「我儘なカンパネルラ(4)」 H.23/03/02



(銀沖・土←沖)R18。銀さんファンは読まないほうがいいかも。
あんまり話進んでません。


「やあ、良い子で待ってたんだね」
銀時が俺の部屋に入ってくる。
俺は1時間も前から銀時の帰りを待っていた。
裸で。床に正座して。

俺の部屋には、ぱっと見わからないようにビデオカメラがセットしてある。
デジタルの・・・最新機種らしい。
リモコンで遠隔操作できるそうでブルーレイ録画の為長時間録画に耐え得る。
俺にはそれがいつONになっていつOFFになっているのかわからない。あるいは一日中つけっぱなしなのかもしれない。

俺は、「今から帰る」という銀時からの連絡を受けて、すぐに服を脱いで正座して待っていなければならなかった。
もしも、言う事を聞かないでビデオのチェックなんてされると、本当にひどい目に会う。
それはこの一週間で良く分かった。

あの日、お守りを銀時に取り上げられた日。
無理矢理に奉仕させられた後、散々つっこまれて、喘がされた。
最初の時はほとんど俺に愛撫なんかしなかったくせに、あの日はものすごいテクニックで俺を何度もイカせた。
泣いて泣いて。もう許してって言っても全然許してくれなくて。
土方さんのことを好きなんだろうって言われて。
俺は初めて自覚した。
自覚しながら他の男に抱かれているっていう状況が俺を滅茶苦茶に乱れさせた。

そうして、終わった後、銀時は自分の部屋にセットしてあったビデオを俺の目の前で再生した。

目を覆い、耳を塞ぎたくなるような、裏ビデオ顔負けの映像。
しかも感じまくっている俺、銀時のものをしゃぶらされている俺、挿入を強請っている俺。
とても、とても初体験がついその前日だったなんて思えない乱れ様だった。

なんで・・・こんなもん・・見せるんだ。
泣きじゃくる俺に銀時は優しい声で言う。
「総悟が言う事聞いてくれるように、ね」

「兄貴に、このビデオ見せちゃうよ」
びく。

大きく俺の身体が震えたのを、銀時は見逃さなかった。
「やめ・・・・やめて・・・」
「あれぇ?総悟は兄貴に俺の所業を言いつけたかったんじゃあなかったの?」
がくがくと身体が震える。
こんな、、こんないやらしい姿の俺を、土方さんに・・・!!

急激に土方さんへの恋心を自覚した俺。
何が何でも銀時と関係していることなど知られたくなかった。

ぐすぐすと鼻を啜って泣く俺に、よしよしと銀時が頭を撫でる。
「大丈夫、総悟が俺のお願い聞いてくれたらなーんにも心配することなんてないんだからね」

そう言って、銀時は俺の部屋にビデオを取り付けた。
そのビデオの映像はものすごく鮮明で。
俺を恐怖で震えあがらせた。

それからの一週間は銀時の言いなりだった。
信じられない行為をたくさん強要されて。
腫れあがっていた俺の頬は、日を追うごとに治癒していったが、痛みを忘れることはなく。
ビデオの件からも暴力を受けた記憶からも、俺はがんじがらめに銀時に縛られてしまっていたのだ。

今日も、裸で正座していたせいで、足の感覚がもう全く無くなってしまっている。
「立って」
「う・・・・」
がくがくと感覚のない足で立ち上がろうとする。
「ふふ・・・総悟生まれたての小鹿みたいだね、かわいい」
乱暴に足をつかまれる。
「わあっ」
足を走りぬける痺れに銀時の腕の中に倒れ込んでしまう。
「さあ、今日も楽しい時間の始まりだ」
そう言って、銀時は俺を女の様に抱き上げるとベッドに乱暴に放り出した。

「う・・・ん・・・んっ・・・」
ギシギシとベッドの音をさせて銀時が俺の身体を揺する。
この一週間で慣らされた行為。
痛いだけだった挿入も銀時の手によって快感を感じるようになってしまった。
でも、心は、ズタズタだった。

初恋を自覚した途端に別の男の物になった俺。
「さいあくだ・・・」

「どしたの?何が最悪?」
汗ひとつかかないでフィニッシュした銀時は、ベッドの端に手を伸ばして何かを取った。
今日、この部屋に入ってくる時何か紙袋を持っていた。それだ。
もう終わると思っていたのに、まだ続きがあるのか・・・。

紙袋の中から取り出したのは、小さな小さな物体。親指くらいの大きさの本体からコードが延びている。
「なに・・・それ・・・」
なんとなく、用途はわからなくもないけど。

「フ・・・ふふ・・・、総悟が考えているよりもうちょっとだけ怖いものだよ」
どきん・・・どきん・・・どきん・・・・。
「俺って結構やっぱりノーマルなんだよねー。色んなタイプがあったけど、やっぱさ、こういう普通のやつにしちゃった、総悟も初心者だしね〜」
「何・・・なんなの・・・それ・・・」
怖くて…怖くて。
聞くのも怖いけど、聞かないのはもっと怖い。

「うん、俺怖いから試してないんだよねー、どんくらいか総悟教えてね」
なに・・・なにが・・・・・。

カタカタと身体が震える。
「うん、最弱から始めるってのも腰ぬけだよね〜。真ん中くらいにしとくか」
カチカチと器具の根元のダイヤルを回している。
「なに・・・なんだよそれ・・・何なんだよ!!!」
カチ、と銀時がスイッチを入れる。
ぶるぶると震え始めたそれは。見た目は普通の・・・・ローターとかいうやつっぽい。

「総悟、頑張ろうな」
銀時は、再び俺の上に馬乗りになり・・・・俺の左の乳首にそのローターを近付ける。
「電気刺激器具だよ、痛いのはきっと最初だけだから」
そう言って、ローターを俺の乳首に押し付けた。

「ひぎっ・・・・きゃああああああ!!!!!!」
バチバチと音が聞こえたかと思うくらいの激しい痛み。
俺は狂ったように身体を跳ねさせた。
「ん・・ん、総悟、我慢してよ」
なんとか逃れようとする俺を拘束して、ぐぐっとローターを更に強く押し付ける。
「いっ、、いぎっ、、、ひ!!」
唇からは涎が垂れ流されていたが、それを止めることはできなかった。
勝手に涙も流れ落ちる。

痛い・・・・痛い・・・。
あまりの衝撃に、ぴくぴくと勝手に身体が痙攣する。
やっとローターを離して、銀時はその後を舐めた。
「ひ・・・ひぃ・・」
反対の乳首も同じ様に責められ、その後銀時の歯で執拗に苛められた。


何故・・・・何故こんなひどい事をされなければならないのか・・・!
俺の混乱は頂点に達し、ただガタガタと身体を震わせるのみ。


地獄だった・・・・。

ぐったりとした俺に、銀時は頬ずりする。
「俺のものだ・・・総悟」

その後、銀時が自分の服を整えて、部屋を出て行こうとした時。
もう、まともに思考能力も残っていない俺に向かって、
「そうそう、今夜中に兄貴帰ってくるからね。明日の朝は良い子でおかえりなさいって言うんだよ」
と声をかけた。







「留守中何か変わったことはなかったか」
土方さんが、新聞を見ながら言う。

「んー、大丈夫、沖田くんも良い子にしてたしね」
いつもの飄々とした表情。
「そうか」
短く言うと新聞を脇へよけて、コーヒーを取りカップを唇へ持っていく。
俺はその流れるような動作をそっと盗み見た。
清廉な土方さんの姿。
俺はまともに真っ直ぐ土方さんを見ることはできなくなってしまった。

「ホラ沖田くん、早く食べちゃって」
俺は、既に学生服に着替えていたが、学ランだけ隣の椅子にかけてシャツ一枚で食卓に座っていた。
でも、シャツに昨日ひどい扱いを受けた乳首が擦れてすごく痛くて。
背中を丸めてなんとか布が触れないようにするのに必死だった。

「コラ、背筋ちゃんと伸ばして〜」
パンと背中を叩かれる。
「ヒッ」
小さく声が漏れた。乳首がシャツにあたったのだ。
ツキン、とした痛みに眉を寄せる。
土カさんは俺になんて興味が無いように銀時の朝飯を食っていた。

昨日は結局二人っきりの最後の夜だなんて言われて深夜に部屋に戻ってきた銀時に、朝まで苛められた。
疲れて。疲れて疲れて正直学校どころじゃなかったが、家にいると嫌なことばかり考えてしまう。
気を紛らわせる為にも、俺は学校に行くことにした。

お守りはもちろん、返してもらっていない。

返してって言うのもいけないことなのだそうだ。


学校に行くと、家での暗い気持ちが少しだけ晴れる。
銀時の悪魔のような仕打ちを一時でも忘れることができる。家と学校はまるで別世界だった。


「沖田さん」
おどおどとした声に振り返る。
山崎だ。
「なんだよ、ザキ」

こいつは同じクラスの山崎ってやつ
顔も地味、性格も地味、私服も地味で運動センスも地味。かろうじて勉強だけは上の下ってとこか。
努力家なんだよな。

いじめてくださいって顔してるもんで初対面から今日までせっせとご希望どおりにしていたら、なんか敬語使ってきやがるようになった。
今日もパシリに使ってコーヒー買いに行かせた所だ。
こんな毎日だからさぞや嫌われているかと思ったら、姉ちゃんが死んで学校をやめるって言った時、一番泣いてくれたのは山崎だった。

だから、俺もこいつのこと嫌いじゃない。

山崎は俺が頼んだコーヒーをコンと机に置くと、俺の顔色を伺うように聞いてくる。


「沖田さん、あの、部活には戻ってこないんですか?」

部活。
学校をやめるまで俺は剣道部にいた。
剣道は好きだ。
何に対しても長続きしない集中力の無い俺が、唯一ガキの頃から続けてた事だった。
学校に戻ったけど、今家がややこしいし、部活までやる気にはなれない。

「そ〜だな〜、ま、しばらくはアレだよ、帰宅部かな」

「もったいないですよ、沖田さん、中学の時なんて全国大会行ってたんですよ!」
「そんなこと言ったって俺今引き取られた先で家事もやってるもーん、そうそう部活とかやってらんねって」
「は、働かされてるんですか!?」
「や、そーゆーわけじゃねえけどよ」
働かされはしてねえけど・・・・。

うるせーやと教科書で山崎の顔を殴って俺は机につっぷした。
「あーねみぃ・・・俺ちょっと寝るわ」

「沖田さん・・・・」
山崎の声が聞こえた。





放課後。
俺は山崎と別れて電車を降りた。
ここからバスに乗れば家に帰れる。
帰りたくねえけど。帰ったら土方さんに会える。

バスのロータリーでぼさっとしていると、背後から声をかけられた。
「よぉ・・・・久しぶりだな」

聞き覚えのある声。一瞬固まってしまった。
振り返りたくない。

「ククッ・・・無視してんじゃねえよ」
肩に手をかけて身体ごと振り向かされた。

「高杉・・・・」
目の前には痩せぎすだがしたたかで剽悍そうな男が立っていた。
薄い色地に大きな花柄のシャツを襟を大きくあけて着ている。
まるでチンピラだな。

「あのアパートいつのまにか引っ越しちまってよォ、俺どうしようかとおもってめっちゃくちゃ探したんだぜ?」
「なんだよ、金脅し取りにきたのかよ!!」
おかしなもので、銀時に比べたら、こんなやつ怖くもなんともなくなっていた。
俺の剣幕にちょっと驚いたのか、高杉は
「フン、金なんてもうどうでもいいんだよ、俺はお前に興味があるだけだからよ」
と言った。
「バッカじゃねえの、いい歳してフラれた男のケツおっかけて」
「舐めた口聞くじゃねえか」
ぺロリと舌舐めずりをして高杉は俺の腕を掴んだ。

「離せ・・・離せよっ!!!」
高杉は暴れる俺をものともせず、駅の裏手のビルの合間に連れ込んだ。
こんなに人がいるのに、誰も俺達に口を挟む人間はいなかった。
車の中で襲われていた俺を助けてくれた土方さん。
俺は、土方さんがどんなに優しくて男らしい人だったか、今、良く分かった。

薄暗いビルの合間。
駅前から数十メートル離れただけなのに人どおりはほとんどない。
まずい。高杉のペースだ。
ヤられちまうかもしれねえ。

いきなり高杉が覆いかぶさってきて唇を奪われた。
「んん・・・・んうっ・・・」
どんどんと高杉の胸を叩く。
やめろ・・・やめろったら!!

「うっ」
高杉が呻いて唇を離す。
俺が、舌を噛んでやったから。
「テメェ・・・」
高杉の唇からは、赤い血がたらりと流れ落ちてきていた。
この男には血が似合う。
俺を見下ろす高杉の目に炎が宿って。
殴られる!
そう思って思わず目を閉じた。・・・しかし。いつまでたっても覚悟した衝撃がやってこない。
おそるおそる目を開けてみると。

高杉は、顔を背けて拳を震わせていた。

「・・・・んでだよ・・・・」
え。

「なんで、、、何も言わねえで消えちまったんだよ・・・・」
「たかす・・ぎ?」
俺の胸倉を掴んで壁に押し付ける。
「テメェどうやったら俺の物になんだよ!!!畜生!!」

あんなに、蛇みたいで執念深い最低の男だって思ってた高杉は。
俺の肩に顔を埋めて。歯がゆさのあまりに震えていた。



俺は、ぼんやりとしながら家路についていた。
あれから、高杉は俺を押さえつけていた腕の力を緩めて。
震えたまま何も言わなくて。
俺は・・・・・その高杉の横をすり抜けるようにして無言で立ち去ってしまった。
高杉は・・・俺のことを、多分好きなんだろう。

好きって何なんだろう。
愛って・・・・・。

俺は、土方さんが好きだ。
でも、身体は銀時と繋がっている。

俺は、まだ15歳で。
愛ってものがどんなのか、見たことも聞いたこともなかったんだ。








「今日どうして電話に出なかったのかな?総悟くん」
銀時は、食卓で俺の作った野菜炒めを食いながら言った。
でんわ・・・・。
そう言えば高杉と悶着があった頃に銀時の着歴が入っていた。

「あれは・・・き・・気がつかなくて・・・」
「ふーん・・・」
明らかに面白くなさそうな顔。
俺が外に出ている間の事まで縛ろうとするつもりなのかよ。
アンタ仕事どうしてんだよ、入ったばっかの会社で大変なんじゃねえのかよ。
銀時の要領の良さは分かっているつもりだ。だけど、こんなに俺にばっかかまっててなんで仕事も土方さんとの関係もすべて上手く立ち回れんだよ。

「総悟」
かちゃんと箸を皿の上に投げ出す銀時。

「総悟、返事」
「・・・・はい」

「俺、良い事思いついちゃった」
良い事って・・・・・なんだよ。

「来いよ」
銀時は、ダイニングを抜けて奥の書斎の方へ歩き出した。
嫌な予感が、した。



「この、奥だ」
銀時がドアを開ける。
書斎より奥は、俺も入った事が無い、土方さんの私室だ。
銀時がぱちりと電気をつける。
黒とグレーを基調にしたおちついた部屋。
綺麗好きのきっちりした性格の土方さんらしく綺麗に片付いている。

「総悟のだーいすきな、お兄ちゃんの部屋だよ」
どんな顔をしていいか、わからない。
銀時が何を考えているのかまったく読めないので、俺は無表情で銀時の顔を見た。

躊躇いもなく銀時は壁際のインテリア収納棚に近付く。
「これ・・・さ、何かわかる?」
銀時の大きな手が、棚の上の美しい寄木細工の箱を取り出した。
目を、細めて。
俺に手渡す。

いくら家族だって言っても、本人の許可を得ないで勝手に部屋に入ってそこにあるものを漁るなんて、俺は嫌だった。
嫌だったけど、俺は銀時には逆らえなかった。
ゆっくりと箱を受け取って、蓋を開ける。
そこには。

何十通ものハガキや封筒が入っていた。
封筒には、綺麗な字で、「土方十四郎様」と書かれている。
裏を返すと。
「土方恵津子」
と書いてあった。

恵津子・・・・・。
これは、ひょっとして・・・。
「ふふ・・・兄貴の母親の名前だよ」
ぼんやりと、銀時を見上げる。
「兄貴のお母さんってね、兄貴がまだ幼いころに病気で亡くなったんだよ。ずっと長い事入院しててね。その間兄貴に宛てて毎日手紙を書いてくれてたんだよね。なんて感動的なんだろうね」

感動的・・・・・。そんなこと欠片も思っていない顔。
「なんで、そんなこと・・・知ってんの」
くすり、と笑って銀時が言う。
「そんなのこれ見りゃわかるよ」

お前・・・土方さんの部屋忍び込んで家探ししてたのかよ。最低だな。
心でそう思うが俺にはそれを言葉にすることはできない。

「兄貴ってさ、かわいいよね。このお母サマのお手紙をさ、後生大事にずううっと持ってるんだから、ね」
わけのわからない怒りが俺の胸に湧いてきた。
なんで、なんで土方さんがアンタにそんなこと言われなきゃならないんだ。
家族を大切に思うのはあたりまえだろィ。
アンタは亡くなったっていう母親のこと、嫌いなのかよ!

「ふ、、ふふふ・・・ねえ総悟」
心底おかしそうな声で。
「俺さ、今日総悟が電話出てくれなかったのホントマジでむかついたの」
俺の目の前で、封筒を一通取り上げて。
ビリリ、と破いた。
「なっ!!!なにす・・・・!!!」

俺の叫びを意に介さず、その一通をビリリ、ビリ、と続けて破り続ける銀時。
「やめろ、、やめろよ!!!」
必死に俺が制止して腕に飛び付く。
すると。
「ん、やめる」
にっこり笑って。手紙をパラパラと床に落としやがった。
俺はあわててその手紙の残骸をかきあつめた。

俺の心臓は早鐘のように音を立て始めた。
なにを・・・一体何を・・・・。

「やめるよ、総悟。だって、これからは、総悟がこれを破いてくれるんだからね」

その一言で。
俺の頭は真っ白になった。








つまり、こういう事だった。
俺が、銀時の気に入らない事をするたびに。
土方さんの部屋に忍びこんで手紙を一通盗んでくる。
それをビリビリに破いて捨てろって。

そんなの、できるわけない。

「これからは、それが総悟への罰だから」
何事もないように言う銀時。

「い・・・いい加減にしろよ・・・・おれ・・・俺が・・なんでも言う事聞くと思ったら、間違いだぞ」
土方さんの大切なものを滅茶苦茶にしてまで俺は、銀時の言う事を聞こうなんて思わなかった。
「言えばいい・・・・俺とアンタのことを土方さんに言いたいんなら、言えばいい!!俺は絶対アンタの言うなりになんてならねえんだからな!!」
怖かった。
コイツの暴力も、ビデオもすごく怖かった。
だけど、譲っちゃいけない事だってあるんだ。
激昂して叫んだ俺の肩が上下する。

銀時は。
見ようによっては垂れ目にも見える、その鋭い目を光らせてニヤリ、と笑った。
胸元からICレコーダのようなものを取り出して、スイッチを押す。
途端。
『んはあっ・・・んんんんっやあっ・・・はああ、あはあん』
荒い息と、布がこすれ合う音、ベッドの揺れる音。
一瞬にして俺の身体は冷水を浴びせられたように固まった。
『やあっ・・ん、、はあっ・・・あはっ・・あはん・・・おね・・お願い!!』
がくがくと・・・土方さんの手紙を握りしめる手が震える。
『お願い・・!ぎんとき・・!ぎん・・・挿れて・・・いれ・・・っ!!』

それは・・・俺がわけわかんなくなって、銀時に挿入を強請ってしまっている時の、声。
まるでAVみたい・・いや、AVでもあんなでかい声で善がる女いねえんじゃねえのっていうような・・・。
小さなICレコーダの音質はあまり良くなく、雑音も入っていて、それが余計に淫靡さを助長していた。

真っ青になって何も言えなくなった俺に。
「んっっふふふふ、総悟、すっげえ淫乱だよな〜。別になーんもおかしな薬とか使ってねえってのにさあ。中々いねえよ?元々男好きなんだよな?」
そう言いながら俺の頬を撫でる。

・・・駄目だ・・・・。
こんな・・・こんな。
死んでも嫌だ。どうしたって・・・こんなの、土方さんに聞かれたくない。
しかも、こいつは音声だけじゃなくて、映像も・・・・・。

「うううううっ・・・」
こいつの前で流す、何度目かわからない涙が俺の頬を流れ落ちた。
だれか・・・たすけて・・・・。

「許して・・・許してよ・・・・・。できない。銀時・・・。できないよおっ!許して!!!」
俺は銀時の足に縋りついて許しを乞うた。

土方さんに知られたくないけど、手紙を破り捨てるなんてことも絶対に嫌だ。
どうやって選べっていうんだ・・・・・。
俺を見下ろして欲情しているような表情を見せる銀時。
その足に縋りつきながら、俺の頭の隅に、『この家を出れば逃げられるのだろうか』という考えが浮かんだ。
でも。
俺がいなくなった後、きっと銀時は俺のデータを土方さんに見せるだろう。
それを考えただけで失神しそうなくらいの恐怖が俺の身体を駆け巡った。



「ゆるして・・・くだ、せっ・・」

俺は、がむしゃらになって銀時に許される事を願い続けた。

なのに、俺が自分から銀時に従う意思を見せるまで、何も言わない銀時。
ただ、優しい悪魔の様な目で俺を見下ろしているだけ。
「うううっ・・・うう」


俺は、ただ、自分を守る為だけに。

悪魔に魂を、売った。








カチャリと。
土方さんの部屋のドアを開ける。
鍵はついていない。この家で鍵が付いている部屋は銀時の所だけだ。
あれは自分で付けたのかもしれない。

あの地獄の審判の日から2カ月が経っていた。
その間、いくつ土方さんの大切な宝物をめちゃくちゃに破り捨てただろう。

銀時は俺に手紙を破らせる為に何かと難癖をつけてきた。
そのどれに対しても俺は逆らえない。
わざわざ一枚一枚破らせることによって俺に精神的ダメージを与える作戦だ。

寄木細工の箱に手を延ばし、棚から取り出す。
ああ・・・手紙が無くなっていることに気づいてないのかィ、土方さん!
頼むから・・・頼むから早く気付いてこの箱を誰にもわからないところへ隠してくれよ!!

でないと俺は・・・・。
毎回毎回、手紙を一枚やぶるごとに、俺の精神はぎりぎりと悲鳴を上げていた。

のろのろと自分の部屋に戻る。
泥棒みたいに土方さんの部屋に忍びこんで・・・・・。
これ以上土方さんに嫌われたくない、あの汚らしい姿を見られたくない。そんな勝手な俺のエゴの為に、俺は土方さんの大切な・・・大切な・・・思い出を・・・・。
隠しカメラの様に取り付けられたレンズの前で、俺は1つ息を吸い込んだ。

銀時の事を言えない。
俺は、人間のクズだ。

指に力を込めて、ビリビリと美しい字が書かれた封筒を破る。
この姿をみているかい?銀時。
さぞや気持ちがいいだろうねィ。
自分の滑稽さにひきつった笑いが漏れた。
馬鹿だ・・・俺はとんでもない馬鹿だ。
こんな事最初から断ってこの家を出れば良かったんだ。
ただ、ずっと土方さんの顔を見たい、側にいたい。それだけの為に・・・・俺は・・・・・。

その時、俺は背後から近付く気配に気づかず、ただ笑いながら手にした封筒を細かく、細かく破り続けていた。








「総悟」




・・・これは・・・悪い夢だ。


俺は、その声が聞こえた方を振り返る事ができなかった。

「なにを、しているんだ」

低く・・・・とてつもなく冷たい声。

高杉に襲われているところを助けてくれて、ひとりぼっちになった俺を引き取ってくれて、皆の前で家族だって紹介してくれた・・・・その・・・誰よりも愛しい人の、声。

身体が動かない俺の目の前にその、黒く誇り高い動物が廻り込んだ。

手には、あの寄木細工の箱。

顔は・・・・・怖くて見る事ができない。

「ひ・・じ・・か・・・・・・」

土方さんは、長い時間無言だった。
何も言わず、俺にも何も聞かず。
ただじっと土方さんに見下ろされる拷問の様な時間が過ぎて。

す、と土方さんは俺の机の方に踵を返した。
数歩歩いて目的の場所に着くと、手を伸ばして、姉ちゃんの写真立てを取り上げた。

その写真立てから中身を取り出す土方さんが、スローモーションのように見える。

土方さんは、感情の無い瞳で、姉ちゃんの写真をびりびりと破り捨てた。


その氷のような無表情の土方さんを見て、俺は取り返しのつかない事態になってしまったことを、強く、感じた。




「我儘なカンパネルラ(4)」
(了)



prev/page190_next

















×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -