「我儘なカンパネルラ(2)」 H.23/02/25



(土→←沖かな?)
沖田さん土方さんへの恋心にまだ気づいていません。



俺の名前は沖田総悟。
ピチピチの15歳。

俺は今、なんだかしらないけど、でっかいお家の門の前に立っている。
ここに来るのも、「靴脱ぎましょうか?」みたいな・・・中がふわふわのシートで外装はどっかの国の大統領が乗ってんじゃねえのみたいな黒塗りのハイヤーでやってきた。

ぽかん、とそのお屋敷を見上げる。

「社長はあまり贅沢を好みません、ですからご自宅もこのように簡素な所にお住まいなのです」
俺の隣に立つ、なんとか秘書の坂井さんがそう言った。

はあ・・・簡素・・・・。

どうやら俺は、まったく価値観の違う人間がいるところへ来てしまったようだ。







あの日、俺のきったない部屋に来た坂井さんは、
「詳しい事は、うちの顧問弁護士が後日お話致しますが」
と前置きしてから話し出した。

「土方グループのことはご存知でしょうか。」
ご・・・ぞんじです、たぶん。俺が思っているのであっているとしたら。
土方グループってのは食品や飲食店からアパレル、化学、リゾート、はては総合病院まで経営するような多岐に渡る事業内容を展開する財閥グループだ。
グループ会社自体のテレビCMなんかもある。
うちにテレビが無い俺だって見た事ある。

「その、土方グループの頂点に立つ、会長のお孫さんが、土方十四郎様とおっしゃって、総悟さんを引き取りたいと申されています」
ごほ。
おもわず何も飲んでないのにむせそうになった。
引き取る?引き取る?
なんじゃそれ。
「実は、そのお守りの写真・・・・総悟さんを抱いておられる男性が、あなたのお父上、そして十四郎様のお父上でもあるのです」

いやいやいやいやいや・・・意味わかりませんけど。
だって俺・・・沖田家の子供ですけど。。。
つまり何ですかィ、俺は、そのトーシローだかシロートだかなんだかいう野郎の兄弟ってことですかィ。

「そうです」
にっこりと坂井さんは笑った。

「あ、の〜〜〜〜〜」
そろそろと俺が言葉を発した。
「ひっじょ〜に言いにくいことなんですけども。このお守りは、俺の姉ちゃんが作ってくれたもので、母親の形見が入ってるって・・・言われてたんでさ。そんな、どこの誰ともしらない男の人の形見なんかじゃねえんで・・・・」

坂井さんは、俺がアホなことを言っても全然馬鹿になんかしないで一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「あなたのお母様は、昔先代とお二人のお子様を残されました。それが総悟さんとお姉さまです」
そこで、少し言葉を切って。
「しかし、その時先代には本妻がいらっしゃって既にお子様がおられました」
・・・てことは、不倫・・ってことかい。

「総悟さんのお母様は、10年以上・・・言葉は悪いですが、先代に囲われる形で過ごされました。そして、総悟さんが生まれてすぐに、先代の援助を断られてそのまま行方知れずとなり、総悟さんとお姉さまを育てられたのです。・・・・・・総悟さん」

いきなり名前を呼ばれてどきりとする。
「な、なんですかィ」
「総悟さんは、お父様のご記憶がおありですか」
「あ・・・・ありやせん」
てゆうか、お母様、、いや母さんの記憶だってほとんどない。俺は姉ちゃんに育てられたようなもんだから・・・。

「この、写真とカフスボタン、これが総悟さんの出自を証明しているんです」
しゅつじ・・・てなんですかィ。
「カフスボタン、この山桜の紋章が土方家の家紋なんです」

俺は、混乱して何も言えなかった。なんにも。
「外に奥様とお子様がいらっしゃることは、先代と限られた腹心しか知らなかったようです。それが、昨年先代が急逝されまして、遺品などから発覚したのです」
そこで、坂井さんは俺の出したインスタントコーヒーを一口飲んで・・・・ああ、コーヒーって皿の上に乗せて出すほうがよかったんだろうか、なんて明後日なことを考えている俺に気付かず言葉を続ける。


「先代の社長、つまり貴方のお父様が亡くなられてから、そのご子息でいらっしゃいます十四郎様が是非にと仰られて、ご姉弟とお母様をお探しになられていたのです」

よく舌噛まねえなこの人、なんて感心してる俺。

「中々お母様の消息が掴めなかったのは既にお亡くなりになっておられた為でしょう。その、総悟さんがお持ちのお守りが偶然見つかった為に、こうやって貴方にたどり着くことができたのです」

そこで、俺はハッとした。
「そ、そうだ、お守り!これどこにあったんですかィ?」
今まで何を聞いても他人事のようにしか思えなかったが、これは別だ。
俺の大切な、姉ちゃんと母さんの形見!

「それは、十四郎様がご自身で見つけられたのです。十四郎様は、街で貴方にお会いになったと仰っておられました」

どきん。
と、俺の心臓が跳ねた。

街で・・俺に会った・・。
そして、このお守りを拾った。






まさか、高杉じゃあねえだろうな(汗)






高杉じゃねえとしたら。



俺の脳裏には、あの背の高い黒豹のような男が蘇っていた。









そんなわけで。
とにもかくにも、俺はこのでっかい・・・いや、簡素な家の前に立っていた。

「さあ、総悟さん」
坂井さんに促され、カチコチに緊張しながら俺はこの家の門をくぐった。

はっきり言って、俺に大金持ちの父親がいたなんて現実味はまったくない。
でも、でも。
この間の黒豹に、もう一度会ってみたい、という心持ちがあった。
あの時は助けてもらったのに、お礼・・・言わなかったし。
「十四郎様は今年25歳になられました。現在、研究の為に通っておられた大学院を休学して、グループ総裁としてのお仕事をこなしておられます」
そう言った坂井さんの言葉を反芻する。

ぎゅ、と手を握りしめて、俺は坂井さんがドアをノックするのを見ていた。

「入れ」
低く響く声。
かちゃり、とドアが開けられる。
「失礼いたします、総悟さんをお連れいたしました」

俺が、その10畳ほどの部屋の中に入ると、落ち着いた色合いのカーペットと壁紙、趣味のいい木製の書斎机とその上にあるランプのような照明が目に入った。
その書斎机の手前に。
机の上に置いた灰皿に煙草を押しつけている「彼」がいた。

「あの・・・・」
ゆっくりと彼が振り向く。

どきん、と心臓が跳ねた。
艶のある黒髪の短髪。
繊細とも言えるきれいな顔の輪郭に意志の強そうな眉、少しだけ白目が勝っている切れあがった瞳、薄い唇。
あの日の、あの時の、あの・・・男だった。

じっくり見たのは始めてで、俺はちょっと気遅れしてしまう。
だって、スタイルなんかすっげーよくて、仕立てのいいシャツに黒を基調としたVネックの薄いセーターを肘まで捲り、右手の指には嫌みにならないプラチナの指輪、その、指は案外白くて細い。
なんかモデルみたいな立ち居振る舞い。
う、、生まれが違うってやつだろうか。
俺とこんな人が、兄弟だなんて・・・まあ母親は違うけど、とても思えない!

「どうした」
薄い唇がゆっくりと動いて、あの低音が紡ぎだされる。
その、腰に響くような声に、俺の顔はかあ、と赤くなった。
「っ・・・」
それを知られるのが恥ずかしくて、つい目を逸らす。

「俺を覚えているか?」
コツリ、と一歩こちらへ近づくその男。
なんだかしらないけど急に動悸が激しくなってきた・・・なんだこれ俺おかしくない!?
「おっ・・・覚えてら!!!」
俺は照れ隠しについ反抗的な返事をしてしまった。

「あの日、お前が走り去って行った後にあのお守りが落ちていてな、それを拾ったらとんでもない写真が出てきた」
ククッと可笑しそうに笑う男。
「まさか、あの昼日中に男とカーセックスしようとしていたようなアバズレが俺の弟だとはな」
馬鹿にしたような言い方ではなかったし、アバズレなんて言葉を使ってる割には優しい冗談ってかんじの言い方だったけど・・・・。
俺はカッと頭に血が上った。
こいつに、あんなところを見られたのを、思い出して。

「俺が、この家の主人、土方十四郎だ、よろしくな」
右手を出したその・・・・十四郎からプイ、と首をそむけてしまった。

「どうした、何を拗ねているんだ」
「す、、すねてなんかいねえや!」

「俺達はもう家族なんだ、俺の名前を呼んで見ろ、総悟」
何のてらいもなく、俺の名前を呼んだコイツ。
「かっ・・・家族!!??」
「そうだ、うちへ来たんだからもう家族だ」
「な、なんだよそれ、俺はまだここに来るなんて言ってねえ!」

思わず振り向いて文句を言うと、心底びっくりしたような顔になる男。
「何を言っているんだ、お前みたいなガキがたった一人で暮らせるわけないだろう、現にお前もう今月の家賃が払えない状態らしいじゃないか。」
ぜ、全部バレてる!!!!!
既に俺のことを調べてあったらしい。
まさか・・・高杉に脅されていたことも知っているのか?
「そんな無計画な子供がやっていけるわけなんてないんだ、早くあのアパートを引き払って来い」
どうやら、高杉の事は知らないらしい。よかった・・・。

いや良くない。
「あの部屋は俺と姉ちゃんの大切な思い出がつまってるんだ!そう簡単に引き払えるかよ!」

フッと笑う気配。
「お前、シスコンか?」
「うるせえ!絶対にあの部屋から俺は出ねえからな!!!お前が兄貴だなんて認めねえ!」

俺の剣幕に一瞬ぽかんとした表情を見せたそいつは、いきなり卑怯だろってくらい柔らかな笑顔になって俺に言った。
「お前、家族を大事にする奴なんだな、悪かった、改めて言う。俺の家族として家に来い」

俺は、、なにがなんだかわからない感情のせいで、うまく返事ができなかった。








帰りの車の中。
俺は一人で帰れるって言ったんだけど、坂井さんが送りますって言って一緒に車に乗ってきた。
運転手と俺達の間はガラスで区切られており、会話したい時はインターホンで話すしくみになっている。
同じ車の中にいるってえのになんてしちめんどくせえことするんだ・・・。

揺れの無い高級車から外の景色を眺めていると、坂井さんが話しかけてきた。
「十四郎様は先代が亡くなられてすぐ実業の世界に入られました。いきなり自分達の上に立った若造を快く思わない重役達の中で孤独に闘っておられます。」
俺は外の景色を眺めたまま。

「そんな十四郎様は色々とひどい裏切りにも会われて、最近では他人をまったく信用されなくなってしまいました。・・・けれど、十四郎様は・・・幼い時に既に母親と死に別れられた十四郎様は、家族というものに大変な憧れを抱いておられます」

ぼうっと外を眺めながら・・・
『もう家族なんだ』
そう言ったアイツのことを思い出す。
「先代は仕事に忙しく、十四郎様と触れ合う機会はほとんどありませんでした。十四郎様は他人に失望している分、無条件に血の繋がりを欲しておられます。・・・・総悟さん、いえ、総悟様」
いきなり呼び方が変わった坂井さんに思わず顔を向ける俺。
「十四郎様を、家族として支えて差し上げてください。十四郎様があれほど優しい笑顔を向けられたのは貴方が始めてなんです」

俺は・・・頷くことも否定することもせず、坂井さんの顔を見つめ続けた。

「先ほど、十四郎様は私を呼びとめて、総悟様がこの家に来てからも、ずっとあのアパートの家賃を払い続けるように申されました」

その言葉を聞いて。
俺の心は決まった。


俺は、一週間後、最低限の荷物をまとめて姉ちゃんとの思い出がつまったアパートを引き払った。
もちろん、完全に契約を解除して。







「うちに来たからには我が家のルールに従ってもらう」
いきなり。
挨拶もそこそこに、土方さんは俺にこの命令口調を浴びせた。

土方さん・・・・俺はここへきて一度もこの人のファーストネームを呼べないでいた。
まあ初日だけど。
なんか照れくさくて・・・・。
一回土方さんって呼んだらなんだか定着しそうだ。

「聞いてるのか、総悟」

じろりと睨まれて。
えっらそーに・・・。納得できない。
「まずは学校だ、お前は相当成績が悪かったそうだが、学校くらいは出ておけ、高校に復学の手続きをしておいた。いいな。」
成績とか余計なお世話だ。
・・・でも学校は嫌いじゃなかったから、割とうれしい。
そこは、素直に頷いておいた。
「それからうちは他人を入れるのを好まない。忙しくて行きとどかないこともあったから、週に2日は手伝いの人間を入れているがそれ以外の時は自分の事は自分でやる事。飯の支度も掃除も洗濯もだ。金があるからといって贅沢な暮しに慣れさせるつもりはない」
それも俺は反対する理由はない。
他人にかしずかれて生活するなんて身体中がカユくなってしまいそうだ。

「それから・・・これが一番重要だ。お前、相当尻が軽いみたいだが、これからはそんなことは許さん。なにしろ土方家の人間になるわけだからな。乱れた生活はやめろ。節度を持って生活するんだ、今の男とは全部手を切れ。わかったな!」
なっ・・・なんだそりゃ!!!
おっおまっ、言うに事欠いてし、尻軽!?しかもなんか俺が男好きみたいじゃねえか!せめて言うなら女の子と手を切れ、だろィ!てかあれか?高杉か?高杉とのこと言ってんのか!?あれだけでなんで尻軽になんだよ!!!

しかし。
あまりの怒りに俺の口はパクパクと空気を求めて開いたり閉じたりするだけで何にも言葉が出てこなかった。
「わかったらさっさと荷物を片づけて来い、7時には夕食だ」
ひい!この俺が一言も言い返せないで部屋を追い出されちまった!
屈辱だ!でもでももうムカつきすぎて頭が全然まわんなくなっちまってて・・・・。
くっそぉ、覚えてやがれ土方!

でも、その怒りも自分の部屋に一歩入ったらすっかり忘れてしまった。
あの、土方さんの広い書斎、あれと同じ10畳くらいの部屋。
薄い水色の壁紙、白いカーテンにグレーの机と椅子、豪華なベッド、女の子の部屋かってくらいのウォークインクローゼットまでついてて。
正直、姉ちゃんと二人で住んでたあの部屋が二部屋分まるごと入っちまいそうな・・・。
それに引き替え俺の荷物・・・。
2、3泊用のボストンバッグに、最低限の下着と着替え、それから例のお守りと姉ちゃんの写真。
たったそれだけ。
いいんだ。
俺は、これからここで暮らすって決めたんだ。
あのアパートにいたって、高杉に脅されて家賃も払えず、まともに暮らしていけるはずはなかった。
それに、あの土方って奴は、俺を助けてくれた恩人だ。
・・・すっげえムカつくけど。
なによりも・・・俺の兄貴なんだ・・・。
姉ちゃんが死んで、天涯孤独になってしまった俺は。
土方さんと同じように家族の温もりを求めていたのかもしれない。
あいつが俺を引き取るって言ってると聞いた時、やっぱりスゲェうれしかったんだ。

「総悟!片づけにいつまでかかってるんだ!夕飯に遅れる事は許さん!」

・・・前言撤回。あいつはワンマンの鬼暴君だ。






二人っきりの食卓。
でも姉ちゃんが死んでからのひと月、一人で飯を食うしかなかった俺にとっては、なんだか気恥しくもうれしいはずの食事だった。
でも。
俺は仏頂面のまま箸を動かす。

「どうした総悟、ハンバーグは嫌いか?」
「・・・きらいじゃねえ」
はっきり言って美味い。いい素材が使われているのがよくわかる、前のバイト先のファミレスのチーズハンバーグなんかとは天地の差だ。
「明日からは仕事に戻るのであまりかまってやれないからと思って子供の好きそうなメニューを作ってみたんだが、気に入らなかったか」
こ、こども!?

反論の目を向けたが、奴には通じなかったのだろう、まるで「手のかかる子供だ」みたいに軽くため息をついて食事に戻る。

むかつくぜ・・・・。
俺は、頭ごなしに命令するこいつもムカつくが、こんな風に俺を子供扱いするこいつもムカつく。
つまり。
こいつはムカつく!!!!!!
なんだかもわもわぞわぞわする心を、そう結論付けて。

明日から、徹底的に嫌がらせしてやることにした。

ああ馬鹿な俺。





「のあああああああっ!!!!」
朝、土方さんが出かける前に、用意してあった靴に牛乳をたらしておいてやった。
ソールの部分がひたひたになるくらい。
「ひひっ」
食べ物で悪戯してはいけません、なんてよく言うけど。
「そ、、総悟っ!!!!!!」
あのクールな土方さんが「のああああっ」だって!
俺はベッドの上で腹を抱えて笑っちまった。
くけけ、こんなもんで済むと思うなよ。

それからは、俺の悪戯は毎日エスカレートして行った。
布団に虫やカエルを入れる、どうも奴が苦手らしいホラー映画のポスターをトイレに貼る、俺の食事当番の時に唐辛子を一本まるごとパスタ料理に入れる、大事な書類をこれまた牛乳に浸して鞄に入れる、果ては奴の高級スーツの袖をびりりと破いて夏服仕様にしてやるなどなどなど。

「おまっ、こ、、こら!総悟!!」
仕事に忙しい奴が、家にいるあいだずっと俺を追いかけて怒鳴ってる。
なんかそれが嬉しかった。

「おまえはっ!本当にどうしようもない奴だな!!」
はあはあと肩で息をして、チョロチョロ逃げ回る俺に悪態をつく。
「べー」
ぺろりと舌を出して上目づかいに見てやると。
ん?なんだこいつ、赤くなっていやがる。

「馬鹿野郎、媚るんじゃねえ」
いや別に媚びてませんけど。

「それよりお前、男は皆清算したのか?」
「せっ、清算もなにもいねーよそんなの!」
そういえばこいつは俺に対してひどい誤解をしていたんだった。
「いただろうが!この尻軽!携帯出せ!アドレス消したかどうかチェックするぞ」
「んなっ!横暴だろそれ!人のプライベートまでなんでそんな口出ししてんだよ!」
「ガキが生意気言うんじゃねえ!」
勝手に俺の部屋にずんずん入って行って、机の上にある姉ちゃんの写真をちら、と見てそれからその横で充電中の携帯を手に取る。
「な・・にしやがるんでい。」

ぎろりと睨む鋭い目。
「どいつだ」

「・・・なにがだよ」
「この間の男だ、どれだ」

高杉のことか・・・・。
あいつはバイト先の上司だったし携帯のアドレスにはもちろん入っている。
あんなことがあったけど別にアドレスを消すなんてことは思いつかなくてそのまま。

「どれだ!」
動かない俺に痺れを切らせたのか土方さんが大きな声を出す。
思わずビクッとした俺は、反抗心もどこへやら、うっかり高杉のアドレスを表示してしまった。
土方さんは、俺の目の前で高杉を着信拒否にすると、ものすごい形相でそのアドレスを削除しやがった!!!
「んなっ・・・なにすんでィ!!」
正直高杉は虫唾が走るほど大っきらいだったが、こんな風に無理矢理人の手で削除されるなんて我慢できねえ!
引き取ってもらって経済的な援助は受けるかもしれないが、こんなに人権を無視した扱いを受ける覚えはない。
俺の反抗心に火がついた。

「ちきしょー、さわんな!俺のものに触るなよ!出てけ!出て行けったら!!!!」
俺は土方さんの脛をめちゃくちゃに蹴りつけて暴れた。
「いっ、痛え!なにすんんだこの野生児!!」
土方さんは俺の剣幕に押されて部屋を出た。
俺はバタンと扉を閉め、その扉に枕を投げつけて叫んだ。
「バッキャーロー!!!二度と俺の部屋に入るんじゃねえ!!!!」

ちくしょうちくしょうちくしょう!!!!
絶対俺を引き取った事、、、後悔させてやる!!!







俺が土方の野郎をギャフンと言わせると誓ってから一週間。
わりとすぐその機会はやってきた。

なんだか、なんとか記念パーティー(聞いたけど忘れた)に俺を連れて行くと土方さんが言い出したのだ。
そこで俺を家族として内外に紹介するという。
なんか取材の人達も来ているらしく、「行儀良くしてろよ」なんて言いやがった。
バーロィ、するわけねえだろ!

俺は、何か始めて袖を通すような薄い藤色のスーツに、それより少しだけ濃い色のベースカラーに黒の葉模様のストール、ぴかぴかの靴に包まれて。
そうしてふわりと髪をセットされた状態で土方さんの前に連れて行かれた。
「・・・・・・・」
土方さんは、チラとこっちを見てすぐ顔を背け、何も言わない。てかあんまりこっちを見ない。
なんでえ、貧乏人にはスーツは似合わないってか。

「だまってりゃ騙せるだろ、いくぞ」

そう言って俺をパーティーに連れだした。
俺にとんでもない悪戯をされることも知らずに・・・。



がやがやとパーティーの喧騒の中、開始一時間で俺は早くも退屈していた。
なんだか知らないけどなんかの業績が土方さんの采配でうなぎ昇りかなんかだそうで、なんかわけわかんねえおっさんどもの祝辞とかなんやらが延々続いている。
取材陣も結構来ていて、やっぱり土方さんてすげえグループの社長なんだなって、思った。

やばい、、マジ眠くなってきた。
その時、俺の隣にス、と知らない男がやってきた。
「やあ、君が沖田君ですね」
「ん?」
見上げると、薄い栗色の短髪にインテリっぽい眼鏡。背の高いスマートな男。
「色々忙しくて結局君に会う機会がなくて悪い事をしたね、僕は土方財閥の顧問弁護士、伊東鴨太郎だ」
「ふぇ」
間抜けな声を出してしまった。
わ、若い・・・。こんな若い人が多数の企業を束ねる財閥の弁護士さんをやってるんだ・・・。
てか、コモン弁護士ってナニ?
伊東さんは、俺の心を読んだのか、
「フフ、弁護士といっても一人でやっているわけじゃないよ、弁護士チームの責任者というだけだ」
と言った。

ま、あんまキョーミねーけど。
「はぁ、よろしく」
そっけなく答えると、ふふ、と笑っておれの顎の下に人差し指を差し込む。
クイ、と俺の顎を指で上げて
「ものすごいシンデレラボーイだね、一夜にして大財閥の御曹司だ」
なんだこいつ。
ムカつく物言いしやがるな。
「まあこの顔じゃ社長がコロリと騙されてもしかたないか」
かちん、ときた。
言い返そうと俺が伊東に向き直った時。

「何をしている」
もう聞きなれた低音が俺達の会話をストップさせた。
伊東の肩に手を置いて土方さんが問う。
「何をしていると聞いているんだ」

伊東はあっさりと振り向いてにっこり笑う
「沖田くんにご挨拶させていただいていただけですよ、社長」

「こいつは俺が今から紹介する、こい、総悟」
土方さんは俺の手を引いて取材陣が待ち構える舞台の方へ歩いて行く。
どうやら土方さんは、腹心のはずの弁護士ってやつにも心を開いていないようだった。

しかし、俺にはそんなことを考えている暇はなかった。
なにしろ、土方さんに強烈なカウンターを浴びせなければいけないんだから・・・。






おおお。
俺は土方さんの隣にちんまりと。
パーティー会場の舞台に立っていた。
すっげ。皆土方さんを見てる。あたりまえかー。でっかい企業のトップなんだもんね。
なんかカメラのフラッシュとかもすげえし。

だけどこんなんにビビる俺じゃあない。
クックック。
楽しみにしてろよおおお、ひじかたぁ〜〜。

「皆様、本日はこのような場にお集まり頂き、誠にありがとうございます。本日は、御来賓の皆様及び、我が社従業員にお伝えしたい事があります」
土方さんがマイクの前でつらつらと話し始める。
「私の隣におりますこの沖田総悟を、この度我が弟として迎える事をここに発表致します」
会場が一気にざわめく。
当たり前だ。総資産が一体いくらになるかわからない企業の相続人がいきなり一人増えるわけだからな。はっきり言って俺はそんなのに興味ないし、もしくれるって言ったって断るけどね。
土方さんの話ではこういうのはコソコソするより大体的に発表しちゃった方が後々楽なんだって。
「何分若輩者ではございますが、皆々様にかわいがって頂けますようよろしくお願い申し上げます」
土方さんが小声で挨拶しろっていうもんだから。
マイクをもらって。
「おきたそうごでーす、よろしくおねがいしまーす」
と、なるべくアホっぽく聞こえるようにしゃべってやった。
土方さんが苦虫を噛み潰したような顔になる。

へへっ、こんなもんじゃねーぞ、見てろィ。

「俺、この人に、愛人として引き取られたんですう。毎日かわいがってもらってまーす」
にっこり。
極上の笑顔を土方に向けてやった。

固まる土方さん。

次の瞬間、ものすごい混乱と、激しいフラッシュが俺達二人を包み込んだ。






「今日は飯抜きだ!!!一歩も部屋から出るな!!!」
すさまじい力で俺を部屋に引きずり込んで、土方さんはバタンとドアを閉めた。

あの後嵐の様な混乱の中俺は土方さんに連れられて家に帰ってきた。
どういうつもりだ!!
帰りの車の中で耳が割れそうなくらいでかい声でそう怒鳴られて。
「アンタが俺のケータイに勝手なことすっからだろ!仕返しだ、バーロィ!」
そう言うと炎のような目で俺を睨み、馬鹿野郎と怒号を浴びせる。
「お前は、自分が何を言ったか分かっているのか!!」
土方さんの携帯はさっきから鳴りっぱなし。
会場も社員達もパニック状態だった。
ザマーミロ。
ちろ、と土方さんを見ると、もう俺を見ていなくて。携帯に出てなにやら怒鳴り続けている。
ちょっとマジでキレてるみたい。
家に着いたとたん、俺は土方さんの手によって部屋に放り込まれたってわけだ。


土方さんはその夜、俺の発した一言の対応に追われて家に帰って来なかった。




次の日の朝。
欠伸をしながら階段を下りる。
ダイニングには誰もいなくて・・・・。

『まだ帰ってないのか』
ちょっとだけ罪悪感。

と、インターホンの音がする。
俺は、土方さんが帰ってきたのかと思って、パジャマのまま玄関に出る。

そこには、土方さんの秘書の坂井さんが立っていた。

気まずくリビングで向かい合う俺達。
「どうしたんですか、総悟様。いきなりあんなことを・・・・」
「はぁ・・・」
「非常にまずい事態になりました。取材陣も結構来ていたものですから」
思ったより・・・でかい話になってきたみたい・・・。
「一晩中手をつくしまして、なんとか、公にはならないようにすべて内々に処理できそうにはなりました」
その言葉に少しほっとする。
「とにかく未だ処理が残っておりますので私は社に戻ります、総悟様」
「は、はい」
「十四郎様は貴方様のことを家族として大変信頼し、大切に考えておられます。くれぐれも、十四郎様にとって不利益になるようなことは、仰ってくださらないようお願い申し上げます」
「・・・・・・」
「十四郎様は唯でさえグループの中で孤立しておられます。少しのスキャンダルも十四郎様の足元を掬いかねないのです。それを、分かってください」

「・・・・はい」
消え入りそうな声で、俺は答えた。

坂井さんはまた急いで家を出て行った。
残された俺は、大変なことをしてしまったという後悔に、呆然としていた。
頭に血が昇っていて、後先を考えなかった・・・。
土方さんは俺を家族として紹介してくれたのに、俺は。

土方さんが帰ってきたら、素直に謝ろう。
そう思ってダイニングの椅子に座って土方さんを待った。

ごめんね、土方さん・・・。




その日の夜、0時を回った頃にやっと土方さんは帰ってきた。
目の下にクマ、疲れた顔。服を着替えていなかった。

俺をジロリと見て、自室に向かおうとする。
「あ、あの、土方さん・・・」
「今日はお前と話したくない、部屋へ行け」

冷たい拒絶の言葉。

俺は、足元から急激に冷え冷えとした感覚が立ち上ってくるのを感じた。


次の日の朝。
食卓には朝食。俺が用意したものだ。
今日の当番は土方さんだったけど、きっと疲れて起きてくるのが遅いだろうと思ったから。
土方さんが部屋から降りてくる。

ちらりと食卓を見て。
「出かける」
とだけ。

「め・・飯は?」
「時間が無い」

うっ、と言葉に詰まる俺。
どうしよう・・まだ、怒ってるんだ。
バタンと冷たい音をたててドアの音がする。

「いってらっしゃい・・ひじかたさん・・・」
小さな声で。俺はもう行ってしまった土方さんを送り出した。

それから数日間、俺と土方さんはぎくしゃくしたままだった。
このままずっとこんな感じなのかな。

ちょっと悲しくなってきた頃。

あいつが。
あの悪魔が。
坂田銀時が俺達の家にもう一人の兄弟としてやってきたんだ。


我儘なカンパネルラ(2)

(了)


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