「鉄線よ、我君を愛す(11)-10」






「ん・・・・・総悟・・・起きろ」
死んだように眠る少年を、己も起き抜けの気だるい身体で揺り起こす。

「おい、総悟、日が西に傾きかけているぞ」

「おい」


「おい」



「うおいっ!」
ばしっと亜麻色の頭がはたかれる。

「・・・・・うう・・・・ん」
「総悟!」

「うう、ん、城の・・・お殿さまに・・・ひどい扱いを・・・」
「寝ぼけたことぬかすんじゃねえ、そろそろ起きろ。本当に死んだかと思ったじゃねえか」
「動けやせん。湯殿まで抱いて行ってくだせえ」
「阿呆か」

「腹が減ったな、何か用意させるか」

十四郎は総悟を抱く時、いつも控えの間に人を置かなかった。
誰ぞ呼びに行こうとする十四郎を、総悟がそっと制した。

「もうちょっと」
「あ?」
「隣にいてくだせえ」
「・・・・・・」
何と答えてよいものかわからず、とりあえず夜具に入る十四郎。
こんなに可愛らしい態度をとられては、十四郎こそが借りて来た猫のようになってしまう。

「そ、総悟・・・俺は、」
「あ」
「あ?」

「俺、聞いてくるの忘れちまいやした」
「何がだ?」
「晋助さまに。あのお人にだって俺ァかざぐるまが好きだなんて言ってねえんですぜ?なのにどうしてあんなにいっぱいかざぐるま植えて俺にも色々かざぐるまを誂えたりしてくれたんだろうってね」
チッと舌打ちする十四郎。
愛を語ろうとした途端によその男の話をされては興ざめだった。

「俺が知るかよ」
「聞きに行かねえとならねえんで、もっかい行かせてくだせえ」
「あ、あ、あ、阿呆か!」

「次はきっと聞いてきやすから」
「知らん!」

実のところは鉄線は高杉自身の好みで、ただ己の気に入ったものを総悟にも押しつけていただけの話なのだが、それはまた後で知る事になる。
元服前まで母方の実家がある陸奥で育った高杉が、出羽の縁者の下で2年ほど過ごしたのだから、あるいは幼子のお前を見たことがあったかもしれんな、とこれは高杉の言葉。


「ねえ、秋頃にでも、いいでしょう?」
「いいわけあるか!」
「トンボ帰りするんで、かならずひと月で戻りやすから!」
「うるせえうるせえ!」
「十四郎さま〜〜〜」
「うるせえったら!」
「昔のほうが、落ち着きがありやしたね」

「え」

「俺ァ、入城を遅らせてもらえたから、姉様の死に目にも会えた。ほんとうにあの時の兄さまには感謝しているんでさ」
総悟は、一緒に寝てくれとねだったくせに、閨を抜け出して城の手すりから身を乗り出して城下を眺める。

十四郎は何も言わないでむくりと起き上がり、ぼりぼりと右手で左の首の後ろを掻く。

「・・・・・お前みてえな鼻タレ、相手する自信が無かったんでな」
そう、いつもの怒ったような顔で照れ隠しを言った。



「鉄線よ、我君を愛す (完)」




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