ごあいさつ(地獄編) |
「おーきたくーん、なんでー、喪服着てるのお?」 俺は向こうから かわウィーらしく、トコトコとやってきた沖田君に声をかけた。 待ち合わせに6時間も遅れてくる自由な沖田君。沖田君以外だったら本当俺5分で帰ってるよ! キョトリとするミルクティー頭。 「だってえ、旦那今日土方さんに挨拶するって言うから」 「から?」 「最初から喪服着ておいたら着替えなくて済みやすから。通夜は万事屋の二階ですかィ?ちったぁ綺麗に片づけて置いた方がいいですぜぇ」 「いやいやいや、旦那死なないから。まだ死ぬような歳じゃないからね!」 「旦那ぁー、俺になにかしてほしいことねえですかィ?」 「やめてよ、もう助かる見込みの無い病床の人間に話しかけるようなの、やめてよ」 俺と沖田君はつきあっている。 つきあっているのだ本当に。 つきあっているったらつきあっている。 沖田君が俺の事を好きだというのだから仕方ない。 この間、真選組の鼻クソゴリラになんとか許しをもらった俺達だが、まだまだ天より高い障害が目の前にそびえ立っているのだった。 新撰組鬼の副長、ヘタレニコマヨラーうんこ土方十四郎。 こいつの許しをもらう、なんてのは腹が立って仕方ないのだけど、ここの保護者達の過保護っぷりったらない。 このままでは、俺の夢である「しっぽり温泉旅行☆雪の露天風呂湯けむりチョメチョメチョメチョメツアー」が実現しないのだ。 なにしろ門限とかあるんだから。 門限だぞ。 もう知んない。 夜番の時はどーなんのよ。保護者同伴だからいいってか? 信じらんない。 バカじゃねーのあいつら。 ・・・まあそんなわけで俺はとりあえずクソマヨラーにも「沖田くんにツバつけました」宣言をしにいくわけなのだ。 「旦那、旦那ぁ」 「何、沖田くん」 俺はチョロチョロと俺の周りをまわりながら袖を引く子供を見降ろす。 「旦那、葬式代とかあるんですかィ?」 ものっっっすごい真剣な顔。 「いや、死なないって言ってるじゃないの、なにそれ旦那に死んでほしいの?沖田くん」 「そうでもないでさ」 「もうちょっと死んでほしくない寄りの答えがほしかった・・・・・・。いや、そうでなくてさ、俺があのマヨラーに負けると思ってんの?沖田くん」 ちょっと心外そうに言ってやると、栗頭がことりと横に倒れる。 「思ってやす。腐っても奴は真選組副長でさ。旦那の罪状なんて簡単に作れやすもの。ああっ、旦那今夜のうちに切腹でさぁ」 そっ、そんな理不尽がまかり通ってなるものか! 「大丈夫だよ、いくらなんだってそんなことまでするもんか、さ、いこいこ。銀さんすっごい頑張って働いて、温泉の予約とったんだからあ」 「はぁ」 なんて会話をしている間に屯所の門の前に来た。 俺は沖田君の腰をそっと押して先に門をくぐらせると、その後を悠然と追って中に入った。 「ひじかたさーん、入りやすぜ」 「後にしろ、今忙しい」 「ひゃー、煙草控えたほうがいいですぜ、マジで。煙で前がみえねえや」 「聞いた?聞いてた?今俺の言ったこと聞いてた?総悟!・・・あ?てかなんでお前喪服なんか着ていやがる」 「旦那ァ、入ってくだせえ」 「無視すんじゃねえ!だから今は忙し・・・・・旦那?」 俺は沖田くんがスラリと開けた襖からマヨラーの部屋に入った。 「ごめんね〜、忙しそうなとこ。まあどうせ煙草にマヨネーズなんかつけて吸ってただけだろうけど」 「なっ!なんだテメエ!なんでこんなところにいやがる!総悟!お前か!?こんなところまで入れやがったのは!殺虫剤だ!殺虫剤持ってこい!」 「いや俺害虫じゃないから」 「総悟、はやいとこそいつをつまみだせ。とにかく俺は忙しい」 ケッ。 なーんでい、忙しい忙しい連発しやがっていかにも「俺はエリートです」みたいな顔しやがって死ねこのクソマヨラー野郎が。 「ちょっと、話あんだけど」 俺は舐められねえように、沖田君の兄であり上司である黒いマヨラーを睨みつけた。 「総悟、お前アレ出したか?」 「アレ?」 「アレだっつの、昨日お前が言ったんだろうが、外泊の届け出」 「ああ!書きやした!ハイ、これ」 「俺に出すな俺に。山崎が集計して俺んとこもってくるからまず・・・・・・ん?」 「いや『ん?』じゃなくて!!!!完全俺無視してるよね!?マヨラーくん!!!」 「総悟、なんだってこんな5日間も連休とるってんだ」 「温泉に行くんでさ」 「温泉?誰と」 「俺だっつーの」 我慢できなくなった俺はずいと糞マヨラーの前まで歩を進めた。 どんだけ人を無視すんだこいつら。 「旦那が土方さんに話があるってんでさ」 沖田君が横から声をかけてくれた。 「ああ?話?ねえよ、何にも」 「そっちにはなくてもこっちにはあるんだよ」 「俺もありやす!俺と旦那からでさ!」 「忙しいっつってんだろーが!どうせ二人とも金がねえもんで団子屋の払いでも俺におしつけようって話だろ?」 「金ならありやす!ほら!!」 「財布出すなっつってんだろーが人前で!あっお前もうこんなに使ったのか?帳面はつけてるんだろうな」 はっ・・・話がすすまなああああああああい!!!!!!! 帳面ってなに?まさかの小遣い帳!!!??? なんでクソマヨラーが沖田くんの財布の中身まで把握してんの気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!! 「帳面なんて面倒なんですもの!土方さんがつけてくだせえ!今から今日使った分思い出しやすから」 「お前いつまでたってもそんな依存心強くてどうする!・・・チッ、仕様がねえな、オラ帳面持ってこい・・」 ばん!!!!!! 俺は副長室の畳に力いっぱい手のひらを叩きつけた。 なんだこいつら。どんだけ仲いいの? 「ちょっと。いいから・・・・・話、聞いてよ」 大きな音に、いちゃいちゃ兄弟がこっちを向いた。 よし。 「全体お前は無駄遣いが多い!」 「うるせえな!帳面持ってくりゃいいんだろィ!」 「どういう口の利き方だ!お前ホント来月から小遣い減らすぞ!」 「ちょおっとおおおおお!!!!!!なんで!?なんでそこまで無視すんのお!?ってか沖田君!沖田君まで俺のこと完無視になってるよ!?」 「あ、すいやせん旦那、ちょっと土方さんがうるせえから帳面取ってきやすんで」 「ストーーーップ!!!帳面はいいから!いいからここ!ここ座って!!」 オレは必死になって俺のとなりをバンバンと叩いた。 沖田君はやっと「はあ」なんて言いながら俺の隣に座ってくれた。 ああ・・・これで・・・・やっと・・・話ができる・・・・。 ごほん。 俺が咳払いをしてクソマヨラーもようやっと苦虫を噛み潰したような顔で俺達の方を向いた。 後ろ手で煙草を取ってかちりと火をつける・・・・・・。 火を・・・・・・・。 火をつけた途端、煙草はめらめらと1メートルほどの炎を立てながら一瞬で燃え尽きた。あやうくクソマヨラーの前髪が焦げるところだった。てか焦げた。実際。 「うぉおおおおおお!!!!!!!」 クソマヨラーがびびって煙草とライターを放り投げて後ろに倒れる。 「ぶっ」 俺の横に座っていた沖田くんが急に噴き出した。 「ブアハハハハハハハハ!!!!めちゃくちゃビビってやんの!土方さん!!!ギャハハハハ!!」 ばんばんと床を打って笑い転げる沖田君。 「テンメ!総悟!!いいかげんにしねえか!火傷するところだっただろうが!!!」 「ウギャハハハハ!!!だっさ!だせえでさ!!!飛びのいてやんの!!だっせぇ、ひじかたぁ!!」 あ・・・・あの・・・・・・。 俺は二人が仲良く喧嘩しているところを呆然と見つめた。 これは・・・・・これは、ひょっとして・・・・・・。 まさか・・・・・。 一生本題に入れないんじゃないだろうか・・・・・・。 「煙草に悪戯している暇があったら始末書の一枚でも書きやがれっつってんだよバーロイ!!!」 「きゃああああ!ひじかたさんがご乱心だー!!みんなぁ、来てくれィ!」 「うるせえ!そこ座れ!おい!座れっつってんだろうが!!!おい!総悟!!!!」 俺は二人の方へ伸ばした手を、どうすることもできずに、ぴたりと止めた。 だって・・・・・・。 だって・・・・・・・・・。 いくらクソマヨラーに負けるつもりなんかなくたって・・・・・・。 とりあえずごあいさつさせてくんないとお話になんないじゃああああああああんん!!!!!!! ちらりとまだまだ仲良くじゃれあう二人を横目で眺めて。 完全に自分が魔の永久運動地獄にはまってしまったことを、知った。 おねがい。 話・・・・・聞いて・・・・・・・・・・・・・。ひじかたクン。 (了) |