ぼくのだいすきなせんせい!(2) H.23/06/25


ひじかたとおしろー編。
挿絵がすばらしい。挿絵のシーンのチョイスがすばらしい。パール氏ありがとう。






(2)ひじかたとおしろー


「本当にものすごくかわいくて良い子だったんだぞ、総悟は」
オレのおとうさんは いつもそうやって そうごを ほめる。

「保育園の子供はみんなかわいいんだけどな、総悟は特別だった」

オレは4にんきょうだいの すえっこだ。
おとうさんは38さい。
なまえは こんどういさお。オレと おとうさんは うえの なまえが ちがう。
なんでかっていうと、けっこんしたとき おかあさんが なまえが かわるのが いやだったので、もとの なまえをつかっているんだ。オレも おかあさんの、「ひじかた」という なまえを つかっていた。


おとうさんは ほいくえんの せんせいを している。
オレが かよっている あかとうがらしほいくえん じゃなくて、もっと とおいところの ほいくえんだ。
そうごは その、おとうさんが はたらいている ほいくえんに かよっていたんだって。

オレは ほいくえんに はいる まえから、そうごは かわいいかわいいと いわれつづけていたので、あの そうごを、てんしみたいな ひとだって おもってしまって いた。

わくわく しながら にゅうえんびを まって。
はじめて そうごに あった ときは、オレは もう むねが どきどき してしまった。
だって おとうさんの いうとおり、ほんとうに かわいいんだもの!

なのに。

そうごは おれを ひとめ みるなり

「近藤さんににてねえな〜、なんだそれ、マヨネーズ臭いと思ったらお前持ちこみかよマイマヨかよ、保育園は飲食物持ちこみ禁止だぜィ」
なんて むかっぱらの たつことを いいやがった。
はじめて あうのを たのしみに していたぶん、あの せいかくの わるさに がっかりしてしまった。

うまれてはじめて おとうさんを うそつきだと おもった。
ぜんぜん、かわいくないじゃないか、そうごは。
かおは べつだけど。

おれは くやしくなって いいかえした。なんでも まけるのは きらいなんだ。
「おとうさんは そうごが かわいいって いってたけど、ぜんぜん かわいくねえな。こんじょうわる!いえにかえって おとうさんに いいつけてやる!」

そのとたん、そうごは すげー こわいかおに なった。まるで えほんに でてきた ゆきおんな みたいに。

「テメー年上に向って呼び捨てたァどういうことだ。総悟先生ってよべ総悟先生って」
そうして オレの りょうほうの ほっぺを ぎゅうと つまんで ひっぱった。

「ひ、ひてえ・・・ひゃめろ・・・・・」
「あはははは、言え、総悟先生って。お前なら言えるはずだひじかたー」
オレは ぶんぶん 手をふりまわしたけど、ぜんぜん そうごには とどかなかった。
いてえ・・・・・。

ふつう おとなって こういうとき、てかげん するもんじゃねえのか??
「なんだなんだ泣くか?泣くのかァ?」
こころから うれしそうな かお。あたまが おかしいんじゃ ないだろうか。

いたくていたくて なきそう だった。だけど、なくもんか。なくもんか・・・・。
だんだん いたみが つよく なっていく。
がまんして がまんしたけど、とうとう オレは ぽろりと なみだを こぼしそうに なった。
そのとき きゅうに そうごの 手が はなれて、おれの ほっぺは じゆうに なった。
だけど、ほっぺは ひりひりして こえも でないくらいだ。

ふん、とはなを ならして、そうごは たちあがった。
「覚えてろー、俺にさからったら一生マヨネーズなんて食えねえ身体にしてやるからなァ」

ああ、このよに、こんなこと いわれて びびらない えんじが いるだろうか。
いる。ここに。

おれは はじめて あった この ひ に、そうごのことが だいきらいに なった。



そうごは ほんとうに めちゃくちゃな せんせい だった。
おひるねから みんなが おきたとき、
「てめえら起きるの遅いからおやつ全部食っちまったぜぇ〜〜」
っていう。
みんな、おやつが なくなったと おもって かなしく なってしまう。このあいだ あかとうがらしほいくえんに きたばっかりの たかすぎなんて、なみだめに なっている。
だけど、おれはしっている。これは そうごの たちのわるい うそなんだ。
このあいだ だって おなじこと いったけど おやつは ちゃんと あったんだから。

「うそばっか ついてんじゃねえ、そうご。さっさと オレたちの おやつだせよ」
そういって つよく にらむと、そうごは すうっと ゆきおんなの かおに なって、おれに こういった。
「フーン、よくわかってんじゃん、嘘だって。まあ・・・・・・お前のは本当に食っちまったけどな」

さいていだ。
ほんとうにさいていだ。



オレは、そうごが だいきらい だった。
そんな あるひ、とつぜん たかすぎが 木から おちて きゅうきゅうしゃが きた。
そのとき、オレたちは おすなばに いたし、すぐに ヤマザキに 連れられて きょうしつに はいったから よくわからない。
だけど、きゅうに そうごの さけびごえが きこえたのを おぼえてる。

そうご、どうしたんだろう。
いつもいつも にくたらしくて、よゆうで、ないた ところなんて みたこと なかった のに。

そのひ、そうごも たかすぎも ほいくえんに かえって こなかった。




 





それから いっしゅうかん、たかすぎは ほいくえんを おやすみした。


つぎに でてきた とき、たかすぎは、しろい がんたいを していた。
そうごは いつもどおり いじわるな ことを いって いたように おもう。

だけど、なんだかそれから、そうごが たかすぎに やさしく なった ような きがする。

いってる ことは おなじ なんだけど。
そうごが たかすぎを みる めが やさしい かんじが するんだ。
ちがうかな。

たかすぎは、まえは そうごのことを きらいだきらいだって いってた。
だけど びょういんから かえってきたら、きゅうに そうごの ことを せんせい なんて よぶように なってた。

なんでだ。
おまえ そうごの こと きらいだって いってた じゃないか。
このあいだ なんか、そうごの まわりを いったりきたり しているから なんだろうって みていたら、きゅうに てれくさそうに
「ダッコ」
って いったんだ。

びっくりした。
びっくりした びっくりした びっくりした。

あいつは いつも いっぴきおおかみを きどってる ってやつで、そんな ダッコ なんて ぜったい いう やつじゃあ なかった。
なかった のに・・・・。

ものすごく はずかしそうに なんども そうごにいいかけてはやめ、いいかけてはやめて。
とうとう ちいさな こえで いった。

でも、きっと そうごは、おおわらいして ダッコなんて してくれないだろう。
そう おもって そうごと たかすぎを みくらべていると。

「しょーがねえなあ、ホラ、こっち来なァ」
そういって たかすぎの わきに 手をいれて、どえすえぷろんの ひざの うえに のせて ダッコ した。

「お前オレの抱っこは高いぜィ、100万円だからなァ。一回100万。払えるのかぁ?」
なんていって。
たかすぎを きゅうって だきしめた。
たかすぎは ひゃくまんえん って きいて、ちょっと あおく なってたけど。
ほかのみんなは ぼくも わたしも っていって まわりに あつまっていた。


ちょっとまえ、おとうさんと ゆうえんちに いく やくそくを していた。
やくそくのひ、あさ おきたら あめが ふっていた。
「今日は遊園地は無理だなあ」
おとうさんは、そういってざんねんそうにしていたけど。
オレは かなしくて かなしくて しかたなかった。
たのしみに していたのに。おとうさんと ゆうえんち たのしみに していたのに。

あんなに かなしいことは ないって おもってた のに。
いま、たかすぎが そうごに ダッコされてるのを みて、オレは ほっぺを つねられたときも がまんした なみだが ぽろりと こぼれてしまった。
あわてて そでで ごしごし ふいて、だれにも ばれなかった けど。






ダッコ。




さいきん、おもうようになった。
そうごは オレに いちばん いじわるだ。
なんでだろう。
おやつだって オレのだけ ほんとうに たべちゃった。
オレのことが きらいなんだろうか。

じわじわと、のどの おくの ほうが きもちわるく なってきた。
おんなのこ たちが 「とおしろーくん、あそびましょう」って いってきて。
いつもなら だいすきな おんなのこ たちと つみきなんかで あそんだり するんだけど。
きょうは とても みんなと あそぶ つもりになんて なれなかった。


ダッコなんて。
オレが、ダッコしてって いったら。
そうごは してくれるんだろうか。

してくれるわけない。
そうごは オレのことが だいきらい だもの。

まえなんか オレの おやつ ほんとうに たべちゃったし、いつも まよねーずを かくすし たかすぎには やさしく わらってあげるのに オレには、オレには・・・・いじわるな かお しか しない。

いじわるな かおしか しないんだ。



もう、まわりなんて みえなかった。

かってに ぼろぼろと なみだが ながれる。

きらいだ。
そうごなんて だいっきらいだ。

ざわざわと まわりの おともだちが さわぎだした。
どうしたの?どうしたの?ってみんなが きいて くる。

そうごは たかすぎを ひざに のせたまま、ちょっと びっくり したような かおで こっちを みた。
それから たかすぎの あたまを ぽんぽんと なでて、ひざから ゆっくりと おろす。
そうして こっちへ ゆっくりと、あるいて きた。

たかすぎは ものすごく しんけんな かおで オレを みている。

「オーイどうした〜?ひじかたァ〜。マヨネーズでも無くなったかぁ?」

オレは、そうごを きっと にらみあげた。
おまえなんか、きらいだ。
そういってやろうと おもって、おおきく くちを あけた のに。
くちから でてきたのは、
「わあああああああん」
という、おおきな なきごえ だった。

オレは、かなしくてかなしくて しかたなかった。
そうごが、オレのほっぺに 手を のばしたけど、オレは ばしんと その手を はらいのけてしまった。
そうごは、かわいい かおを ことんとかしげて、オレを みていた。



けっきょく オレは、ないた りゆうを そうごにも だれにも いわなくて。
なみだが やっととまって、そうしたら おひるねの じかんに なっていた。

いっぱい ないたら すごく ねむくなって。
きがついたのは、おふとんの なか だった。

むくりと おきあがったら みんなは まだ ぐっすり ねむっている。

きょうしつの はしで、そうごとヤマザキが、こっぷで おちゃを のんでいた。
ヤマザキは うれしそうに ちいさなこえで そうごに はなしかけている。
「やっとみんな寝ましたね」
「お前これ茶、薄い」
「す、すみません!淹れなおして来ます」
「いーよもう。オレ猫舌だから今更熱いのとかいらえねから」

オレは、なんだか ヤマザキが そうごと なかよく しているのが むかついた。
むかついたので とことこと ヤマザキのところへいって、おもいっきり すねを けりあげた。
「いぃいいいっつぅうううう!!!!!」

さすがに ほいくし だ。
こえを ころして ヤマザキが すねを おさえて ゆかを ごろごろ する。

「ぶ」
よこを みると そうごが くちを おさえて わらって いた。

「ザキィ、お前やっぱり茶淹れなおして来てくれィ」
くっくっと かたを ゆらして ヤマザキに めいれい する。
ほんとうに こいつは じぶんのことを おうじさまか なんかだと おもっているのかな。

やっと たちあがった ヤマザキが お茶を いれに いってしまったあと。
オレは じろりと そうごを にらみつけてやった。

そうごは あいかわらず いじわるそうな かおで おれを みている。
なんにも いって くれない。  





「ひゃく・・・・・まんえん」
ぽつりと こえが でた。

「ひゃくまんえんって・・・なんじゅうえん?」

「は?」
そうごは、わけがわからねえ みたいな かおで まぬけな へんじを した。

「何十円もクソも100万は100万だろーが、バッカだね、ガキは」
なんだか こいつにだけは、ばかって いわれたくない。

「オレ・・・・・オレ・・・・・いちねんせいに なったら お、おとうさんが まいにち 10えん おこづかい くれるって・・・くれるって・・・いってて・・・・・。だから・・・それ、まいにち つかわないで ちょきん、する」

いつのまにか、また なみだが いっぱい でてきて。

「10えん、まいにち、ちょきん したら、なんにちで ひゃくまんえん なるの?」
ひっくひっくって、のどがなって。
カッコわるい。
おとこは なくなって おとうさんが いつも いってるのに。

「いっしょうけんめい、ためるから・・・・オレ・・・オレのことも・・・ダッコ・・して」

いやだって いわれたら。
おまえなんか ダッコしないって いわれたら、どうしよう。
あとから あとから なみだがでてくる。


しばらくして、ぽかんと した そうごが、その かおの まま いった。
「マジでか・・・・・。俺もあんま計算とかできねえけど、その方式だと多分抱っこできんのはお互い墓ン中入ってからだぜえ?」

そうごが いってることは ちょっと いみが わかんなかった けど。

ダッコ・・・いやだって いわなかった。
いわなかった。

いままでより もっと たくさん なみだが でてきた。
「オレ、がんばる、いっぱい、いっぱいためる おかね」
そういって ぎゅっと すもっくの すそを つかんだ。

そうごが、ふっと わらった。
みたこともないくらい かわいい かおで。
ほいくえんの どの おんなのこ よりも かわいい そうご。

「仕様がねェなあ、ツケにしといてやらァ」
ふわっと からだが ういて、すぐめのまえに そうごの かおが あった。
オレは そうごの ひざの うえに いた。

そうご・・・・。
そうご・・・・・。

いいにおい。
ぎゅうって、そうごが してくれた。
そうごの ほっぺが おれの ほっぺに くっついた。
おとうさんと おんなじ おとこのひと なのに、そうごの ほっぺは いとこの あかちゃんみたいに ふわふわ だった。

オレは、うれしくて うれしくて。

いちねんせいに なったら、いっぱい おべんきょうして かしこくなって しょうらい おかねをたくさん かせいで。
ひゃくまんえんを なんかいも かせいで。
まいにち そうごに ダッコしてもらうことに きめた。



あれから まいにち、そうごは いままでどおり だった。
オレだけ とくべつ やさしく してくれる なんてことは なくって。
あいかわらず しんじられないくらい いじわるで。

ダッコしてくれたのは ゆめ だったのかしら なんて おもう ときも ある。



「おーい、今日はお迎えどっちだァ?」
そうごが オレに こえを かけた。

「きょうは おかあさん」
オレがこたえると、わかりやすく くちを とがらせる そうご。

「なぁんでィ、今日は近藤さんに会えると思ってたのに」
そうごは、ほんとうに うちの おとうさんが すき なんだ。

オレだって、大きく なったら おとうさん みたいに なれると おもうんだけど。
ちょっと むかついたので いってやった。

「きのうも おとついも おとうさん だっただろ、いちにち くらい がまん しろよ!」
そうしたら、いつもの ゆきおんなの かおで。
「お前は毎日会えるからそんな事言うんでィ!近藤さんの息子だからってえらそうにしやがって!」
ぐりぐりと、オレの あたまを、げんこつで おさえる。

「いてえよ!やめろよ!!」
オレは、ぎゃあぎゃあと わめきながら、あくたいを ついた。

でも、ひょっとして。

そうごは おれに やきもちを やいて いたんじゃないかな。
おとうさんと まいにち いっしょに いる おれに。

それで、おれにだけ あんな いじわるを していたんだ。
そう おもったら、なんだか すこしだけ、そうごも かわいいところが あるなって おもった。



ほいくえんを でると、まつだいらの おっちゃんが、ひよこを うっていた。

「おーーーーう、坊主ぅ、こいつらメースばっっかりだぞぉーー、でっかくなぁってぇ〜、たまご産むぞ〜たまごぉ〜」

「なんでメスばっかって わかんだよ」
オレがそう聞くと、まつだいらのおっちゃんは、
「メェーーースばっか仕入れてっからだ坊主ぅ〜、かーぁちゃんに買ってくれって言いなぁ〜〜」
って言った。

「おっちゃん、うそは だめだって おとうさんが いつも いってるぜ。メスは こうやって はねを ひろげたら、みじかい はねが あるはず だもん。それに、おしりの ところに ぽっちが あるのが オスなんだぜ」
とくいげに そういうと まつだいらの おっちゃんは びっくりしたように じろじろと オレを みた。



「おーまーえー、チィービのくせに、なかなかやーるじゃねえかぁ。でかくなったら、おぉっちゃんの下で働かねえかぁ?」
「おれは いっぱい かせがないと いけないからな。きゅうりょうが よかったら はたらいてやるよ」
そういうと、まつだいらのおっちゃんは、おおきなこえで わらった。
「しぃっかりしてらぁーなぁ」




あのとき、オレは、そうごに
「おまえも なかなか かわいい ところが あるから、だいっきらいはそのままだけど、ゆるしてやっても いい」
って いった。

そうしたら、そうごは。
「えらそうに言ったからお仕置き〜〜」
といって、オレの くびねっこをつかまえて いすに すわらせると、すげえこわい、こわいこわい ほらーえいがの ぱんふれっとこれくしょんを えんえん オレに みせつづけた。

オレが、とらうまに なったら どうしてくれるんだ。



ほんとうに そうごは じょうしきが ない。
オレが、おしえて やらないと いけないな。





(了)
沖田総悟編に続く




















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