「我儘なカンパネルラ(7)」 H.23/03/09



(土←沖)やっと動きます。沖田さん精一杯がんばりました、色々。



銀時と伊東の呼び出しは続いた。

いきなり呼び出されて部活も出ないでホテルに直行しないといけなかったりした。
山崎はそのたんびにすごい心配そうな顔をしていたけど。

仕事してるってのに、どうやってこんな時間とってるんだろう。
まあ定時は過ぎてるんだから、後から社に戻ればどうとでもなるのかもしんないけど。俺は勤めなんてしたことねえからわかんねえよ。

どうにしろ、伊東が一人で俺を待っていることだけは無かった。
いつも、銀時がいて。

数度目の呼び出しの時、俺を散々蹂躙した後、伊東が俺の中から自分を取り出しして、コンドームをぴちりとはずした。

こいつは絶対にナマでやらない。
俺だって中に出されるよりずっといい。だけど、そこまでして別に俺なんかヤらなくてもいいじゃねえの?って思う。


その日、俺は本当に疲れてて、終わった後つい眠りこんでしまった。

どれくらい眠ったのか、ふと眼を覚ますといつもは速攻ホテルを後にする二人も俺が目覚めるのを待っているのか、デスクで何やら話しこんでいた。

「・・・・れは・・派手にやりすぎですよ・・・」
「大丈夫だ・・・には・・・必ず・・・・」
「・・・のままでは・・・連結決算までに・・・・・・の・・露呈しないように・・・」

なんだか、わかんない。わかんないけど・・・・すごく胸がムカムカした。
二人が、仕事の話をしているのか・・・・わかんねえけど・・・。
何かおかしい。この会話。
でも、頭の悪い俺には二人が何を言っているのか全然わかんなかった。

その時、伊東の野郎が俺を見た。
俺が目覚めているのに気付くと、さっと顔色を変えて立ち上がった。

「王子様のお目覚めだ」

伊東は、すぐにいつもの冷徹な笑みに戻ってスーツのジャケットを羽織ると、銀時に目配せをして部屋を出て行った。







俺は、銀時の部屋のドアノブをがちゃがちゃと回した。
わかってはいたけど鍵が掛かっている。

あの、昨日の二人の話。なんだかわかんねえけどきっと何か不正なことをしていやがるんだ。
何をやっているのか見当もつかねえけど、俺は絶対に証拠を掴んでやる。

俺は今日山崎に頼んで貸してもらったビデオを鞄から取り出すと、そっと机の上に置いた。


今日の夕飯は銀時作の冷やし中華だった。
結構美味い。銀時ってなんでもできるんだよな。。。

「銀時、この間は助かった、有難う」
土方さんが銀時に優しい笑みを向ける。この間夏風邪ひいた時に銀時が看病したことを言っているのだろう。
「やー、俺ァあれだよ、なんにもしてねえって、沖田君も心配してたしね?」

銀時の野郎・・こっちに話を振るなよ!
ホラ、土方さんの機嫌が悪くなったじゃねえか・・・。

「ぎ・・銀時!」
なんとか話を変えようと俺はでかい声を出した。
「ん?どした?総悟」
最近何気に俺の名前を土方さんの前でも呼ぶようになっている銀時。
ぴくりと土方さんの眉が上がる。

「お・・おれ・・・部活・・部活でさ・・強くなりてえから、練習風景ビデオ撮ったんだ・・・・友達にビデオ借りて。で、でっ・・・編集・・とか・・その・・・銀時に教えてほしいなって・・・」
土方さんはもう飯を食い終わって皿を片づけ始めている。
あーそーですよね、俺なんかの話聞いてもしかたねえですよね。

「何、ビデオ?借りたの?そんなの俺に言えば貸してやったのに」
「や・・いいんでさ・・・友達もそのビデオで研究するって言ってたし」
「ふーん・・・あそ・・・。わかった、あとで部屋においでよ。」
にっこり笑って立ち上がった銀時は、自分の皿と俺の皿を重ねるとそれをキッチンに運んだ。


「で、メディアは何なの?」
「え・・・わかんねえ・・・」
銀時の部屋に入った俺はおずおずとビデオカメラを差し出した。
くすりと笑って受け取る銀時。
「本体ごともってきたんだ」
くるりと本体を回してメディアを取り出す。

「ああ、SDHCだね、本体にも内蔵メモリがあるタイプだと思うけど、メディアに録画したんだよね?」
「わ・・わかんねえ」
ふふ、ともう一度笑ってから、銀時はPCの方に向き直ると俺を手招きした。

学校とかで触った事はあったけど、俺の家にはPCがなかった。
だからそんなに詳しくもねえし得意でもねえ。
銀時が丁寧に教えてくれて、なんとか俺でもデータの吸い出しくらいはできるようになった。

「それにしても・・・・道着着て立ち合いしてる総悟・・・すごく凛々しくてかわいくて・・・綺麗だね」
なにをそんな人が赤面するようなことしれっと言ってやがんだよ。
「この子・・・この子が総悟の友達?」
山崎が映っている場面で銀時が指を指す。
「そう・・だけど」
「ふうん・・・・総悟の友達にしては随分地味だな。・・・・てか学校にいる間はずっとこの子と一緒にいるんだね。妬けるよ」
うらやましいぜその滑らかな口がよ。
「ね、銀時・・・」
「なに?」
「俺、、これからも、自分でこうやってデータ吸い出したいんだけど、俺一人でもできるかな」
「んー・・・もう出来ると思うけど」
「あの・・・あの・・銀時のいない時でも・・勝手にこれ・・PC触っていい?」

そういうと、銀時がじ、とこっちを見た。
別に、疑っているわけじゃないような表情だけど・・・。どきどきすらぁ・・・。

「ん、いいよ」
「えと・・・あの、パ・パ・パスワードとか・・・」
「ああ、かけてないよ、この部屋自体に鍵かかってるしね」
さらりという銀時。
それだ・・・・その、部屋のカギが問題だ・・・。

こいつは、俺の事ほんとに馬鹿だと思っている。
ま、馬鹿なのは本当だけど。
馬鹿だけど行動力はあるんだ。舐められてたまるか!

「鍵かかってんなら俺、勝手にPC触れねえじゃん」
「いーじゃない、いつでも俺がやってあげるよ、そんなの」
やっぱり一筋縄ではいかねえな・・・・。そう思っていると、銀時の長い指先が俺の顎を捉えた。

「それより・・・総悟」
銀時の唇が薄く開いて、俺のそれに重なった。






銀時がベッドでぐっすり眠っている。なんだかんだで銀時も仕事が忙しい、疲れているんだろう。
俺は、裸の身をゆっくりと起こした。

机の上に置いてある銀時のキーケースを手に取る。
車と・・・家の鍵・・・これは・・会社のロッカーだろうか・・・・、それと・・比較的小さな鍵、これが、この部屋の鍵だろう。
俺はそっとその鍵をキーケースから外した。
どくどくと心臓の音が鳴っている。
ここで失敗したら、もう二度と銀時は俺に油断することはないだろう。

ぎゅっと鍵を握りしめて、そろそろと部屋を出る。
ドアをかちゃり・・と開けると、銀時の声がした。
「んん・・・総悟・・・戻るのか?」
ビクリ、とする。だけどどうやら半分寝ボケているみたいで、俺を疑っているわけじゃあなさそうだった。
「あ・・ああ・・・部屋、もどりまさ・・・」
そのまま銀時はまた眠りについたようだった。


こっそりと家の玄関を出る。
もう日付が変わる頃だったが、問題無かった。
俺は近所の外資系24時間スーパーに向かった。日用雑貨も売っていて、もちろんキーコピーも可能だ。
ダッシュで店に向かった俺はあわてて鍵を複製するとまたもダッシュで家に戻った。
はあはあと乱れた息を一生懸命整えて、息を殺して階段を上がる。

ごくりと唾を飲みこんで銀時の部屋の前で中を窺う。
時計を見ると、あれから30分しか経っていない。
寝てる…と思うけど…。

怖くて仕方無かった。もしも銀時が起きていたら、俺は一体どんな目に会うのだろう。
でも朝までこのままでいるわけにもいかない。
ぐっと息を詰めて俺は部屋のドアを開けた。


銀時は、ぐっすりと眠っていた。
俺はそろそろとベッドの横を通って机の上のキーケースを取ると、そっとマスターキーを戻した。
這うようにして銀時の部屋を出て、自分の部屋に戻って・・・・。
全身の力が抜けた。緊張で死ぬかと思った。

ザマミロ、銀時。
見ていやがれ、お前の悪事は俺が暴いてやる!!

ぎゅっと手の中のキーを握りしめて、倒れるようにベッドに沈み込むと、俺はあっという間に眠りの世界に引きずり込まれた。




翌朝。
かなり気まずかったが起きだしてきた銀時はいつもどおりだった。
ホッと胸を撫で下ろして、なんでもない顔をして朝飯を食った。

「総悟、おいで」
皿を洗っていると銀時が後ろから声をかけてきた。
土方さんは早くに出かけているので今は銀時と俺の二人きりだ。
「これ、洗ってからいきまさ」
ここ数日、いつもより銀時は俺とスキンシップをしたがった。
ベッドの上だけじゃなくて、何かと俺にくっついてきてはキスやらなんやら求めてくる。
なんか、恋人同士みたいで。
俺は正直そんな銀時を持てあましていた。

こんな風にじゃなくて、いつもみたいにひどく俺を扱ってくれないと・・・・俺は・・・・。

振り向きもせずに皿を洗い続けていると、銀時は後ろから抱きついて来て、俺の顎をそっと後ろに向けさせた。
柔らかな口づけ。
「ふ・・・・・」
柔らかくて、熱くて。

水道の水が、音を立てて流れ続けていた。


「総悟・・・」
銀時がより深く口づけをしようとした時。


カタン、と音がした。

俺は、びくりと身体を震わせて音がした方を見る。

そこには、信じられないものを見たような顔の土方さんが、いた。







無言の時間が過ぎて。

銀時がなんでもないように声を出した。
「やあ・・・兄貴・・・・忘れ物?」

土方さんは、もういつもの顔に戻っていて。
「ああ」
と短く答えた。

足が、がくがくと震えて。
銀時に支えられていないと立っていられなかった。

「急ぐから出る」
そう言って土方さんは俺と一度も目を合わせないまま玄関の方に消えた。

ばれた・・・・・。
俺と・・俺と銀時の関係が・・・・・・。

いいや、そんなことじゃない。
俺が、土方さん以外の男とキスしてるところを、見られた。

土方さんは、俺が誰とキスしようが興味なんてないだろう。
だけど、だけど俺は・・・、俺は他の奴といるところなんて、土方さんにだけは見られたくなかった。

「大丈夫だよ」
銀時の声。何に対しての慰めなのか、分からない。
一生懸命守ってきたものが、うっすらと崩れ始めるのを、俺は感じていた。






それから、一週間が過ぎて。

今日から俺は2泊3日の合宿だ。

「総悟〜、荷物はちゃんと作ったのか?」
土方さんの目の前で、銀時はもう普通に俺の名前を呼ぶ。
土方さんは、あれから特に何も言ってこない。俺にはもちろん、銀時にも、だ。

「作りましたぜィ、てかたった2泊ですんで、荷物とかさほどねーから」
俺もなにもなかったかのように振る舞っている。
チラリと、土方さんと銀時を見る。

二人とも、俺とおんなじでいつも通りだった。


「じゃ、行ってくるから、遅刻すんなよ、総悟」
土方さんと銀時は続けて家を出て行った。
さあ、俺も。



俺は携帯を取り出した。
アドレスを表示して、通話ボタンを押す。
しばらくの呼び出し音の後。
『山崎です』
耳に当てた携帯から、山崎の声が聞こえた。






数日前、俺はコピーを作った鍵で銀時の部屋に侵入した。

あの鍵で部屋に入れた時はそりゃあもう有頂天で。もう銀時の不正の証拠を握ったつもりになっていた。
でも、PCを立ち上げてみて、そんな簡単なもんじゃねえってわかった。

わかったっていうか・・・・。
全然わかんなかった。

何が大事で、何が仕事ので、何が悪い事なんだか。
もう、銀時が本当に何か企んでいるのかどうかもあやしくなってきてしまって。
ついでに俺の裸の写真なんかもいっぱい見つかって。

何の成果もなしで引き下がっちまったんだ。

そんなわけで。
今日は合宿に行くって嘘ついて・・・いや、行くんだけど、途中から参加することにして。
まあ無理矢理山崎にもつきあってもらうことにした。
俺よりは頭まわるもんな。山崎は。

玄関のチャイムが鳴る。
喜々としてドアを開けると、<勘弁してくださいよ>って顔の山崎がいた。

「なぁんだよ、ザキぃ、てめー嫌だってのかよ!」
「嫌じゃないですけどね!合宿ですよ合宿!二人で遅れて行ったらサボったのまるわかりでしょうが!!」
「うっせえやい、いいからあがれって!」
ずるずると二階に山崎をひっぱり上げると銀時の部屋に押し込んだ。

「これこれ!これなんだよ!一緒に見てくれよ、なんかおかしな物ねーか」
ふう、とため息をつく山崎。
「いいですけどね、本当に何か怪しい兆候あったんですか?」
「あったんだって!別になんか聞いたわけじゃねえんだけど、上手く言えねえけど、俺、銀時といけすかねえ弁護士がコソコソ話してんの見たんだ」
必死に俺が言ってるのに、疑わしそうな目、しやがって。

いいから見ろって頭はたいて、PCを立ち上げた。
なんだかんだで人のコンピュータ覗き見るの楽しそうじゃねえか、山崎。
山崎が作業している間、俺は退屈になって地味な男の横顔を見つめていた。
・・・結構かわいい顔してんだよなー。地味なだけで・・・・。

「ちょっと沖田さん、じろじろ見ないでくださいよ、集中できないから」
「わりぃ」
おっと、俺も人の顔ばっか見てる場合じゃなかった。
俺の写真とか山崎に見られたら死ぬって。

俺は、デスクトップの画面に視線を戻した。





「う〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・それらしいのは・・・ありませんね・・・・」
「えええええっ・・・マジかよ!この部屋の鍵作るのにどれだけ苦労したと思ってんでぃ!!」
「知りませんよそんなの!!沖田さんが勝手にやったんでしょう!?大体怪しい怪しいって、アナタ僕は何が怪しいのかもわかんないんですよ!それだけ言われてそんな不正の証拠なんて見つかるわけ無いんですよ!!!」

ちっくしょう、山崎のくせにはっきりすっぱりモノ言いやがって・・・。

・・・諦めるしかねえのか・・・・?
そう思った時、山崎のマウスを持つ手が止まった。

「?これ・・・・・・」
「どっ・・・どうした!?どうしたザキ!!!」

山崎は口元に手を当てて何かを考えているようだった。

「これ、、、ファイルのタイトルから考えて、どうやら多分、経理書類のようなんですけど・・・・」
「うんうん」
「同年度のものがこっちにもあるんです」
「うんうんうんうん」
「単なる修正版ってわけでもなさそうなんですけど・・・・」
「全然言ってる事わかんねえよ!もっとわかりやすく!」
「いや・・まだわかんないですけど、これ、多分銀時さんの会社の決算書類で、これ、裏帳簿ってやつじゃないでしょうか」
「裏帳簿???」
「ちょっと待ってください、開けてみますから」

カチカチとクリックの音がしたが、何やらメッセージボックスが返ってきただけ。
「これ、パスワードかかってますね」
ええええええええええええええええええっ!!!!!
なんだよなんだよ!!せっかくそれらしいのにぶち当たったのにパスワードかよおおお!!!
絶望して山崎の顔を見る。が。
その顔は興奮に輝いていた。
「・・・ザキ?」

「これは・・・パスワードがかかってるってことは、クロですよ、沖田さん」
探していたものを見つけた喜びで頬が紅潮している。

「それはいいけどさ、見れねえもん仕方ねえじゃん」
呆れた顔で見返してやると。
「あ、多分いけますよ、パスワード解析できるソフトあるんで」
んまっ・・・「マジでか!!!???」

「まあフリーのソフトなんですけどね、結構いいのありますよ」
ワーオ、山崎のくせにかっこいいじゃねえか。

山崎は合宿用のボストンから小さなフラッシュメモリを取り出すと銀時のPCにセットした。
何やら操作をしている山崎の横でじっと待つ。


しかし。

「駄目だ・・・・」
がっくりと肩を落とす山崎。
「だ・・・駄目って?」
「すみません沖田さん、いくつか解析ソフト使ってみたんですけど、全部はじかれました」
「それって・・・見れねえってこと?」
「はい、すみません・・・・でも・・・・ここまでしてあるってことは・・・絶対怪しいです。それは確かなんです」
悔しそうな山崎。
仕方ない、山崎だってただの高校生だ。俺のただの疑惑からここまで銀時のグレー部分を引っ張り出してくれただけでもありがてえ。
・・・ただ・・・証拠も何もないのにこれ以上どうしようもねえ・・・・。

俺と山崎は黙ってPCの電源を落とした。
これまでか・・・・。

諦めて合宿へ出かけようとした俺の足になにかがコツンとあたった。
ふと見てみると足元に黒い書類ケース。

何か、予感がした。
俺はそれを手に取るとぱらぱらとケースの紐を解いた。
その中には。
なんだか良く分からない数字、数字、数字・・・・・。

「これ・・・なんだかわかるか?」
「わかりません・・・俺なんてなんの知識も無いし・・・・・」
言いながら山崎の声が震えている。

「ただ・・・これ・・・・さっきの決算ファイル・・パスワードの掛かって無いやつと似てる・・・似てるけど明らかに違うってことだけは、わかります」

俺と山崎はゆっくりと顔を見合わせた。







俺たちは急いでコンビニに行ってその帳簿を全部コピーした。
これが・・・銀時の不正の証拠になるのかならないのか。

俺には全然わかんねえけど・・・・。

「これ、どうするんですか?」
「・・・・・・」
「土方さんに直接渡したらどうですか」
土方さんは、俺の事を信じてねえ。俺がいきなりこんなの渡したって相手にしてくれるかどうか・・・。
それに・・・・。
それに俺が土方さんの為に何かするなんて・・・・・。
「どうして駄目なんですか?」
山崎が俺の目をじっと見る。
「今まではどうあれ、沖田さんだってだんだん土方さんへの反抗心を改めていくってことだってできるでしょう?」
「・・・駄目だ・・・・俺と土方さんが仲好くなるのなんて、銀時が許さねえ。しかも土方さんは俺を許してくれることなんて絶対にねえよ。あんなひでぇ事してたんだ、あたりめぇだ」
それから、ゆっくりと山崎の方を向いて、俺は言った。
「それに・・・・・。もし・・もしも。もしも俺の事を土方さんが許してくれたとして。俺が良い子になったりしたら、俺のこと土方さんは気にかけてくれるようになるかもしれねえ。そしたら逆に、俺が銀時に無理矢理ヤられていることを感づかれるかもしれねえんだ・・・・。俺は、それだけは、絶対にいやだ」
眉を寄せる山崎。
言いたい事は分かる。それは・・多分間違っている。
でも、山崎は正しい事を言って俺を追い詰めたりしない。
自分の言いたい事をぐっと呑みこんでくれる奴だ。
ありがとな・・・山崎・・・。


すごくすごく考えて、俺は、土方さんの秘書の坂井さん宛てに匿名で書類を送ることにした。
銀時と伊東の名前を添えて。
坂井さんならきっとこの証拠を見て、二人を調べてくれるだろう。

それから二人で郵便局に行って、速達で封筒を送った。

やれるだけの事はやった!あとは野となれ山となれ。
山崎に礼を言って俺たちは合宿に向かった。






2日後の朝。
予定では今日の夕方に帰ってくるはずだったんだけど、気が気じゃなくてとても合宿どころじゃなかった。
そんなわけで俺は今、家の玄関の扉を開けている。
するとちょうど銀時が家を出るところだった。
ついビクリとしてしまう。

「あれ?もう帰ってきたの?総悟」
いつも通りの銀時。速達で送ったし、書類はもう坂井さんの元に着いているはずだ。
未だ事が起こされていないのか、あの書類では何も分からなかったのか、はたまた証拠が押さえられなかったのか・・・・。
「うん・・・ちょっと・・・体調悪くて・・・」
掠れた声で答えると、銀時は目を丸くした。
「いっつも元気な総悟が珍しいな!知らねえ場所で緊張したのか?まあ今日はゆっくり寝てなさい」
そう言って俺の頭に手をやって、出て行く。



色んな感情がごちゃまぜになっていた。
あの、土方さんの看病をしてくれた時の銀時の悲しそうな、顔。
最近の優しい態度。
氷みたいな土方さんの瞳。
何が本当で、何が偽りなのか。

肩にかけるボストンがいやに重い。早く部屋に行って今日はもう休もう。
と、リビングに人影が映る。
どきんとした。

銀時はさっき出て行った。俺が今帰って来て・・・・この家にいるのは、あと一人。
まだ・・・仕事に出かけていなかったのか。

だめだ、きっと土方さんは俺を見たって話しかけてなんかくれるもんか。
きっと朝から気分を害したって顔して、俺を無視して出かけるだけだ。
だめだ、顔を見たいなんて思っちゃ。お前が傷つくだけなんだぞ。

だけど。今土方さんの顔を見ないと、俺の土方さんへの想いがなんだかわからなくなってしまいそうだった。
俺の混乱した頭は、俺の指先をリビングのドアノブに伸ばさせた。

俺がドアを開けると、土方さんはネクタイを結んでいるところだった。
大きいけれど色白で案外繊細な土方さんの指先。
俺は、ドアを開けた姿勢のまま、その土方さんの綺麗な指を見ていた。
顔なんて見れなかった。

この、美しい手をしている人は、俺の事が大嫌いで。俺の事なんて何も気にしていなくて。
ただ、ただ家族だという繋がりのみで、貴方の側にいることを許されて。
けれど、側にいることが果てしも無くつらい。


・・・・出ようか、家を。

ふと、そんな考えが浮かんだ。
今まで、銀時のことが怖くてこの家を出ることが叶わなかった。
けれど・・・・もしも、あの書類が銀時の不正を証明するものだとしたら。
土方さんの信頼は裏切られて、きっと、土方さんはすごく傷つく。
俺が、俺がまた土方さんを傷つけることになる。
俺は、土方さんを傷つけることしかできないんだ。

いつの間にか、俺の頬に、一筋の涙が流れていた。

この家に来てから何度も流した涙。
だけど、俺にはこんな風に涙を流す資格があるんだろうか。
こんなにも俺達兄弟はこの家を引っかき回して。ごめんね、土方さん・・・・。
唐突に俺は、ああ・・・土方さんにまだごめんねって言っていないことを思い出した。

皆の前で嘘をついてごめんね。
お母さんの大切な手紙を破ってごめんね。
大事な大事な兄弟への信頼を・・・・・壊してしまうかもしれない。・・・・ごめんなさい。

気がつくと土方さんがじっとこっちを見ていた。
今までみたいに冷たい瞳じゃなくて。
とても・・・・とても深い、悲しみの様な色を湛えて。

その目を見た途端、俺は今までの誓いをすべて、忘れた。







俺は、この家を、出る。

でも、その前に。

いちど・・・だけ・・・・。

ひじかた、さん。


ふらふらと、俺はその、出会った時と変わらない美しい肉食動物のような男に近付いて行った。
土方さんの、その手で、俺に・・・触れて・・・・・。

「・・・・じかた・・・さん・・・・」
濡れて潤んだ瞳で土方さんを見上げる。
土方さんは、さっきまでの瞳はもう隠してしまって、能面のような顔で俺を見下ろしていた。

焦がれてやまなかったその腕に、触れて。
土方さんの顎に唇を寄せる。

一度だけ、抱いてくだせえ。

そっと。
震える声で。
土方さんに囁いた。



だけど。


「銀時の時も、そうやって誘惑したのか」



俺にとっての神様から浴びせられた非情な言葉。

俺の身体はぶるぶると震えた。
ああ・・・・世界中の人が全部死んでしまったって土方さんだけがいればいい。
そんな想いを抱いている人に、これ以上ないくらい激しく拒絶されたんだ。

消えてしまいたい。

「っく・・・・・・ひいっ・・・・・」
無意識にしゃくり上げていた。

「うう・・・・・うううううううううううう」
俺はその場に崩れ落ちた。

好きだ・・・・・好きで好きで仕方ねえんだ・・・・。
さっきまであやふやだった想いは土方さんの顔を見た途端激しい炎の様に燃え上がった。
もう自分では到底制御できない、強く悲しい火柱となって。

「好きでさ・・・・・土方・・・さ・・・・・」
言わないでいられなかった。
これほどまでに、拒絶されても。
これほどまでに、憎まれても。

だけど、俺の想いが叶う事は、無い。
そう思ってのろのろと顔をあげた瞬間。


俺は、何者かに、嵐のように抱きしめられていた。


何が起こったのか、まったく理解できなかった。
突然、真っ暗になった視界。
それが、土方さんのでっかい胸だって気付いたのは、数秒後。

あの、美しい手のひらが俺の頬を包み込む。
「総悟・・・・・」
焦がれ続けた土方さんの声が、俺の名を呼ぶ。
「ひじかた・・・さん・・・・・」
土方さんの深い藍色の目は、さっき見た複雑な感情のようなものを映し出していた。

荒々しい、奪う様な口づけ。

夢を、見ているみたいだった。
土方さんの舌が、俺の唇を割って入ってくる。
俺も土方さんに舌をからませて。
お互いの唾液を啜り合い、深く、深く唇を合わせた。
離れたくない。
俺は土方さんの首にしがみついて、土方さんは俺の腰を折れそうなくらい強く抱きしめた。

長い長い口づけを終えて。
もう何も考えられなかった。

ただ、土方さんの胸に身体を預けて。
このまま、なにもかもすべて消えてしまっても、いい。
俺達二人だけになれば、いい。
そう思った。

しばらくじっと二人で抱き合って。
ボソリと、土方さんが言った。
「お前が、欲しい」




ああ神様。
俺はきっと、今死んでもいい。
なんで・・・なにがどうなって、こんなことになったのかわからない。
今日も明日も一年後もどうなっているかわからないけれど、そんなのどうだって良かった。
本当にこれが夢だってよかった。

「土方さん!!」

もう一度、俺達がキスしようとしたその時、土方さんの携帯が、鳴った。






ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・・・。
無機質な電子音。

俺は、何か、予感していた。
これは・・・・・この、電話は・・・・・・。

呼び出し音を気にもせず、俺に再び口づけようとした土方さんをそっと押し戻して。
小さく震えながら俺は言った。
「ひじかたさん・・・・でんわ・・・・」
「いい」
強く唇を合わせられる。

だけど、鳴りやまないコール音。
ひじかた・・・さん・・・・。
ともすれば意識が飛んでしまいそうな口づけに逆らって、俺は土方さんの胸をどんと叩いた。
「総悟・・?」
訝しげに俺を見る土方さん。

「でんわ・・・・出て・・くだせぇ・・・」

俺のその言葉に、土方さんは、眉を寄せながらも、俺を身体から離して携帯の通話ボタンを押した。


「俺だ」
土方さんが電話に出る。
二言三言会話をして、土方さんの眉根が少しだけ寄った。
俺の胸の動悸は止まらない。

「すぐ行く」
短く言って土方さんが電話を切る。
こっちにゆっくりと向き直って。

「今日は必ず帰る。夜、俺の部屋に来い」
そう言ってもう一度俺に口付けると、手早く用意をして風の様に家を出て行ってしまった。


今の電話は・・・・誰だったんだろう。
秘書の坂井さんか・・・・・それともいつもの普通の仕事の電話だったのか・・・・・。

俺は。
土方さんとの夢の様な展開と、これから起こるかもしれない事件の予感に、いつまでもいつまでも身動きできないでいた。






永遠とも思える長い長い時間が過ぎて。

今、リビングに土方さんと銀時が、いる。

銀時は床にがっくりと手を着いて俯いていた。どんな顔をしているのかは、わからない。
俺は、こっそりとリビングのドアの横から中を覗いて二人の話を聞いていた。

さっき土方さんと一緒に帰ってきた坂井さんが俺にも説明をしてくれた。
やっぱりあの電話は坂井さんだった。

ある人物の横領を示すタレコミがあって調査した結果、銀時の不正の証拠を掴んだという事だった。ただ、伊東のクソヤローだけは、どう上手く立ち回ったのか、どうしても尻尾を出さなかったらしい。限りなく黒に近いって坂井さんは言っていたけど。
そして、問題はそれだけじゃなくて。
その横領の手口だが、経理ファイルへのアクセスは、すべて土方さんのIDで行われていたという。
つまり、すべての横領の責任を、土方さんに擦り付けられるように工作されていたということだった。

その事実を知った土方さんが、どれだけ傷ついたか・・・・・。
今、土方さんの表情を見ていたらそれが良く分かる。
土方さんは、坂井さんに席をはずすように命令して。坂井さんは社に戻って行った。



「銀時・・・・・」
およそ感情というものをすべて押し殺したような土方さんの声。
「これは・・すべて本当の事か?銀時」
坂井さんの報告書を銀時の目の前に突きだす土方さん。


沈黙が長く続いて・・・ようやっと銀時が声を出した。
「ああ・・・・そうだよ、兄貴・・・・・・いや土方十四郎・・・」

土方さんの瞳が、薄く揺れる。

「ふ・・・・ふふふ・・・・何でバレちゃったんだろうね・・・・。そうだ・・そうだよ。俺はこの家を、乗っ取るつもりだった」
ククク・・・・と肩を震わせる銀時。

「俺に兄弟がいるって知った時、俺はちっとも嬉しくなんかなかった。それどころかアンタが憎かったよ・・・・。幼い頃から何不自由なく暮らしていたアンタがね・・・。俺がガキの頃なんて、明日食べるものもないような生活だった。アンタにわかるかい?たった一人の家族の母親にさえ疎んじられる毎日が!!!!」

銀時ははっきりとした敵意を土方さんにぶつけていた。


「アンタの大切な物をすべて壊して、とりあげてやりたかったよ」
銀時が肩を震わせているのが解る。
泣いているのだろうか。


俺の家もすごく貧乏だった。だけど俺は姉ちゃんにすごく大事にしてもらってすごく愛してもらった。

銀時は、ずっと一人ぼっちだったの?



暫くの無言の後、、土方さんが口を開く。
「だから、俺を騙して俺を追放しようとしたのか」


銀時は答えない。




「だから・・・総悟にも手を出したってえのか?」

土方さんの声は怒りで震えていた。



土方さん!
俺は、ぎゅっと目を瞑ってその場にしゃがみこんだ。
もう、立っていられなかった。


銀時は黙ったまま答えない。






やがて。
「・・・出て行け」


ぽつりと呟くような土方さんの声が聞こえた。



「この家から・・出て行け・・・」



誰よりも、血の繋がりを求めていた土方さん。
誰よりも家族という形に固執していた土方さん。


その土方さんが、一体どんな気持ちで今その言葉を発したのだろうか。


銀時が、呆然としたような目で土方さんを見つめる。

「起訴はしない、明日の朝まで待ってやる。この家を出て、二度と顔を見せるな」
銀時よりも、土方さんの方がずっと泣きそうな顔をしていた。









「土方さん!!!」

銀時が去った後、俺はリビングに飛び込んで土方さんに抱きついた。
どん、と土方さんの身体が揺れる。

ぎゅ、と抱きしめて頭一つ高い兄をみあげると、土方さんはくしゃみでも我慢してるのかなってくらい変な顔をしていた。

「総悟・・・・・お前は・・・・・俺を、裏切ったり・・しねえな」
ひじかたさん!!!!
傷つかないで!
傷つかないで、土方さん!!

「俺・・・俺・・・土方さんだけ・・・土方さんだけが好き!!!」
夢中で土方さんを抱きしめる。
逞しい身体、ほんの少しだけ糊の香りがするシャツ。
土方さんが、力いっぱい俺を抱きしめた。

「総悟・・・総悟・・・・・」
俺の首筋に顔を埋めてしばらく黙っている土方さん。
やがて、ぽつりと。

「お前・・・銀時とは本気じゃないのか」
いきなり聞かれた。

俺はちょっとパニックになってしまった。
「え・・・え・・あの・・俺・・俺は・・・」
どうしよう、本当の事、言いたいけど言いたくない。

じい。と見つめる真剣な目。

ごくりと、唾を飲んで。
「ぎ・・銀時とは何でもない、何でもないんだ」
そう言って土方さんの手を握った。

そう、何でもない・・・・心は、土方さんだけだ。


その時、俺は舞い上がっていて。
自分のことしか考えていなかった。

土方さんは俺を強く抱きながら立ち上がると、
「部屋に来い」
と俺に囁いた。

途端に、俺はその後を想像してしまって真っ赤になった。
俺・・・おれが・・・土方さんと・・・・・・・。
銀時とも他の奴とも何度もセックスを経験した俺だけど、本当に好きな人とベッドを共にしたことなんてない。
土方さんと、俺が・・・・・?
駄目だ!!!!絶対無理だ!!!!!!!!
恥ずかしくて、死ぬ。


ふるふると小さく首を振る俺に、土方さんはふ・・と笑う。
「来い」
そう言って俺の肩を抱くと、リビングを抜けて書斎へと続く廊下を歩きだした。


俺はもうどうしていいかわかんなくて。
今までずっと冷たかった土方さんが、いきなりこんな風に俺に優しくしてくれて。
ねえ、どうして・・・どうして?

土方さん・・・ひょっとして、、、ひょっとして、、、、ひょっとすると・・・・。俺の事・・・・・・・。


そんな自惚れた考えがぐるぐると頭の中を駆け巡って、俺は有頂天になっていた。
そして、土方さんが書斎から寝室に通じるドアノブを回したその時、部屋中に響き渡る音が聞こえた。
真っ暗な部屋。
土方さんの机の上のノートPCだけが光を放っていて。


その画面には、見るもおぞましい二つの影が蠢いていた。

二人とも一枚の衣服も身に着けておらず。
ベッドの上でいやらしく折り重なり合い、激しく律動を繰り返していた。

「あっ・・・ああああん・・・ああ、はああっ・・・ぎん・・・・銀時・・・・銀時・・・好き!!!」

俺と、土方さんは、ぴくりとも動くことができずに、暗闇に浮かぶ銀時と俺の情事を見つめていた。

「あい・・・愛してる・・・・愛してるっ・・・銀時!ぎん・・・ときぃいいっ!!!!」



それは、よくできた・・・・・・・安物のポルノムービーそのものだった。










あの後、俺は映像を止めることも出来ずに、まったく身動きできなくて。

土方さんがいきなりPCを机から叩き落としてこっちを振り向いた。
振り向いた途端に俺の頬が火を噴いたように熱くなった。

殴られたということがわかったのは、身体がふっとんで土方さんのベッドにしこたま背中を打ち付けた時だった。

<こんな子供に暴力振るいやがって恥ずかしいと思わないのか>
初めて会った時に土方さんが高杉に言った言葉。

俺が、皆の前で嘘を言った時も。土方さんの大切な手紙を破ったときでさえ俺を殴るなんてことしなかった土方さん。

どれだけ、土方さんが怒っているのか、良く分かった。

俺は・・・・土方さんに抱かれたいばっかりに、銀時とはなんでもないって嘘ついた。
あっという間に、罰が当たってしまったんだ・・・・。

つ・・・と鼻血が流れ落ちたのが分かった。
馬鹿な・・・馬鹿な俺・・・・・。
昨日まであれほど押し隠そうとしていた自分の想いをいきなり土方さんに押し付けて、あわや叶いそうだと知ると恥知らずにも涎を垂らして身体を擦りつけた。

俺はもう、土方さんの名前を呼ぶ気力も無くなっていた。

この家に・・・・これ以上いられるわけがなかった。



のろのろと階段を上がって自室に戻る。

かちゃりと部屋のドアを開けると、そこに銀時が、いた。

「総悟・・・・・・・」
銀時は目の下に隈を作って、まるで死人のような顔をしていた。
「総悟・・・俺を、怨むか」
階下のポルノムービーを再生させたのはもちろん銀時だろう。

俺は、何にも言えなかった。

あの、汚らしいビデオが無くたって、俺には土方さんに抱かれる資格なんて無かった。
土方さんに嘘をついて、土方さんの信頼を裏切って。

「総悟・・・俺と・・・俺と一緒に来てくれ・・・・」
銀時が這いつくばって俺の足元に縋りついて来た。

銀時の男前な顔は、涙でぐちゃぐちゃで。
「頼む・・・・なあ!頼む!!!総悟!!!俺には、お前しかいないんだ!!!一緒に来てくれよ!!」
いつも余裕たっぷりで人に頭を下げる所なんて見た事がなかった。
こんなにも情けない銀時・・・・。

銀時をこんな風にしたのは俺だ。
俺が、あの不正書類を坂井さんに送ったからだ。
悪い事をしていたのはもちろん銀時だし、その罪は暴かれなければならない。
・・・・だけど・・・。

もう、俺にはこの家にいる資格もなくて。
さっき、土方さんに頬を張られた瞬間に。
俺と土方さんの関係は完全に終わってしまったんだ・・・・・・。

「総悟・・・・総悟がいなければ俺は死ぬ・・・・。総悟だけが俺の光だ!!」
銀時は突っ立ったまんまの俺の太股に縋りついてそう言い続けていた。




これが。

これが本当の愛なんかじゃないってことは、わかりきっていた。

だけど。

俺の手の中には、この偽物の愛しか残っていない。


俺には、このたった一つのいびつに歪んだ愛を、大切に守って行くしか道は残されていなかったんだ。





我儘なカンパネルラ(7)
(了)


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