「我儘なカンパネルラ(5)」 H.23/03/04



(高→沖・土←←沖)こじれまくっていきなりがんばる高杉さん。



あれから土方さんは、全く俺と目を合わせなくなってしまった。
俺をまるでいないかのように扱い、どうしても、どうしても話をしなければいけない時だけ憎々しげにたたきつけるように必要事項だけを伝えた。

つらかった。
大好きな人に心底嫌われて。
あんなひどい事をしていた俺。嫌われて当たり前だ。
こんなにも嫌われて俺は何故まだこの家にいるんだろう。
憎しみの眼差しを向けられているのに、俺は土方さんの側にいたいのだろうか。

土方さんは、俺をこの家から追い出そうとはしない。
一旦引き取るといったものを翻すことをしたくないのか・・・・・。
いや、多分。
土方さんの血の繋がりに対する執着のせいだ。
話もしたくないほど憎んでいながら完全に切り捨てられないのは、多分俺が血の繋がった弟だからだ。
だから、最後のギリギリの時点で、切れそうな細い糸で俺を繋ぎとめてくれているんだ。

俺は、そのたった一つの切り札でもって、土方さんを縛っている。

昨日の夜、リビングで土方さんが銀時と話しているのをこっそり聞いた。
土方さんは眉間に親指と人差し指をあてて、食卓に肘をついていた。
相当疲れた様子で。
土方さんの側近、比較的信用していた人間がライバル企業に土方グループの情報をリークしたらしい。
何も言わない土方さんに、親切そうに銀時がなにか一言二言、言った。
声が小さくて聞こえなかったけど。
それに対して、目を伏せたまま土方さんが
「信じられるのは、家族だけだ」
って・・・・・言ってた。

最低な人間だって思われている俺が何故未だにここにいられるのか。
俺のことをもう信用なんてとてもしていないだろうけど、身体の奥底から土方さんが求める血の繋がりが俺にはある。
ただ、傷ついた土方さんの弱みに、付け込んでいるだけなんだ。



俺がこの家に持ってきた大切なものはたった二つ。
形見のお守りと姉ちゃんの写真。
でも、お守りはもう無い。
銀時に取り上げられてしまって、ひょっとしたらもう捨てられたのかもしれない。
写真は・・・・土方さんにびりびりに破られた。
俺はあの後一生懸命拾い集めてテープで貼り直したけど、ほとんどまともに姉ちゃんの顔を判別できなくなってしまっていた。
でも。それでも俺にはたった一つ残った大切な宝物だった。

銀時にいいように弄ばれ、土方さんに死ぬほど嫌われてしまった今。
俺の精神を支えるただ一つの・・・・。




相変わらず銀時は、俺にひどい仕打ちを続けた。
好きな時に来て、好きな時に俺を征服して、そして終わった後はゴミのように俺を捨てて行く。
それでも普通に俺を抱く分にはまだ耐えられた。

あの、思い出すのもおぞましい器具を使った夜。
手紙を破っているのを土方さんに見つかって以来、俺への銀時の仕置きはまたあの器具に戻っていた。
嫌だ嫌だと泣いて懇願しても絶対に許してもらえず、土方さんが同じ屋根の下にいる時でも、銀時は容赦せずに俺を責めた。

何をしても行為をやめてくれない銀時。ただ、俺が泣き叫ぶのを楽しんでいるだけかのような銀時。

泣いたって無駄だというのならば。俺は・・・・。
段々と、俺は諦めに似た思いを抱くようになった。俺はまるで、感情の無い人形のように銀時との夜を過ごした。
どうせ誰も助けてくれないのなら。
感情を殺して。土方さんへの恋心にも蓋をして。何も感じないでいればいい。
そうすれば、俺の心は少しだけ救われた。



今日もリビングで土方さんと銀時が仕事の話をしていた。
土方さんは俺と同じ部屋にいるのも嫌だろうし、俺だって銀時の糞野郎の顔なんて見ないで済むならそれにこしたことはない。
どうせ難しい話で俺にはわからない。
俺はそっとリビングを離れ、階段を上がった。
俺の部屋の奥が銀時の部屋だ。
ふと見ると部屋のドアがほんの少し開いている。
いつもきっちりと鍵をかけているのだが、今日は多分飲み物でも取りにリビングに降りた時に土方さんと出くわしでもしたのだろう。

ひょっとしたら。
俺の大切なお守り、こいつ部屋に置いているんじゃあないだろうか。
俺は、無言で銀時の部屋に入った。

置いているとしたら、机の引き出しとかだろうか。
俺は部屋の奥のデスクに近付いていった。
と、横目にAVラックのようなものが目に入る。
壁一面にDVDやブルーレイディスクが収納されているのが分かる。
世界中を旅して周ったと言っていた。そのデータだろうか。
興味を惹かれて近付いた俺は、ふと銀時のしていた世界の話を思い出して渇いた笑いを漏らした。
あの、フランスの話をしていた時も、銀時は腹の中で俺の事をそんな風に見ていたんだろか。
何気なしに二重になっているラックの前面をスライドさせて後ろの棚を見る。
その途端、俺の目に、走り書きだけど繊細な字でディスクの背表紙に書かれた「総悟」という文字が飛び込んできた。

自分の心臓の音が聞こえるような気がする。
俺の名前が書かれたディスクは数十枚にも及び、その数はこの数ヶ月間、情事の間だけでなくずっと俺をカメラが捉えていたことを示していた。
そろそろとそのうちの一枚を手に取る。
「○月×日 総悟」
「○月△日 総悟」
大抵は日付と俺の名前だけ。だけど。

「△月○日 総悟 放尿」
その、文字を見た途端、俺の中で何かがぷつりと切れた。

この間俺が例の器具で責められた時、あまりの痛みに失禁してしまった事があった。
これは、その時の映像なのだろうか。

ぶるぶるとディスクが震える。
震えているのは、俺の腕だ。

「畜生・・・・畜生・・・・・」
俺は、激情を止めることができなかった。

うわあああああああああ!!!!!!
大きな声を上げて、ディスクをめちゃくちゃに床に落とした。
俺のディスクもその他のものもすべていっしょくたにして。

ううううう、、、ひっく・・・ひぃいいっく。
無意識にしゃくりあげながら、ディスクを壁に叩きつけ、足で踏み割り、バキバキと手に触れたディスクを見境なく壊しまくった。

畜生、畜生、畜生!!!!!!
膝をついてはあはあと息を整える。
ふとドアの方を見ると、呆然と俺を見ている土方さんと、その後で嫌な笑みを浮かべている銀時が、いた。

「総悟!」
つかつかと土方さんが俺の方に歩み寄って来て俺の腕を掴んで引き上げた。
「あっ、痛っ・・・」

わなわなと土方さんが震えている。
「っ・・・お前と言う奴は・・・どこまで性根が腐っているんだ!!!!!!」
浴びせられる怒号。もう、これ以上ないくらいに俺は土方さんに軽蔑されているだろう。

「兄貴・・・」
「お前は黙ってろ、こいつは一度この根性を叩き直してやらねえといけねえんだ!!」

「沖田くん、いいんだよ、何か俺に対して気に入らないことがあったんだろ?でもね、これは俺が世界を旅してとても美しいと思ったものや素晴らしい人達をカメラに収めたものなんだ。言ってみれば二度と撮ることはできないものばかりだ。いいかい、形あるものはいつか壊れる。けれど二度と取り返せないものは、簡単に壊してしまってはいけないんだよ。俺に何か思う事がある時は、俺自身に言って欲しい、わかるかい?」

まるで・・・優しい兄貴が諭すような口ぶり。
「銀時・・・・・」
土方さんが銀時の肩に手を置く。
触らないで・・・・そんな汚い野郎に触らないで、土方さん・・・・。

土方さんが汚いものでも見るように俺を睨みつけて階段を降りて行った後。
銀時はにっこり笑って
「マスターは別の所にあるから、本当大丈夫だからね」
と言った。






学校の帰り。
俺はぶらぶらと駅前通りを歩いていた。
今日は珍しく銀時が地方に出張していて、夜にあいつが部屋に来る事もないと思うと気が楽だった。
とろとろ歩いていても考えてしまうのは土方さんのこと。
昨日リビングで銀時と話していた時。とても憔悴していたようだった。
俺、なんとか慰めてあげたい。「傷つかないで、土方さん」って・・・・。
でも、土方さんはきっと俺が近付くだけで気分が悪くなるんだろうな。
慰めるどころか、俺は土方さんの神経を余計に逆撫ですることばかりやってしまう。



ぼさっと考えながら足を動かしていると。
ドルンドルンとでかいエンジン音がして、歩く俺の横に車が停まる。

高杉だ。

ウィンドウが開いて、高杉の横顔が現れる。
いつものニヤけた口元ではなく、ものすごく真剣な表情で。


「乗れよ」
運転席から俺を見上げたその必死な瞳が、土方さんを見る俺の目みたいで。
俺は、高杉の車に乗ってしまった。







「総悟・・総悟」
余裕の無い表情の高杉が、ガンガンと突き上げてくる。
俺は、高杉の家の玄関を入ったすぐの所で押し倒された。

両手を押さえ付けられ、学生服の下だけ脱がされて。
銀時とだってこんな固い床の上で寝たことはなかった。

「うっ、ううっ、う・・」
我慢しようとしても痛みで声が漏れる。

抵抗はしたが、高杉に付いてきた時点でこうなることは分かっていたような気がする。


この間の、高杉の傷ついた顔。

今日も、おんなじような顔をして、俺を抱いている。

「畜生、畜生、この淫乱が!どうせお前を助けたあの野郎とデキてやがんだろう!!畜生!」

俺が初めてじゃないって解ったんだろう、快楽の為の行為を行いながらこれ以上ないくらい悲しそうな表情。
「ううっ・・・うぁっ」
荒々しい抱き方にしかし高杉の真摯とも取れる想いが伝わって来て悲しい。


高杉が果てた後、俺も高杉もしばらく無言だった。

ずるりと高杉が俺の中から出て行って。
身体を起こした奴は、俺の目を見ないでふいと向こうを向いた。
俺は・・・・こんな、固い床の上で犯されて身体中がみしみしと痛んで。
ようやっと起き上がった。

「高杉」

ビクリと身体を震わせるがこっちを見ない。

「高杉・・・・お前、俺の事好きなのかィ」
ぽつねんと言ってみた。

強がっているわりには結構打たれ弱い男。
「だから・・・ずっとそう言ってるだろーが!!」

?言われた事ありましたっけ。

「高杉ィ、こっち見ろィ」

忍耐強く待っていると、これから叱られる子供のようにゆっくりとこっちを向く高杉。
その顔は、いつもの自信に満ちた笑みはまったく影を潜めていて、恨みがましい顔を俺の方に向けていた。
なんでぇ、ヤられたのはこっちだぞ。

「俺、今すっげぇ好きな奴いるんだ」
ビクリ、とまた高杉の肩が震える。

「今まで好きとか嫌いとかそういうの全然興味無くてさ、誰かがそんなこと言っててもバカじゃねーのくらいでさ・・・・・」
不器用な愛し方しかできねえこいつに、ちゃんと言ってやりたいって。そう思った。

「でも、、、やっと・・・今・・・俺・・・そいつ以外と絶対に寝たいなんてっおもわねえ・・・ようになって・・・・。俺・・おれ、の、こと・・・・、俺に惚れてるって・・・言ってくれて・・・・ありがてえけど・・・・俺は・・・・」
「言うな・・・・」
「高杉」
「決定的な事言うんじゃねえよ・・・・」

情事の後の会話じゃない。でも、話をする前に高杉がおっぱじめるもんだからさ。
色々ひどい目にあわされて、今日なんか無理矢理押し倒されて。
でも、この意地っ張りの隻眼を、いつのまにか憎めなくなっていた。
好きっていう気持ちを、見せてくれた。銀時に翻弄されて、身体と心が完全に真っ二つになっていた俺に。実は純粋だった「想い」ってやつを、教えてくれた。

「ごめんな、高杉・・・」
「馬鹿野郎!言うなっていっただろうが!・・・畜生・・・なんで俺がこんなガキに・・・・俺は・・・俺は・・・・誰にも振り回されたりしなかったんだ、今まで・・。どんな女にも・・・・。」

がばりと抱きすくめられて。
ちょ、、俺まだ下半身マッパなんですけど・・・。
「畜生・・・誰だよ、あの野郎なのかよ!!」
結構しつこいな・・・。仕方ないので頷いてやる。
「クソっ、畜生!畜生・・・・」

俺をギュっと抱きしめたまま時間を止めて。
やっと顔を上げた高杉は、絞り出すような声で言った。
「こんな俺は俺じゃねえ・・・こんな恰好悪い俺は絶対俺じゃねえ・・・けど・・・けど、言わねえでいられねえ・・・・・・・。お前が・・・誰を好きでも、俺は・・・どこかでお前と繋がっていてえんだ。前みてえに勝手にいなくなられちまったら、俺は・・・・・」

たかすぎ!!!
ぎゅっと俺も高杉の身体を抱きしめ返した。
はっと息を呑む音。
「俺は・・・お前が俺に惚れるまで・・・お前に手ェ出さねえよ・・・・だから・・・・・」

だから、俺とずっとダチでいてくれ。

高杉は、いつものコイツとはかけ離れた顔で、絶対に言わねぇようなセリフを吐きやがった。






久しぶりに清々しい気持ちだった。
携帯を拒否ってた事をものすごく非難されて、「好きな男がやきもちやきでよぉ」なんて軽口たたいて再登録して。
高杉の家を出た。

忘れかけていた何かを高杉が思い出させてくれた。
それは、銀時に何をされたとか土方さんに嫌われたとかそんなことじゃなくて。
俺が、土方さんを、好きだということ。
土方さんが笑ってくれていればいいってこと。
土方さんの幸せが、俺の幸せ。

俺は今まで銀時の野郎が憎くて憎くて仕方なかった。そりゃあ今でもそうだけど。
もしも土方さんが俺と銀時のことを知ったらどう思うか。
本当の事を知ったら土方さんはきっと傷つく。
俺が無理矢理銀時に犯されてビデオとられてずっと脅されていたなんて。
銀時を信じて家に迎え入れて、ずっと疑いもせずに一緒に暮らして、そして銀時に騙されて俺を蔑んで。
そんな自分をきっと許せなくなるだろう。

俺は・・・・、俺はあんなビデオ土方さんに見られたらショックで死んじまう。
どうせ真実を知らせられないんなら、いっそずっと隠し通してしまおう。
俺はもう嫌われちまったけど、この上銀時まであんな野郎だったって知ったら、土方さんはもう信じられるものが無くなってしまう。

何も。何もなかった俺だけど、やっと生きる事に張りが持てそうだった。
俺は、なんでもない顔をしてあの家で暮らそう。ふてぶてしい勝手気ままな弟として。
土方さんが後悔して自分を責めないように。
一世一代の大舞台を演じて見せよう。

俺が、苦しみの中でのたうちまわっている姿なんて、絶対見せないで。
それが・・・・俺の幸せなんだ。



一旦そう決めると、今までみたいにビクビクした気持ちはナリを潜めた。
土方さんに知られたくないって思ってた昨日までとまったく同じなのに。
俺の為じゃなくて、土方さんの為に。
そう思うだけで全然違った。

さあ、なんだかワクワクするぜィ。
この大舞台を演じる為に、俺は2つのルールを作った。
まず、1つは、当たり前だけど、絶対に土方さんにバレないこと。
隠し通すって決めたからには中途半端は絶対に駄目だ。
途中でバレちまったら、よけいに土方さんが傷つく。
突っ張るならツッパリとおさねえと意味がねえんだ。
それからもう1つは、自分自身の精神を安定させること。
ずっと演技をし続けるわけだから、精神状態の起伏によっていつボロが出るとも限らない。
なるべく、なるべく自分自身が落ち着いて気分良く暮らせる道を模索するんだ。

そう考えた俺は、剣道部に戻ることを決めた。
剣道。俺が大好きだった剣道。
なんでだか知らないけど、俺は剣道をやるために生まれてきたんじゃないかって思うくらい、自惚れだけど、ホント思い通りに身体が動くんだ。
立ち合っている時は凛とした空気の中ものすごく集中できる。
これ以上ないくらいの喜びを、その短い試合時間で感じていた。
毎日、好きなことをやって、好きに生きよう。
そうして、土方さんの側にいるだけで、それでいい。
嫌われても。憎まれても。





土方さんとの二人きりの夕食。
もちろん会話はない。

俺の作ったカレー。サラダに山菜やチーズ、刻み海苔なんかも乗せてドレッシングで和えて。
結構自信作なんだけど、どうかな、美味いかな・・・。
チラリと盗み見るが、土方さんはこちらを見もしない。
ただ黙々と食べていた。
俺の事がどんなに嫌いでも、仕事にかこつけて飯の時間をずらせたりしない。土方さんはそういう人だ。
絶対に面倒な事や嫌な事から逃げたりしないんだ。
俺は勝手にデートしてるみたいな気分になって・・・・ハハハ、会話もねぇデートなんて笑えるぜィ。

よし、ここらでいっちょトークなんてしてみっか。
「お・・・俺、部活やりまさ」
声、裏返ってなかったよな?

一念発起して言ってみたってえのに、土方さんてば完全無視。何の部活かも聞いてくんねえ。
アハハハハー。そらそうだよなあ。兄弟二人に変態の汚名着せて、土方さんのお母さんの手紙破り捨てて更に銀時のコレクションもめちゃくちゃにした弟だもんなあ。
ワーオ、並べてみたらすげえぜ。
いやいや駄目だ駄目だ。こんなこと考えてたら、また喉になんかがつまっちまったみてえで泣きたくなってくる。

「てなわけで多少金いるんでさっ。んーと・・10万くらい。小遣いくだせえ」
しれっと言えたよな。
俺はここへ来てすぐ、働き始めたばっかのスーパーをやめた。土方さんの命令で。
だから、自由になる金なんて持ってなかった。
必要なものは土方さんが買ってくれていたし不自由はしていなかった。

苦労して姉ちゃんが買ってくれた防具は、前の家で処分してきた。もうきっぱりと剣道はやめるって思っていたから。ずっと持っていたかったのは山々だったけど、その荷物を見られたら剣道続けろって言われそうだと思った。居候になるんだし、家のことやろうと思ってたから部活までやる気なかったし。
そんなわけでお守りと写真以外の思い出は処分してきたんだ。
剣道の防具って結構高い。
土方さんに言わねえで揃えられるわけない。

土方さんは、カチャンとスプーンを皿に置いて無言で立ち上がった。
書斎にひっこんで、しばらくして出てくると、土方さんは、立ったまま食卓に座っている俺の目の前にバサバサと万札を落とした。
何枚かはテーブルから床に落ちている。
冷たい、冷たい目をして何も言わないまま、土方さんは書斎に戻って行って。
その日は二度とリビングには出てこなかった。

何をするのかって聞かれなかったから、俺も言ってない。
つまり、こんな大金、俺が部活やるって嘘ついて遊びに使うって思ってるかもしれない。
でも、それに対して問い詰めることも注意することもしなかった。
俺にまったく興味を持っていない証拠だろう。

俺はくすりと笑うとテーブルの上の万札をかき集めて床に落ちてるのも拾って。
「現金がこんなに家にあるなんてすげーなー」
なんて言いながら。
食卓の食器を片づけ始めた。

ひょっとして、土方さんが俺を見ているかもしれない。
ここで悲劇の主人公ぶってしくしく泣いたりしちゃ駄目なんだ。
面の皮厚くして、儲けたって顔してないとな。
この家の中では絶対に油断しちゃ駄目だ。
1つの綻びもあっちゃならないんだ。

俺は、自分の完璧な演技に、フフフと笑みを浮かべた。



明日は、銀時が出張から帰って来る。
俺の地獄の日々が、また始まろうとしていた。



「我儘なカンパネルラ(5)」
(了)



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