「我儘なカンパネルラ(13)」 H.23/04/17 |
(土沖)R18。一応蜜月回ということです。全然幸せじゃないけど。 土方さんは、あの後松平の会長の所へ行って何か話をしたらしい。 そのまま仕事に行って夜遅く帰って来た。 俺はといえば、もうその結果が心配で何も手につかなくて。 今日はヘルパーさんの来てくれる日で、一緒に銀時を風呂に入れた。 ヘルパーさんは結構精悍な男の人で俺に一生懸命話しかけてくれる。きっと俺が看病疲れしてるだろうって思って気を使ってくれているんだろう。 だけど、そのヘルパーさんにも生返事を返しながら・・・俺はずうっと土方さんのことを考えていた。 土方さんが帰って来た時、俺はリビングのテーブルでうつらうつらしていた。 バタンと玄関が閉まる音が聞こえて飛び起きると、俺は玄関まで土方さんを迎えに走った。 必死の形相で靴を脱ぐ土方さんに声をかける。 「お、おかえりなさい、土方さん!」 ぽかんとする土方さん。 なんだ?どうしたんだ??? 俺が困惑していると、土方さんは急に俺にがばりと抱きついてきた。 「何?何?どうしたんですかぃ」 「・・・みたいだ」 「は?」 「新婚みたいだな、総悟」 はあああああああ????? ちょ、ちょっと待ってくれ・・・。ちょっと待ってくれィ!! 何なのこのギャップ!今までの冷徹な土方さんと違いすぎる!! なんか・・・なんかこの人、ひょっとして相当恥ずかしい人なんじゃないだろうか!! 「や、ちょっと待って・・・土方さん」 ぐいぐいと俺を玄関の床に押し付けてキスしてくる。 めちゃくちゃ嬉しいけどめちゃくちゃ恥ずかしいし今はそれどころじゃない。 「ちょっと!!!!土方さん!!!」 土方さんは、俺がでっかい声を上げると、気分を害したかのように顔をあげた。 「なーんだよ」 「あの・・あの・・行ってきたんだよね?松平の・・・」 「ああ・・・・」 なんだそんなことかみたいな顔でまた俺の首筋に顔を埋める。 「やっ・・・ちょ・・どう・・どうだったの?なんて言われたの!?」 「ああ、何でもない。大丈夫だ」 だ、大丈夫、なわけねえだろおおおお??? 「ひ、、じかたさん!!」 俺はまるでレイプでもされてるかのようにめちゃくちゃに暴れた。 チッという舌打ちが聞こえて土方さんが身を引く。 「なんだよ、おとなしくしろって。こっちゃ一日我慢してんだからよ」 「そ、そうじゃなくて・・・なんで教えてくれねえんですかィ?」 「何をだよ」 「何をって・・松平の会長のとこ行ったんでしょう?そんな大丈夫なわけねえでしょうが!」 はあ、と溜息が聞こえた。 「おめーは何にも心配しなくていいんだよ、大丈夫なんだから」 「なんで・・なんで俺には何にも教えてくれねえんですかぃ?俺はそんなに頼りになりやせんか!?」 「頼りにって・・お前が俺を頼りにしてりゃあいいんだ、ホラ、ヤるぞ」 「やあああああっ!!!やーーーーーーーっ!!!やーだー!!チ○コ噛むぞ!!」 俺は土方さんのいいかげんな説明に納得できなくて暴れまくった。 「ぅおっ・・・まえは!!!なんでいっつもいっつもいっつもいっつも!俺の思い通りにならねえんだ!!」 だって・・・。本当の事を言ってくれねえともっと不安になるんだ。それなのに、それなのに土方さんはそれを全然わかってくれねえ。 俺は、「もう一生お前となんかヤるか!」と怒鳴って土方さんを放置してリビングに戻った。 むかむかしながら今日のおかずを温める。 土方さんが部屋で着替えている間にバン!とテーブルにご飯を並べて、銀時の部屋に様子を見に行く。 「ぎんときぃ〜〜〜〜!聞いてよ!土方さんたらひどいんだ!!」 完全無反応の銀時に土方さんの文句を言いながら涎を拭いて布団を掛け直す。 銀時はうっすらと目を開いて、天井をずっと見ていた。 「・・・・もう、寝ようね、銀時」 なんだか銀時が愛しくなって、白い頬にちゅ、とキスした。 銀時は、やはりの無表情で「うう」って唸っていた。 今日もちゃんと息をして穏やかにしていてくれる。発作もなかった。 それだけで十分だった。 俺にひどいことをたくさんしたけれど、この人は俺の初めての人だった。 俺に愛を教えて、セックスを教えた。そうして、悲しみと絶望とほんの少しの優しさをくれた。 「銀時・・」 穏やかな銀時の顔を見つめる。 銀時は俺の心を落ち着かせる薬みたいなもんだった。 部屋の電気を消してドアを閉める。 リビングに戻ると土方さんがご飯を前にして箸も持たずにじっとしていた。 なんだ?飯、食わねえのか? 「遅い!!」 いきなり俺は土方さんに怒鳴られた。 な、なに?? 「お前!どういうことだ!早く席につかねえか!」 席につけって・・・今何時だと思ってんだよ。11時だぞ!?俺はもうとっくに飯とか食ってて・・・何?俺土方さんが食べてる間ひょっとして一緒のテーブルについてなきゃならねえの? や、それはいいけどさ。 なんで俺が来るまでひと口も飯食ってねえの????? ぶつぶつ言いながら俺に白飯をよそわせて、飯を食いはじめる土方さん。 ああ・・・忘れてたよ・・・。この人は身勝手な鬼暴君だったんだ・・・・。 結局俺は土方さんが飯を食い終るまでちんまりと向いに座って手持無沙汰にお茶なんかついでた。 食い終ると土方さんはスッと席を立って「シャワー浴びてくる、部屋で待ってろ」なんて言って風呂場へ向ってった。 何あの人。きもちわる。 部屋って誰の部屋だよオイ。 そう言いながらも俺の頬は真っ赤になってるだろう、多分。だってあんなに焦がれた土方さんとこんな関係になれたんだから。本当はこうやってぶつぶつ言うのも幸せで仕方ねえんだ。 不安がないわけじゃない。だけど、他の何と引き替えにしたって手に入れたいと願っていたこの幸福を、俺はとうとう自分のものにした。 なんだかまだこの状態が現実じゃないみたいな感じで、ふわふわとした感覚の中、自分の部屋に戻った。 机の上には姉ちゃんの写真。土方さんにビリビリに破られた姉ちゃんの写真。今は一生懸命貼り合わせて、また写真立てに入れてある。 ぼーっと写真を見ていたら、机の上の携帯がチカチカ光っているのに気がついた。 高杉からのメールだ。 『テメェ連絡よこせ』 高杉らしいムカつくほどシンプルな内容。 ウフフ。と我ながら気持ち悪い笑みを漏らしてさっそく返事を打つ。 『蜜月でさあ』 たったこれだけ。 ギャハハ!!奴、これ見てきっとぶったまげるぞ!! あいつがこのメールを見た時の顔を想像してほくそ笑みながら送信ボタンを押した。 その時、 「入るぞ」 と声が聞こえて、それと同時に部屋のドアが開いた。 バスローブ(!)を着た土方さんが、がしがしと男らしく髪をタオルで拭きながら俺の部屋に入ってくる。 「あ、ひじかたさ・・」 「お前!誰にメールしてるんだ!!!」 ・・・ゲッ。 びしびしと額に青筋を立てて土方さんがつかつかと俺の目の前までやってきた。 すぐ瞳孔開くの怖いからやめてくんねえかな。 「かせっ!」 「やー!!!やだーっ!返せひじかたぁ!かえせええっ!死ねっ!!」 「し、死ねってなんだ!」 土方さんが俺から携帯をとりあげるとポンと机の上に放って、俺をかかえてベッドに軽々と放り出した。 衝撃に一瞬目を瞑るとがばりと覆い被さられる気配。 「畜生・・・お前もう携帯解約しろ!俺との専用電話だけにしろ!!」 ぎゅうううっって抱きしめられながら不穏な科白が聞こえてきた。 「ア、アンタどんだけ俺を束縛する気ですかィ!」 「信用ならねえんだよ!!お前が!!!」 土方さんの震える・・・力いっぱいの叫び声。 「・・・・言えよ・・・・・。銀時とはどういう関係だったんだ・・・。あいつのことが好きだったのか?なんで・・なんであいつから俺に乗り換えたんだ。あ・・あいつが、あんな身体になったからなのか?」 言われてることは多分ひどいことなんだろうけど、俺はまったく腹なんて立たなかった。 だって土方さんは。いつも自信満々の土方さんは、小さく震えながらきっと俺の返事にとてつもなく怯えているんだろう。 俺は、銀時の事何にも説明しなかった。土方さんがこだわっていたってそれはあたりまえの事なんだ。 俺なんて、栗子が土方さんの視界の中に入っただけで嫉妬で土方さんを焼き殺しそうになったんだから。 でも。 俺は土方さんの目をじっと見て息を吸った。 土方さんの瞳は不安で少しだけ潤んでいて、深い藍色の虹彩の中心にスカイブルーの瞳孔が少しだけ散大している。 「土方さん」 ゆっくりと言葉を吐きだす。 「俺・・・俺ね、銀時があんな状態の時に・・銀時がなんにも言えない時に俺だけがあの時の事を話すなんてできねえ。だけど、だけどこれだけは言える。今も・・ま・・・・前だって・・・・最初からずっと・・・土方さんだけが・・俺の愛だった」 わかってくれるだろうか。 あんな、あんなポルノビデオみたいなのを見せられた土方さんが。 銀時に「愛してる」って・・「挿れて」って乱れまくってる俺の映像を見た土方さんが、俺のこんな言葉を信じてくれるんだろうか。 俺は、とんでもない嘘つきだって思われてしまうんじゃないだろうか。 しばしの沈黙。 「総悟・・・」 ここ二日間に良く見るようになった土方さんの情けない顔。今までガチガチの鎧でその弱い精神を隠してたんだろうかって思って愛しくて仕方なくなる。 「わからねえ。お前が何を言っているのかわからねえ・・・。いくらお前を知ろうとしても、お前はその度にスルスルと逃げちまって本当の事を言わねえ」 土方さん・・・・。 「だけど、お前が俺の事を好きだって言ってくれるなら・・・俺は・・・俺はもう一度、お前を・・・信じたいんだ」 土方さんの瞳の中心のスカイブルーがきゅっと小さく縮んでぼやけると、美しい下瞼との境にぶわっと涙が溢れた。 もう、もう何にも言わねえで・・・・。 俺は、土方さんの首に両腕をしっかりと回すと自分から土方さんに口付けた。 俺は、始めて土方さんや銀時に会った時はまだ15歳で、愛ってものが何なのか、知らなかった。 高杉の真剣な瞳の中に、それからあの西日の差す7畳半で、俺は愛を探した。 銀時にひどく打たれて犯された後、 『これが・・・こんなものが愛か』 と呆然と天井を見上げていた。 俺は今、本当の本物のまじりっけなしの愛の前に立っている。この道のりはこの愛の為に在ったんじゃないだろうかって思えるくらいの。 じっと土方さんを見上げる。 少し照れたみたいな土方さんの瞳が、ゆっくりと俺の上に降って来た。 朝、俺と土方さんは1つのベッドで寄り添っていた。 チチチと鳥の鳴き声が聞こえる。 「土方さん、仕事、行かなくていいの?」 「ああ・・・今日はゆっくりでいいんだ」 土方さんは窓から差し込む光に眩しそうに目を細めている。ゆっくりと瞳を閉じて。 「総悟」 俺を呼んだ。 「何ですかィ」 土方さんは仰向けに寝転んだまま目を瞑っている。意外と長い繊細な睫毛が天井に向ってカーブしていた。 ごそごそと身体を横向けにしてこちらを向いて。真っ白いシーツが土方さんの肩を露わにしてその色気にどきりとする。 「お前の犠牲的精神はなんとなくわかった。だけどな、総悟。そんなモン70の爺さんになってから考えることなんだ」 一言一言かみしめるように言う。 俺は、色んな想いが心にこみあげてきて、溢れる涙をこらえきれなかった。 その時、ピンポーンと家の呼び鈴が鳴った。 時計を見るとまだ6時半。 こんな時間に一体誰が・・・?俺達はゆっくりと顔を見合わせた。 十数分後のリビング。あわてて身支度を整えた俺と土方さんの前に、真剣な面持ちの坂井さんが座っていた。 坂井さんは土方さんの第一秘書ってやつで、土方さんが信用を置いている数少ない人のうちの一人だ。 「朝早くから申し訳ありません。昨夜から何度もご連絡申し上げたのですが繋がりませんでしたので、卒爾ながらご訪問させていただくこととなりました」 誠実そうに畏まっている。でも何か居心地が悪そうだ。 土方さんの携帯は階下にあったし、家電は・・・俺はぐっすり眠っていて気付かなかった。土方さんはどうだったんだろう。 そして、しばらく黙っていた坂井さんが、ついに意を決したように口を開いた。 「今朝、松平の会長から社に連絡が入りました」 どきり、とする。土方さんの横顔を盗み見るとなんでもない表情は変わらない。 「坂井、この話は総悟には関係のない事だ。話なら社で聞く」 あっさりとそう返す。 「いえ、これは総悟様にも関係のある話です。どうかお聞き下さい」 俺の心臓はもうバクバクと音を立てている。蚊帳の外に置かれるのは我慢がならなかったけど、こうやって話の中に入れてもらうとそれはそれで緊張していたたまれなくなってしまう。 松平の会長は一体何て言ってきたんだろう。 「心配するな、俺には何も言っていなかった」 ぎゅ、と膝に乗せた俺の手を力強く握ってくれる土方さん。 「ええ、会長からは十四郎様が婚約を破棄してきたという事務的な通達だけでした」 ほっ・・と息を吐く。 とりあえず最悪の事態になる事は無いのかもしれない。 「後の事は十四郎様と個人的にお話をされる、とのことです」 やっぱりそう簡単にはいかないか・・・・。 でも、話が松平のことじゃあないとしたら、何の為にわざわざこんな時間から坂井さんはこの家にやってきたんだろう。話なら社で土方さんとゆっくりできるだろうに、俺を交えてってことはどういうことなんだろう。 「失礼ではありますが、十四郎様と総悟様は、御親密な関係でいらっしゃると松平の会長が仰っておられました」 いきなりの直球だった。 坂井さんは回りくどい言い方をしない分嫌な感じはしないけど・・・。 俺は不安になって土方さんを見る。 「松平には俺と総悟の話はしなかったはずだが」 関係もなにも土方さんとこうなったのはたった二日前の話だ。どんだけ早耳なんだ、松平のオッサンは。 「おそらく栗子お嬢様がおっしゃっておられたのではないかと」 「そうだろうな」 土方さんが応じる。昨日今日想いが通じ合った俺達の事を知っている人間なんて多分いないだろう。 あのクソ女は俺達を疑っていたんだと思う。そこへこの婚約破棄だ。その話が出たって何にもおかしくない。 「ここからが問題です。」 居住まいを正して俺達をみつめる坂井さん。 つい、ごくりと喉を鳴らす。 「十四郎様と総悟様がご一緒にお暮らしになる事を、お辞めになられますようお願い申し上げたいのです」 突然の言葉に、俺は喉が詰まったみたいになってしまった。 何・・・なんで・・・・。なんで駄目なの・・・・? なんとなく坂井さんの言いたい事が分かる様な気がしたが、俺はその考えに蓋をするみたいにぎゅっと手を握りしめた。 「総悟様、申し訳ございません。これから私は総悟様に大変失礼な事を申し上げます」 ス、と坂井さんが俺に頭を下げる。 「十四郎様、土方財閥の社長の末弟が腹違いでしかも前科あり、更に・・・・・社長ご自身の同性の恋人となると、周りから恰好の攻撃のネタになってしまいます」 坂井さんは土方さんに話しかけながらも俺をまっすぐ見据えながら言葉を紡いだ。 その態度は誠実で、言いたくない事を土方さんの為にはっきりと言ってくれている、そんな感じがした。 だけど。 俺はとてつもなく悲しくなってしまった。 どうしようもない俺達の関係。 俺が土方さんを好きでいる事は、土方さんの足かせにしかならねえんだ・・・・。 「俺と総悟のことはちゃんと考えている。お前に言われるまでもなく、だ」 土方さんがゆっくりと答えた。静かな表情の中にも少し怒りが見え隠れしている。 「十四郎様、これはお二人だけの問題ではありません。栗子お嬢様との縁談をお断りになった以上、社運にも関係してくる事柄です。それに、以前揉み消しはしましたが、貴方と総悟様の関係はすでに火種が撒かれているんです。その燻りが燃えあがってしまっては、我々には手のつけられない事態になっていまうんです」 ああ・・・。 俺が、俺が昔、ほんのいたずら心でやってしまった事が、ここへ来てとんでもない伏兵となってしまったみたいだった。 確かに、一度スキャンダルになりかけたネタだ。当時の事を知っている奴は喜んで俺達をネタにするだろう。 俺は、坂井さんのことも土方さんのことも見る事ができずに、俯いてしまった。 「俺は・・・・・俺は総悟との関係を恥ずかしいものだとは思っていない」 「存じ上げております。私も恥ずべきものだとは考えておりません」 「では何故」 「そう、思わない輩も多いということです。十四郎様は、そういった人間どもから総悟様を守り抜くことができると言いきれますか」 厳しい坂井さんの言葉。土方さんの事を心から思っているからこそ言える言葉だった。 「・・・・守る、守りきる」 しっかりした土方さんの口調。ああでも土方さんは誰にも彼にも裏切られ続けて、それでも基本的に人を疑う事を知らない人なんだと思う。世の中の汚らしいことを理解できない人だと思う。 それは坂井さんも重々わかっているみたいで。 「グループと総悟様、両方を同じ様に守る事は難しいでしょう。どちらも失ってしまうことになりかねません。私は、お二人の関係をやめろ、と言っているわけではありません。同じ屋根の下で暮らす事はリスクが高い、と申し上げているのです」 「俺は、総悟から離れるつもりは無い!もしも俺のやり方に不満があるというのなら、俺は社を捨ててでも総悟と一緒に暮らす!」 すさまじい勢いで言い返す土方さん。 「土方さん!」 そんなこと言わないでくだせえ!俺の為に、俺の為にそんな会社を捨てるなんて・・・。 長い無言の時間を経て、坂井さんが重い溜息をついた。 「・・・わかりました。私はもう何も申し上げません。総悟様、本日は大変失礼な事を申し上げました」 俺の方に向い直って深々と頭を下げる。 「いや・・・俺は・・・・」 小さく首を振るだけで何も言えなかった。 土方さんは、むっつりと黙りこんで坂井さんと目を合わせなかった。 これ以上、この話をしたくないって顔。 その時、俺の心にはもやもやとした不安が、ひっそりと忍び寄って来ていた。 坂井さんが帰ってしまってから、俺は土方さんと話した。 「俺、俺のせいで土方さんが不自由な思いするの嫌だ」 いつもどおりの無愛想で不機嫌そうな顔を見て、ちょっと怯みそうになるけど、ここは引いてられない。 「馬鹿野郎、総悟が側にいない以上の不自由なんて無いんだ。この話はお前が決める事じゃない!」 「お・・・まえが決めることじゃねえって・・じゃあ一体何を俺に決めさせてくれるんでィ!アンタァいつもそうだ!何でも自分で決めて、何にも俺には話してくれねえ!俺だって何にも教えてくれねえと不安なんだ!」 眉を寄せて呆れたように俺を見る暴君。まぁた全然言う事聞かねえって思ってんだろうな・・・・。 「総悟」 土方さんは、ただでさえ問題が山積みなのに俺までうるさくキャンキャン吠えやがって。みたいな顔で(そう書いてある!顔に)溜息を吐いた。 「お前はそんなこと考えなくたっていいんだ。お前が考えたってその脳みそからはロクなことが出て来ねえ。お前はただ他の野郎からテメエの身だけ守ってりゃいいんだ。言っとくがな、浮気なんざしたら本当にテメエを許さないぞ。そうだ、お前アレだ。携帯GPSのサーチ機能契約するからお前の携帯、探索許可の設定するぞ。貸せ、携帯・・・・いや、いっそ子供用の携帯に変えるか。出会い系とかそういうのにアクセスできないように・・」 「だあああーーーーーーーーっ!!もういいよ!!!もう知らねえ!土方さんなんて知らねえんだ!!!」 俺は手もとのコップを土方さんに投げつけた。偶然なんかでもらったキャンプ用のアルミのコップだったんで投げても割れなかったけど、土方さんの肩に命中してコロコロと食卓の上を転がった。 「お前は!物を粗末にするな!!」 恨みがましく土方さんを睨み上げる俺に、奴は大げさに溜息をついた。 「わかったよ・・・なるべくお前にわかるようにやさし〜〜く何でも説明してやっから。それでいいだろ?」 なんだかすげえ馬鹿にされているような気もするけど、とりあえずはこれでよしとするか。よしとしねえと話がとんでもない方向に行きそうだった。 とにかくそろそろ仕事にいかねえといけない土方さんを玄関まで送り出す。 靴を履きながら土方さんが思い出したように俺に言った。 「週末携帯の契約に行くからな。どっかフラフラ遊びに出るんじゃねえぞ」 ・・・・高杉と夜通しカラオケかなんか行って遊びまくってやる・・・。 明日は土方さんと携帯の契約に行かないといけない日。 もちろん行く気は無いけど、土方さんは毎日俺に週末は契約だ週末は契約だって何の大口取引だみたいに口を酸っぱくして言う。 そんなもん契約させられたら俺の自由は今でさえゼロなのに、マイナスになっちまう。 誰が行くかよバーカ。 俺は夕飯の用意をして、一息つこうとエプロンをはずした。 土方さんは今日何時に帰ってくるんだろうか。 そんなに遅くならないって言ってたから食べずに待っていよう。 暖かいコーヒーをカップに入れて、なんかお茶受けでもなかったかと戸棚を探す。 その時、家のインターホンが鳴った。 誰だろう。 結構質素を好み、局地的にのみ固執するけど大体の事には無頓着な土方さんはホームセキュリティをつけていなかった。 なんか俺とこういう関係になってからいきなりつけるとか言い出したけど、それも来週とか再来週とかなんか言ってたと思う。 そんなわけで、インターホンも顔が見えるようなやつじゃなくて、普通の通話器があるだけのタイプだ。 「はーい、どなたさんですかィ」 呑気な声で応対すると、向こうから男の声が聞こえた。 「私、松平グループの社員で田中と申します。本日は総悟さんにお話があってまいりました」 どきん・・・とした。 松平グループ・・・・・。 土方さんじゃなくて、俺に話って・・・どういうことだ・・・? 俺は急いで玄関に行ってドアを開けた。 そこで少しだけ違和感を感じる。 扉を開けたそこには、さっきの畏まった科白とは対照的な、パーカーとかラフな格好をした男が・・・しかも3人立っていたからだ。 「あ・・・・の・・・・あの・・松平グループの・・・」 「はい、本日はこのような恰好で申し訳ありません、お仕事の話ではございませんので、総悟さんを驚かせないようにと普段着で参りました」 よくわかんねえ説明だったけど、俺は頷いた。頭が混乱して何を言ったらいいかわかんねえ。 「お話というのは総悟さんとお兄様の件なのですが・・・ここでは何ですのでよろしければ上がらせていただいてもよろしいでしょうか」 俺の頭の中に、ちょっと警報が鳴らなくもなかった。だけど俺と土方さんの話だって言われてそのまま追い返すなんてことできるわけねえ。 ちょっとだけ考えて俺は結局その3人を家に上げた。 3人がリビングの席に着く。 俺はコーヒーでも淹れようとキッチンに行こうとした。 「総悟さん」 一人の男が俺を制止した。 席を立ってつかつかと俺のすぐ傍まで歩いて来て俺の手を掴む。 「なに・・・」 初対面の俺にそんなことをする態度に俺は急激に不穏なものを感じた。 「なに・・・離して、くだせえ」 少し俺の腕が震えているのに気付いた男はゆっくりと口の端を上げた。 「離すわけないはいかないんですよ、総悟さん。栗子様のご命令なんでね」 栗子・・・・・・。 その名前を聞いた途端、俺は掴まれていない方の腕でさっき飲みかけたカップを取って男の顔に投げつけた。 「ウッ!」 コーヒーが男の顔や服、床を汚してカップが床に落ちた。がしゃんと陶器の割れる音がリビングに響く。 「この!なんてことしやがるんだ!」 一瞬怯んだ隙に腕を振り払って俺は玄関の方に逃げようとした。 だけど、残りの二人がリビングのドアに陣取っていて。 「畜生!どけ!どけったら!」 二人に体当たりしようとしたけど、逆に抱きつくように押さえこまれてしまった。 「やだ!離せ!殺すぞ畜生!」 「殺してみろよ」 コーヒーをぶっかけた男が俺の髪を掴んで首をガクリと上向かせる。 「フン・・・・クソガキが・・・・。俺はな、男になんか全く興味ねえんだけどよ、お前をヤったら栗子様がたーっぷりボーナスくれるってんでな」 「う・・・何・・・何だって・・・」 「覚悟しろよ」 言うが早いか男は俺の髪を掴んだままぐいと引っ張り俺の身体を自分の前に寄せると、右手で俺の頬を力いっぱい殴った。 目の前に火花が散る。 暴力を受けたのは初めてじゃ無い。だけど俺はまだ事態が全然飲み込めなくて呆然とその振る舞いを受け入れてしまっていた。 立ったまま俺のシャツをビリビリと破かれた。両腕は後ろの男にがっしりと羽交い絞めされている。 「やめろ・・・やめろィ!畜生下種野郎!」 「すぐにそんな口聞けなくしてやらあ」 俺の事を馬鹿にしたように睨む男。 後ろの男が俺をぐいと引っ張って尻もちをつかせる。ドンと胸を押されて床にあおむけに転がった。 万歳をさせられて一人に両腕を拘束される。 いやだ・・・・・。 こんなのは絶対にいやだ。 俺は、こんな奴らにヤられちゃいけないんだ。 土方さん・・・! 土方さんは俺に浮気は絶対に許さないって言ってた。 あの人の性格上、本意でないにしろ他の男と寝たりなんかした俺を、許してくれるはずはないんだ。 今までみたいなのとは全然違う。 今は、今はもう土方さんと俺の心は通じ合っていて。そんな関係で他の奴となんて・・・・そんなのはひどい裏切りだ。絶対にやっちゃいけないんだ! 俺は身体中を使ってめちゃくちゃに暴れた。 「畜生!離せ!離しやがれ!!」 俺に馬乗りになろうとしていた男の顔を足で蹴り上げる。 「いっ!!!クソ!このクソガキ!!」 口の端から血を流して、服の前はコーヒーでぐちゃぐちゃで。この男は俺に対して怒りを爆発させた。 激しく頬を打たれ、思わず目を瞑る。 「おいおい、やめろって、キレーな御面相がすげえことになっちまうぞ」 「うるせえ!こんな奴、あの男の前になんか出れねえ顔にしてやったっていいんだ!」 俺を殴ったその手で俺のスウェットをずるりと下着ごと引き下ろした。 「フン・・・俺達とおんなじモンがついてんじゃねえか、吐き気がするぜ。言っとくがな、俺はお前に欲情して抱くんじゃねえ。金がもらえるから抱くんだ」 俺の目の前まで鼻を寄せて毒づく。 俺はその下種野郎にペッと唾を吐きかけた。 男の頬が俺の唾で汚れる。 狂気にも似た表情でニヤリと笑うとぐいと右手でそれを拭う。 「死んだほうがマシだって思わせてやるよ」 静かにそう言うと男はゆっくりと立ちあがった。 「お前らそのまま押さえてろよ」 俺は残る二人に両手と両足を押さえられて身動きが取れない。さっきからめちゃくちゃに暴れまくったせいで息だけが乱れていた。 「お前男ダメなんだろ?俺はイケるからさあ、お前見てるだけでいいぜえ」 俺の顔を覗き込みながら俺の腕を押さえている男が言う。 「黙ってろ、俺はよ、こんなクソガキでもその気になれるようにいーもん持ってきてんだ」 男はパーカーのポケットから、なにやら訳の分からない液体の入った小瓶を取り出した。 「しっかり押さえてろよお前ら、このお姫さんは相当じゃじゃ馬みてえだからな」 ニヤニヤと笑いながら男が俺の上に覆い被さる。 「フーン・・・男とは言え顔だけ見りゃどこのお嬢さんかってくれえな別嬪だよな」 俺の胸についと手を触れて。 「だけど・・・・俺は巨乳好きでね。もうちょっと色気がねえと勃たねえのよ」 男はポケットから手袋を取り出してきゅ、と両手に嵌める。 手袋は・・・・嫌な男を思い出して吐き気がする。 「なんだよ・・・男なんかに触るのがきたねえってのかよ」 あまりの悔しさに涙が出そうになる。こんな・・こんな男の手で俺は今からヤられるってのか? 土方さんを、裏切って姦通させられるのか?? 長さ10cmほどの小瓶。中には透明な液体が入っていた。 瓶の蓋が開けられて中指で瓶の口を押さえた手が瓶をくるりとひっくり返す。 蓋をした中指に粘度のある液体が付着した。 クク・・・と笑う男。 俺の顎を左手でぐいと掴み固定すると液体の付いた中指で俺の下唇をス・・と撫でた。 ガタガタと身体が震える。正体のわからない液体に俺の中で恐怖がゆっくりと頭をもたげたのだ。 でも、その内心を悟られたくなくて、俺は目の前の男をぎっと睨みつける。 だけど、途端に俺の心臓はどくん、と音を立てた。 「なにそれ、媚薬?」 手を押さえていた男が声を出した。 「いや?そんなモンじゃねえよ。媚薬なんつって売ってるもんは大抵が眉唾モンだって。だけどある意味これはそれよりおもろいぜ」 ニヤニヤと俺をじっくりと観察する。 「そろそろだろ?」 そう言って俺の顎を乱暴に離した。 「ん・・・や・・・なに・・・・」 つ、と意識しない唾液が俺の唇からもれるのがわかった。 猛烈な、かゆみが俺の下唇全体を侵していた。 「なに・・・や・・・痒い・・・」 あまりの痒みにぎりぎりと唇を噛みしめる。 上の前歯でぐいぐいと唇を噛み続けるけど一向に痒みが治まらない。 なんだ・・・なんだ、これ・・・・。 無意識に舌で液体を拭い去ろうと唇を嘗めては歯でごしごしと掻いた。 「ハハっ、どうやら効いてるみてえだな」 心底楽しそうな声で男が言う。 俺の手を押さえている男に向って自慢げに声をかけた。 「要は山芋とかと同じ原理でさ。これ塗るとそこが死ぬほど痒くなんのよ。液体の中にシュウ酸カルシウムってのが入ってて、そいつの針状の結晶がちくちく肌を刺激すんの」 それを聞いた男がヒュウと口笛を吹く。 「さっすが」 そんな賞賛の言葉をかけているところからこいつは松平グループで何かの研究職についているのかもしれない。 だけど、その時の俺はそんなこと考えている余裕は無かった。 とにかく唇の痒みがハンパ無く、頭をぶんぶんと横に振っては唇を噛みしめていた。 「さあ、色っぽくおねだりしてもらおうか」 男が底意地悪く顔を歪ませて小瓶を俺の胸の前で傾ける。 その行動の意味を予測して、俺は真っ青になった。 「や・・・やめ・・・やめろ・・・!」 「フフン。さっきまでの威勢はどうした、お姫様」 拘束された身体を無理に捩じらせて抵抗するけれど、両手両足は押さえられて最低男に馬乗りになられている状態ではほとんど身動きできなかった。 「そうやって暴れてると、身体中ビショビショになるだけだぜ」 ビクリと俺の身体が固まった。情けないことにそれを想像して、恐怖に震えあがってしまったんだ。 「嫌・・・やだ・・・」 たらり、と冷たい液体が俺の乳首に垂らされた。右も、左も。 ゴム手袋をした指先がゆっくりと揉みこむように塗りこめる。 「ん・・・ふ」 恐怖に慄きながらも敏感な乳首に対するやわやわとした刺激に眉根が寄った。 激烈な唇の痒みを思うとそれの比ではない量を塗り込められたその箇所の痒さは想像もできない。 ふう、と男が俺の右の乳首に息を吹きかけた。 途端、俺は身体をビクリと震わせて弓なりに背を反らせた。 「ヒッ」 突然猛烈な痒みが俺の両乳首を襲ったのだ。 「やっ・・・やっ・・・やあっ・・・・・や」 痒い!! 痒くてたまらない!! 「どうだ?気持ちいいだろう?」 男のうれしそうな顔も涙で霞んで見えなかった。痒みで何も考えられない! 「いっ・・・は・・・はう・・・」 猛烈な痒みに下を向いて胸を見た。俺の乳首はピンと張りつめて、触られてもいないのに毒々しい赤色に染まって、ぷっくりと膨れている。 びりびりと電気が走っている様な・・・。両方の突起全体にぞわぞわとミリ単位の小さな虫が這いまわっているような。 「いやっ・・・きゃ・・・か・・痒い!!」 唇の痒みはもう頭に無かった。それほどの強烈な刺激。唇からはとめどなく唾液が流れ落ちている。 「やあっ・・離して!!離して・・手・・・離してえ!!」 両手でめちゃくちゃに胸を掻きむしりたくなる衝動。 「ヒッ・・・ひあ・・・あ!!!やあ!!!」 「すげえな・・・・」 ほう、と興奮したように俺の上に乗っている男が頬を染めて嘆息する。 「こんだけ乱れられると、さすがの俺も余裕が無くなってくんぜ」 嫌・・嫌だ!痒い!!!助けて!助けて土方さん!! 両腕を押さえた男が俺の腕を紐かなんかで縛った。 俺に馬乗りになっている男がポケットから手袋を出して残りの二人に手渡す。 「これがなくちゃ俺達の指もこんなんなっちまうからな」 二人が手袋を嵌めるのを見届けて男が俺の下半身に目をやる。 「お楽しみはこれからだぜ、お姫様」 地獄の様な笑みを漏らしながら、男は手袋をした左手にたっぷりと液体を垂らしだす。 「さあいよいよ御開帳だ」 抵抗も何も無かった。胸の痒みに全身の力が抜けて、俺は縛られなんてしていなくてもされるがままだった。 大きく足を開かされて蛙みたいな恰好をさせられる。 「かーわいいおちんちんとこの穴ン中にもたっぷり塗り込んでやっからな」 愛しい女にでも言う様に耳元でささやく声。 「やっ・・嫌っ!!!!お願い!やめて!!しないで!!!」 プライドも何もかも捨てて俺は懇願した。 「ようやくかわいらしくなってきたじゃないか。俺の息子もこれでやっと役に立ちそうだぜ?」 心底俺を侮蔑するような言葉を冷徹に浴びせる男。こんな・・・こんな最低男に・・・俺は・・・。 「お願い・・やめて・・・手・・・手を・・離して。か・・かゆい・・・でさ」 乳首の痒みは絶頂に達し、頭がおかしくなってしまいそうだった。 「聞けないな、そのお願いは。てめえが俺に働いた狼藉はよお、お仕置きで返すしかないからな」 男の、ぬるぬるの左手が俺の中心を握り込んだ。 非情な男の手は、恐怖に縮こまっていた俺のそこにゆっくりとぬるぬると扱くように塗りこめる。 そうして、遮る物もなく大股開きで晒された俺の後孔にも。 足を押さえていた男がたっぷりと液体を手にとってゆっくりと指を差し込んで塗り込めた。 塗っては抜き、塗っては抜きしながらもその指は淫猥な動きを繰り返した。 変化はすぐにやってきた。 ビクン!!と身体中を波打たせる俺に気付いた男はさっと俺の上から身体を退かせた。 両腕は縛られて押さえつけられ、両足は大股開きの恰好。 その恰好の俺はしかし、それを気にする余裕なんて全く無かった。 悪魔の液体を塗り込められた3か所が、地獄の使者の様に俺を責め立て始めたからだった。 「ヒッ・・ヒッ・・・ヒ・・・や・・・いや・・・」 「どうした、何誘ってんだ?腰がうねってんじゃねえか」 冷たい言葉。だけどそんな言葉ももう耳に入らないくらいで。 「や・・は・・やあっ・・かゆ・い・・かゆいいっ!!!」 なんとかして両手を離そうと滅茶苦茶に暴れる。だけど、手を押さえている男の腕は全くと言って良いほどぴくりとも動かなかった。 1秒たりとも我慢できなかった。 今すぐ薬を塗られた所をすべて掻きむしってしまいたかった。 「たすけ・・・たすけて!!!お願い!たすけ・・!!」 喉がカラカラになって、懇願の合間にもかはっと咳が喉の奥から吐き出される。 咳き込みながらも哀願し続けた。 「ヤ・・お願い!さわ・・・さわって・・・」 奴らにしたら随分簡単に陥落したものだろう。 俺は、どうしても言いたくなかったその言葉を、ついに言ってしまった。 「お?やっとお願いか?」 ニヤニヤと男が口角を上げる。その顔は下品でいやらしく、とても大企業のエリート社員だなんて思えなかった。 「助けて・・・触って!!お願い!」 「フフン、どこだ?どこ触ってほしいんだ?」 どこって・・・・ 「ぜ・・ぜん・・・ぜん・・ぶ!全部さわって」 もう、俺は啜り泣いていた。激しい痒みが俺の精神をすべて支配してしまっている。 「全部ってどこだよ、ちゃんと言えよ」 とにかく、一番最初から薬を塗り込められてとっくに限界を超えている胸が一番ひどい状態だった。 「む・・・胸!胸!さわって!!」 カリ、と自らの人差し指を曲げて、指の根元を噛みながら俺をじっと見つめる男。 「もっとかわいい言い方があるだろう?」 これ以上、、これ以上どんなひどい言葉を自分から言わせようと言うのか。 「ち・・乳首・・・乳首・・さわって・・・」 激しい羞恥の中、しかし俺は我慢ができなかった。今俺の全身に触れてくれるならなんでもしただろう。 「乳首ぃ?もっとあんだろうが!」 「うあ・・や・な・なに!何て言ったらいい・・の・・あ・・はうっ」 俺はまるで水揚げされた魚のように不自由にのたうち回った。 男は冷たい笑みのまま答えない。 俺はもう涙と涎でぐちゃぐちゃになりながら、気が狂ったように叫んだ。 「や・・・おっぱい!!おっぱい触って!さわってお願い!」 「クク、、触って、だって?」 「やああっ、総悟のおっぱい、、おっぱい捏ねて!捏ねくり回して!!!」 恥も外聞も無かった。とにかくこの男の気にいる言葉を言いたかった。何て言えば楽になれるのか、そればかりが俺の思考のすべてを占めていた。 「随分かわいらしくなったじゃねえか、ちゃんと言えたご褒美に「おっぱいこねくり回して」やるよ」 男のラテックスに包まれた指が、やっと俺の胸に降りてきた。 だが、触れる直前でぴたりと止まる。 「やあっ!!はやく!!お願い!はやくう!」 俺は精いっぱいの力で男の指に胸の先端を当てようと胸を跳ねさせた。だけど、俺が跳ねる分男の手は上に逃げて一向に望んだ刺激を得られなかった。 「ひ・・ひい・・・きひ・・・はん・・」 気が、狂いそうだった。 胸だけじゃない。敏感な器官がすべて今や男の支配下に置かれていた。 俺はもう言葉で懇願する事もできずに、ただ弱々しく、なんとか胸を男の手に触れさせようとピクピクと身体を痙攣させていた。 「仕様がねえな」 白い歯を見せて俺を見下ろす男。 「さっきの態度を謝るってんならお前のお願い聞いてやってもいいぜ」 考える間なんてなかった。謝れって言うんなら何度だって謝るから・・・・! 「ごめんなさ・・・ごめんなさい!お願いだから!俺が・・悪かったから・・お願い!」 「良い子だ」 男の指が俺の乳首をぎゅっと摘む。 俺の乳首は既にぷっくりと肥大し、コリコリに芯が通っていた。 男は乱暴に俺の乳首を指で擦り合わせ、下から上にぎゅうと絞るように潰し上げた。 「い・・いぎ・・・ひいいいいい!!!」 激しい痛み。だけどその刺激は地獄のような痒みを緩和してくれた。 待ち望んだ感覚に俺の顔は歓びを隠せなかった。唇が自然に笑みの形を作り、涙が滝の様に流れ落ちる。 別の男の手が俺の中心を握り込む。ゆっくりと上下に扱き始めた。 その曖昧で中途半端な扱き方は俺の掻痒感を拭い去ってくれるものでは全然なかった。 俺は自分から腰を激しく動かして男の手に自らのものをこすりつけた。 「うぉーい、どんだけ淫乱なのこの子は」 俺の股間を弄る男の声が聞こえる。だけどそんなことどうでもよかった。 気持ちいい!痒みが解消されるその摩擦に、俺の身体は歓びを訴えた。 男の手の動きが激しくなり、もう一方の手で敏感な鈴口をくにくにとつつかれる。幹を扱いている方の手は薄いゴム手袋を通して、少し伸びた爪が俺の裏筋をカリカリと引っ掻くように上下する。 「んっ・・・ああ・・あっ・・いぁっ・・・ひゃ・・・おし・・り・・お尻にも・・いれ・・・て!」 言ってはいけない一言だった。 だけど。俺の頭の中はもうチカチカと真っ白な光が占拠していて何も考えられなかった。 ちらりと。その真っ白な光の中に、土方さんの怒ったような寂しげな顔が映る。 だけど、俺の口は俺の意思に反して、背徳の言葉を並べた。 「いれて・・・いれてえええっ!総悟の、いやらしいおしり・・おしりの・・穴に・・・いれて・・・お、大きいの、いれて!!!」 狂ったように叫び懇願すると、腕を押さえていた男が俺の下半身のほうに廻り込み、ぴっちりとコンドームをつけた。 痒みでひくひくと男を欲する俺の入り口に、先端があてがわれる。 すでに薬でヌメヌメニなっていたそこはすぐにでも怒張を受け入れる準備ができていた。 しかし、焦らす様に入口をつついては入れかけ、つついては円を描くようにふちをなぞった。 「や・・・やあんっ・・・はあ」 極めつけの刺激が得られない事にジレンマを感じ、俺はもうめちゃくちゃに腰をすりつけた。 なんとか自分の中に男を受け入れようと腰を押しつける。 俺の尻の奥深くが、耐えられない痒みをもって慟哭した。開いた足が、そのままならなさにガンガンと食卓を蹴った。 その刺激に卓上の果物カゴが俺の顔の横にどさりと落ちる。 「アッ・・・ブネーな、俺に当たる所だっただろうが!」 乳首をいじり回していた最低男が俺の頬を打つ。 「おめーもねちこくやってねーで早く入れてやれって!後がつかえてンだからよ!」 苛々したようなその男の声に、遂に俺の秘部をうろうろしていた男のモノが、俺の中に侵入を始めた。 独特の圧迫感。 俺は、最低の人間だった。 初めて。初めて土方さんを受け入れた時以上の歓びを、感じていた。 心ではない。 身体が。 俺は確実にこの瞬間土方さんを裏切っていた。 「あ、、、アアアァアアアアアアアッ!!!!」 待って待って、待ち望んだ熱い塊。俺の体内をすべて抉って掻き回して欲しかった。 今までと同様、俺は自分から滅茶苦茶に動いて己の欲望を満たそうとした。 もっと、もっと奥まで!奥まで突いてくれ!!!! ようやっとすべての器官が男達の手によって満たされようとしていた。 正気を失いそうだった痒みを、この神様のような手が、解消してくれている。 「アッ・・・アハッ・・・・ひゃあああん・・・もっと・・もっと・・・」 俺の瞳はすでに焦点を失い、快楽だけを追っていた。 望んだ最奥に男の怒張が到達し、俺の弱いところを突き上げる。同時に激しく扱く手が俺の中心の先端の割れ目を捻るように抉る。乳首はもう一人の男の手によって強く捻りながら引っ張られた。 俺は、天国にも上る歓びの中、絶頂を迎えた。。 その後、もう一人の男も俺の中に突っ込んでめちゃくちゃに俺を犯した。 長い凌辱の間に、俺の身体の痒みはようやっとナリを潜めていた。 狂ってしまいたい。 痒みが治まってからの俺は、ただそれだけを思っていた。 狂えないならばいっそ・・・・いっそのこと・・・・・。 男に揺さぶられながら俺の脳裏には「死」という文字が浮かんでいた。 土方さんは、きっと俺を許さないだろう。 許さないというよりも、許せないんだ。 あの人の真っ直ぐな性格からそれは良く分かる。 俺が悪いんじゃない。俺が悪いんじゃない。いくらそう思っていたって理屈じゃねえんだ。 あれほどの独占欲を見せる土方さんの、そこが誰よりも厳しくて弱いところなんだ。 土方さんに許してもらえないならば生きていても仕方無い。 そんなことをぼんやりと考える。 男が俺の中で果てた。 コンドームをつけたままの性器を俺の中からずるりと引き出す。 それまでしつこく俺の乳首を弄っていた最低男がゆっくりと身体を起こした。 「へへ・・・まったく張り合いがなくなっちまったな、総悟ちゃん」 言いながら俺の下半身の方に目を向ける。 他の二人の男達は無抵抗になった俺から手を離し、それぞれ煙草に火をつけて傍観者となった。 最低男は身体を伸ばして俺の足首をつかむと、ぐいと引っ張って男の方に足首を持って来させた。 「もうカイカイもなくなっただろ?」 幼児に言い聞かせる様な言葉をかけながら俺の顔を覗き込む。 「ナマでやっても大丈夫だろう」 男の、、、、、俺に何て欲情しない、金の為にお前を抱くって言っていた男の、汚らしいものが俺の入り口にあてがわれた。 「やめて・・・・・」 掠れた声が出た。 「お願いだから・・・・やめて・・・・」 無駄だと分かっていながら。 「フフ・・・お前に突っ込まねえと金もらえねえもんでね。悪いな・・・。だけど安心しなぁ、俺もお前の虜になりそうだぜ」 言葉が終るか終らないかのうちに、男が俺を一気に貫いた。 脳天まで突きぬけるような衝撃。 喉の奥底から、絶叫が飛び出した。とっさに男がおれの口を押さえる。 「いくらなんでもご近所に聞こえるだろうが」 すでに二人の男を受け入れて慣らされながらも激しく痛むそこに、生身の男が猛スピードで出入りする。 「ろ・・して・・・・」 「ころ・・・して・・・・・」 俺の口からは、最後の願いがぽろりとこぼれ出た。 腰の動きを緩めず、男が応じる。 「・・・・言ったろ?死んだ方がマシだって思わせてやるって」 その時、俺達を眺めていた二人の男が玄関の方を気にし出した。 「おい、なんか音聞こえなかったか?」 俺を犯す男は意に介さない。 「聞こえねえな、ビビってんじゃねえよ、大丈夫だ」 しかし二人は様子を見ようと玄関の方へ姿を消した。 それを、無意識に目の端で追って。 ぼんやりと俺に覆い被さる男へと視線を移した。 男は目を瞑って腰を打ち付け、快感を追い続けている。 ふと、俺の右手にコツンと何かが当たった。 片手で楽に握り込める木の感触。 さっき食卓から落ちた果物カゴに入っていたナイフだった。 何も考えずに、そのナイフの柄をぎゅ、と握る。 男は気付いていない。 「う・・・ううっ」 絶頂に向ってひたすら腰を動かす男。 土方さん・・・・。 この男がいなくなれば、ひょっとしたら土方さんにばれないかもしれねえ・・・・。 そんな、馬鹿な考えが俺の頭に生まれた。 その時はもうどこかおかしくなってしまっていたのかもしれない。 男が、額から汗を流して、俺の中に白濁を叩きつけた瞬間、俺の手は男の下腹部にナイフを突き刺していた。 「ぎゃああああああああああ!!!!!!!」 恐ろしい断末魔の様な声がリビングに響き渡る。 俺はゆっくりと上半身を起き上がらせると、萎え切った男のモノをずるりと引き抜いた。 男の下腹はナイフがささったままで血で真っ赤に染まっていた。 それを感情の無い瞳で見つめる俺。 ふと顔を上げると、リビングのドアの所に栗子が立っていた。 呆然と。 「お・・・お嬢様」 残りの二人がこの惨状を見てオロオロと栗子に指示を仰いでいる。 「総悟・・・さん」 栗子が俺の肩に手を置こうとした。 「触るな!」 強く言って手を振り払う。この、クソ女になんて死んでも触られたくなかった。 「あああああああっ、いてえ!いてええよおおお!!!死ぬ!死んじまう!!」 男がのたうちまわる。リビングの床に大量の血を撒き散らしながら。 ああ・・・・・・。 今度こそ・・・・・今度こそ終わりだ。 一度少年院に入っている俺。 今度こそ本当に自分が、この手で人を傷つけた。 ただ、俺の不貞を土方さんに知られたくない、それだけの理由で。 「いてえ・・・いてええよおお!!!」 床を転げ回る男に栗子が視線を移した。 「静かにしなさい!!」 いつもの、あのお嬢様言葉じゃなくて。厳しい叱責だった。 あとから家に入って来た側近らしき男達にむかって栗子が言う。 「この男を病院に連れて行って。貴方達ももう帰りなさい。このことは誰にも申してはいけませんよ」 残りの二人に言う。 言葉も無い二人はただ頭をがくがくと頷かせて逃げるように家を出て行った。 残った側近達が呻き声を漏らす男を運んで外へ出て行く。 しんと静まりかえるリビング。後には栗子と俺だけが残された。 栗子の顔は激しい後悔と自責の念にまみれていた。 「申し訳ございませぬ。私はとんでもないことをしてしまいました」 深々と頭を下げる。 「あの男はグループの病院で治療させまする。事件にもしませんし起訴することもしません。そうしてここであったことはすべて固く口止め致しまする。」 わけのわかんねえ薬と男達の精液、それから自分の唾液の渇いたもので、俺の身体はパリパリとしていた。 瞬きをしても目尻がパリ・・と音を立てる。 「私は最低の女でございまする。十四郎様を貴方に取られた…そんな勝手な嫉妬心から人道ならざることをやっていまいました。今、この場にやってくるまでそんな事にも気付きませんでした。許して下さいとは申し上げられませぬ。」 つ、と俺の頬に小さな指が触れる。 「貴方も、病院に行かれまするか?」 ぱしりとその手をもう一度叩き落とした。 「帰れ・・・・・・出ていってくれ」 それだけ言う。 栗子はきゅうと眉根を寄せ、唇を引き結ぶともう一度深々と手をついて頭を下げた。 そうしてさっと立ちあがると家を出て行った。 どれくらいぼうっとしていたのかわからない。 ただ、俺の頭は土方さんのことだけを考えていた。 どうやったら土方さんに今日の事を隠していられるのか。 土方さんに嫌われねえで済むのか。 風呂・・・・・。 そうだ、風呂に入ろう。 そうして、この床の血を拭いて、それから割れたカップを片づけて、コーヒーを淹れなおそう。 何にも無かったような顔をして土方さんを迎えればいい。 そうしたら、そうしたら今まで通りだ。 誰に非難されたっていいんだ。 土方さんを一生騙していけばいいんだ。 これ以上ないくらい汚れた俺の身体を。 ずっと隠して騙していけばいいんだ。 のろのろと身体を動かそうとした。 だけど、うまく動かない。 やっとビリビリに破れたシャツを拾って肩から掛けた。 風呂に入ろう。そう思って顔を上げた瞬間。 呆然とリビングのドアのところに立ちすくむ土方さんと目があった。 俺は、ゆっくりとシャツの前を無理に合わせようと、した。 そうして、床に散らばったカップの破片を素手で集めた。 それから、血まみれの果物カゴに散らばったリンゴやみかんを入れて元に戻そうと床を這いまわった。 どうしたって、無理なのに。 どうやったって、ごまかしきれるものじゃないのに。 その時の俺は、なんとかして土方さんにここであった事実を知られない様に取り繕おうとしていた。 「我儘なカンパネルラ(13)」 (了) |