「鉄線よ、我君を愛す(11)-6」




「お前、わざわざ惚れた大将に頼んでここまで来たのは、俺に別れを言う為なんだろう?」
「違う!」
「阿呆のくせに無駄に色々考えるお前のことだ、別れ際に俺に言った言葉に縛られていやがるんだろうが」
「違う!俺はアンタを、」
「解っている」
「え」
「お前は俺に心を奪われている、そんな事は解っている」
「だったら、ここに置いてくれたっていいんじゃあねえんですかぃ」
「だが、それは」

一旦言葉を切った高杉が次に何を言うのか、不安そうな顔になる総悟。

「それは、親兄弟に対する情と同じものなんだ」
「違う!」
胸倉を、総悟の両手が強く掴んだ。
ぐいぐいと力いっぱいに揺さぶる。

「俺は、何があっても、この先誰とも床を共にしたりしねえ!そうアンタに約束した。それは・・・俺の心がアンタにあるから・・・」
「俺を舐めるな。目など利かなくともお前のことくらいわかる。あの時、お前が・・・・間抜けの大将様と涙の再会をした瞬間だ、すぐに解った。お前は雷に打たれたみてえになった」
「なってねえ」
「なった。あの、お利口ぶった大将様のツラ見た途端、お前は雌になったのよ。いや、雌に戻った、か。お前は俺への情とはまったく違うものを奴に対して持っている。元々睦まじく暮らしていたお前達からそれを俺が奪った」
「そうかも知れねえけど、俺は」
「お前は、俺の事を餓鬼みたいだといつも言っていた」
「・・・」
「クク、お前こそ乳臭え糞餓鬼じゃねえか、笑わせるんじゃねえ。だがな、俺は実のところそれが嫌いじゃあなかった。わけのわからねえ居心地の良さを感じていて、まるでもう手に入らない母親が、俺を慈しんでくれているような気にさえなっていた」
「晋助さま!」
ぎゅう、と高杉の背に手を回して抱きつくと、相手はそっと優しく壊れ物でも扱うように総悟の首筋から腰を撫でた。

「俺・・・俺ァ、・・・アンタに孤独とは違うものをお、教え・・たかった。アンタの母君が、アンタに示してやれなかった、そういうあったけえモンを・・・俺が、教えてやりたかった。お、俺だけは・・・アンタだけのモンに、なって・・・・・なりたかった」
「だが、無理だ」
「・・・んなことは、ねえ。俺は、アンタのモンだ。アンタだけのモンだ。これからも、ずっと」

ゆら、と、総悟を抱く高杉が揺れた。
肩が細かく上下しているので、笑ったのだと解る。


「武蔵国にいた頃、鷹狩を教えてやったのを覚えているか?」
「?」
「鷹は死肉を喰わない。死肉を喰らうとは、己の命も危険に晒すということだからだ」
「・・・そう、言ってやしたね」
「だからまず鷹を捕まえて、それから餌付けするまでが最初の難関だ。鷹は誇り高く、決して人間から餌をもらうことはしないからな」
「・・・・・・」
「お前は鷹と同じだ。いくらかわいがってやっても全く懐かなかった」
「え、わりと早めに俺ァ心からアンタのものになったつもりですけど」
「どの口が言いやがる。懐かなかった、おまえは全く懐かなかった」
「むう」

「あの時飼ったのは鷹ではなくて隼だったな。隼は、たった一猟期でまた自然に放す。たとえどんなに懐いて心が通じ合ってもだ」
「一緒に、山に登って放してやったの、覚えてやす」
「お前も、放してやる。俺が捕まえてかわいがったお前を、広い出羽の空に還してやる」
「晋助様!そんな事言わねえで・・・俺ァ、俺ァ・・・・・」

どさりと、縁側の板間に背を打ち付けた。
高杉が総悟を横たえて、その身体の上に跨る。

唇が触れるほど顔を近づけて、総悟の瞳をじっと見つめたまま、ぐいと胸の合わせを左右に開く。
触れそうで触れない高杉の唇が、顎から首へ、そして晒された白い胸を伝う。
露出した左右の乳を、べろりと舌を出して、舐めるような仕草で順に追った。

「あ・・・・」
総悟の身体が震える。
触れられてもいないのに、乳がぷくりと勃起した。

両の手首は、高杉に押さえられている。
男の愛撫を求めて、小さく痙攣するように震え続ける身体。

「アッ・・・ア・・・・晋助、さま」
「ん」

「俺ァ・・・・この、からだ、を・・・半分にして、ここへ、置いて行きてえ」

「フ・・・駄目だ」
「なんで」
「こっちに残った方のお前が哀れだからだ」

透明な涙が、総悟の目尻から縁側の板間に向って流れた。

ゆっくりと帯を解いて、総悟の身体をすべてさらけ出す。
総悟の中心は、ほんのりと反応を始めていた。
それをじっと静かな目で見降ろして。
総悟の裸の足を、きっちりと着物を着込んだ己の肩に担ぎ上げる。
藍と黒檀の混ざり物のような長い前髪。その前髪に隠されていない方の深い瞳が、総悟のそれに近付く。
唇も触れず、薄紙一枚挟んだかのような距離で。
高杉が前を開いて己の下帯を解くと、熱い猛りが現れる。
再び着物の上前と下前を合わせると高杉の象徴が隠される。そのまま担ぎあげた総悟の足の間、晒された後孔に擦りつけた。

「んんっ・・・ぁ・・・・」
湿った固い布が、秘部を擦り上げ、擦り下ろす。
だが、侵入してくることはなかった。

「や・・・んぁ・・・・しんすけ、様」
「言え」
「あっ・・・なに、を」

「俺の下を去るのならば、言え。あの男を誰よりも慕っていると」
「ひぁっ・・・あ・・あ、あ・・・」

「言え、言うんだ」
「う、うぅううっ・・・ああ・・・」



ゆさゆさと腰を揺らしながら、高杉は
『最初の触れ合いに始まって、とうとうこの最後の時まで己は総悟を泣かせているな』
と、頭の隅で考えていた。




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