「鉄線よ、我君を愛す(10)-9」





「十四郎さま!私、私と沖田様は、ここへ攫われて乱暴を受けたのです!」

十四郎がものを言う前に、小十郎が腹の底から声を上げて十四郎の方へ近寄る。
「沖田様が先に男達に嬲られているところへ私も連れて来られて、それで・・・・」
十四郎に縋るように必死に弁明している小十郎に視線をやって。
その黒い瞳がぎらりと光った瞬間、十四郎が腰に帯びている刀の柄に手を掛けた。

「い、けねえ、十四郎さま!」
報復はてめえでやる!
総悟が掠れた喉でそう叫ぼうとしたが、間にあわなかった。

白い閃光にも似た抜き身の白刃が、十四郎の腰から天井へ向けて美しい弧を描いた。

途端に水車小屋の土間に、鮮血が舞う。
ぱっと大きな花が咲いたように飛び散った血が、十四郎の顔の半分を汚した。

「と・・・しろ・・さ」
ぐらり、ぐらりと左右に揺れながら二歩後ろへ下がった小十郎。
そのままどさりと背中から土間に倒れ、大きく目を見開いた顔であっという間に絶命した。

小十郎の腹から顎にかけて大きく深く刀傷が作られ、そこから未だどくどくと血が流れ出ている。

からんと音がした。
総悟が小十郎から視線を戻すと、十四郎が己の刀を手から落としてこちらを見ている。

「そうご」

気が違ったかのようにただ目を見開いて総悟に近付く十四郎。
土間に手をついて身体の痛みに耐える総悟を、十四郎が強く抱きとめた。
懐かしい匂いが総悟を包む。

おかしな話だが、今ようやっと十四郎との再会を果たしたような、そんな錯覚を覚えた。

「総悟・・・・総悟」
ただうわ言のように呟く十四郎の声を聞きながら、総悟はただ、己を守る為に一人の人間を躊躇なく斬った十四郎と、抑える事が困難なほどの癇癪を持つ高杉が、己を犯した垂穂を見逃してやったという記憶のびりびりとした対比だけを強く感じていた。






「鉄線よ、我君を愛す(10)」
(了)




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