ぼくのだいすきなせんせい!(最終回)page2 





(さかた)
がまん できなかった。
おきたくんが、あんなふうに うなだれているのを みるのは。
それから、オレたちがまだまだガキで、おきたくんを たすけるどころか、あのおとこのひとや おきたくんにさえ、あいてに してもらえなかったという ことが。

オレと、たかすぎと、ひじかたは、さっきの おきたくん みたいに、 うなだれて、あたまを よせあって いた。

ぽつんと、オレが こえを だす。
「おかねが、ないんだ」

「おかね?」
たかすぎが、ビクリと はじかれたように かおを あげた。
きっと、しょうようほいくえんの ことを おもいだしたんだろう。

「おまえら、さっき ふたりが なに はなしてたか、わかったか?」
たかすぎと ひじかたが、ちょっとだけ かんがえて、くびを よこに ふった。

「うん、オレも わかんねえ」
「なんだよ それ」
ひじかたが もんくを いう。
こいつは もう ひらがなも ぜんぶ よめるし、 ABCも いえるから、しらない とか わからないって いうのが きらいなんだ。

「なにを いってるのかは わかんなかった。だけど、この ほいくえんが おかねが ないってことは わかった。だから あの おとこのひとに いじめられて いたんだ」
ごくりと ふたりが つばを のみこむ。

「このままで いいのか?」
じっと ふたりを みた。

「いいわけ ない」
ひじかたが こたえる。

「せんせいを たすける」
たかすぎの なにか けつい したような かお。

「よし。じゃあ オレたち さんにんで おきたくんを かならず たすけよう!」

「でも、どうやって、たすけるんだ」
と、ひじかた。
「おかね・・・オレ・・・・ない・・・。おとうさんが、ことし はじめて、おしょうがつに おとしだま くれた。それしか ない。・・・それも・・・かめんらいだーの がむ かったから・・・・・」
なきそうな かおで たかすぎが いいだした。

「うん、そうだな。オレたちは おかねなんて ほとんど もってない。くやしいけど、オレたちだけじゃあ どうにも ならないんだ。だから だれかに たすけて くれるように おねがい しよう」

「おかね、いくら くらい なんだろう。ひゃ、ひゃくまんえん、かな」
ひじかたは ひゃくまんえんに こだわっている。

「それは おまえらの ダッコの しゃっきん だろう」
「しゃっきんて なに」
「たかすぎは なんにも しらないんだな、おかねを かりたことを しゃっきんって いうんだぞ。おまえも おれも、もう なんじゅうひゃくまんえんも そうごに しゃっきん してるんだぞ」

「いま それは かんけい ない。とにかく、だれかに たすけてくれるように おねがい するんだ!」
オレは ひじかたと たかすぎの 目を みつめた。
ふたりも しんけんな かおを して、オレを みる。
三人で、みぎてを かさねた。

「よし、じゃあ おのおの がんばろうぜ!!」

おのおのって なに?とたかすぎが きいてきた けど、 しらんぷりして オレは おむかえの さるとびさんと いっしょに、いえに かえった。






「どうしたんだ銀時、一体それは何の真似だ?」

じゃけっとを ぬいで、ねくたいを ゆるめながら、おとうさんが いった。

オレは、おとうさんの かえりを まって、ずうっと りびんぐの じゅうたんに おねがいの かっこうをしながら、つっぷして いたのだ。

「なんだお前、饅頭みたいだな」
オレが まるく なっているから おまんじゅう なんて いったんだろう。それとも おみやげ かしら・・・。

「おとうさん!いっしょうの おねがいが あるの!!」
オレは かおを しっかりと あげて、おとうさんを みた。
「一生のお願いってお前それこの間運動会の時に使ったんじゃなかったのか?」
・・・・そうだった・・・。オレはおとうさんに、うんどうかいに きてくださいって いっしょうの おねがいを つかってしまったんだった。

「い、いまかんがえると あれは いっしょうの おねがいを つかうほどでも なかった かな」
テヘヘと わらうと おとうさんも フ、と わらった。
おとうさんは まえ こんなに やさしく わらう ひとじゃ なかった。

「で、お願いってなんだ」
オレは、すうっと くうきを すいこんだ。
「お、おかね かして ください!!」
「金?」
おとうさんの 手が とまる。

「はい!!」
「金って・・・・なにかほしいものでもあるのか?」
「はい!!」
「なんだ、言ってみろ」
「ほいくえんです!!!!」
「ほ、保育園!!!???」

「おねがい おとうさん!!おれに ほいくえん かって!・・・ちがう、ほいくえんを、たすけて!いや、あの・・・おきたくんを・・・たすけてほしいの!!」
「ちょ、ちょっとまて、訳が分からん、落ち着け・・・」
「おとうさんは かいしゃで えらいひと なんでしょう?おかねも いっぱい もってるんでしょう!!???」

「いや、だから、もっとちゃんと話せ、なんだ、どうしたんだ、どういうことだ」
「あ、あかとうがらしほいくえんが・・・おかねが ないんだって・・・だから・・・だから・・・おかねが ないと おしまいに なっちゃうかも しれないの!!」
「・・・・・・」
「おねがい!おねがいします!おとうさん!!!おきたくんを、たすけてあげて!!」

おとうさんは、じっと、オレを みつめていた。
それから、あしに すがりついていた オレをそっと だきあげて、いっしょに ソファーに すわった。
おとうさんの ダッコ、ひさしぶりだ。

「銀時、保育園がお金が無いって言うのはどうしてそう思うんだ?」
「オレ、オレ、こっそり聞いちゃったの、えんちょうしつで」
「そうか。で、お前は保育園を助けてあげたいって思ったんだな?」
「ほいくえんって いうか・・・。おきたくんを たすけたいの」
「おきた君?」
「うん、オレのね、せんせい」
「先生?・・・・そうか、銀時はその先生が好きなんだな」
「うん!だいすき!!」

おとうさんは ふうと ひといき ついて。
ゆっくりと オレを ソファーの となりに すわらせた。
そうして しばらく だまっていた。

「銀時」
「はい」
「前はお前、うれしいときも悲しい時もあんまりお父さんにそう言わなかっただろう?」
「・・・うん」
「だから、この間、運動会にきてほしいってお前が言った時、お父さん嬉しかったんだ」
「そうなの?」
「ああ、だからお前が保育園のことを心配しているなら、お父さんもなるべくお前の望むとおりにしてやりたい」
「えっ・・・・じゃあ・・・・」
「だけどな、保育園って言うのは、先生をたくさん雇ったり保育園の建物を管理したりものすごくお金がかかるんだ。それこそお前が考えているよりずっとな」
「・・・」
「お父さんは会社でがんばってお仕事しているし、少しなら保育園に寄付もできるだろう。寄付ってわかるか?」
「わかんない」
「お金をあげることだよ」
「ほんと!?」
「ああ、だけど、お父さんの持っているお金なんてほんの少しなんだ。お父さん一人では保育園を助けることはできない」
「そんな・・・・・・」
「お父さんは個人としてはお金をたくさん持っている方だろう、それでもな、今目の前の借金をなんとか補填・・・うーん・・・なんとか返しても、すぐにまた借金の期限・・・借金を返す約束の日がくるんだ。言ってみれば、今お父さんがほんの少しお金を用意してあげたって意味がないんだ。まあ、赤唐辛子保育園がどういう状態なのか、わからんがな」
「いやだ・・・・そんなの いやだ!!おねがい!おとうさん!!!ほいくえんのこと しらないなら、おはなし きいてよ!おきたくんに、ほいくえんのこと きいて!おねがい!!おねがいします!!オレ、いっしょう おこづかい いらない!おとなになったら はたらいて おかね かえす!かえします!!だから・・・だから・・・おねがい!!」
オレは、じぶんから おとうさんに だきついて しゃくりあげた。
こんなに、ちからいっぱい ないて、あかちゃん みたい だった。

おとうさんは、こまった ような かおをして、いつまでも オレの あたまを なでて いた。






(とおしろー)
さかたは、じしんまんまんで いえに かえって いった。
あいつは いえが おかねもち だから、なんとか できると おもっているんだろう。
だけど、オレだって そうごを たすけたい。オレの ちからで そうごを あんしん させて やりたい。

オレは、おむかえが くるまで、ずっと かんがえていた。
どうしたら、そうごを たすけて あげられるんだろう。
どうしたら、この ほいくえんを たすけて あげられるんだろう。

でも、なんの かんがえも うかんで こなかった。
たかすぎを みると、おなじように いろいろ かんがえているような かおを していた。

おとうさんが、むかえに きてくれて、オレは とぼとぼと ほいくえんを でた。
オレのいえは ともばたらきで、しかもおとうさんが じぶんの おしえている こどもたちに いっぱい おかねを つかうので、とても あかとうがらしほいくえんに おかねを あげることなんて できない だろう。
ほいくえんの もんを でて。
したを むいて ぐずぐず あるいていたら、みちの はしから、オレをよぶ こえが した。

「坊主〜〜〜、ど〜うしたぁ〜?しーけたツラしやがってぇよぉ〜」
みると、まつだいらの おっちゃんが、カタヌキを売っていた。
「ぃいっちょ〜〜、やぁっていかねぇかあ〜?」

「・・・・きょうは、そんな きぶんじゃ、ない」
「どぉ〜〜した〜〜、ガキってのはよーう、こう言うモンにゃ喜んで飛びつくもんだぜぇーい」
じろりと、まつだいらのおっちゃんを にらんで。
「おとうさん、いこう」
といって おとうさんの 手を ひっぱった。
「ん?ああ、行こうか・・・・てか、あれ、誰だ?」
「まつだいらの おっちゃん。いつも ここで いろいろ おみせ やってるでしょ」
「そうだっけか・・・・・まつだいら・・・まつだいら・・・・まつだいら・・・・まっ・・・つだいら!!???」
おとうさんは、ものすごく でっかい こえで、おどろいて ふりかえった。
そして まじまじと まつだいらのおっちゃんを うえから したまで ながめて。

「あっ・・・あの・・・・!すみません、あなた、ひょっとして、市長の松平片栗虎先生ですか!!??」
と言った。

しちょう?
かたくりこ????

「なに?おとうさん」

「クックック・・・ばーれちまったらしかたねえなあ〜〜。いや〜〜、案外こうやってたら誰にも気づかれねえモンよ」
まつだいらの おっちゃんは、パンパンと ズボンの ほこりを はたいて たちあがった。

「な、、なんでまたこんなところで行商人に身をやつして・・・・・」
あせって しつもん する おとうさんを むし して、おっちゃんは オレを みた。

「しーちょうってのはよぉ、こぉーの街でぇ、いーちばん偉い人のことなんだぁぞ〜」
そういって うすよごれた 手で オレの あたまを なでた。

「いちばん・・・・?いちばん えらいのか?」
オレは、ピコンと かおを あげた。
「そぉーだぁー、おおっちゃんはなぁ、偉い人の中でもぉ特別だからなぁ、普通はぁ大きな椅子にふんぞりかえっているところをなあ、この街の保育園がちゃんとしてるかどうかぁ〜、こうやっていつも見に来てたんだぞぉ〜〜」
「・・・いや・・・・公務をサボって所在不明の市長だって有名・・・ぶごおっ!」
おとうさんが、まつだいらのおっちゃんの こぶしを がんめんに うけて、げほげほと むせた。

「どーぉしたぁー?おっちゃんは〜偉い人だぞぉ〜、なんでそんな顔してんのか言ってみろ坊主〜」

「か・・・かね!!!!」
「あぁ〜〜ん?」
「かねくれ!!!かね!!!」
「なぁんだお前はぁ〜〜、そーんなガキの頃から金の話ばっかぁしってぉ・・・碌な大人にぃ・・・・ん?お前この間のヒヨコのガキかあ〜?前も給料の話なんぞしてやがった〜なあ?」
「おっちゃん うちの ほいくえん みてたんだろ?いいほいくえんだろ?なあ!」
「ああん?あー、まーなぁ〜、ガぁキどももぉ、生き生きしやがってぇ、なーかなかのぉ保育園だなあ」
「じゃあ・・・・じゃあ・・・・・うちの ほいくえん たすけてくれよ!!!たのむから!!」
オレはおっちゃんの うすよごれた ズボンに しっかりと しがみついた。

「うう〜〜〜〜〜〜ん?たぁすけるって言ったってなーあー?何を助ければいいのかおっちゃぁん知らねえんだぁーなあ」
「なんだよ!だから さっきから いってるだろーが!かねが いるんだって!かねが!!」
おとうさんは、オレのうしろで ぽかんと している。

「そうは〜いってもなーあー?この保育園はよぉ〜、おっちゃんのモンじゃねえんだぁよぉ。市立じゃあねえからなあ」
「おねがい!おねがいだから!!!オレ、なんでもするから!」
ぴくりと、まつだいらのおっちゃんが うごいた。

「なんでも?」
「なんでもする!!!」

「でぇっかくなったら、おっちゃんの下で働くかぁ?」
「はたらく!!!!」
「本当かぁ?」
「きゅうりょうが よかったら!!!」


「あ・・・あの・・・十四郎????松平・・・さん???」

おとうさんだけが、たったひとり ぽつねんと おいてけぼりで、おれたちの かいわに くびを かしげていた。






(沖田総悟)
「あの・・・・・・・・ぉ・・・・一体、どういうことでしょうか」
俺は、畏まったおっさんを前にして、所在なく園長室のソファーに座っていた。

「失礼ですが、当面の運営資金がどのくらい必要か教えていただきたいのです」
「は・・・あの・・・あのお・・・・」

このおっさんは、てかまあ30代半ばなんだけど、若くして大企業の役員を務めている坂田の親父さんだ。上場企業の会長の孫だかなんだからしい。

「あくまでも、私の個人的な援助・・・といいますか、お気持ち程度しか寄付できません。しかしながら、何かしらの協力をさせていただきたいのです」
「ご寄付・・・・ですかィ・・・」
「はい、銀時のたっての願いでして、少々の寄付と、運営資金の一部をお貸ししたいと考えております」
「ほ、ほんとう・・・ですか」

いきなりの訪問だった。
坂田の親父さんは、仕事に忙しく、保護者会なんかも碌に顔を出さない人だった。
なのにこれは一体・・・・・。坂田のたっての希望ってどういうこと、だろう。。。

「ただし・・・・・寄付金の方は私共の厚意としてお受け取り頂きたいのですが、回収の見込みのない資金援助をすることはできません。これからの運営方法と展望がしっかりしたものでなければ・・・」

「あの・・・それに関しましては、先ほど・・・・市長さんがいらっしゃいまして、えーと、なんだか知んねェんすけど・・・5年後をめどに個人運営から社団法人化して、認可保育園を目指す…って・・・話・・・に・・・・・」

何が何だかわからなかった。
午前中、いきなり松平市長とやら(俺は知らなかったんだけど)がやってきて、以前からうちの保育園を視察していたとかなんとかぬかしやがった。
正直なにがなにやらわからない事業計画も長谷川さんと話しこんで、ある程度の方向性を決めてしまった。
あとは長谷川さんがまとめて市に提出してそれが認められればいいらしい。

一人状況を理解できない俺に、松平市長は謎の言葉を残して立ち去った。
「なぁ〜〜に、礼ならひーじかたの坊主に言いなァ。あーいつが将来きっとおめえの保育園を助けてくれっからよぉ〜〜」

それを話すと坂田さんは優しく微笑んだ。
似てる。坂田のチビに似てる。
あいつも、大きくなったら、こんなふうに懐のでかい笑顔で笑うようになるんだろうか。

「わかりました、それならば安心です。一緒に、この苦難を乗り越えましょう」
そう言って坂田さんが右手を差し出した。

俺は呆然として。
まだなんのことだかわからないままに、その手を握り返した。




通常の保育時間が終わって、俺は職員室で長谷川さんと話をしていた。
もちろん事業計画についての説明を受けているのだ。俺は全然全くわからないから。
この人はまったく優秀だ。
昔は有名な事務所で企業相談の窓口を担当していたらしい。なんだか知らないけどリストラにあったそうなんだけど。



意味のわからない話で俺の欠伸が出始めた頃、背後で職員室の引き戸がずるずると動いた。
振り向くと誰もいない。

いや。
机なんかに隠れて見えねえけど、高杉の藍色の頭が、ちまっと動いている。
俺は戸口まで歩いて行って高杉を見下ろした。
何が気に入らねえのか、でっかい片方だけの目で俺をぎっと睨んでいる。

「なんだ、お前きょうは居残りか?」
こくりと、頷くだけ。

何だこいつもホント扱いにくいガキだな・・・。

「園長室、来るか?」
むすっとしたツラで再び頷いた。

毎日ガキどもを相手にしてりゃあわかってくる。特にこいつは。
この顔は、もうちょっとでベソかきやがる顔だ。

抱っこなんてしてやらねえで園長室への道を歩く。
だんまりでトコトコと俺についてくる高杉。

「入りな」
貧乏くさい扉を開けて、ちびすけが園長室の中に入ってから再び閉める。
無言で高杉は園長室のソファーの前まで来た。

「どうしたってんだ、何か言いたいことでもあンのかァ?」
ソファーにどっかり座ってちびすけを見下ろしていると白い眼帯が前髪からちらちらと覗いて、つい触れたくなる。
高杉は、一歩ずつゆっくりと俺の側に近付いて小さな身体でソファーによじ登ると、俺の膝の上に勝手にに乗っかって、泣きそうな仏頂面のまま、オレの胸にぎゅ、としがみついた。
胸に顔を埋めたりしねえで、そっぽを向いて口をへの字に曲げていやがる。

「あーん?どうしたってんだ、ホレ、言ってみろ」
ゆさゆさと腹をゆすってやるが、おんなじツラのまま揺れている。
「おーい、いい加減にしろよ?テメーあんまりだんまりだと俺だっていつまでも優しい先生じゃあいられないぞ〜?」
そんなに泣くの我慢なんてしていやがるんなら、ポケットからバイオハザードのゾンビカードを取り出して高杉の目の前に押し付けてやろうかななどと考えながら、高杉の顔を覗きこむ。

「・・・・せぃ・・・」
ようやっと小さな小さな声で高杉が俺を呼んだ。
「ん?」
俺が首をかしげて高杉の目を見ると高杉の大きな瞳から、じわりと涙が生まれた。









(たかすぎ)
なにか、いったら なみだが こぼれそうだった。
のどの おくに、ごろごろとした こいしが つまった みたいで。

オレは せんせいの むねに ぎゅっと しがみついて、なくのを がまん していた。
それなのに、せんせいが オレのかおを のぞきこんで とっても かわいい かおで おれのことを みる もんだから。
オレは ついに じぶんの 目に なみだが たまってしまったのを かんじた。

「せんせい・・・・オレ・・・・オレ・・・だめだった」
「ん〜〜〜〜〜??なーにが駄目だったんでぃ」

せんせいは、こんなときでも すごく かわいい。
オレが、こんなに かなしいのに。

「オレ、あのひ・・・・せんせいと・・・あの・・おとこのひとが、いっしょに いるの すごく いやだった」
「あ〜〜〜〜〜・・・・」
「だから・・だから・・・この・・・この ほいくえん ま・・まもる、ために・・・おかね・・・おかね なんとか しようって・・・」
せんせいの かおが いきなり ふきげんに なって オレから 目を そらした。

「と、とおしろーとか・・・さかたは・・・・ちゃ・・ちゃんと・・・た、たすけてくれる・・ひと、みつけて・・きたのに・・・・オレ・・・オレだけ、だれも・・なんにも・・・みつけられ・・なかった・・」
うまくしゃべれない。
のどの おくから ひっく、ひっくって なにかが あがってきて オレが しゃべるのを じゃま するんだ。

「オレ、いっしょうけんめい、さがした、のに・・・。せんせいを、なかせないって、きめた・・・のに・・・」
かなしくて かなしくて しかたなかった。
オレは、なんの やくにも たたなかった。
けっきょく あかとうがらし ほいくえんに きて、せんせいに しんぱいを かけて、かってに オレが 木から おちて、せんせいを なかせた だけだ。

こんなんじゃ、せんせいを およめさんに なんて できない。

「ごめんなさい・・・・」
オレが そういった とたん、よこを むいていた せんせいが ぎゅ、と 目を ほそめた。

「オレ、ごめんなさい、せんせいのこと たすけて あげられなくて、ごめんなさい」
かなしかった。
オレが かっこよく せんせいを たすけてあげて、そしたら せんせいが おれの およめさんに なってもいいって、おもって くれるかも しんねえって おもってたから。
だから、それが できなくて、まるで せかいが おわっちゃった みたいに かなしくなってしまった。
ずうっと がまんしていた なみだが ぼろぼろと こぼれて、すごく はずかしかった。
せんせいを なかせない って きめたのに、じぶんの なみだ さえ、オレは じぶんで すきに できないんだ。

「・・・・バーロィ」
ぽつねんと せんせいが いった。

せんせいの かたが ふるえて いる。

「あ・・あやまらなきゃ、なんねえのは、俺の方だってんだ」
くちびるも ふるえてる。

「お、おまえら・・・ガキどもに・・・・一番見せちゃなんねえとこ、見せて・・・・。金・・金の心配なんてさせて・・・・・・俺が、俺の方が・・・教育者・・・失格・・・なんでィ」

ああ・・・・・。
オレは、ほんとうに ばかだ。
なかせないって えらそうに いってた のに。
せんせいが・・・・なきそうだ。

「おねがい・・・せんせい・・・・・。オレ、オレ、なんにも できねえけど、せんせいが・・・ずっと、せんせいでいてくれねえと、いやだ。まえ・・・まえにいた・・しょうようほいくえんも、おかねが なくって おしまいに・・なった。オレ、おしまいに なっちゃった ときに、おかあさんに・・・お・・オレのことが きらいに なったから しょうようせんせいが どこかに いっちゃったの?って きいたの。・・・そ、そしたら・・・おかあさんは、そうじゃなくて、お、おかねが なくなった からだって・・・・・。でも・・でも・・・。しょうようせんせいは、オレたちには、なんにも おしえてくれないで、かってに おしまいに なっちゃって・・・。そんなの・・そんなのは、もう いやだ!!!かってに、かってに おしまいに して、どっかへ いっちゃったり しないで!!」

がばりと、せんせいの むねに かおを うめた。
「おねがい!おねがいだから!あんな、いやな ひとと、なかよく しないで!!!おねがい!!!」

とうとう、がまんできなくなって、オレは わあわあと おおごえで なきだして しまったんだ。
「ごめんなさい・・・オレ、、オレだけ・・なんにもできないで・・・ごめんなさい・・・」

「ば・・・バーロィ、言ってみればよ・・・土方や坂田だってあれァテメエの力だけでやったんじゃねえんだ。実際に助けてくれたのは、親父さんだったり松平のおっさんだろーが。だけどな、お前らがそうやって赤唐辛子保育園の為に一生懸命になってくれたことが、嬉しいんでィ・・・・。お前がこうやって・・・・・保育園をお終ェにしてくれるなって、、言って・・くれることが、うれしい・・んじゃ・・ねぇか」

せんせいは、オレを ぎゅうって だきしめて くれた。

オレはもう なみだが いっしょう でつづけるんじゃ ないかって おもうくらいで。
オレの 手に さわっている、せんせいの あったかい からだは、かってに いなくなったりしねえんだって、そう おもった。

そのとき、えんちょうしつの とびらが がちゃりと あいて。
とおしろーと さかたが とびこんで きた。

「テンメッ!ぬけがけ してんじゃ ねえ!」
「いくら たかすぎでも おきたくんは ひとりじめ させないからね!」


せんせいは、すこしだけ 目にたまった なみだを ぐいと ふいて。
「テメーら!!何度言ったら分かるんでィ!!おとなしく教室でそのちんまい身体よせあつめてやがれィ!!!!!」
って いつもの おおきな こえで えらそうに どなった。










きょうは、あかとうがらしほいくえんの そつえんしきだ。

オレも、さかたも とおしろーも びしっと きめて おとこまえが あがったって おかあさんに いわれた。

しきが おわって、みんなで きょうしつに もどってきて、さいごに せんせいの おはなしを きいた。

「てめーらはもう小学校に上がるわけだから〜、もう大人ってこったぁ。大人ってのァ世話になったら忘れねえもんだぜィ、だからよぉ、ちょくちょく俺にお菓子とかもらった小遣いとか持ってくんだぜ〜ィ。わかったな?」
まったく いつもどおりの せんせい だった。


そして、みんなが わらわらと かえって いく。
おかあさんたちが、せんせいに あいさつ して、こども たちも ばいばい して。

さかたと とおしろーも それぞれ むねが いっぱいに なっているって かおで せんせいに さよならを していた。
さかた なんて、せんせいに だきついて ないてた。
あんな さかたは はじめて みた。

オレは、おかあさんに「ちょっと まってて」って いって、とことこと せんせいの まえまで あるいて いった。
オレは きょう、せんせいに ひとつ いうことが あったんだ。

「お、高杉ィ、卒園おめでとーな」
せんせいが オレの かおの たかさ まで、しゃがんで くれた。

オレは だまって みぎての こゆびを さしだした。
「ん?なんだこれ、ゆびきりか?」
つられて せんせいも きれいな しろい こゆびを だす。
オレは、その こゆびを ぎゅ、と じぶんの こゆびに ひっかけて、ぶんぶんと ふった。
「なんでィ、いってぇなんの約束でー」
きょとんと している せんせい。

「やくそく」
オレは きょう、ふたつの きめごとを してきた。
ひとつは、せんせいと やくそくを すること。
もうひとつは、ぜったいに なかない こと。

「オレ、おおきく なったら せんせいのこと むかえに くるから。それ・・・それまで・・・まってて」
そういって、こゆびを ぎゅっと 手で にぎりこんで ひっぱった。
せんせいは、おっとって かんじで、オレの ほうに すこし よろける。

オレは せんせいの ほっぺを りょうてで おさえて、ちゅっと くちを くっつけて やった。

「なーにしやがんでぃ」
ぴこんと おでこを はじかれた。

やった!!!!
せんせいと ちゅーしたぜ!!



オレは うれしくなって かおが かってに わらって しまった。

「せんせい」
「ん?」
「せんせい・・・やくそく・・・・・」
「約束かー」
「おねがい・・・オレ・・・・ぜったい むかえに くるから」

「え〜〜〜〜〜、大人ってお前何年後だっつの。お前らの脳みそなんて虫みてえな大きさなんだから、明日になったら忘れちまってるって」
「ちがう・・・そんなこと ない。オレおぼえてる! せんせいが・・だいすきだから・・・・。オレ・・オレの、およめさんに、なって・・・・・」

「うーーーーーーん、どうすっかなぁ・・・・・」

そのとき、おかあさんが オレを よんだ。
「晋ちゃん!お父さんがお食事に連れて行ってくれるって!早くいらっしゃい!」
「ぁ、まって・・・」
「早く!もう来てるのよ。保育園の前、長い事車停めていられないから」
そういって、オレの手を ひっぱって ほいくえんの もんの ほうへ つれていく。

「せんせい!!!」
なかないって きめたのに。オレは なみだが でそうになった。
せんせいから、まだ へんじ もらってない!!

せんせいは ゆっくり たちあがって、あたまを ぼりぼりと かいた。
それから、こっちを むいて。

にっこりと。
おはなみたいに オレのだいすきな かおで、わらった。
とっても、とってもきれいだった。

そして。

「なるべく早めになァ、でないとマジで俺おっさんになっちまうからな〜」
そういって おおきく てを ふったんだ。



せんせい。

せんせい。

まっててね。

ぜったい、まっててね。

オレ、はやく おおきく なって、せんせいを むかえに いくから!!!!

まっててね。

オレの だいすきな せんせい!!!!!!!!!








(了)










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