愛の代償 H.24/05/27


(銀沖+土)銀沖というほどの描写はありません。土銀土っぽいニュアンスあり。







くそ真面目だけが取り柄と言うにはお面の出来が良すぎる男、それが坂田の元彼だった。
お互いどちらの役もやっていたのだろう、元彼だか元カノだかははっきりしないが、女役しかしない自分とは違う深い関係だったのだろうと考えてしまって、とにかく沖田の勘に触った。

どうやら土方の方には坂田に未練が無いようだったが、沖田は安心出来なかった。
何故ならせっかく坂田を追いかけて入った大学で、坂田の席の隣にはいつも土方が座っていたからだ。

「別れたからって話も出来なくなるような甘い関係じゃなかったんだよ俺達は。どちらかというと、手近にいた性欲処理の相手みたいなもんかな。だから沖田くんを好きになって簡単にあいつと切れられたしむこうもサッパリしたもんだったよ」
と坂田は言うが、ゼミも別、授業も一般教養のみの自分は、せいぜい食堂か背伸びをして取った坂田と同じ数少ない選択授業しか一緒にいられない。
それに比べて土方はそのどれも坂田と一緒なのだから、沖田が不安になるのも仕方なかった。

「どっかいけ、土方ァ」
沖田が食堂のテーブルの下で、坂田の向かいに座った土方の足を蹴ると、相手はあからさまに迷惑そうな顔をして、隣り合う坂田と沖田の顔を見比べる。
「チッ。いってえどういう躾してやがんだ」

「躾なんてしてないよ、沖田くんには自分の好きなようにしていてもらいたいもん」
坂田がしれっと言い返すも、土方を追い立てるようなことはしない。
それにまた機嫌を悪くして、沖田が土方を目の敵にするのがここのところの常だった。




「アンタ、このケツにあいつのチ◯コ入れたんですかい?」

坂田の借りている古びたアパートの万年床で手を回して、のしかかっている恋人の尻肉をぐいと広げる。

「沖田くんといるときにほかの奴の話なんてしたくないよ」
安い言葉でごまかされる訳もないが、坂田の深い色の瞳で見つめられて唇を塞がれると、もう何も考えられなくなった。

坂田の白く大きな手は思いのほか温かく、沖田の脇から横腹へとゆっくり上下に撫でられると自分自身にはどうしようもないもどかしさが身体の中心に生まれる。

他人と裸でここまで密着するのがはじめてだからかもしれない。
何度身体を重ねても、頬が燃え上がるような気恥しさが消えることが無く、いつもの沖田の余裕が無くなることを、沖田自身も困惑しながら受け入れていた。

「だんな・・・」
掌だけでは無く身体全体のしっとりとしたぬくもりと、普段は見せない坂田の真面目な表情にぐらりと世界が歪んで、気が付けば己から足を開いている。
出したくはないが、知らず声が漏れて、そのあまりの恥ずかしさに坂田に聞かれたくないと必死に我慢するのだが、どんなに沖田が乱れても坂田がそれを馬鹿にすることはなかった。




沖田が食堂で坂田を探していると、例によって坂田と土方が同じテーブルで飯を食っていた。
片側6人ほどが座れる長テーブルに、ひとつだけ席をずらせて向かい合うように座るのもまた白々しいような気がする。
沖田が坂田の隣に座って、自然土方と向かい合うような形になる。

「どっか行けひじかた」
「いい挨拶だな」
「まあまあ二人とも、おいしくご飯食べようよ」

「おい坂田、テメエ栄養バランス考えろ。デザートばっか取ってんじゃねえよ。沖田も油モンばっかじゃねえか」
土方が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「マヨネーズだらけの犬の餌に言われたかねえや」

沖田にしてみれば、この後土方の栄養学講座がはじまるのが解っているので面倒で仕方がないのだが、相手はそんなこと気にもせず生真面目に説教をしてくる。
どうやら沖田が席に着くまでも、研究内容について熱く語っていたようで、飯くらい美味く食えねえのだろうかと沖田はいつも思っていた。

自分とは合わない。

どこにいてもふわりと漂うような生き方をしている坂田と自分はどこか似ているところがあるような気もするが、この男とは考え方も行動もすべてが違う。
堅苦しい考え方は息がつまる。
坂田もこんな男のどこが良かったのだろうと隣を見上げると、美味そうに学生食堂の安物ケーキにかぶりつく横顔。
「こんな男」はこちらも同じだと思いながらもうっかり頬が赤くなってしまって、見られたかと前を向いたが土方はもうすでに沖田への興味は無くなってしまったらしく、再び坂田に向かって唾を飛ばさんばかりに己の主張を語っていた。

その性格からか、きっちりと綴じられた文献のコピーをわざわざいくつも持ち歩いて坂田を捕まえては熱いトークを繰り広げる。
共同研究者の坂田はしかしうるさそうに「適当でいーよそんなの」などと返していた。
その様子が、未練の無いように見せながらその実よりを戻したくていつも坂田を追いかけているように見えてしまって、よりいっそう沖田を苛々とさせる。



「アンタ本当は、旦那にまだ気があるんじゃねえんですかぃ」

言って藪蛇になってしまってはいけないので、口には出さない。


悶々とした日々を過ごしていたある日、教授の頼まれごとの資料整理を土方の家でやると突然坂田が言った。
「資料整理なんざ研究室でやればいいじゃねえですか」
クソ狭い研究室でもそれでも常に誰かはいる。泊まり込んでいる学生だっているのだ。そうそう土方と二人きりにはならないだろう。

「んー、まあちょうど資料があいつんちに集中しててね。なんでもかんでも持って帰って端から端まで目を通すのはいいとして、てめえで資料全部取り込んじまって持ってこねえんだから」
「土方の部屋で二人でくっつき合ってなにするつもりなんですかぃ」
「いや、何って資料整理」
「俺も行きやす!」
「えー」
「俺も行く!」
「行くってなにすんの沖田くん」
「俺は土方の監視!」
「駄目だよ」
「なんで!なんででさあ!」
「俺はね、俺よりも土方が狙っているのは沖田くんなんじゃないかなあって思うよ」
「はァ?俺!?」

坂田は己の腰の上に乗りあがってきている沖田の肩を右手で制して、驚きに更に丸くなった青い瞳を覗き込んだ。

「うん、あいつはたぶん、俺にかこつけて沖田くんに近づくつもりなんだ。俺と一緒にいれば沖田くんとも会える。それがわかっててわざと俺と同じ授業を取って俺と同じ席で飯を食って沖田くんを挑発しているんだ」
「んなアホな」
「まだまだ子供だね、沖田くんは」
「なんですかぃその何にもわかってないね的な言い口は」
「わかってないんだもん」
「わかってねえのは旦那の方だ!土方の旦那を見る目ったら・・」
「んもー、この話はおしまい。たとえ沖田くんの言うとおりだとしても、俺があいつに力で捻じ伏せられると思う?」
「思わねえですけど・・・・」
思わないけれども、坂田も土方を憎からず思っていることは確かなのだ。嫌って別れたわけでは決してないのだから。

俺だってなるべく沖田くんを土方に会わせたくない、などと言われれば話は平行線だった。
仕方がないので沖田は奥の手を使うことにした。

沖田の自慢は行動力なのだ。


 


まず坂田の部屋にあった研究室名簿で土方のアパートを調べ上げ、当日坂田よりも先に上がりこんだ。
上がりこんだと言ってもドアを開けてもらって入ったのではない。
土方の家は、工場生産された外壁ボードながら小奇麗な今風の単身アパートで、その一階に住んでいるようだった。
東向きのワンルームの窓に接している小さなテラスには、畳3畳分ほどの庭のようなものがついていて、両隣との境としてフェンスが巡らされている。
そのフェンスに足をかけてよじ登り、すとんと庭に降りて窓から侵入したのだ。

途中となりの学生と犬の散歩をしているおばさんに見とがめられたがそんなことは気にしない。ぎろりと一睨みすると、二人ともなにもなかったかのようにそそくさと目を逸らした。

窓は開いていた。
この時間講義があるのはわかっているので、部屋にはいないはずだ。
もしも窓が閉まっていた時のことは考えていない。
その時は庭に潜んで中を窺ったっていいのだ。とにかく窓は開いていた。
土方が不用心のアホでよかったと言っていいだろう。

住居不法侵入などという言葉は沖田は知らない。
とにかく恋人の坂田が浮気をしないか心配でたまらないのだから許されるだろう。

外壁の洋風さに似合わぬ和室。
真ん中にぽつんとテーブル、端に低めのテレビ台と小さなテレビ、この部屋にしては大き目の本棚にびっしりと沖田にはわからないような本や文献がつめこまれていた。
殺風景な部屋のいたるところに論文や本が積まれていて、学生らしさが際立ちながらも土方の几帳面で生真面目な性格が見て取れるすっきりとした部屋だった。

きょろりと見渡して、ふすまをからりと開ける。
押し入れの上段によじ登って、土方がいつも寝ているであろう布団の上に陣取った。
ふすまを元通り閉めてばふんと布団に寝ころぶと、ふわりと煙草の匂いがして、沖田は顔をしかめた。
「臭ェの、畜生土方のヤロー肺ガンで死んじまえ」

襖をきっちりと閉めてポケットから携帯ゲームを取り出し時間を潰しているうちに、すでに遊びつくしたゲームということもあってだんだん眠気が襲ってきた。
どうせ約束の時間までは一時間あるのだ、少しだけ寝てもかまわないだろう。
そう思ったが早いか、あっという間に沖田は眠りへと落ちて行った。





突然、がらりと襖が勢いよく開けられた。
ばしんという音に驚いて顔を上げると、明るい部屋の光を背に受けて立つ土方がそこにいる。

「あ・・・・」

やばい、と思ったが、この時沖田はさほど焦ってはいなかった。
土方ごときに見つかったからといって何ほどの事も無い。

が、その時の土方はなにかいつもと違った。
暗い押し入れから明かりを背に立つ土方の表情が良く見えなかったからそう感じるのかもしれない。

す、と目の前の男が切れ長の瞳を更に細めた。
その表情を良く見ようと少しだけ身を乗り出した途端、胸倉を掴まれて押し入れの上段から畳の上へと乱暴に引きずりおろされた。
頬をしこたま畳で打って、目の前に火花が散る。

「んなっ・・・なにしやがんでィ」
がばりと起き上がって土方を見上げると、目の前の男は沖田の前髪をぐいとひっつかんで再び床に打ち付ける。

「んっ・・ぐ」
「それはこっちのセリフだ、阿呆」
柔らかい畳とはいえ、二度も頭を打ったのだ、視界がぐらぐらするのはあたりまえだった。

「フン、クソガキが、不法侵入だって解ってやってんだろうなあ、え?盛りのついた雌犬がよ」
がつん、と再び頬に衝撃を受けた。
何がなんだかわからなかったが、ぬるりとした温かい液体が鼻の奥から流れ出てきたのを感じる。


「てめえなんぞが本当に坂田に釣り合うと思っていやがるのか」
はっとして、頭も視界もぐらぐらとしたまま土方を見上げると、どうやら相手は笑っているようだった。

いつも煙草を飲んでいるのに意外に白い歯だな、とこの場に似合わぬ寝惚けた考えが頭をかすめた瞬間、大きな手が襟を掴んでそのまま左右に沖田のシャツをびりびりと破り開いた。

床に手をついて上半身だけを起こした状態。土方はそのまま沖田のシャツを肩から床に引っ張って落とすと、右手で強く沖田の顎を掴む。

「ハン、ご面相だけはお人形サンみてえだがよ、根性がいただけねえ。なに、坂田だってろくなモンじゃねえがよ、お前ほどチョロチョロ鬱陶しくはねえわな」

ぱん。
再び頬が張られる。

「アッ・・・」
「ふふ・・・チョロチョロ人の家に忍び込みやがってよぉ、坂田からお前も来たがっていると聞いてもしやと思って鍵開けて待っていりゃあ案の定よ。コソ泥みてえに塀越えて不法侵入たァなるほど泥棒猫は育ちが違うな」
ぐ、と喉元を節くれだった両手に押さえつけられる。
「う・・・ぐ、」
目を開けるとすぐ目の前に土方の顔。

「二度と坂田の前に出られねえ身体にしてやる」
気でも違っているかのような瞳だった。

再び嵐のような力に強く喉元を締め付けられ、呼吸ができなくなる。
「ん・・・んぐっ・・・ごほ、ごほっ・・・」
やっと手が離れたかと思いきや、ベルトを引きちぎるように外されて、あっという間に下着ごとジーンズも脱がされてしまった。

「ごほ、ごほごほごほ・・・ん、や・・め」
「どうせ坂田とヤリまくってんだろうが」
関節がはずれるかと思うほど足を大きく開かれて、馬鹿にしたような土方の声が聞こえた瞬間、尻に火のついた棒でも突き刺されたかのような痛みを感じた。

「やああああああっ、痛い!」

「痛いじゃねんだよ」
ぐいと腰を進める土方。

尻を天井に向けられて膝をぐいと胸の方に押し込まれた正常位で、土方は煙草を咥えたまんま。
熱く固い土方の凶器が、沖田の慣らしてもいない尻を抉るように掘り続ける。
「いやっ、痛い、痛い!!やめて・・!」
「すぐに善くなるから黙ってろ。くく、坂田が虜になるのもわからねえでもねえな。馬鹿に良い具合じゃねえか」
「あっあっ・・・ああ!!」
ただただ楔を打ち付けられて揺さぶられる沖田。全身から脂汗が噴き出すも、顔は真っ青で唇からは血の気が引いていた。

「んっ・・は、はっ・・・ああっ・・・ひい・・・」
「痛えか?」
「痛い・・・いたい!!」

ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。

変わらず内壁に鋭い凶器で削られるような痛みを感じながらも、土方の先走りと沖田の腸液で音だけが卑猥に響き始めた。

「う、うんっ・・・ん・・・・」

しかしやがて、身体がまっぷたつに裂けるかと思うほどの痛みの中、どこかで感じたことのある快感の波が腹のあたりから押し寄せてくる。

「うんっ・・ん・・・や・・・いやあっ・・・」

男と寝ていた土方なのだからあたりまえかもしれないが、尻で感じる場所を良く知っている。力で押さえつけられてそこを突かれれば、感じないわけがなかった。

だが、沖田にとって坂田がはじめての男で坂田しか知らない。
坂田以外の男を知りたくもなかった。

それなのに、さっきまで痛みのためにうめき声しか出ていなかった沖田の唇から洩れる甘いすすり泣きが、土方という男によって無理に絞り出されているのは間違いない事実なのだ。

「近づくな、と言われなかったか」
「ん、ん、ん・・・んあっ・・・あ・・・?」
「俺に、近づくなと言われなかったか」
「う・・・ああ、やっ・・・」
脳震盪を起こしそうなほど激しく揺さぶられて、土方の言葉がうまく理解できなかった。


激しい痛みと快感。

ふいに、耳の横で低い男の声がする。

「俺が、真面目で常識のある男だと思ったか?」

朦朧とする視界の中で土方の顔を見ると、色欲のかけらも見えないただの征服者の顔がそこにあった。
それを見た途端、何が起こったか理解できないほど混乱していた沖田の頭が急激に冴えて、いきなり抑えようもない恐怖が、脳のすべてを覆った。

「いやっ・・いや・・・嫌ああ!!」

声を限りに叫んだつもりが、土方の大きな手に口を塞がれて音にならなかった。









呆然と、土方の部屋に座り込んでいる。

どうにか上体を起こして丸裸で乙女のように足を折っていた。
蹂躙された箇所がずきずきと痛んだ。どうやら出血しているらしい。
今更ながら、坂田が自分をどれだけ大切に扱ってくれていたか分かった。
そう考えた途端、坂田を裏切って他の男と姦淫してしまった事実が沖田の頭の中でくっきりと形を作った。

ばさりとボタンの飛んだシャツが頭から被せられた。
シャツの隙間から見ると、土方が煙草を咥えながら沖田を見下ろしている。

「いつまでも座ってんじゃねえよ、もう坂田が来る頃だからな。さっさと帰れ、コソ泥みてえに。アッチからよ」
親指で玄関とは逆の、庭に続くガラス戸の方を指さした。


さかた。

その、土方の非情な言葉を聞いて、ただただこの場を逃げ出して、二度と坂田に不貞の自分の顔を見られないようにしなければ、と、それだけが沖田の頭に浮かんだ。



(了)











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