「鉄線よ、我君を愛す(10)-1」 H.24/02/02





水車小屋の土間に立って、びりびりと痺れる右手を押さえていた小十郎が、ゆっくりと振り向いた。
「なぜ止めた・・・・銀時」

銀時と呼ばれた男は、眠そうな目をチロリとそちらに向けてニヤニヤと笑う。
「小十郎ちゃんてばせっかちなんだから。まだまだ時間はたっぷりあるんだよ」

「殺して・・・殺してよ、こいつを!」
髪を振り乱して叫ぶ小十郎を上から見下ろして、銀時が答える。
「まあまあ、小十郎ちゃんが嫉妬に狂っちゃうってのもわからないでもないよね、この子。俺気に入っちゃったァ」

銀時が数歩進んで総悟の眼前までやってきた。
くいと総悟の顎を持ち上げる。

「ふふ・・・はじめまして、俺は坂田銀時っていうんだ。このちんまりした蓑嚢小十郎ちゃんの従兄弟でね」
ぎろりと総悟が銀時を見上げる。
その鋭い視線に、銀時がうれしそうに目を細めた。

「俺達の故郷はこの地方の隠密活動を担う一族が住んでいてね、村の6割が忍だ。俺もそう。俺達の村の忍は薬草木に通じている」
実は十四郎の寝所に、香と称して仕掛けた麝香(じゃこう)や龍涎香(りゅうぜんこう)、イモリの黒焼きを練り合わせた催淫香を、小十郎にせがまれて用意したのも銀時だった。

「昔から甘やかされて育ったもんで、小十郎は手のつけられねえ我儘者になっちゃったんだけど、そこがまたかわいくてね、なんでも言う事聞いちゃうのよ俺。たとえば・・・・・、沖田総悟を痛めつけてくれ、とか、ね」

銀時が懐から幾重にも折られたひも状の鞭を取り出す。
牛の皮をなめして編んだ太い鞭に、棘のある野茨の蔓が編み込まれているものだった。

銀時が、左の手のひら側に鉄製の手甲をはめる。
右手で鞭の持ち手を握り、手甲に守られた左手で反対側を持ってパンと張る。
水平に張った鞭の向こうに総悟の身体を見ながらニヤリと笑った。

「俺を、楽しませてね」

銀時の持つ鞭が振り上げられ、不気味な風切り音を起こして水車小屋の土間を打った。






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