえどんなに忙しくてもどんな時でも子供達を全員しっかりと一人も残らず見ていないといけないんだ」
オレは、あの よにんぐみが ぬけだしやすいように、いっしょうけんめい おおごえを だして あばれて、せんせいたちの きを そらせて いたことを おもいだした。

「こんどうさん、オレ・・・・・」
「ただ先生は、あの子たちがお前の名前を出したのを聞いて、それが本当かどうか、確かめたかっただけなんだよ。もし総悟が何も言っていないなら、悪く思われるのはいやだろう?」

ごめんなさいって、いわないと いけないことは わかっていた。
だけど、くちが うごかない。

だって、だって オレは・・・・・・。

そんな オレの こころの なかを まるで わかっているみたいに、こんどうさんは おれの あたまを また なでた。

「お前が、見かけに似合わない悪戯っ子だってのはわかっていた」
とつぜん こんどうさんが ちがう はなしを はじめたので オレは きょとんと した。

「保育園の壁に落書きしたり、手洗い場の水を出しっぱなしにしたり、先生の持ち物隠したり、ああ、隠すと言えば先生の車の鍵をお砂場に埋めたこともあったっけな」
ハハ、と ちいさく わらった こんどうさん。
「それでもお前は、オレがいるところではきっちり畏まって可愛らしく座っててな。平気な顔でしれっと甘えてくるところがまたかわいいと思っていた」

オレは、じぶんの かおが まっかに なるのを かんじて いた。
こんどうさんは オレが いっぱい いたずら していたのを しっていた のだ。
しってて オレを しかったり しなかった。
オレが こんどうさんの まえでは いいこぶって いたのを、ぜんぶ、しっていた。

オレは、こんどうさんのことを どんくさくて ちょろいって おもっていた。
でも こんどうさんは そんなふうに おもっている オレの こころの なかまで きっと わかってたんだろう。

「子供なんてのは、悪戯するもんだ。オレに悪戯するってことは、総悟がオレを好きだって思ってくれてるからなんだ。だからオレはうれしかった。だけどな、総悟」
こんどうさんは、おおきな 手で オレの てを にぎった。
「お前がついた嘘で、お友達がとっても危ない目にあったんだよ」
「こんどう、さん」
「保育園ってところは、ただ子供を預かるだけじゃない。総悟には難しいかもしれないけれど、保育園はお勉強をするところではないから、何も教えないでいいって言う風に考える人もいるんだ。だけど、オレはそうじゃないと思っている。こうやってたくさんのお友達と一緒に過ごす間に、やって良い事と悪い事を覚えることはできるって考えてる。わかるか?総悟」
とても しんけんな こんどうさんの かお。
オレは、こんどうさんが こんな かおを しているのが つらかった。
こんどうさんには いつもみたいに にこにこ して、おおきな こえで わらっていて ほしかった。
いつもなら ぷいって よこを むくんだけど、オレの くびは かたまって しまった みたいに うごかない。

「オレは、総悟が赤ちゃんの時から一緒にいるのに、お前に教える事ができなかった。お前達みたいな小さな子供だけでお外に出るなんてとっても危ないことなんだって、そんな簡単なことを教えてやることができなかった」
こんどうさんの、おおきなかお。おおきな かおの なかの、すこし ほそい 目。
その お目めが、ゆら、ゆら、と ゆれていた。

「総悟が大きくなったら、自分で決めなければいけないことがたくさん出てくる。ぱっと見て良い事だと思われていることでもほんとうはそうじゃない時もある。1つの事に対して、これはいいという人といけないことだと言う人もいる。同じ事でも見る人によって違うんだ。だから当たりなんてない。だけどな、総悟。何か決める時に、総悟は総悟の心に相談してほしいんだ。総悟がいけないと思ったことはしないでほしい。誰がなんと言おうとな。そうやっていいことと悪い事を決める材料っていうのは、保育園や、これから行く小学校、中学校なんかで段々積み重ねて行くものなんだ。だから俺は、総悟にたくさんその材料をあげたい。総悟が何かするときに、その材料を使って物事を決めやすいようにしてやりたいんだ」
ひといきに それだけ 言って、こんどうさんの まゆげが くい、と さがる。
むずかしいか?ってこんどうさんが きいた。

むずかしい。
なにを いっているのか ほとんど わからなかった。
でも。でも。

「ごめんな、総悟。今日の事は総悟は1つも悪くないんだ。もちろん嘘をつくことは良くないけれど、先生達が自分の責任・・・っていうかお仕事をきちんとできなかった。だから総悟がこんなに悲しい思いをしているんだ」
「こ、んどう・・・さん」
ひくりと のどが いたく なった。
オレは だれに なにを いわれたって 泣いたことなんか ほとんど なかった。
こどもらしくない とか かわいげがない とか いう ひとも いる。

だけど、おれが わるい ことなのに どうして こんどうさんが あやまって いるんだろうって おもうと、のどの おくの ほうが あつく なって、うまく ことばが でてこなく なってしまった。

「先生にもう一度チャンスをくれるか?総悟。総悟が卒園するまでに、ものごとを決める材料をたくさん総悟にあげられるよう先生がんばりたい。先生を、許してくれるか?総悟」

オレは、とうとう がまんが できなくなって、かおを ぐしゃっと ゆがませて ないた。
「こんどうさん・・・・・こんどうさん!!!」
ぎゅうっと こんどうさんの おおきな おなかに だきついて。
つぎから つぎへと ながれでる なみだを こんどうさんの えぷろんに しみこませた。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、こんどうさん!」
「総悟」
「ごめんなさい、オレ、ごめんなさい!」
ひっくひっくと のどが なった。
「総悟、もしも総悟が悪いと思っていたら、篠原君にもあやまれるか?」
どきりとした。
オレが、あの がきどもに ごめんなさいって、いうの?

かおを あげたら こんどうさんが じいっと オレを みおろして いた。
こんどうさんは まだ いつもの たのしそうな かおじゃ なかった。

オレが、あやまったら、こんどうさんは うれしく なるかしら。
しぜんと あたまが こくりと うごいて、「はい」って ちいさな こえが でた。

とたんに こんどうさんが オレを ぎゅううううっって だっこしてくれた。
オレは、それだけで あんしんして うれしくなってしまって、もっともっと なみだが こぼれつづけた。

わんわん ないて。

ようやっと おちついた オレに、こんどうさんが しつもん した。

「それにしてもどうしてあんな嘘ついたんだ?今日はサンタさんが来るはずだったろう?」
たくさん ないて、たぶんもう いつもの かおに なっている オレが、えへへ と わらう。
「だって、サンタさんを ひとりじめ したかったんだもの」
そうすると こんどうさんは すこし おどろいた ような かおを して、それから やっと にっこり わらった。
「そうか!!!総悟もそんなことを言うのか!!!」
かわいいなあっって、そんな かお。

「なんだ、総悟はほしいものがあるのか?」
「うん、オレね、プレゼントは いらないから、おねえちゃんと くらせるように なりたいって おねがい するつもり だったんでさ」
オレが そう いうと こんどうさんは、りょうほうの 目から ぽろりと なみだを こぼした。

「そうか、そうだったのか、総悟」
わんわんと 大きな こえで なく こんどうさん。

オレは、その でっかい でっかい でっかい でっかい あかちゃんみたいな こんどうさんの たれた あたまを、いつまでも いつまでも なでつづけた。











つぎの日、いちにち おくれで、うちの ほいくえんにも サンタさんが やってきた。

サンタさんは、まっかな ふくを きて、おおきな ふくろを もっていた。
しろい おひげが もこもこで おかしかった。

おおきな ふくろから おかしを たくさん だして、ひとりひとりに くばって くれる。
もちろん、オレにも。

サンタさんが おれの あたまに てを おいた とき、なんだか こんどうさんに あたまを なでられている ような きが した。
そういえば、せが すごく たかくて からだも ごっついし、よく にてるな。
でも こえは、きいたことのないような がらがら ごえで。
「かぜ ひいてるんですかぃ?」
って聞いたら、
「う、うむ、ごほ、ごほ」
って いってた。

オレが ちいさな こえで おねがいを しようと すると
「わかっとるよ、おねえさんのことじゃろう?」
だって。
サンタさんって なんでも しってるんだ!すごい!!

「総悟くんが大きくなって、お姉さんを守れるようになったら、必ず一緒に暮らせるようになるよ、約束しよう」
サンタさんは そういって わは、わは、と わらった。
その わらいかたも とっても こんどうさんに そっくりだった。

オレは、こんどうさんに それをいおうと おもったんだけど、なんでだか、こんどうさんは どこかに いってしまって、いなかった。

こんどうさんたら、ほんとうに どんくさい。
せっかく サンタさんが きてくれているのに!だいじな ときに いないんだから。

オレは、こんどうさんが かえってきたら、とってもやさしい サンタさんが きてくれたことを おしえて あげる ことにした。









あれから18年。
オレは今、近藤さんと同じようにチビどもを毎日かわいがってかわいがって、かわいがりまくっている。

「うーす、オレがサンタでぃ、てめーらにプレゼントやっからなァー」
完璧に変装してガキどもに夢を与える優しいオレ。


「なにが かんぺきだ!!!おもっきし総悟じゃねえか!!!」
クソガキチャンプの土方が唾を飛ばして抗議する。

「おきたくん、そんなチョビひげ つけただけで へんそうって それ、むりが あるよ」
したり顔の坂田。

本物のサンタが来ると思っていた高杉に至っては完全に涙目だ。

「るっせーや、赤帽がなかったんでぃ赤帽が。去年はあったのによォ」
「ぼうし とかの もんだいじゃ ねえ!!!かんぜんに お前 じゃないか!」
「やかましいわクソガキどもが!てめーらなんかどうせ家帰ったらゲームとかいろいろ買ってもらえんだろーが!まったくオレ達の時代とはえれえ違いだぜぃ」

そう言ってガキどもの顔を見渡して菓子を渡してまわる。

ふと、高杉のところで止まると、チビのくせにすげえ目で睨み上げて来やがる。
「ホラよ、いらねえならオレがもらうぞ」
菓子の袋を高杉に押し付けると、ひったくるように奪って背中をむけて教室の隅へ駆けて行く。
スモックのポケットからなにか紙切れを落として。

まったくあいつは繊細すぎて扱いづれえや。

溜息をつきながら、オレがそれをゆっくりと拾って広げると。
つい最近ようやっと高杉のアホがおぼえたというひらがな文字がミミズのようにのたくっていた。

全神経を集中させて、その難解メモを解読してみると、そこには
『おきたせんせいお おれのおよめさにしてく ださい』
と、でかでかと書いてあった。




(メリー・クリスマス!おしまい!)






















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