「我儘なカンパネルラ(8)」 H.23/03/12



(沖総受)もう絶対R18。ショッキングな記述あり。自己責任で。沖田さんどん底です。




俺と銀時は、土方さんの家を出た。
偽物の、ぼろぼろの愛だけを持って。


あの嵐の様な夜が明けてリビングに降りていくと、もう土方さんは仕事に出かけていた。
いつも通り。
俺が出て行こうがどうしようがなんでもないかのように。

ただ、食卓の上に、俺の名義で目玉が飛び出るような金額が記載された預金通帳と印鑑が乗せてあった。
あれほど傷つけた土方さんの、家族としての最後の行為。

受け取れるわけがなかった。







俺達の新居は、錆びれた駅の線路のすぐそば。
一日中ひっきりなしに通る電車の騒音は、たった7.5畳一間のオンボロアパートを部屋ごとガタガタと揺らせた。

姉ちゃんと二人で暮らしていた頃だって、もう少しマシなアパートだった。
でも、今の俺達にはここが似合いの場所だった。

銀時は莫大な借金をしていた。
土方さんの会社の金を横領していたのは、それが目的ではなく、他の人間を買収するための資金としてだった。
周りを固めて地盤を作って土方さんを蹴落とそうと考えていたらしい。
その為に資金が必要で、横領したお金だけでは足りなくて結局2000万円の借金になっていた。
もちろんグループのトップに立てばそんなお金すぐに返せただろう。
でも、銀時の手には、その借金だけが残った。

それは、自業自得でもあり。
俺のせいでもあった。

俺は、再び学校をやめた。
一度復学したものを再退学したからには、もう二度と戻る事はできないだろう。
山崎は真っ青になって俺を引きとめてくれた。
でも、学校なんてとても無理だった。
これからは朝に晩に働きとおさなければならないのだから。
こうしている間にも金利は膨らんで行く。


俺は、夜の仕事を始めた。





新宿二丁目。
歌舞伎町にはソープランド街がある。
二丁目にも、数は少ないがそのスジのソープがあった。

値段の安い大衆店。しかも年齢をごまかして。
ごまかすって言ったって俺は実年齢よりも若く見られる方だ。つまり、嘘だって分かっていても雇ってくれるような店。
昭和初期にトルコ風呂として建設された様な建物をそのまま使っている。
そこで、どこの誰とも知らねえ汚くて臭ェ親父を裸で手をついて迎える。
それから、腹の出た毛むくじゃらの汚ェ身体を一生懸命洗った。
もちろん、水虫の足の指も。ケツの穴も。舐めろって言われることもある。
そうして、その後に本番。

銀時とヤったりした時は、ただ嫌だ嫌だっていってれば終わる事が多かった。
だけど、ここでは。奉仕することが仕事。
日給38000円は簡単にもらえる額じゃあなかった。


俺の指名数はありがてェ事にうなぎ登りだった。
回転が上がればそれだけ俺の身入りも増える。借金を返す為に、おれはがむしゃらに客を取った。

身体と心がボロゾーキンのようになって、ずるずると足をひきずるようにして家路に着く。


銀時は・・・・・俺のヒモの様な生活をしていた。



俺が、建てつけの悪いドアを開けると、すぐに薄暗い部屋。入って右手に小さな流しがある。
風呂はない。
その一間の一番奥に。
壁にもたれるようにして座っている銀時。
アロハシャツを着て、絵に描いたようなチンピラって姿だった。
手には一升瓶。目はまともに焦点が合っていない。随分飲んでいるんだろう。

「そおごー」
ひっくひっくとしゃっくりをしながら俺を睨み上げる。
「銀時、ただいま」
俺が銀時の側に歩み寄る。
「こんなに飲んで・・・身体に悪ィでさ」
一升瓶を取り上げようとする。
だけど、あっという間に銀時に頬を張られた。

「俺に・・・俺に指図するんじゃねえ!!!」
はぁはぁと肩で息をしている。土方さんの家を出て3ヶ月。そのたった3ヶ月の間に銀時の体力は随分落ちただろう。だけど、まだ美しい筋肉に守られた銀時の身体。
「お前・・・お前はどうせ他の男にさんざんヤられてきたんだろう!!畜生!!!!」

すぐにでも布団に入って眠りたかった。けれど銀時に押し倒されて。
俺は、目を閉じて銀時のされるがままになっていた。









ソープでの俺の勤務時間は19時から24時まで。帰って銀時の相手をすることが多く、寝るのが2時半か3時くらい。朝の7時には起きて部屋の掃除をして洗濯、それから銀時の朝ごはんを作る。
そして日中は10時開店のファミレスで、日銭を稼いでいた。
つまり、起きている時間はすべて働いた。

ファミレスは以前働いていた店。
高杉が俺を店に戻してくれた。時給も上げてくれた。
ソープで働いた金をすべて借金返済に回し、ファミレスでのバイト代を生活費にする。
この生活を、3ヶ月続けた。

俺の精神は、もう、限界だった。


「テメー顔色悪いぞ」
高杉が俺に話しかけてくる。
「寝不足でさ・・・」
しれっと答えてやった。
「客商売だろうが!体調管理も仕事のうちだ」
そう言って休憩室へ行くように顎をしゃくる。

ただでさえ、バイトとしては最高の時給で雇ってもらっている。これ以上高杉に甘える事はできなかった。
「寝不足っててめえひょっとしてうち以外でも働いてンのか?」
ぎろりと高杉に睨まれた。
とても言えなかった。ソープで働いている、なんて。


「そんなことありやせんって・・・・」
五月蠅そうに顔の前で手を振ってやる。
舌打ちが聞こえて高杉の機嫌が相当悪いのを知る。

「ったくテメエの男は何考えていやがるんだ、お前に働かせてよぉ」
高杉には借金があることも言っていなかった。
だけど、この間アパートを見せた時に明らかにおかしいって顔をしていたので、薄々何かしらを感じ取っているんだろう。

「あ・・・それから・・・男、変えやした」
いつのまにか高杉に対して敬語に戻っている。まあ上司だからねィ。
「ああン!?」
高杉の顔にぴきりと血管が浮く。
「お前俺はお前があいつのこと忘れられねえってーから身、引いたんだぜ!」

これを言ったらうるさいのは分かっていた。だけど、何もかも嘘をつくわけにはいかない。
銀時と一緒に住んでいる以上いつかは高杉にもバレるだろう。

それよりも、つい半年前までは考えられなかった「男」という存在。
今や立派に自分が女役になって仕事をしたり銀時と接するのが普通になっていて、口に出すのも抵抗がない。
なんだか滑稽に思えた。

ぎゃいぎゃいうるさい高杉をテキトーにあしらって、俺は店を上がった。

一旦家に戻って出かける用意をする。
銀時は、いなかった。
10月も半ばとなれば秋も深まる頃だったが、今年は残暑が厳しく今月の頭までまだ半袖で十分だった。西日の強くあたるこの部屋は銀時も居づらいらしく、よく外で飲んでいるようだった。
随分涼しくはなってきたが、外飲みの癖が抜けないのだろう。

本当に体調が悪いのでソープの仕事、今日は早めにあがらせてもらうことにしている。
<21時すぎに帰ります、お酒飲みすぎないでね>
とメモを書いて、出かけた。









「ミツバさんご指名です」

無表情のマネージャーが俺に声を掛ける。俺は源氏名に姉ちゃんの名を使わせてもらっていた。
あっという間に稼ぎ頭になった俺を店側は重宝してくれている。
「へーい」なんて言いながら指示された個室へ向かった。

バスローブを脱いで浴槽の横にマットを敷く。
その上に座って客を待った。

かちゃりとドアが開いて。
そこにいた人物を見て、俺は顔の色を無くした。






伊東、鴨太郎。

俺を冷徹に犯し、土方さんを裏切り、銀時にすべての罪をなすりつけて、そうして自らは罰を受けることなく傍観している。
もっとも憎むべき汚らしい存在。

身体は冷え冷えとしているのに、頭に血が上って、唇がわなわなと震えるのがわかった。
「テ・・・メェ・・・・」
俺は何も衣服を身に着けておらず、睨み上げたってなんの迫力もねえ。だけど・・・だけど・・・。

「ミツバちゃん・・・・・か・・・・」
フンと鼻を鳴らす人でなし。

「ク・・・ククク・・・堕ちたものだな、化け物企業の大事な大事な末っ子坊やも」
冷たい眼鏡をきらりと光らせて嘲笑を浮かべる。

「服を脱がせろ」
座っている俺を上から見下ろして、尊大に言った。

「っ・・だれ・・・が!誰がお前なんかに!!!」
「こんな場所で、真っ裸で偉そうに言える義理か!僕は客だよ?」
俺の顎を砕け散ってしまうんじゃねえかってくらい強く握って上を向かせる。

この職場を変えるわけにはいかなかった。
借金をしている事務所のルート内の店で、俺の動向はすべて向こうに筒抜けだからだ。

唇を強く噛み締めて、俺は立ち上がると伊東のジャケットを脱がせた。

伊東は、奴の腕から俺が抜き取ったジャケットの内ポケットから、薄いゴム手袋を出してぴっちりと両手に嵌める。

「汚らしい病気を感染されてはかなわんからな」

ニヤニヤと笑いながらそう言って、同じポケットから高級そうなコンドームを取り出した。







「ひっく・・・ぐす・・・・・ぐす・・ひいいっく・・・・」
家に帰るまでになんとか泣きやまなければ。
そう思っているのに涙が止まらなかった。

悔しくて悔しくて。
伊東が強要するセックスは最低だった。あいつは自分が優位に立つ交わりを欲した。
俺に、男として、人間としての尊厳を無くさせるような。

派手な音をたてて尻を何度も打ち、俺が泣いて許しを乞うまで決して許してくれなかった。
何よりも、滑りの悪い、気味の悪いゴム手袋。そんなものを嵌めて身体中をまさぐられ、屈辱と羞恥で俺は限界までプライドを傷つけられた。

「うう・・・・う・・・・・」
重い。-----身体が。

疲れた。本当に、疲れた。
もう今日は、銀時に求められても今日だけは寝かせてもらおう。
でも、その前に、涙を止めなければ。

ごしごしと袖で涙を拭いて、無理矢理って多分分かるだろうけど笑顔を作って。
そうして家のドアを開けた。

「ただいま!銀時!!」

その途端。
めずらしく煌々と明かりのついた7畳半に、知らない顔が二つ。

明らかな肉体労働者然とした汚れたツナギ、髭だらけの顔。辺りに打ち捨てられたビール缶。
50の呼び声も近いかというようなでっぷりと太った親父ども。頬も鼻も真っ赤で完全に出来上がっている。
部屋の奥には、いつもの体勢で銀時が座っていた。

「おおおう!これがソーゴちゃんか!かわいいじゃあねえか!!!」
ひっくひっくとしゃっくりを繰り返しながら一人が言う。
「銀時ぃ、てめえがいいのあてがってくれるって言った時ァホラかと思ったがなあ!こんな子に尽くされるなんて隅におけねえなあ!」

俺は、呆然としたままアパートのドアから動けなかった。
なに・・・なにが起ころうとしているのか。

「フ・・・ふふ・・・こいつ俺の言う事なら、なぁんでも聞くんだって。ご奉仕ならプロだしな。オラ総悟、このお二人にご満足いただけるようにがんばれよ!」

途端、思いのほかすばやくドアに向かってきた一人に腕を掴まれる。
「やっ・・・・」
腕を振り放そうとするが、でっぷりとした身体に似合わず鋼のような筋肉の親父の胸にひきよせられた。

もう一人の親父が、財布から数枚の1000円札を出して銀時に渡すのが見えた。
あんな・・・・・あんなはした金で俺を売るなんて!

「ヤだっ・・・・やめろィ!!!銀時・・銀時ぃいいいいいっ!!!!」
声を限りに叫ぶ俺。
「静かにしねえか!このアパートは壁が薄いんだからよぉ、」
信じられないことに銀時はその金を懐にしまうと、唯一土方さんの家から持ってきたビデオと三脚をセットし始めた。

「総悟ばっかりに働かせるのも悪ィからよお、俺裏ビデオでも撮って金儲けようかな〜〜〜なんてさあ!これ結構いい考えだとおもわねえ?まあ今日は照明とかなんもねーけどよ。テストテスト」

「いやっ!銀時!!!」
どさりと畳に身体を投げ出される。
長年の西日に晒され、真っ白になってケバだった古い畳。


爪の先に泥のようなものがたまったゴツくて汚らしい手に口を塞がれ。
何を言う暇もなかった。
二人の男に衣服をはぎ取られ俺は真っ裸になっていた。
伊東にしつこく責められて赤く腫れあがった乳首を乱暴に擦り上げられて。
「いいっ・・・イァっ!!!」
足を大きく広げられ、もう一人の男が顔を埋める。

「すごいよ・・・総悟・・・・。荒くれ男に白い身体が押さえつけられている画は。これはウケるよ」
嬉しそうにカメラを除く銀時。

やめて・・・・こんなの嘘だ・・・。
銀時。銀時。銀時!!!!

汚らしい指先が俺の口に侵入してくる。
「うううっ!!!!ううううふ、はぁあん!!」
二人の愛撫に意識しない声が漏れていた。自然に腰が揺れ始める。

「すげえな、セックスが大好きなんだな、総悟ちゃん!」
下卑た笑い声を遠くで聞いているような感覚。



続けざまにやってくる耐え様も無い試練に、俺はぎゅっと目を瞑ると、自我を手放した。








これ以上悪くなるなんてこと考えられなかった。土方さんの家を出る時には。

土方さん・・・・土方さん・・・・!!!!!

あの日から、俺は土方さんのことを思い出すのをやめようと決心していた。
思い出したってつらいだけ。だから、心の奥底にとじこめて、忘れちまえって、ずっと考えないようにしてきた。だけど・・・・。

耐えられない恥辱を受けて。

俺は、ただ藁にもすがる気持ちで神様のような土方さんを脳裏に思い浮かべた。
たすけて・・・・ひじかたさん。


だけど。
俺は土方さんに合わせる顔なんてなかった。


あれから散々二人に嬲りものにされて、終わった後はゴミみたいに打ち捨てられて。
銀時はあのはした金で酒を飲みにいったらしい。
気がつけば部屋に俺一人だった。

「ううううううっううう!!!!うぁあああああん」
涙と嗚咽を止めることができなかった。
どうしていいか、わからない。

長時間畳に顔を伏して泣き続けた。何度も汚された俺の下半身は感覚が無く、べとべととした白濁にまみれていた。

どれくらいそうしていたのか。
鍵がかけられていなかったドアが小さな音をたてて開いた。

ビクリと身体を震わせた俺。
どうしよう・・・誰・・・!?


「沖田さん・・・・・」

そこには、驚愕の表情を浮かべた山崎がいた。


「っき・・・・ザキィっ!!!!!」
突っ立ったまんまの山崎に、俺は泣き声を上げた。
あわてて駆け寄ってくる山崎。

「沖田さん!」
慌てた山崎がそっとためらいがちに俺を抱き起した。
「ひっ・・ひっ・・・ひいいいいん」
その遠慮がちに俺に触れる山崎に、ただただ安心して、縋りつきたくて、俺は子供のように泣いた。

さっきまで泣き続けて、涙もやっと枯れたと思ったけど、次から次へと涙が溢れて。
俺の声は、このオンボロアパート中に響き割ったっただろうと思う。








山崎の胸に顔を埋めて。
しゃくり上げながらようやっと正気を取り戻した。
俺が泣いている間ずっと山崎は俺の背中を優しく撫で続けてくれていた。
いつのまにかこいつが着ていた薄い上着が俺の肩にかかっていた。

「落ち着きましたか」
深い悲しみを湛えた瞳で俺を見て、山崎が呟いた。

急に恥ずかしくなった俺は、山崎から身体を離してコクコクと頷く。
「ご・・ごめん・・・ザキ」
俺が謝ったのに対して、苦しそうに眉を寄せる。

「身体・・・拭きましょうね」
この家には風呂がない。入りたければ銭湯に行かなきゃならない。
とりあえず、俺の身体をきれいにしようと、山崎はキッチンに立った。
湯沸かし器のスイッチを入れて、お湯をタライに溜め始める。

俺はその背中をじっと見ていた。
気が弱くていつでも俺の言いなりで。頼りないと思っていた。

でも、優しくて心が大きくて、俺なんかよりずっと大人だった。

ぎゅ、とタオルを絞って、俺の肩をそっと押さえるように拭く山崎。
「自分で・・・でき・・らぁ・・」
俺が掠れた声で言ってタオルを奪い取る。
「あ・・・すみません」
少し赤くなって山崎は素直にタオルを俺に渡した。
俺を見つめているのが失礼だと思ったのか、少し視線を離して。

「何か、着るものを出しますね」
さっき脱がされた服はところどころ破れていて、着られるようなものじゃあなかった。
山崎が勝手に箪笥をあさって、適当に服を取り出す。

俺は、ゆっくりと身体を拭いて。山崎の出してくれたシャツと薄いパーカーを着た。
問題は中に残っているものだ。
「便所で・・・掻き出してくらぁ」
ボソリとそう言って立ち上がる。歩く度に中からつ・・と漏れだしてくる液体。
山崎はもう真っ赤になってどうしていいかわかんないみたいに顔を背けた。
「はっ・・はい!いってらっしゃい!!」

少しだけ笑えた。
おもしれえの・・・・。


便所から出てくると山崎がコーヒーを入れてくれていた。砂糖とミルクをたっぷり入れて。
「サンキュな・・・ザキ」
ぽつりと言うと目を伏せて首を振る山崎。

時計を見ると、もう0時を回っていた。
「家・・・大丈夫なのかよ・・・」
「大丈夫です、女の子じゃあないんですから」
ふと疑問が頭をよぎる。
「なんで・・こんな遅くに・・・うちなんか来たんでぃ」

「俺・・このあいだ沖田さんに会った時、すごくつらそうだったのをずっと忘れられなくて・・・どうしたら状況が良くなるか、一緒に考えようと思って。今塾の帰りだったんですけど・・・」
山崎にはすべてを話している。
いつもいつも俺の間違った選択に、つらそうな顔をしながらも反対をしないで。俺の意思を尊重して、言いたい事を飲み込んで側にいてくれた。

「沖田さん・・・・・」
ごくりと唾を飲み込んで山崎はまっすぐ俺を見た。

「今日は・・・今日は言います、俺。俺、絶対このままじゃいけないと思います。沖田さんはまだ16歳なのに、こんな生活絶対に駄目です」
俺は、山崎の顔を見返すことができなくて、マグカップに視線を落とした。

「義務教育を終えているとは言え、まだまだ俺たちは未成年です。沖田さんは保護者が必要な年齢なんです」
でも・・・・俺にはもう頼る人なんていない。

「俺・・・くやしいです、俺がもっと大人だったら・・・・」
俺は、ぽかんと山崎を見た。
「俺・・・自分が情けない・・・・」

そこまで、山崎が俺の事を心配していてくれたなんて。
じんわりと目尻が熱くなるのを感じた。

「うっせぇや・・俺ァ一人でやっていけるって」
照れくさくて反対の事を言う俺。
わかっているのかくすりと笑って、山崎が続けた。
「いいですか、沖田さん、沖田さんはとにかく、銀時さんと別れなければいけません。これは、沖田さんの為でも銀時さんの為でもあります」
山崎の、強い口調。

俺は、どうやってその優しい攻撃をかわそうかと目を泳がせた。







「ザキ・・・・俺、俺な、お前の言ってる事は正しいってわかってる。だけどな、俺は銀時を捨てることなんてできねぇんだ」
ゆっくりと、なるべく山崎を刺激しないように話した。今までずっと言いたい事を我慢してきてくれた山崎。随分フラストレーションが溜まっているだろう。

「わかりません・・・・俺・・・沖田さんがどうしてそこまで銀時さんをかばうのか・・・・。あんなにひどい事をされて・・・今の状態だって言わば銀時さんが自分で招いたことじゃないですか!!」

「うん・・・そうなんだ・・・ザキの言うとおりだ・・。だけど、俺ァ銀時を切り捨てられねえ。こうなったのも俺が銀時の不正を暴いちまったってのももちろんある、だけど、それだけじゃなくって・・・銀時は俺の初めての男で・・・・俺の兄貴なんだ。俺のこの頭んなかにどかっと居座っちまって、どうやっても除けることはできねぇんだ。たとえ憎んでても、恋人としての愛とは違っても」
俺は頭がワリィから上手く説明なんてできねえ。
だけど、俺の中には土方さんと同じように、血の繋がった兄貴をどうしても切り捨てられねえって考えが根強くある。
それに・・・・それに・・・・・・。

「でも、それは間違っています・・・・・・。銀時さんだって、沖田さんから離れたほうが自立すると思います」
うん・・・そうだな・・・。だけど・・・・。

「俺を軽蔑してくれていい。俺はさ・・・こうやって銀時と一緒に暮らすことで・・・どこかで、どこかで土方さんと繋がっているってぇ、思いたいんでィ」

俺の、諦めの悪い醜い想い。
兄弟として銀時を繋ぎとめている間は、土方さんとの細い糸が未だ切れちまっていねえって・・・そんな錯覚を起こす事ができるんだ。

何が思い出さないだ、何が忘れるだ。
こうやっていつまでも未練たらしく土方さんの事を考えている。堕ちるだけ堕ちて、汚れるだけ汚れたこの身体。ひきとってくれた土方さんの手に噛みつくようなマネをして出てきた俺の一体どこにそんな資格があるのか。
なのに・・・いくら押さえこんだって、土方さんへの恋慕が溢れてきてしまう。
あさましく未だにどこかで繋がっているなんて考えている自分に、吐き気がした。

「軽蔑してくれよ・・・」
もう一度、ボソリと声を吐きだした。

山崎は、それ以上俺を責めることはなかった。
ただ・・・悲しそうな顔で、俺を見ていた。


その後、本当に疲れていた俺は山崎に泊るかって聞いて布団を敷いたけど、
「俺、理性に自信ないんで、帰ります」
って言われた。
ああ・・・なんとなくわかってたけど。俺って・・もてるねィ。
「そ・・か・・じゃな・・・ありがとな、ザキ」
そう言ってドアを閉めた。

それからすぐ布団に崩れるように倒れて眠っちまった。




だから。






「銀時さんがいなければ、沖田さんは助かるんだ」

俺は、ドアの向こうで暗い顔をしてボソリと呟いた山崎の言葉を聞く事はなかった。






我儘なカンパネルラ(8)
(了)



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