「我儘なカンパネルラ(15・完)」 H.23/05/01



(土沖)R18。本当にやっと最終回です。




「そおおおごおおお!!」


日当たりは良くないけど、まあ全体的には悪くない二間のアパートに土方さんの怒鳴り声が響き渡る。

うーるせえなあ・・・・。

「お前は!俺が荷物運び入れてる間に中片づけろって言っておいただろうが!なんでそうやってゴロ寝してんだ!!」

「え〜〜〜〜〜〜、もう疲れやした〜〜〜〜〜〜」

いくら狭いアパートに引っ越したからと言って、ここは前みたいなのと違って畳も綺麗だし二間あるし環境も悪くない。
俺にとっては土方さんとの新婚生活みたいでスゲエ嬉しい。

そうなってくると調子に乗って生来のサボり癖がでてきちゃうんだな、これが。


「いいから早く片付けろ!!」

「総悟!早く起きろ!片づけろっつってんだろーが!」

「テメエ!せめて自分の荷物くれえ出さねえか!」


土方さんの怒鳴り声は、日が沈むまで続いた。





その夜、俺は土方さんの向いに正座させられていた。

「なんなんですかィ、改まって」

土方さんは、真面目腐った顔で俺に一冊の通帳を見せる。

名義は沖田総悟。なんだこれ。

中を見ると、18万円ずつ、3回に分けて振り込まれていて、残高は54万円。

これは・・・もしかして・・・・・。

「お前がうちで使用人として働いていた時の給金だ」

たった3ヶ月。
前に土方さんちにいた時と同じ期間俺は使用人として働いた。
その給料を俺は土方さんが肩代わりしてくれた借金に当ててくれと言って、すべて渡していた。

給料の20万のうち、2万を小遣いだと言って俺にくれていた土方さん。だから残りは18万円。
通帳の名義が俺になっているということは、その金を土方さんが俺の為に貯金しておいてくれてたってことだ。

これはヤバい。
うるっときそうになってしまった。

俺は正座(させられた)の両ひざの上で、ぎゅっと手を握りしめた。


突然がばりと土方さんが床に手をつく。
「すまない、総悟。この金を使わせてくれ」

俺達は金がない。少しだけ残った財産もここを借りて引っ越しをする費用に消えた。
当面の生活費は無いに等しい。

「あ、当たり前じゃねえですか、そんなの!ちゃんと利子つけて返してくれりゃあそれでいいんですって!」

あわてて俺はわざと茶化して答えたけど、土方さんは真剣そのもの。

「働いて必ず返す」
もう一度頭を下げた。その金は土方さんに返したものなんですぜ?

「大丈夫ですって!これからは二人で働くんだから、俺達が食っていくくれえ簡単ですって!」
たった2年の間に、俺は貧乏暮らしから金持ち→貧乏→金持ちの使用人→貧乏 とめまぐるしく生活が変わった。
ホント、今までと比べたら二人分の給料が入ってくる予定なわけだし、愛する人と一緒に暮らせるわけだしすうごく幸せなんだ。

会社のこととかいろいろショックを受けた土方さんはそうでもないかもしんないけど。

だけど、頭を下げた土方さんの身体は、俺の一言によってピクリ、と揺れた。


「なんだと?二人で・・・働く?」

「そうですぜ!俺だって外で働けるんだ!また頼み込んで高杉の店だっていけるし・・・そうだ!土方さん大学途中だったんでしょ?俺、俺が働いて行かせてあげまさ!水商売したらきっと行けやすよ!」

すっごいいいこと思いついたつもりだったのに、土方さんはあっという間に鬼みたいな形相になった。

「おっ・・・まえは!!!!どうしてそう楽して金を稼ごうとするんだ!!!!阿呆!クソ馬鹿野郎!!」

だって・・・・借金暮らししてた時にそういう考えが染みついてしまったんだもの・・・。それに水商売は楽じゃねえんですぜ。大変な仕事でさあ。誰もソープで働くなんて言ってねえっての!お酒とか注いだりする仕事あるじゃねえですかィ。俺だって何か土方さんにしてあげてえって気持ち、わかんねえのかよ・・・。

言ってやりたかったけど、それを口にしたらホント殴られそうな勢いだったので、黙ってることにした。

「働くのも駄目だ!なんで俺がお前に働かせなきゃならねえんだ!お前は毎日家で大人しくしてりゃいいんだよ!買い物も駄目だ!誰がお前の事見ていやがるかわかんねえからな!本も買いにいくな、ゴミも捨てに行くな!窓も開けるんじゃねえええ!!!!」

「んなっ・・・・・!!!」

なんだよそれ、監禁じゃねえか!!!

「舐めんなよおお!!!俺だって働く!俺だって働くんだ!!二人分の労働力があんのにもったいねえだろうが!」
「おまえはっ!そう言ってまたあのクソチンピラにコナかけるつもりなんだろうがっ!」
「なんだとおおおお!?俺のこと信用してねえのかよ!死ねクソひじかた!!」
「信用なんかできるわけねえだろうがこの尻軽!!」
「大体1日中こんなとこに押し込めてどうしろってんだよ!退屈で死んじまうでしょうが!!!」
「俺が毎日ビデオでもDVDでもレンタルしてきてやる!!!!」
「買い物どうすんだよ!飯どうすんだよ!!」

「俺がっ!
仕事帰りに!!!
毎日スーパーに寄って!!!
買い物してきてやる!!!!!!」

はあ・・・はあ・・・と肩を上下させて怒鳴る土方さん。
土方さんが・・・スーパーで買い物・・・・・。
あまりのバカバカしさに、俺はがっくりと肩を落とした。

今気がついたけど、俺達はものすごいでけえ声で怒鳴り合いをしていた。
はからずも相当恥ずかしい方法でご近所さんに挨拶をさせていただいたことになる。


ふてくされた俺は、その夜ひと組しかない布団の真ん中に大の字で寝てやった。
入ってこようとする土方さんを蹴りだして、背中を向けてやる。
「なんだよ、入れてくれよ」
情けない声を出す土方さん。

うるせーや、新聞でもかぶって寝てろィ!!!


そんな風にして、この小さいけど小奇麗なアパートで、俺と土方さんの愛の同棲生活が始まった。





土方さんは、小さな事務用品会社で営業の仕事を始めた。
研究職を探していたみたいだけど、今のご時世そう簡単に見つかるわけ無くて。
頭も良いみたいだしゆっくり探せばあったんだろうけど、とにかく生活の為に仕事を決めて来た。

あいかわらず俺が外へ出るのも良い顔をしなかったけど、監禁状態だけはゴネまくってつっぱねた。
だけど外に出る時は帽子を深くかぶってサングラスしていけっての。
バッッッカじゃねえだろうか、よけい目立つっつーんだよ。
見られてねえのをいいことに完全無視している。

まあ、あの事件があって、すごく土方さんを傷つけてしまったから、俺もあまり強い事は言えなくて。
言えなくて・・・・・・・。
今、俺は高杉にケーキを奢らせている。

「いい性格してるよな」
目の前の高杉が、チョコレートケーキを食いながら言う。
「なーに言ってンでえ、これでも相当我慢してやってるんだ」
自分のいちごショートと高杉のザッハトルテを交互につつきながら言ってやった。

「あんなに不幸自慢してたお前が今や働きもしねえで昼間っからケーキ食ってる有閑マダムじゃねえか」
「まあな、俺は嫌だけどね」

ザッハトルテもショートケーキもすげえ甘い。
こんだけ甘いと嫌でも銀時のことを思い出す。
食わせてやりてえな、銀時に。

俺のフォークが止まったのを見て、高杉が溜息をついた。
「ま、おめーは今までがハンパなかったからな。ちょっとぐらいゴロゴロしたって釣りがくらあな」
ポンポンと俺の頭を撫でる高杉。

その瞬間、俺達の座る席のすぐ横にある店のガラスがビンビンと揺れた。ゴンゴンという鈍い音と共に。
俺と高杉は、その衝撃にあわてて外を見て、ポカンと口を開ける。

「う・・・・・そだろお・・・・?」


そこには、烈火のごとく怒った顔の外回り中の土方さんが、狂ったように店のウィンドウを叩き割ろうとしていた。

俺達は、店の人があわてて警察を呼ぼうとしたのを必死で止めなければならなかった。







そんなこんなで幸せな新婚生活はまたたくまにひと月が過ぎた。
俺は土方さんを仕事に送り出してから洗濯と掃除をして。。。。。。

・・・しんじらんねえ!退屈だ!!!
土方さんはあれから高杉と連絡をとるのを絶対禁止にした。
まあこっそり会ってるけど。

もうスゲエうぜえ。

それなら俺にも仕事させろっつーの。

あまりの退屈さに、俺はゴロゴロと部屋を転がってテーブルにゴンと当たっては反対方向へまたゴロゴロと転がって壁にぶち当って向きを変えるという無意味な動きを繰り返していた。
最近夜の営みも週に2回くらいで、土方さんも疲れているだろうし俺もそれ以上はチョッカイかけねえもんだから、体力がありあまっている。
オッサンは疲れてるだろうけど、俺は17歳だぜえ。勘弁してくれよ。なんかさせてくれ。
この間そう言ったらわけわかんねえあの男「勉強しろ」とか言い出した。
まだ俺を学校にやるのを諦めていないらしく、定時制にいけとか通信で勉強しろとか本当にしつこい。
だからセックスもねちこいんだ。
アホ、ボケ、カス、鬼暴君、変態、ヘタレ、エロ、くされチ○コ・・・・俺は天井を見上げながら、思いつく限りの悪態をついていた。

ふいに。

コトン。と郵便受けに何かが入れられる音がした。



ポスティングアルバイトが何か入れてったのかな?
うちの住所はまだほとんど誰にも教えてねえし、これから言うつもりもねえ。まあ高杉には言ってあるけど俺の知り合いではそれくらいだ。
土方さんも前の生活はきっぱり捨てるって言ってたから、同じ様なもんだろう。
つまり、郵便物はほぼ何も来ないのが今の状態。
なんか来るとしたら多分チラシとかそんなんだ。

毎日暇な俺はすぐにムクリと立ち上がって郵便受けを見に行った。
入っていたのは分厚い封筒。
薄い水色でチラシとかそういう類ではなさそうだった。
宛名も何もない。確実に誰かが手で入れて行ったんだろう。

何気なく俺はその封筒を開けた。
そして、その中身を見た瞬間。
驚いて思わずその封筒を床にばら撒いてしまった。

動悸が激しくなって顔に熱が集まる。
震える手で、その内のひとつを摘まみ上げた。

それは、俺の写真だった。
何も衣服を身につけていない俺、両手を縛られている俺、泣き叫んだ後なのだろうか、涙に濡れる俺、いやらしい異物を挿入されている俺、俺、俺、俺・・・・。
全部、俺の写真だった。

なんで・・・・。
なんで・・・・・。

あわててかき集めて封筒に入れる。

どきどきと心臓の音がする。ごくりと唾を飲み込んだ。

どういうことだ。なんでこんなものが・・・。誰が・・・・・。
俺の頭の中は、疑問符でいっぱいになってしまった。
ここに俺達が引っ越したことを知っている人間は、ごくごく限られているはずだ。
何故・・・・。

少しだけ心が落ち着くのを待って、俺はもう一度震える指で、封筒を開いた。
ぱらぱらと写真をめくる。
これは・・・・。
土方さんの家、俺の部屋のものがほとんどだ。
あとは・・・・・・・。このベッドカバーは、銀時の部屋。

まさか・・・・。
まさか・・・銀時・・・・・。

ふいに、胃の辺りがぐるぐると回転を始めたような感覚に襲われる。

銀時が、まさか、正気を取り戻したっていうんだろうか。

いや、そんな訳は無い。
だって、俺は、つい先週、土方さんと一緒に銀時の様子を見に行ったんだから・・・・。







銀時が入所している施設は完全介護で個室になっていた。
日の当たる暖かい部屋で、窓からは緑がたくさん見える。銀時はその部屋で、いつも通り車椅子に座っていた。
俺達の都合で、こんな風に勝手に環境を変えられてしまった銀時に思わず、ごめんね、と語りかけた。
銀時の為に持ってきた荷物はボストンバッグ1つ。
これは、俺と銀時が二人で暮らしていた部屋から土方さんが引き揚げて来たそのままらしい。
土方さんの家でも、新しい施設でもその都度身の回りのものを新調されていたので、このボストンバッグはずうっとそのままになっていた、と土方さんが言った。
俺は、何気なくそのボストンを開けてみた。一番上に、銀時のキーケースが入っている。
ブラウンの革製のキーケース。いつも銀時がもってたやつだ。
良く使い込まれていて渋い皺がところどころに入っている。
そっと開いてみると、車のキーと、家の鍵、そして会社のロッカーの鍵と・・・銀時の部屋のもの。
前と一緒だった。
何一つ変わっていなかった。
いや、あのボロアパートの鍵が一つ増えているけど。
銀時は土方さんの家を出て会社を辞めてからも、もう使うことの無い鍵も含めて、このキーケースをずっと持っていたんだ。

「ううう・・・あう」
はっとして顔を上げると、銀時が俺に向って腕を伸ばしてなにかを伝えようとしていた。

「銀時、どうしたの?」
側に駆け寄ると、銀時は、びっくりするくらい必死な顔をして、俺の手からキーケースを奪い取った。
「あああ・・うう・・あううう」
銀時はキーケースを握り込んで、離さなかった。はあはあと肩で息をしながら大事そうに握った手を心臓にあてている。
「キーケースが大切なの?」
俺は銀時の顔を覗き込んだ。

銀時は、もう何も言わなかった。
「ずっと持っていたものだからな、何かを覚えているのかもしれん」
土方さんが俺のうしろから言った。

「そうですねィ」
何でも良かった。銀時が何か興味を示してくれるものがあるのがうれしかった。
銀時は自我を失ってなんかいない。
また、自分を取り戻す事があるかもしれない。

俺は、銀時をぎゅうっと抱きしめた。
後ろで土方さんがピクリと動いたのがわかって、噴き出してしまった。





銀時の精神は絶対に死んでしまったわけじゃない。
だけど、だけどまだこんな風に俺の写真を郵便受けに入れたりするような、そんなことができる状態でも無いはずだった。

じゃあ・・・何故・・・何故・・・一体誰が・・・・・。
これは、銀時のPCに入っているデータだろう。あのPCは今でも土方さんの家にあって、あの家が人手に渡ると決まった時、俺がHDドライブをめちゃくちゃに壊して来た。
誰も、この写真を持っているはずがないんだ、だれ・・・・も・・・・・。

ふいに、俺の頭の中に、そこいらを這いずりまわる気味の悪い虫のような、ぞわぞわとした恐ろしい考えが湧きだした。

まさか。
そんな、はずはない。
この写真を見ることができたあの時は、あいつは優しくて頼りになる、俺の唯一の友人だったはずだ。

「ザキ・・・・・」

俺が、銀時の不正をあばこうとして、山崎にも協力してもらってこっそり銀時の部屋に忍び込んだあの夏。
俺は山崎と二人で銀時のPCを盗み見した。
あの時確かに銀時のデータに俺の写真がたくさんあった。だけど、だけど俺は山崎と一緒にいたんだ。あの写真が見つからねえように、ずっと一緒にPCの画面を見ていたんだ。

「うう・・・・ううううううう」
ぼたり、と涙がこぼれ落ちた。

あの日、俺が目を離したのは、たった一度だけ。
山崎を置いてトイレに行った、その時だけ。

だけど。
だけど山崎はあの頃はまだ全然異常なところなんてなかった。いつも通りすごく優しくて、俺の言う事なんでも聞いてくれて・・・・。


怖い。
怖いよ、土方さん。

がくがくと、畳についた手が震える。
もしも、山崎が犯人だとしたら、あいつは俺の新しい家を知っていることになる。
どうして・・・どうやって・・・なんで今更・・。

ひぐ・・・・・。
恐怖のあまり、喉がふさがってしまったみたいで、しゃっくりが変な風に出た。

とにかく、とにかくこれを郵便受けに入れた奴をつきとめないといけねえ。
さっきすぐに見に行けば立ち去る人影を見られたかもしれねえけど、もういないだろう。
泣いてる場合じゃねえ。泣いてる場合じゃないんだ。
涙で濡れた顔をごしごしと擦って、写真をぎゅ、と握りしめた時、ケータイの着信音が鳴った。
土方さんのメールだ。
『もうすぐ帰る』
短い内容。
とっさに俺は写真をすべて封筒にしまって、チェストの引き出し、俺の段の一番奥底にしまい込んだ。

土方さんにこのことを話すべきだろうか。
俺は、もう土方さんに嘘をつきたくなかった。
だけど、この話をするなら、俺の写真をすべて見せなければならない。
それは同時に、銀時の所業を土方さんにすべて話さなければならないということだった。
銀時が、何も言えない時に。一方的に俺の側からだけの意見で。土方さんに銀時のことを言いつけなければならないんだ。
それに俺は、こんな、こんないやらしい写真を土方さんに見られるのは嫌だった。

また、土方さんに嘘をつくのだろうか、俺は。
何でも無い、何でも無いと言って、山崎の事を話さないで隠しておくんだろうか。

ピンポンとチャイムが鳴って。
俺はぎくしゃくとした動きで玄関のドアを開けた。
「俺だって確認してから開けろって言ってるだろーが!!!!」
開口一番土方さんに怒鳴りつけられる。

その時俺は、相当へんな顔をしていたんだろう。
「?どうした、総悟」
急に土方さんが心配そうな顔になって俺の肩に手を置いた。

「や、、ちょっと・・・ゴロ寝してたら冷えちゃって・・・・」
「まった惰眠貪ってやがったのか!もういいから風呂入れ!あったまってこい!」
土方さんは、俺にそう言うと、スーツのジャケットと鞄を俺に渡してネクタイを緩めながら、靴を脱いだ。


俺は、呆然としながら風呂場に向い、服を脱いだ。
土方さんはよっぽど俺の調子が悪いと思ったのか、脱衣所の外から「風邪薬を買いに行ってくる」なんて俺に声をかけて、家を出て行った。
風呂の中で、俺は声を出して泣いた。

これからどうなるんだろう。
あの、山崎の恐ろしい真っ暗な瞳を思い出して。
ただ、ただ自分ではどうしようもない力に抗う術もなく巻き込まれて行く恐怖に、うち震えていた。





それからひと月間、何事もなく過ぎて。
世間は初夏を迎え、誰も彼もが開放的な気分になり、輝く季節に悦びの声をあげていた。

俺は、タンスの引き出しに爆弾を抱えたままこの家で暮らしている。
あれから誰も何も言ってこなかった。
あの写真をポストに入れた人間に悪意がないわけがない。そんなことはわかっている。
だけど、ひょっとしたら犯人は写真を郵便受けに入れて、それで満足したのかもしれない。
そんな想いが俺の中に生れ始めていた。

だけど、朝、いつもどおり土方さんを送り出して。洗濯機を回していたら、またコトリと音がした。
全身にどっと冷や汗が出る様な感覚。
ダッシュで郵便受けを見にいくと、果たして水色の封筒がそこにあった。
情けない事に、俺はすぐにドアを開けて外を確認する事ができなかった。
もしもドアのすぐ前に山崎が立っていたら・・・・・・。そう考えると恐ろしくて俺の身体は動かなかった。
震える手で封筒を開ける。
思った通りだった。
前と同じような俺の写真がどっさりだ。
今回は銀時が映っているものもある。前よりももっとひどいのも。俺が銀時に指示されて自分で両足を持って開かされているようなものまで。
自分で見ても吐き気がするようなのばっかりだった。
それも、前の倍以上の量で。


これ以上、ただせまりくる影に怯えて震えているわけにはいかなかった。
『舐めんなよ』
俺は土方さんの灰皿で、写真を一枚ずつ燃やした。前のも全部。
そうして、灰をすべて片づけて、自分の頬をパンと叩いた。

俺は、一度退学をして復学し、そうしてまた事件を起こしてやめた学校へ足を運んだ。







今日は平日だから、山崎は多分学校に行っているだろう。
今年は高校最後の年だ。今頃受験勉強に夢中になっているはずだった。
下校時間近くまで、俺は校門前の喫茶店で時間をつぶした。
チラホラと帰宅部の学生が門から出て来はじめて、俺も喫茶店を出る。

とある一人の学生をつかまえて、俺は山崎の事を聞いた。
「ちょっと聞きてえんだけど、今日山崎学校に来てる?」

吃驚したような顔で俺を見るそいつは、俺が学校をやめる前に同じクラスだった奴だ。
俺が起こした事件や、少年院に入っていたことも噂で知っているだろう。
だけどそんなこと構っていられない。

「あ・・・あ・・・ええと・・俺はもう山崎とはクラス違うからよくは知らないけど、あいつならもう学校きてないって話・・・です・・けど・・・」
中途半端な敬語を使ってそいつが俺に教えてくれた話によると、去年の冬前後からだんだん学校にこなくなって、三年に進級した今年度は、一度も登校していないってことだった。

そんな…馬鹿な・・・。
山崎が・・・学校に行っていない・・・・・?

あんなに勉強を頑張っていた山崎なのに・・・・。
去年の冬って言ったら俺が出所して土方さんとこに世話になり出した頃だった。

俺は、教えてくれた奴に礼も云わずにそのまま震える足で家に戻った。
怖かった。
山崎の人生が狂い出していることがものすごく怖かった。
どうしよう。どうしていいかわかんねえ。

山崎に、会いに行った方がいいんだろうか。それとも、これ以上俺が山崎の人生に関わらねえほうがいいんだろうか。

ひじかた・・・・さん。

土方さんに、相談しようか。
たった一人の部屋で、そう考えた瞬間、携帯が鳴った。

ディスプレイには、「山崎 退」の文字。
自分でも、身体が大きく震えるのが、わかった。
ずっと、山崎から逃げ続けるわけにはいかない。
俺は、ごくりと喉を鳴らすと携帯の通話ボタンを押した。








「お久しぶりです、沖田さん」
「ザ・・・・キ」
「冷たいですね・・・・少年院から出たって言うのに俺を邪険にして、全く連絡くれないんですから」
「ザキ・・・・おまえ・・・おまえ、今、どうしてるんだ」
「知っていますよ、沖田さんはあの男と今同棲してるんでしょう?いやらしい貴方のことだ、毎日毎日あの男の汚らしいモノをしゃぶっているんでしょう?」
俺は、ぎゅ、と目を瞑った。
山崎をこんな風にしてしまったのは、俺だ。俺なんだ。

「俺ね、今、どこにいるかわかります?」
「ザキ?」
くすりと電話の向こうで笑う気配。
「携帯の電波が届く所まで出てくるの大変でしたよ。俺、貴方と話がしたいんです。電話なんかじゃなくてちゃんと貴方の顔を見て話がしたい。今から言う場所に3時間以内に来て下さい。誰にもいわないで、一人で。・・・・・でないと・・・・・・」
「なに・・・何だよ・・・」

「でないと銀時さんを殺します」

「なっ・・・・・何・・・・・なんだって!」
真っ青になる俺に、山崎は落ち合い場所に奥多摩湖の近くを指定して、一方的に電話を切った。
何度も掛け直すけどまったく出る気配は無い。

どういうことだ、銀時・・・銀時って・・・・。

はっと気がついて、銀時のいる施設に電話をした。
訝しがる職員に無理に頼んで銀時の部屋を確認してもらった。

銀時は、俺の名前で外出届けが出されていた。
もちろん部屋にはいないらしい。
なんで・・・なんで銀時を・・・・・。

がくがくと足が震えた。
泣いたってだめだ。また、俺の判断が間違っていたんだから、自分でなんとかしねえと。

写真が送られてきた時に、素直に土方さんに話していれば、こうはならなかったかもしれない。
俺は、自分の馬鹿さ加減に涙が出そうになったが、なんとか堪えた。

今からでも遅くない。
土方さんに、連絡しよう。

メールだと返事がいつになるかわからないので、携帯に電話する。だけど、何コール待っても、土方さんが電話をとる気配はなかった。
俺はすぐに連絡をくれるようメールを打って、更に土方さんの会社に電話した。

「あの・・・あの・・、営業の土方さんをお願いします。急ぎなんです!」
外回りに出ていたら捕まえられない・・・・。だけどそんな不安も吹き飛ぶような答えが携帯の向こうから返ってくる。
「土方は本日お休みを頂戴しております」

え・・・・・・・?

立っている場所が足元からくずれおちるような感覚。
指先も、足も、顔も身体もなにもかも・・・かあと熱くなってそれから急激に冷えて行く。

なんで、どうして・・・?

今朝、土方さんは何も言っていなかった。
仕事を休むなんて一言も・・・・。
更に詳しく聞くと先週から休みをとっているらしかった。土方さんは入社して半年たっていないので、有給は発生していない。にもかかわらず一週間も仕事を休むなんてよっぽどのことだ。
なにより俺に何も言ってくれないなんて・・・・。

どうしていいか、本当にわからなかった。
今までたくさん俺は選択を間違えて来た。
今回も多分そうなんだろう。
その罰がこれなんだろうか。
もう、何も取り戻せたりしないんだろうか。

泣くもんか・・・・。
絶対に泣くもんか。

鼻の奥がツンとしてきたけれど、歯をくいしばって耐えた。
土方さんの携帯に、奥多摩湖の落ち合い場所をメールする。

急がないといけない。
山崎は3時間以内、といっていた。
幸いうちから奥多摩湖は多分2時間もあれば行けるだろう。車があれば。

俺は、家中のお金をかき集めて、タクシーを呼んだ。
いったいいくらになるかわかんねえけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
タクシーがアパートの前を出てすぐに、高杉に電話をする。
多分仕事中だった高杉は、数コールで出てくれた。
「どーした」
ぶっきらぼうだけど優しい声。
簡単に状況を説明する。
「テッ・・・てめえ!待て!行くな!!俺も行く!俺が送ってやるから!!」
必死になって高杉が俺を止めるけど、もう時間が無い。
俺だって、高杉が仕事中だから、なんていって遠慮するつもりなんて無い。今までそうやってなんでもかんでも一人で片づけようとして失敗してきたんだから。
だけど、今高杉と落ち合っている時間はなかった。

「ごめん、俺行く。だけど、高杉にどうしても頼みてえことがあるんだ」
「頼みてえこと?」
「土方さんに連絡がつかねえ。悪いけど高杉、土方さんに電話してくんねえかな、繋がるまでずっと」
そう言って高杉に土方さんの番号を教えた。
「俺、絶対に危険なことはしねえ、危ないって思ったら深入りはしねえ。だから、だから高杉は残って土方さんにこの事を伝えてほしいんだ」

「・・・・てめえ・・・・・。てめえに何かあったら、俺が・・・あのクソボケ男がどんな思いすんのか、わかってんだろうな・・・」

やめろィ、我慢してる涙が出そうになるだろ!!

「うん・・・・わかってる・・・・。絶対に危ないことはしねえ」



「・・・わかった」
高杉が短く答える。

俺は礼を言って電話を切った。
山崎は俺に誰にも言わないで一人で来いって言ってた。結果的に一人で行く事にはなったけど、完全には言うとおりにしていない。
それがどう出るかとても心配だったけど、もう後戻りはできねえんだ。

山崎をこんな風にしてしまったのは俺の責任だ。

待ってろィ山崎。
決着つけようじゃねえか。

俺は、緑が多くなってきた車窓風景に瞳をこらしながら、奥多摩湖にいる山崎のことを考えていた。








山崎が指定してきたのは、奥多摩湖の近くのダム関連観光施設の駐車場だった。
考えたもので、ここへくる直前までは数台の車や観光客を見かけたが、奥まった施設は平日の今日が休館日で、人っ子一人いない。

駐車場にはチェーンが張ってあって、休館日に車の乗り入れができないようになっていた。その前にタクシーを止めて料金を払った。
16800円。土方さんが一生懸命働いたお金だけど・・・・。ごめんね、土方さん。

タクシーが行ってしまって急に不安になる。顔を上げると、駐車場の前に大きなワンボックスカーが停めてあった。どきり、とした。
意を決して施設の駐車場に入る。見渡しの利く広い駐車場。休館日のせいか人気がまったくなかった。山崎の姿も・・・・。

と、その時、俺のポケットの携帯電話が激しく鳴り響いた。
静かな場所では音って大きく聞こえるんだな・・・・。
ディスプレイを確認して通話ボタンを押す。


「待っていましたよ、沖田さん」
「ザキ・・・・」
「そのまま建物の裏に回ってきてください。従業員用の駐車場ですけど、今日は本当に誰もいないので、絶対に邪魔は入りません」
プツ、と通話を切って裏に回った。


そっと建物の角をまがると、俺に背を向けて建物の裏山を見上げる山崎の静かな後姿があった。
そして、その手は銀時の車椅子を、押している。


「ザキ」
手のひらに汗を感じながら、掠れた声をかけた。

ゆっくりと振り向いた山崎の顔は、最後に見た時と同じ、狂気を湛えた静かな微笑みに満ちていた。







「やっと来てくれたんですね、沖田さん」

俺は、山崎の方へ歩いて行った。
山崎は俺の方を向いて、銀時の首にゴツいジャックナイフを押しあてている。

「そこで止まってください」
あと数メートルというところで、山崎が俺を制止する。
「携帯電話をこっちへ投げてください」
俺が山崎の言うとおり携帯を投げると、タイミング良く着信。
ディスプレイを見た山崎は、ニヤリと口の端を上げた。土方さんか・・・・高杉か・・・・。
ばき。と音がして、山崎の手の中で携帯の折りたたみ部分が引きちぎられた。

「ザキ・・・・お前の言うとおり来たぜィ、銀時を離してくれよ」

「フフ、ここまで連れてくるの大変だったんですよ?そう簡単には解放できませんよ」
肩を揺らせて俺に答える。そういえば表のワンボックスは山崎が運転してきたんだろうか。18歳に満たない俺達は、当然無免許だ。
「父親が大きな車を持っていて助かりましたよ、最近学校に行っていなかったものでね、運転を練習する時間はたっぷりありました」

「どうして・・・・どうしてあんなに勉強頑張ってたのに、学校行ってないんだよ」

「良くそんな事が言えますね・・・。あなたが出所して、せっかく俺が迎えに行ったのに、貴方は俺を邪険にした。そうして俺を放っておいてあの男と暮らし始めたんだ」

「俺・・・俺は・・・俺は土方さんのことが・・・・」
「勝手だ・・・・。あんなにも俺を振り回して、貴方は土方さんとは一生添い遂げるつもりはないなんて殊勝な態度をとっておきながら、向こうにその気があると分かったらあっという間に股を開くんですから」
「ザキ・・・・・」
「銀時さんだって、貴方は好きじゃなかったはずだ。だけど毎日この人にヤられまくっていたでしょう?俺と・・・俺とこの人の何が違うっていうんですか!この人が廃人になったなら、次は俺でいいじゃないですか!」

ざわざわと山のざわめきが聞こえた。
初夏とはいえ、時間的にもう薄暗くなり始め、うっすらと涼しくなってきている。

俺は、何も言えないで、ただ立ち尽くしていた。

「俺は・・・ごめん・・・俺はお前を利用して、、それからお前が怖くなって・・・」
「わかっています、俺が邪魔になったんでしょう?だから俺から逃げた。だけど、俺がそんなことで諦めると思いますか?あの男の会社の弁護士が俺に協力してくれたんです。貴方とあの男を別れさせる為に、週刊誌にネタを売れって教えてくれたり、銀時さんの施設の情報を教えてくれたのも彼です。そうして、貴方が今住んでいる住所を調べてくれたのも・・・・」

あのクソ野郎は・・・どこまで土方さんと俺を苦しめたら気が済むんだろうか。
ぎゅ、と指が白くなるほど俺は手のひらを握りしめた。

「俺のプレゼント、気に入っていただけましたか?」

「写真・・・写真・・・・・・。なんで、あれ、お前が・・・・・」
うまく口がまわらなかった。山崎は話している間中俺を見つめながら穏やかに笑っている。

「あれはね・・・・。あれを手に入れた時は、まだ貴方に無償の想いを持っていました。だけど、貴方が一瞬席を外した時に、偶然あの画像を見つけてしまった。・・・・迷いましたよ、あれを盗むのは人として最低だってね。・・・だけど、どうしても欲しかった。あの時は貴方を一生自分の物にできるとは思っていなかったし、誰にも見せなければいいと思いました。ただ、持ってきたメモリにコピーするだけだって・・・」

俺は、その誘惑に負けてしまって、あのデータをコピーしました。
沖田さんは知らないだろうけど、随分役に立ってくれましたよ。
あの写真でオナニーした次の日も、素知らぬ顔で貴方に会っていました。

すべるようにつらつらと山崎の口から紡ぎだされる言葉。
もう聞いていられなかった。吐き気が喉の奥から上がってくる。

「沖田さん・・・・・俺がどうしてここに貴方を呼んだのかわかりますか?」
ぞわぞわと耳の後ろあたりから言い表しにくい不快感が頬の辺りまで広がってくる。

「俺ね・・・貴方と、貴方と1つになって、それから一緒に死のうと思っているんです」

何を・・・何を言っているんだ・・・・・。

「その前に、沖田さんが俺から逃げた罰として、銀時さんの息の根を止めてあげます」
感情の無い声で恐ろしい言葉を発した山崎が、ギザギザの刃先を、ぐいと銀時の喉元に近付ける。

「や・・・やめろィ!!」
思わず走りだして山崎の手を止めようとした。
だけど、俺の腕は反対に山崎に強く掴まれて、今度は俺の喉元にバカでかいジャックナイフが突きつけられた。
尖った切っ先が優しく押し付けられる。
ぶつ、ぶつ・・・と音がして、そのナイフが俺の腹の方に向って引き下ろされた。俺のシャツはボタンがすべて飛んで、肌が露出する。

山崎は、まるで真っ暗の闇の中で、悪戯が見つかった子供のように楽しそうに笑っていた。
俺は、こんなところで山崎に刺されて死ぬわけにはいかなかった。もちろんヤられちまうわけにもいかねえ。
高杉が・・・土方さんが、俺を一人で行かせたことをずっと後悔するだろう。
俺は、俺自身の為に、そして大切な人の為に、自分を守らないといけねえんだ。

「ザキ、俺・・・俺な・・・、ごめんな。俺、お前のこともいっぱい傷つけてたんだな・・・。でも俺、どうしても、どうしてもお前と一緒には逝けねえ。俺が生きて来た17年間は、人との関わりは普通よりも少ねえ方だと思う。だけど、だけどそれでも俺の事を大切に思う人間に巡り合って、その人たちのおかげで今の自分ができてんだ。17年間かけて俺って人間ができたんだ。だから、、、そんな簡単に俺自身を捨てちゃいけねえって・・・・そう言う風に思う」

山崎の瞳はまったく動かない。

「ザキだっておんなじだ。友達だっているし、おやっさんやおふくろサンだっているだろィ?お前のこと一番に心配してくれる人間が・・・・。俺・・・俺だって・・・お前が・・・死んでしまったりしたら・・・俺・・・・」

山崎の、色を無くした唇が、ゆっくりと開いた。

「お・・・きた・・・さんが・・・俺の事を心配するのは・・・・自分のせいで、俺が道を踏み外すのが嫌だからだ・・・。俺が尾羽打ちからす事に、自分が関わっていたくないだけ。・・・ただそれだけなんですよ」


俺は。
山崎が、俺の為に流す涙を何度か見た。
それはいつもこいつの優しさが溢れていて、暖かい涙だった。

今、山崎の頬にながれる一筋の涙は、氷のように悲しく冷たいものだ。

山崎の白目がちの瞳が、俺を真っ直ぐに見つめる。山崎はいつもそうだった。優しくて真っ直ぐな心で俺を支えてくれて、自分の言いたい事をすべて飲み込んで。穏やかな波のように、嵐に翻弄された俺の小舟を守ってくれたんだ。

こんなにまでされても・・・・俺は・・・お前が大切なんだ。
帰ってきてくれ・・・・。俺の側に帰ってきてくれ。取り返しのつかないことになってしまったなんて信じたくない。

山崎は、右手で頬の涙をス、と拭うとその指で俺の手を掴んだ。
涙で濡れた手は、外気の低温も手伝ってか、ひやりとしていた。

俺の喉元にナイフを突き付けたまま、ぐいと俺の手を引く。
山崎の唇が、俺のそれに重なった。

相手の手が俺の後頭部に回る。ナイフを持ったまま。
そのままぎゅ、と後ろ髪をつかまれて引っ張られた。
顎が上向きに上がる。
俺の喉を、ぬめぬめとした生き物が這いまわった。

「あなたを・・・めちゃくちゃにしたいと思っているのは・・・・俺も同じなんですよ」
髪を引っ張られたままぐい、と腰を引き寄せられて、首筋に歯を立てられた感覚を受けた。

いきなり頬に衝撃を受ける。
「いっ・・・つ・・・」
山崎がジャックナイフの柄の部分で俺の左頬を打ったのだ。
一瞬目の前がくらくらとして地面に片膝をつく。山崎が俺の肩を乱暴に地面に倒した。
山の地面は夜気の湿り気を帯びて、この季節でもひんやりとしていた。

「やめろ・・・ザキ・・・」

左目がチカチカとしていた。うっすらと膜が張ったような感覚。
とたん、ザクリと顔のすぐ横の地面にナイフが突き立てられた。ビクリと身体が震える。

「愛しています、沖田さん」

唇を寄せようとしてきた山崎に、俺は思い切り下から頭突きをかました。
絶対にお前にはヤらせない。俺の為にも、お前の為にも・・・・。

「つ・・・・くそ・・・・」
俺の前髪を山崎が掴んだ。そのまま上に引っ張って地面に叩きつけられる。
いくら下が土だからといって、何度も頭を打ちつけられて俺は意識を失いそうになった。

やめてくれ・・・・。山崎・・・・。

遠ざかる木々のざわめき。

このまま、俺は山崎に殺されるんだろうか。




その時。



どこか遠くから、俺が待ち望んだ、俺の大好きなお兄ちゃんの声が、聞こえた。






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