続・ブルートとザーメンとインポテンツ H.23/11/09 |
(土沖←銀)ブルートちゃんはひじいが大好きです。 くぐもった獣の呻き声のようなものが暗い部屋に響き渡る。 白とグレーを基調にしたシンプルで高級感のある機能的な部屋。 小さなデスクライトの光に浮かび上がる二つの影が、激しく動いていた。 「ううっ」 ひと際大きい声を上げて二人同時に果てる。 ライトの影に映る二人が、折り重なって倒れた。 汗でうっすらと湿るシーツに頬を埋めて、荒い息を整えるブルート。 「ん・・・ふう・・・ふっ・・・・はあ・・・・」 薄く瞼を閉じて、汗で額にはりついた前髪を自らの手でかきわけた。 「ふ、」 背中に感じる重みがすぐになくなって、ひんやりと外気に晒される身体。 少しだけ寂しそうな顔で、去った男の背中を見る。 男はさっさと下着をつけてデスクの上の煙草を手に取る。 カチリ、という音がしてゆっくりと煙草を吸いこみ、また長い時間をかけて息を吐くのを聞いてから、ブルートは口を開いた。 「聞かねえんですかィ、土方さん」 「何をだ」 「あのインポ野郎のこと」 「聞くもなにもお前が理容室に連れ込まれて突っ込まれただけだろうが」 「・・・」 「それとも何か?俺があの男の胸倉掴んでボケ面のひとつも殴り倒してやりゃあよかったってか?」 「・・・」 「てめえだって男だろうが、か弱い女子供でもあるめえし、大人しく掴まってヤられたんだからその気がまんざらなかったわけでもねえんだろう?」 「あいつは見た目よりずっとイイ身体してて、力も強いですぜ」 「フ、お前がそんなのに抑えつけられるようなタマかよ、興味あったんだろうが、あの粗野で貧乏くせえ寝呆け男によ」 「んな・・」 「とにかく俺はお前のやる事には口出ししねえ、だからお前も俺が好きだってんなら最低限俺の言う事を聞け」 「・・・」 「明日はミツバの命日だ。休みは取ってあるんだろうな」 「・・・」 「取ってあるな?」 「・・・今日は入りですから、明日は明けのままここへ来まさ」 ぎらりと光る赤い瞳でザーメンを睨みつけながら答えるブルート。 悔しさよりも悲しみが滲み出ているようにも見える。 「よし、じゃあもう帰れ。俺は忙しい」 ばさりと服を投げてよこされ、ブルートは緩慢な動作でパーカーとスウェットをもそもそと引き寄せた。 「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・気持ちよかったなあ、ブルートちゃんのおケツの中」 インポテンツ改めクソエロインポテンツが、ふにゃふにゃと気味の悪い腐抜け顔で立てたモップの柄に顎を載せて呟いた。 呟いたというか、叫んだ。 おりしも正面玄関を入ったロビーの汚れを取れと呼ばれたタイミングだった為、外来患者の怯えた視線がクソエロインポテンツ・・・略してインポテンツに集中する。 「ちょっと、ホントやめてって言ってるでしょ、銀さんの素行はリーダーの俺のせいになんだからね、俺ホント首飛ぶから」 素行がどうのとお前が言えるのかと言いたくなるようなグラサンの清掃人、長谷川がインポテンツに声を掛けた。 「いやでもホント気持ち良かったのよ、ブルートちゃんの中。しっとりとしめって壁全体で俺の息子締めつけてよお、アンアン出してぇ、俺の中に出して下せえって一生懸命揉みしだいてくるんだもんよお、すーぐ出ちゃったよすぐに。インポ銀さんってより明日から早漏銀さんって名乗ろうかな、俺」 「ホントお願い、お願いだからやめて。てかせめて手、動かして」 「もうブルートちゃんの事考えるだけで勃起しちゃうっつの」 「いや、オナ○ーしろって言ってんじゃないから」 「ああ・・・もうブルートちゃんの中に一生入りっぱなしがいいワ俺、、、、、って、あ!ブルートちゃんだ!ブルートチャン!ブルートチャン!ぶ・るーとちゃあああん!!!」 インポテンツがモップを放り出して病棟から降りてきたブルートの尻にむしゃぶりつく・・・・はずが、すばやく蹴りあげたブルートのナースサンダルが頬を直撃した。 「わーん、なんでよお、ブルートちゃんのおしりばっか考えて夜も眠れないのよ?銀さんは!どうすんのよこの病どうしたらいいのよ!優しく看病してよお、ブルートちゃあん!」 インポテンツの歯がばきばきと折れんばかりの蹴りを繰り出しておいて、特に感情の無い瞳のブルート。 「クソエロインポなんだから、もうその役立たずは切りとっちまったらどうですかィ」 ぽつんと吐きだした。 「やーん、役立たずってことはないでしょーが、この子でブルートちゃんのことすっごい鳴かせてあげたんだからぁ」 「ま、今日は明けなんで、俺ァもう帰りまさ、クソエロインポはせいぜいお仕事頑張ってくだせえ」 とても朝イチの病院ロビーでの会話ではないが、インポテンツは軽口を叩きながらもこのドSナースに出会ってからこっち、ずっと感じていた違和感を今日も目の当たりにした。 顔を蹴られて蹲った形のまま、去って行くブルートのミニスカートを見ていると、外科2診の札の前で診察室からレントゲンを持って出てくるザーメンドクターと擦れ違っている。 一瞬凍りつくような二人の視線。 インポテンツと話している時には見せなかった、火の様な瞳でじろりとザーメンを見上げる。 ザーメンに至っては、ブルートを一瞥したのかしなかったのかもわからない。 擦れ違う瞬間だけ、時間がゆっくりと流れたように見えたが、それも一瞬。 何事かを考えているインポテンツの視線の先で、あっというまに無言の二人が遠ざかって行った。 翌日の大江戸総合病院。 薄暗い内視鏡室の引き戸がカラリと開いた。 ぷんと鼻をつく独特のの匂いの中、床に置いたステリハイド希釈液の前で、ブルートがうんこ座りしている。 「またアンタですかぃ」 振り向きもしないでステリハイド液に内視鏡を浸けながら言うブルート。 「また銀さんですよ〜」 勝手知ったる勢いでカメラ室の奥まで歩いてがばりと床に手をついた。 うんこ座りしているブルートの足元に顔をつけて、美人ナースを見上げる。 「なにしてるンすか」 「いや〜、パンツ見えないかと思って」 ばっしゃ。 「おあーっ!!!ちょっと!それ劇薬!!ブルートちゃんは手袋してるけど、俺は素肌だからね!男前の顔になにすんのよ!!!」 「はあ、今日も薄汚れてるんで消毒してさしあげようとおもって」 さほどこたえた様子も無くよいしょと起き上がってブルートの横に座り直すインポテンツ。 「ちょっと、見てよコレ、どんだけヘタクソなの?みてよこの採血の跡!!!何回やり直してんの!?どんだけ腫れてんのこれ!!!」 じ、と大きな丸い瞳がインポテンツの左腕を見る。 「最悪とれねえとか言って手の甲やら膝やらぶすぶす刺しやがって!!これ、わざとなら犯罪だからね!?ちょっと聞いてんの!?」 ばっしゃばっしゃ。 「うおっ・・・」 足元にステリハイド液を掛けられて大きく下るインポテンツ。 「アンタが犯罪のなんたるかを語るとはね。理容室で俺にやったことはアレはなんですかィ」 ブルートの言葉はしれっと流して、手袋を脱いでざあざあと手を洗っている背中に、懲りずに近付いた。 「ねえ、ブルートちゃんてさ、結構表情ないんだね」 ざあざあ。 「初対面の表情が強烈だったから、あれがブルートちゃんだって勘違いしちゃったよ」 ざあざあ。 「ほんと顔見ただけで勃起しそうなくらいのコワーイ顔で俺の事睨んだでしょ、もうあれでスゲー征服欲刺激されちゃったのよね、銀さん」 ざあざあざあ、きゅ。 蛇口を閉めたブルートの白い手を、上から大きな手が抑える。 「だけど。あれは俺を睨んだんじゃなくて、あのザーメン先生といる時にあの顔になるってことなんだよね、本当は」 今日初めて、蘇芳色の大きな瞳がくりんとインポテンツを見た。 「あの時はいきなり俺が来たからただ振り向いただけでしょ、あの冷たい瞳はザーメン野郎にだけ向けられる」 「なにが、言いてえんですかぃ」 「こないだ俺がレイプした時だけ、あの時だけちょっと睨み効かせてくれたけど、あれだって、本当はあのマヨザーメンにヤキモチ妬かせたかっただけじゃないの?」 「はあ?」 「抵抗らしい抵抗もしないで。俺に力づくでやられるようなブルートちゃんじゃないでしょうが」 「チ○コ切開された方が良かったですかぃ」 「ウフ、ザーメン先生は、妬いてくれた?」 無表情、というよりは、いつも口だけは閉じているがぽかんとしたような顔のブルート。 そのブルートの上唇が、ぷる、と震えた。 その瑞々しい桃色に、強いセックスアピールを感じながら。 「お姉さんのことが好きな人を好きになって、苦しくないの?」 抑えている右手をぎゅうと握り込む。 「あの人が、本当に惚れてるのは、俺だ」 あの男のことになると、やはり急に、声が艶っぽくなる。 「昨日、なにしてたの?」 びくりと胸の前にある身体が身じろぐ。 「他のナースに聞いたら、お姉さんの命日はいつも休みか明けで帰るんでしょ?ザーメン先生も診察は入れない」 「別に。ただ墓参りに行くだけでさ」 「お姉さんとおんなじ髪型の鬘つけて、外でもスカート履いて?」 「・・・」 「二人でザーメンのマンションから出て来たの見てびっくりしたよ、墓参りどころか一日お姉さんの代わりしながらデートしただけでしょ。帰ってあの恰好のままベッドに傾れこんだのかな?」 「へえ・・・・驚きましたね、クソエロインポテンツさんは、ストーキングが趣味だったとは」 「お姉さんの代わりをしてまで、あの男と一緒にいたいの?」 「・・・」 「ブルートちゃん・・・・本当のブルートちゃんは、こっちでしょう?」 背後から抑えていた右手を離して、今度は顎を持ちあげて後ろを向かせた。 「あんな全身刃物みたいにツンツンとんがらせて怖い顔してるのじゃなくてさ、そうやってぼーっとした顔して、そんで劇薬人に掛けて喜んでる様なのが、本当のブルートちゃんなんだ」 インポテンツの指先は、変わらずブルートの顎を捉えながら、人差し指で桃色の唇をゆっくりと撫でている。 「おれの、なにが、アンタにわかるっていうんでぇ」 がり、とインポテンツの指を噛んで、唾液を洗い場のシンクに吐き捨てる。 チッと舌打ちして右手を振るインポテンツ。 「あの人ァ、姉ちゃんに惚れていたんじゃねえ、惚れてたと思っていただけなんでぃ、俺のことが好きだって気付いた瞬間に姉ちゃんが死んじまって、土方さんは姉ちゃんに遠慮して俺のことをまっすぐ愛することができなくなっちまっただけなんだ」 「ザーメン先生だけがそうなの?ブルートちゃんは?」 「おれは、」 「どっちにしろ不毛だよね、不自然な愛だ」 「俺は、それでいいんでぃ」 どん、とインポテンツの肩を押して、内視鏡室の扉まで歩くミニスカート。 その背中に。 「好きだよブルートちゃん」 「・・・」 「俺のはふつうに、歪んでない愛だよ」 振り向いたブルートが見たインポテンツは、今までのふざけた顔でもなく、だるそうな顔でもなく、穏やかな優しい表情だった。 「・・・おれが」 ぱちりと瞬きをして、自らのミニスカートを指でつまむ。 「俺がなんで白衣、ワンピース着てるか教えてあげやしょうか」 「え、」 いきなりの話題の変化について行けないインポテンツ。 「和式便所の多い職員トイレで、うんこしやすいからでさ」 そう言うと、べろりと舌を出し、がらりと戸を開けて、さっさと出て行ってしまった。 残されたインポテンツ。 ぽりぽりと人差し指で頬を掻いて、たった一人の内視鏡室でフッと苦笑いをした。 (了) |