親の心子知らず





「♪ ぽいぽいぽいぽ ぽいぽいぽ ぴ〜」

今日も屯所にアホの声が響き渡る。



見ると茶髪のアホが、歌だけじゃなくて振りも完コピして踊っている。

本当にアホだと思う。



そのうちに屯所の奥からドタドタと足音がして、

「そうごおおおおお!!!!なんでもかんでもすぐにテレビの真似するなっていつも言ってるだろうがあ!!」

なんて叫びながら副長が走ってきた。



「仕様も無いことばっか言ってんじゃねえ!総悟はテレビ禁止にするぞ!」



ばかばかしい。

どこの保育園だ。



18にもなった男子に何がテレビ禁止だ。

何がテレビの真似をするな、だ。



当の本人はしれっとした顔で

「あげぽよ〜〜」

なんて言って更に副長の怒りを煽っている。



結局仲がいいのだ。





「ザキぃ〜〜〜、ひじかたさんが苛める〜〜〜〜〜」

沖田さんが俺の背中からだらりとおんぶみたいにして体重を預けてきた。



やめてくれないかな。

バレるようなこと、やめてくれないかな。



じろりと副長が俺を見る。



「な〜んでぃ」

なんて俺のかわりに沖田さんが背中から挑発するから始末が悪い。



「餓鬼みてえにべたべた野郎に甘えてんじゃねえ、離れろ」

「俺が誰と何しようが勝手でぃ」



やめてくれないかな。

バトル的なものを誘発するような行動はやめてくれないかな。





怒りで顔を真っ赤にしている副長を尻目に、

「♪ まっするすてぃっく しゅっしゅぽっぽしゅっしゅっぽっぽ」

そう言いながら俺の後ろから汽車の動きで腰を揺らすアホ。



沖田さんのマイブームは結構長くてもう半年くらいこの歌を歌ってばかりで聞いてる方は飽き飽きしている。

やるなら裸でやらんかい裸で。



ぴきぴきと副長の額に血管が浮いた。





「いい加減にしろ!!今度その品のねえの歌いやがったらマジでテレビ禁止にするからなあっ!!!!」

そう叩きつけるように言って、俺から沖田さんをべり、と引きはがして肩をいからせながら副長室に戻って行った。



どーでもいいじゃないの、あんなに必死になることかね。

と思いながら引きはがされた沖田さんを何気に振り向くと

ちゅ。

と沖田さんの唇がぶつかってきた。



あ。



不意打ちだ。



じいと見ると、勝ち誇ったような顔。



ぐいと腕を引いて強く口づけた。

「んーうっ・・誰かくるかもしんねえだろバーロィ」

なんて言って俺をドンとつきとばして去っていく沖田さん。



もちろんあの歌を歌いながら。







翌日から沖田さんの部屋のテレビはNHKしか映らなくなった。









それからは談話室で大きな音でテレビを見ている沖田さんの姿をよく見るようになった。

勝手に部屋のテレビに細工されて黙ってるはずがないんだけど大人しく談話室で我慢するようになったのだ。

まあ大人しくなんてないけど。

実際個室を持っていない隊士どもを押しのけて自分の見たいのを見る。

もちろん副長が沖田さんに見せたくないようなの(沖田さんをいくつだと思っているのだろう)ばかりだ。



更に、ブルーレイ一体型の談話室のテレビで、最大音量でAVを見るという暴挙。

他の隊士にしたらたまったものではない。

皆が股間を抑える中、うっすら頬を染めて自らのものを取り出そうとする勢いで前をもぞもぞやり出す。

みなさん隊長にく・ぎ・づ・け。



我慢できなくてさすがに俺も叱り飛ばそうとしたところで例のドッタバッタという足音。



「そ・・・・そ・・・そ・・・そ・・・、そう・・・総悟ぉおおおおおおおおお!!!!!!」



ブツ!

と主電源ごと切られる哀れなテレビ。



バババババッとその場にいる隊士を見渡して顔を確認する。

多分勃起状態の沖田さんを見たことに怒り狂っていてあとで説教でもするつもりなのだろう。



どう考えてもここは公共の場所だから、悪いのは沖田さんだ。ってか見られても問題ないんだろう。

それよりも勃起状態のナマのモノを見たことがある俺なんかどうなるんだろう。



「いいいいいいいかげんにしろおっ!んな所で変なモン見んじゃねえ!!お前にはまだ早い!!」



いつなら許してあげるんだろうか。

言っときますけど沖田さんは立派に勃起して立派に射精しますよ。

そんな無理に押さえつけてどうするっつーんですか。



沖田さんはキョトンとした顔で土方さんを見上げて

「だって俺の部屋NHKしか映んねえんですもん」

などと言った。





次の日、談話室のテレビもNHKしか映らなくなって、ブルーレイスロットは鉄製の蓋がされ、メディアを見たい時は副長に申請して鍵をもらうシステムになった。

誰がそこまでして見たいだろうか。

あわれ何の罪も無い隊士どもは、朝もはよから連続テレビ小説などを見る羽目になったのである。





で、今。

俺の部屋でゴロゴロとしながら沖田さんがテレビを見ている。

俺の部屋のテレビは何でも映るからだ。

しかし見ているのは「ためしてガッテン」のなんだか味噌の効能みたいなテーマの回だった。



何が楽しくて見てるんだろう。

俺が沖田さんにケツを向けて文机で仕事をしていると、たまに「ガッテンガッテン」とか言うちょっと高い声音を使って沖田さんが真似をしている。



これが終わったらちょっと沖田さんにちょっかいを出そうかな、出してほしいんだろうな、と思っていると。

いつもの足音。



うざいな、と思いながらもうすぐ開くであろう襖をじっと見ていると、果たして勢いよくそれがスライドして、鬼が登場する。



「てんめえ、総悟!!!!!!!!」

とだけ言って、画面に映る番組を見て、パクパクと口を動かす。

動かして・・・・・・・・・・・・・・・・・、顔が赤黒くなって、それから、ギッと俺を睨んで。

でもどうしようもなくて、スパン!!!とでかい音をさせて襖が締められた。

あとはドカドカとどこにぶつけて良いかわからない怒りを床一面に叩きつけながら歩き去る音だけが聞こえた。



ウフフと笑って沖田さんがほふく前進して俺の膝の横に来る。

俺は、手に持った筆で沖田さんのホッペに「バカ」と書いた。









翌日。

屯所の中からテレビがすべて消えた。

もちろん俺の部屋のも。

局長の部屋のまで。



ああ・・・・・俺は職務で出入りするから知っているけど、副長の部屋のだけそのまま。

なんとなく隊士どもも予感していたみたいで

「遂に無くなったか」

くらいのもんだった。



ふと玄関の前を通ると、万事屋の旦那が来て副長と話している。



「いやー、悪いね〜、いいの?こんなにもらっちゃって」

今日はリサイクル業者の出で立ち。

グレーのツナギも良く似合うシュっとした人だ。



「ああ、金はいらん。だからとっととこの悪影響撒き散らし機をどこかよそへやってくれ」

人にものを頼む態度じゃないだろそれみたいな顔で副長が応える。



なるほど。

十数台のテレビの処理を、旦那に頼んだんだな。





俺は今頃俺の部屋でケータイのテレビを見ている沖田さんを思い浮かべて副長の苦労を思いため息をつくと、くるりと向きを変えてその場を後にした。











(了)


















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