ホーリー H.24/12/25


(銀沖←土)クリスマス企画。死んだ人は生き返らないのがルールです、が。てか死ネタです。





ここ数年で急激に広がった西洋文化に乗っ取って、土方はイブに沖田を誘ってみたのだが、24日の夜はどうしても駄目だと言うので日中デートに連れ出した。
土方も沖田もイベントにテンションが上がる女子供ではないのだが、今年だけはイブの沖田を独占したかった。

当の沖田はといえば、赤と緑の装飾ときらびやかなツリーで街中が華やかになるこの日に二人とも仕事が入っていない意味をなんとも思っていないのか、土方の「出かけるぞ」という声にもただゆっくりと顔を上げて「へえ」と返事をしただけだった。

いつもの白い着物に若草色の袴で部屋を出て来た沖田に緞子の羽織とマフラーをかけてやると、ありがとうごぜえやすと返事をしてトコトコと屯所の廊下を付いてきた。
「雪になりやせんかね」
と言うので、スタッドレス積んでるから大丈夫だと言ってみたが、耳に入っているのかどうか、やたら天気を気にして携帯でなにやら見ている。
沖田が草履を穿くのを待ってどこに行きたいと聞くと、なにやら流行りのパワーストーンの店に行きたいなどと言いだした。
お前は女子かとつっこみたかったが、そんなことでご機嫌を損なわれてはたまったものではないのでぐっと飲みこんでご希望の店に連れて行く。

恋愛関連の石でも買うのかと横目で見ていたがそうではなく、良くある水晶を手に取っている。土方はなんだか少女趣味だがまあいいかとそこいらにあった沖田の誕生石であるルビーをいくつかみつくろって水晶とあわせてブレスレットを作ってやった。
「つけて行かれますか」
という問いに沖田がコックリと頷いて、店員が何故か土方に渡してきたのを白い手首につけてやる。
それこそほんとうに女をエスコートしている気分になって車に戻ってそのまま沖田のリクエストの寄席に行ってたっぷり寝た。
起きると沖田が呆れた顔をして土方を見ていたので、多少きまりがわるくなって次はこれまた沖田の意見優先で女子格闘技観戦をした。

見ている間、土方は一つ考え事をしていたし歓声がうるさいので今度は寝なかった。
沖田も満足したようだったので外へ出るともう辺りは薄暗くなっていて、まだ時間があるというので予約していた店に入った。
生意気なことも言わず悪戯もしないでおとなしくコースを平らげてデザートをつついている沖田を見ながら、先程格闘技観戦中に考えていたことを実行に移すことにした。

「総悟、おまえ俺と付き合う気になったのか」
口の端に生クリームとタルト生地のまざりものをくっつけた沖田がぽかんと土方の顔を見た。

「いえ、ありやせん」
「お前は今フリーだろう」
「そうとも言えねえんで」
「いや、ひとりだ」

きつい言い方になったかもしれない。
沖田の大きな目がうるんと揺れた。

「・・・・お前みたいなのがいつまでも一人ってわけにもいかねえし、俺でいいだろうが」
「・・・」
沖田が目の前の皿のアイスをぐじゃぐじゃとかき混ぜるだけになってしまったので、ひとつため息をついて席を立つと清算を済ませた。
支払いをしている間、待合のソファーに座って足をぶらぶらさせていた沖田が、ぽつんと呟く。
「外はもう降ってますかね」
「さあな、雨とは言ってなかったが」
「いえ、雪でさあ」
確かに今朝から頬も凍るほどの寒さだったが、外に出てみると雪などは降っておらず、沖田は少しがっかりした様子だった。
「なんだ、雪が良かったのか」
「いえ」
沖田が短く応えてマフラーを深く巻いたので、口元が隠れてしまった。

「じゃあ俺はこれで」
素っ気なくきびすを返そうとするので、その腕を取る。
「もうすこしいいだろう」
「いえ、用事があるんで」
「何の用事だ」
クリスマスイブの夜に。

沖田が黙っているので土方はぐいと腕を引いた。
「送ってやる、乗れ」

沖田は少し躊躇したが、あきらめたように助手席に乗った。
仕事中たいていは沖田に運転させるので位置的に落ち着かない。

「で、どこ行くんだ」
「・・・ターミナル」
「あぁ?ターミナルなんか行ってどうすんだ、どっかいくのか?それとも誰かくんのか?」
「・・・」
まただんまりかと思いながら隣を見ると、沖田は窓の外をじっと見ている。

「どうした、総悟」
「雪、降らねえかとおもって」
返事を期待した訳ではないが、沖田はこちらを見ないで応えた。

「なんだってそんな雪がいいんだ、ガキじゃあるまいし」
「約束したんでさ」
「約束?」
聞き返したがもう返事はなく、それ以上聞くのをあきらめて土方はターミナルの駐車場に車を停めた。

「ありがとうごぜえやす」
沖田が車を出るのを待って土方もドアを開けると沖田が不思議そうに首をかしげた。
「どうしたんですかぃ、土方さん」
「中まで行くさ」
「ハァ?アンタ用なんてねーでしょうが」
「いやとっつぁんに言われてんだよ、最近ターミナルを標的にしたテロを警戒するようにってよ。三番隊を配置してはいんだけど、ま、年末は注意するに越したこたねえしちょっと様子みてから帰るわ」
「ふーん、休みの日までお忙しいこって」

沖田がすたすたとエントランスの方へ歩いて行ったので土方も後を追う。
時計を見ればもう10時。肌が切れるかと思うほどの冷気に身震いして沖田の後を追いターミナルに入った。
駐車場はターミナルの3階に位置していて、広いロビーの左右に飲食店とブランド店、土産屋などが見るだけで一日かかるほど並んでいる。

沖田は後を追う土方を気にする風もなくふらふらとそこいらを歩き回っては土産ものをぐちゃぐちゃとかきまわして買うでもなく次の店へ進む。沖田の荒らした後をいちいち綺麗に整えるのも馬鹿らしいのである程度の距離を空けてついて行くと、小一時間ほどして急にロビーに戻ってエレベータに乗った。
途中人の乗り降りがあったのか何度か止まっていたが、最後まで目で追って土方は確信した。
沖田はターミナルの展望台に行ったのだ。

ターミナルの展望台は基本的に一般人立ち入り禁止なのだが、よく万事屋が忍び込んで馬鹿みたいに江戸の街をみおろしていたなと考えながらエレベータの到着音を聞いて外に出る。
出たところが展望台への重い鉄の扉なのだが、そこに三番隊の隊士がひとりいた。

「あ、副長」
「ご苦労だな、ここを総悟が通ったろう」
「はい、警戒中ですので危険だと申し上げたのですが」
「ああいい、俺も行く」
「どっ、どうぞ」

ごごんという音と共に背後で扉が閉まった。
息を飲むほどの冷気と静寂。眩しいほどのネオンの光。

立ち入り禁止の為、展望台といってもただターミナルの上から1/4ほどの高さにぐるりと円形にせり出すよう作られた周囲には柵もなにもない。
江戸を見下ろせるデッキの先にひとり佇む背中が、土方の気配を察して言った。

「田舎にはあんなに星がいっぱいあったってえのに、なんだってここではまったく見えねえんでしょうかねィ」

指先が凍えそうになりながらも懐から煙草を一本取り出して火を点ける。
「知らねえのか。星ってのはほんの小さな光なんだ。それよりもずっとずっと明るいネオンがあるから星の光なんざかき消えちまってるのさ」
「へえ」
沖田がゆっくりと振り向いた。
吐く息が驚くほど白い。

「じゃあ見えてねえだけでほんとうはそこにあるんですね」
「ああ、曇ってるわけじゃねえのに星が見えねえってのはただ他の明るさに隠れて見えねえだけだ」

「みえねえだけで、ほんとうは、いる」

震える声で沖田が繰り返した。






「万事屋は死んだ」
土方が沖田に応えるがごとく言い聞かせるように言う。

「死んでねえです」
「お前も見たろう、ここで、高杉と」
「死んでねえです」
「死んだ!」

叩きつけるように叫んだ土方に、びくりと身体を震わせる沖田。

「・・・・あの日、俺は旦那に行かねえでくだせえって、言った。だけど、だけど旦那は、どうしたって行くしかねえんだって、あんな身体なのにそう言って満身創痍で高杉のところへ行こうとしていやした。強いようでアンタは大して心が強くねえんだから、きっと高杉に負けてやるんだって言ったら、そうしたら旦那が、俺は死なないって、そう言った・・・んでぃ」
「だが、死んだ」
「沖田君を置いて絶対に死んだりしないって・・・・。それでも俺がぐずったら、旦那は・・・・・。も、もしも・・・もしも俺が間違って死んでしまったと、したって・・・・、沖田くんと会う約束をしていたクリスマスイブに雪が降ったら、そしたら沖田くんとこに帰るよって、そう、言ったんだ・・・」
「お前が縋り付いて離れねえから、仕方なく言ったんだろう」
「違う!旦那は帰って来る。俺との約束を果たす為に今日ここへ帰って来るんでさあ!」
「総悟」
「旦那が俺を置いてくはずなんてねえんだ、旦那が俺を・・・・・。俺だけじゃねえ、この世界には旦那が好きで旦那を必要としている人間がたくさんいるんだ。なのにあの馬鹿みてえに面倒見の良い旦那が、てめえだけ先に楽になったりしねえんだ!」

そこまで聞いて、土方はふと沖田の腕で光る石を見た。
なんでもない水晶と沖田の誕生石のルビー。
水晶を手に取った沖田の横で、棚にあった説明書きが目に入ったのをなんとはなしに思い出す。
そこには、金運・恋愛運・仕事運などの全般的な効果のほかに「願いを叶える」などとひっそりと記してあった。



「帰るぞ総悟、ここは芯まで冷える」
「帰るなら一人で帰って下せえ」
「総悟てめえは!馬鹿みてえに石なんぞ買って、それで万事屋が帰ってくるとでも本気で思っていやがるのか」
「黙ってくだせえ、土方さん」
「黙らねえ!いいか、あいつは死んだ!何度だって言ってやる、あいつは死んだ!畜生あの野郎!何故総悟に守れもしねえ気休めなんてぬかしやがったんだ!畜生!」
激情に任せて土方が沖田の肩を掴んで揺さぶった。
がくがくと揺れながら、沖田が腕をつっぱって土方を押し戻す。

「俺だってほんとうの芯のところでは旦那が帰ってくるだなんて信じちゃいやせん。旦那は死んだ!俺だって確認したもの、わかってます。だけれども約束の今日のこの日だけは待っていてえんです。お願いだから、お願いだから一人にしてくだせえ!」
どんどんと土方の胸を叩いて、当の土方も何ほどの影響もないがよろりとうしろに後ずさる。

「お願いですから・・・土方さん」

「総悟」

「・・・お願い・・でさ」

「・・・明日は仕事だ、風邪なんぞひくんじゃあねえぞ」
「土方さん」
「今11時45分、日付が変わるまでだ、俺は下で待ってるから」
土方はもう沖田の答えを聞かずに背後の重い扉を開けて、エレベータホールに姿を消した。

極寒のターミナルテラスに残るは沖田一人。
手袋をしているがそれでも指先が凍るようで沖田は右手の指先を左手でぎゅっと握った。

ふうと息を吐く。
吐いた息そのものがシャーベットになってしまうかのような澄み切った空気。
「はあ・・・・・・旦那・・・・」
とことこと見晴しの良い先端まで戻って来た。
ネオンの海はさまざまな色で一瞬ごとにその姿を変え、沖田の目を射る。

「旦那、確かにこの光は、目にまぶしすぎて、チクチクしまさぁ・・・」
ぱしぱしと二度まばたきをする。

「ねえ、旦那、いるんでしょう?この空の星とおンなじで、俺には見えねえけれどほんとうはきらきらと輝いているんでしょう?やっとうるせえ土方さんは行っちまいやした。だからもう出てきてくれていいんです」

返事は、ない。

「皆おかしいんでさ、旦那がもうほんとうに死んじまって俺の所になんてかえって・・・こねえって・・・そんな事言うんです。でも旦那は俺に約束したんですものね、今日会いに来てくれるって。だから・・・だから俺ァ今まで・・・クヨクヨ泣いたりしねえでしっかりこの足で立ってやした。旦那・・・、ねえ旦那、ぱっと俺の前に現れて、あいつらの言っていることなんて間違いだって証明してやってくだせえよ」

がちがちと、歯の根が合わなくなって、沖田の声も大きく震えた。

「覚えてやすかい、旦那。旦那の汚ェぱんつ全部に俺がいっしょけんめ頑張って犬の糞なすりつけたことあったでしょう。旦那の大事なとっときのケーキに唐辛子一袋振りかけたこともあったし、万事屋の電話線こっそり切っちまって1か月依頼の電話が繋がらなくしたこともありやしたね。俺、旦那が顔真っ赤にして俺に怒るの見るのが好きで・・・・好きで仕方なかったんでさ。でも、もしも旦那がほんとうに怒っていたんだったら、ごめんなせえ。怒ってるから、だから旦那っ・・・か、隠れちまって・・・俺に姿見せてくれねえんでしょう?だったらもうわかりやしたから・・・、だから・・・だから出てきてくだせえよ。お願いですから・・・・だんな・・・・」

ごんごんと厳かに時計の音が響く。
異教徒の者どもが呼ぶ、ジーザスという神が生まれた日の前夜から日付がゆっくりと変わった。
沖田と銀時の約束の日が終わりを告げる。

「嘘でしょう旦那。きっとまた酒飲み過ぎて、遅刻してるんでしょう?」
流れる涙は空気に触れてあっという間に冷たくなるが、沖田の頬は感情の高まりによって赤く火照っている。

その頬に、冷たいものが触れた。

「ゆき・・・・・」

真っ暗な闇から、きらりと光る真っ白な雪が、ゆっくりゆっくりと少しずつ落ちてくる。
眠らない街もこの時間は船の発着が無いのかまったく何の音もしない。

沖田は、そっと手袋を脱いで右の手のひらで落ちてくる雪を受けた。

「だんな・・・・ゆきになって、俺のところへ、帰ってきてくれたんですかぃ」

てのひらの熱ですぐに溶けてゆく雪にそっと口付けた。



「だんな、おれも、そっちに行って・・・いいですか」



沖田がそう言った時、びゅうと風が吹いた。
粉雪が舞い上がって目が眩んだ。よろりとよろけてもう一度目を開けた時、視界の端に雪とは違うなにかきらきらした銀色が映った。

「アッ・・・・」

その輝きの方をじっと見たが、誰もいない。

ぶるると腰紐の根付から下がる携帯が震えた。土方が催促しているのだろう。

その携帯を手に取って。
画面を確かめてから電源を切った。

そうしてもう一度沖田が顔を上げた時。






「ごめんね、沖田くん。雪が遅いもんだから、遅刻しちゃった」

寝惚けたような声が沖田の耳に、届いた。





(メリークリスマス!)




















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