怪談 H.23/03/30


(ミツバ→土沖)武州時代〜真選組。前半は多分有名な怪談話です。てか最後ちょろっとだけ違うだけです。ミツバのキャラ崩壊がひどいので要注意。


追記:てゆうかえらいことです。原作でこの話と同じ怪談やっちゃったよ。ギャグにしかなんねーよ。でも最初はシリアスだったんだよ。信じてくれよ・・・。






土方十四郎は、沖田ミツバの家に転がり込んでいた。
傍から見れば内縁の夫のように。
朝家を出て近藤道場に通い、夕方に帰る。
ミツバの出した飯を食い、寝る。

二人の間に身体の関係はなかった。
ミツバの身体が弱かったからというわけではない。ミツバに十にも満たない弟がいた為でもない。

十四郎の目的がその小さな子供であったからだ。

と言ってその子供に手を出してしまうような鬼畜と言う訳でもなかった。
ただ、事実ミツバのヒモの様な暮らしをしている。
女の稼いだ金で飯を食い、女が着物を繕い、女の焚いた風呂に入った。
そして女の弟に懸想していた。

「ひじかたー、姉上に触るんじゃねえ」
「総ちゃん、土方さんでしょう」
「はい姉上、ひじかたさーん姉上に触るんじゃねえ」
「さんつけただけじゃねえか」
「ひじかたさーん、姉上の視界に入るんじゃねえ、姉上が妊娠するだろーが」
「餓鬼がそんな言葉使うなっつの」
「俺の視界にも入るなー、妊娠するだろーが」
「お前は突っ込んだってしねーよバーカ」
「姉上ー、ひじかたさんがセクハラ発言しますう」
「ウフフ、総ちゃんはホント十四郎さんと仲良しなのね」

「テンメ!俺の芋食うな!」
総悟の行儀の悪い箸が土方の皿を侵す。小さな子供の悪戯に本気で相手をするのは愛情あっての行為だった。
くすくすと笑うミツバ。
美しく儚げで控えめな女性として近隣の男達の視線を常に集めていた姉とその弟。
弟もまた姉と同じ髪の色、姉にそっくりの美しい容姿、そして姉には無い小癪な態度が十四郎の情欲を煽った。


「お休みなさいませ、姉上」
きちんと正座して頭を下げる。奥州白河藩に仕えた父親を数年前に亡くしはしたが、姉に対しては武家の子供らしくきちんと振る舞った。
「はい、お休みなさい」

部屋に下がった総悟を見送ってミツバも自室で床を取る。
土方はミツバの部屋で寝起きしていた。
ただし、布団は二組。
近隣の者が見れば土方があるいは不能なのではないだろうかと思うだろうその一種異様な光景。
毎晩繰り返される健全な夜。

その毎夜の営みを破ったのは、ミツバだった。

「十四郎さん、起きていらっしゃるのでしょう」

土方は、答えない。

「十四郎さんは、何故この家で私と同じ部屋に寝起きされるのですか」

「・・・・・・」

「私を伴侶と思っておいでだからではないのですか」

壁を向いて横になっている土方の布団はぴくりとも動かなかった。

「私は、貴方をお慕い申し上げております」


まるで人形にでも物言うような手ごたえの無さを感じながら、ミツバはゆっくりと目を閉じた。










「姉上ー!行ってきまあす!」
「はい、行ってらっしゃい、気をつけてね」
きっちりと袴を着け、沖田家の嫡男が道場へ向けて駈け出した。
「うぉーい、テメエ何先に行ってやがんだ、待てコラ」
土方が後を追おうとする。
その、着物の袖を引く者がいた。沖田ミツバだった。

「十四郎さん」
総悟に対しては百面相を見せる土方だが、ミツバを振り向いた時には能面のような無表情だった。

「十四郎さんは、私を妻として扱って下さらないのですか」
「俺はお前と懇ろになる気は、ない」
冷たくはっきりと言う土方。
美しい瞳が揺れる。

「・・・・総ちゃん・・・・なの?」
この、冷徹な無表情の男の眉が始めてぴくりと動いた。

「総ちゃんのことを想っていらっしゃるんですね、貴方は・・・・」
袖を掴む力が強くなる。
「私と総ちゃんの何が違うというのですか。顔だって似ているし、私は女性であの子は・・・・・」
「関係無い」
土方が男色であるという噂は聞かない。女性の匂いの絶えない男であった。
年まわりもぴったりの美しい女性と男の子供。どう比べてもミツバが劣るわけがなかった。

「何故・・・何故私では駄目なんですか?」
ミツバの語気が荒くなる。
「うるさい」
「十四郎さん!こっちを見て!」
「うるさいと言っているんだ!」
思わず袖を掴む白い手を振り払う。
よろけて、畳に手を着くミツバ。

「言ってやる・・・・」
下を向いている為表情はわからない。が、明らかにいつもの控えめなミツバとは違う口調。

「総ちゃんに・・・・・。貴方がどれだけ汚らしい目で見ているか、総ちゃんに言ってやる・・・・」
顎を上げて、蔑むように女を見下ろす土方。
「そうしたら貴方はあの子に毛虫の様に嫌われるでしょうよ!最愛の姉を裏切って非道な振る舞いをする貴方を憎むでしょうよ!」

これほど激したミツバを想像する者が果たしているだろうか。
土方は、激情のままに腕を振り上げた。









夕刻。
沖田家の後継ぎが帰宅した。

「あねうえー、ただ今戻りやした。今日ひじかたの野郎ってば来なかったんですよ?どこで寄り道していやがるんだか」
総悟は縁側に防具を置いてそこからよいしょと家に上がる。
ふと、薄闇の中暗い顔で畳に座る土方を認めてびっくりしたような仕草を見せる。
「・・・・・・なんでぃ、いたんですかィ、ひじかたサン」

土方は、普段の白皙の色男とは違い、青ざめて追い詰められた様な表情をしていた。

「ああ・・・・・・帰ったか」


総悟はそれを見て、大げさに目を眇めて見せた。




あれほどの力で、女が動かなくなるとは思わなかった。
いつもの穏やかなミツバの激昂が恐ろしかった。何より今目の前にいる子供に嫌われる事が恐ろしかった。
ただ、黙らせようとして、思わず手を上げた。
たったそれだけの事で、女の息の根が止まった。

庭に、女の死体を埋めた。
深く、深く穴を掘って。

そうして。
どうする事もできないまま、総悟を迎えたのだ。

その夜は土方が夕餉を作って食べた。
総悟は、ミツバの事を聞かなかった。

それが返って、土方の精神を落ち着かなくさせる。
何故、何故ミツバのことを聞いてこないのか。
しかしこちらから話を振るわけにもいかない。

総悟は元来の無表情で数日を過ごした。

先に耐えられなくなったのは土方の方だった。

ある日、総悟を呼び出して向いに座らせる。
耐えられない。ミツバのことを告白するつもりだった。

「総悟、話がある」
「ああ、俺も1つ聞きてぇことがあるんでさ、土方さんに」

やはり。
やはりミツバがいない事を不思議に思っているのだ。この子供は。
ごくりと喉がなる。

「そうか、分かった。お前の方から言ってみろ」
ミツバを殺害してしまった事実を伝える覚悟をして、総悟を正面から見据える。

ところが。

目の前の子供の口から発せられた言葉は。








「ひじかたサンはどうしてこの間から姉上をおんぶしているんですかィ?」
という一言だった。















「ぎゃああああああ!!!!!!!」
情けない山崎の叫び声。
「なんちゅう怖い話するんですか!なんちゅう怖い話するんですか沖田さん!!」

ここは真選組屯所。
数人の隊士を集め、総悟が怪談を披露していた。
もちろん、登場人物の名前は自分たちの物ではない。だが、十四郎にとってはいちいち己の名前に聞こえる話だった。

何故ならば。
総悟のした話は、ほとんど8年前の自分の体験だったからだ。
ミツバに関係を迫られ、つい彼女を手にかけてしまった。
総悟には「急に発作が起きて帰らぬ人となった」と伝えるしかなかった。
異常なほど取り乱した総悟だったが、土方の言葉を疑う事は無かった。
常日頃より姉の身体の弱さを知っていたし、無理をして仕事をしていたことも解っていた。

「そんな怖くないですよね?土方さん。・・・あれ?ひじかたサン?ひょっとして硬直してます?」
つんつんと土方の頬をつつく白い指。

「ど・・・ど・・・ど・・・・どんだけ怖い話するんじゃあお前はあああああ!」
ぽかんとする隊士達をよそに、己の本心からの恐怖心を隠し、怒声を上げて総悟を追いかけ回す土方だった。








深夜。
総悟の部屋。
ス、と襖を開ける土方。

出会ってから10年待った。
今年、総悟は18歳になった。
もう嫁を娶ってもおかしくない歳だ。
積年の想いを、遂げる。

その決意をもって総悟を訪ねた。

枕元に立って名を呼ぶ。
「総悟」

総悟は布団の中で身じろぎした。

「総悟」
もう少し大きな声で呼ぶと、うるさそうに返事をする。

「うーん・・・なんですかィ、土方さん。何時だと思ってんですか非常識野郎」
寝呆けていても良く回る舌だ。
薄く笑って腰を下ろす。

「起きろ」
「んん・・・・・」
総悟の布団をゆっくりと剥ぐ。
白い単衣姿が現れて、土方の劣情を誘う。
「なにすんですか・・・んっ」

物を言わせず唇を奪う土方。深く、深く口づけた。
「うう・・・ん・・・・んっ・・・」
思った通り始めてのようだった。

「ぷはっ・・な・・何を・・・・」
普段のマイペースとは違い焦る総悟の様子が愛しい。
かまわずに激しい口づけを落とす。
次第に、総悟は土方の口付けに応えるように自らも舌を絡ませてくるようになった。



抵抗されても力で勝っている自信はあった。
しかし、身体を押し開いても、激しい抵抗は無く。
行為の最中甘えるように声を上げた。まるで土方の無体に悦びを感じているように。

ひょっとすると、総悟もいつからかこの行為を期待していたのかもしれなかった。

土方は、激しい興奮の中、暖かい総悟の奥で己を爆発させた。



情事後の褥。
気だるい身体を横たえて。
土方は総悟を抱きしめていた。
「ずっと・・・こうしたいと思っていた」
順番は違えど、想いを告白する。


「私も」
総悟の口から、違和感のある単語。

わたし?

土方が、感じた違和感の意味を考えている間。
いつもの生意気な総悟の顔が、おっとりとした優しい表情になっていくのが見えた。

優しい、恐ろしい笑顔。


「誰だ・・・・お前」
喉の奥から、掠れた声がやっと出た。

「私?私は総ちゃんよ。十四郎さん総ちゃんが好きなんでしょう?私も十四郎さんが大好きよ。こうなるのを待っていたの」

「何を・・・言っている」

「ウフフ、総ちゃんに言ってやる。貴方がどれだけ汚らしい目で見ているか、総ちゃんに言ってやる」
にっこりと、総悟が知るはずの無い会話を紡ぐ。

「やめろ・・・・・やめろ、総悟」
「総ちゃんじゃないわ。私ミツバよ」
白い腕が伏したまま向かい合った土方の肩に抱きつく。

「な・・・なに・・・なにを・・・・・いつから・・・・・」
混乱。

「あの日からよ。私、あのまま死ぬのがどうしても嫌だったの。総ちゃんになって十四郎さんに愛してもらいたかったの。8年も貴方私を総ちゃんだと思って慈しんでくれて、嬉しかった」

がくがくと、身体が震える。
肩に回された腕が氷の様に冷たかった。

「嘘・・・嘘だ・・・・嘘・・・やめろ・・・嘘だ・・・」
「ウフフフ、好きよ、十四郎さん」

「そ、、、そうごは・・・・総悟は・・・・総悟はどこに・・・・」
心臓を、その冷たい手で鷲掴みされるような感覚。
ありえない。
そんなことはありえない。

「総ちゃん?総ちゃんの意識はね。8年間ずううううっと・・・・・。あの庭の冷たい土の中に在るのよ」

気が遠くなるような言葉を、長年の想いを遂げた褥の中で、土方は聞いた。


(了)





















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